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不良品なので

作者: P4rn0s

好きでもない人に「好き」と言うのは、思っているよりずっと簡単だった。

本心を差し出さなくていいし、

傷つく覚悟もいらない。

ただ声のトーンを少し下げて、

間を置いて、

相手が喜びそうな言葉を選ぶだけでいい。


甘える、という行為は案外技術だ。

肩に寄りかかる角度とか、

返事を少し遅らせるタイミングとか、

寂しいふりをするための沈黙の長さとか。

全部、感情じゃなくて作業だった。

だから疲れない。

いや、正確には、疲れないようにやっている。


本当に好きな人に向ける言葉は、重い。

相手の反応一つで、

自分の価値が揺らいでしまう気がして、

喉の奥で言葉が詰まる。

だから私は、どうでもいい人に「好き」と言う。

どうでもいい人に触れて、

どうでもいい人の肯定で息を整える。


それはストレス発散だった。

仕事で削られた自尊心や、

誰にも見せない弱さを、

一時的に回復させるための応急処置。

相手が本気になればなるほど、

こちらは楽になる。

自分は何も賭けていないから。


だけど夜になると、

必ず少しだけ静かになる瞬間が来る。

布団の中で、

スマホを伏せて、

天井を見つめる時間。

そのときだけ、

今日ついた嘘の数を思い出す。

嘘というほど大げさじゃない。

ただ「好きじゃない」という事実を

言わなかっただけ。

それだけなのに、

胸の奥に薄い膜のような違和感が残る。


まともになれない理由は、

たぶんそこにある。

誰かを本気で好きになる前に、

誰かを使ってしまう癖。

孤独を直視する前に、

甘さで誤魔化す習慣。

傷つかない選択ばかりを重ねて、

傷つけない勇気だけが育たなかった。


それでも私はまた、

誰かに「好き」と言うだろう。

本心じゃないと分かっていても、

その言葉が今の自分を救ってしまうから。

救われてしまうからこそ、

やめられない。


まともになるには、

きっと静かすぎる夜を、

ひとりで越えなきゃいけない。

誰にも甘えず、

誰にも愛を借りず、

ただ自分の空っぽさを見つめる夜を。


でも今はまだ、

そこまで強くなれない。

だから私は、

今日も誰かに寄りかかる。


好きでもない人の胸で、

まともになれない自分を

少しだけ休ませながら。

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