第39話 路地裏の安らぎ
段々と陽が傾いて懐かしい色合いに変化していく。この世界は地球のように自転しているのだろうか。同じように空の色が変わっていく。
「アンドールさん達、遅いなぁ」
お昼位に別れてもう夕方だ。宿屋に宿を取った方が良いのかな?
まぁ、野宿でも全然構わないけどね。
野宿するとなったらあの小屋を使わせて貰うのはアリかな。広場をくまなく歩き回っていた時、寂れた路地裏に屋根に大穴が空いた朽ち果てた家……というよりは小屋みたいな場所があった。
土壁も一部崩れていて隠れ家感が凄い。
こういう所は子供が最も好むようなもんだ。
かくいう僕も小さい頃折りたたみ三つ折り布団マットレスを縦に並べ、最後に天井代わりにマットレス載っけた秘密基地を良く作って中に篭っていたな。子供に陣地を持つ事は憧れだからな。
しかし、こんなダンジョン前の簡易村?町?に子供が居るはずもなく、誰も立ち入らないまま放置されている。
まぁ、潰しもせずに放置なのはあの所為もあるかな。
小屋の奥に三体のゴーストが居る。滅茶苦茶怒ってる雰囲気で、闇の色のオーラを纏ってボロボロの床板に胡座をかき、こちらを睨んでる。
影と灰色にぼんやりと光る眼窩しか分からないが、影には長い尻尾があった。獣人さんのゴーストだろうか。
こんなの見たら助けるしかないよね!って言ったらアルミにお人好しって言われた。何で!!
「こんにちは、入るね。君たちどうしたの?」
三つの影が揺らいで合体し僕を飲み込むように覆いかぶさってきたが、次の瞬間影はバラバラに引き裂かれて散らばった。
アルミの聖属性を帯びた爪に引き裂かれた影は再び集まり三つの影に戻る。二つは大きく、一つは小さく、小刻みに震えて居るような動きを見せている。
「襲って来なければ危害は加えないよ」
ゆっくり近づくと念話のような微かな声が聞こえた。
『……こ、……ろさ、な……で』
『ゆ、るし……て、こ、ど、も、だ……け』
『にげ、な……から、おゆ……しを……』
『死にたくない死にたくない死にたくない』
ガチャガチャ、と何処からともなく聞こえた音。その方向をみると錆びて朽ちている鎖付きの輪っかが三つ転がっていた。
小さな輪っかと大きな輪っか二つ。
なんとなく察した。
「逃げようとして、ここに居るんだね」
きっとあの輪っかは足枷だろう。このゴースト達は多分、獣人の親子。逃げ出そうとしてここで命を絶たれたんだろう。
死んでるのが分からず、まだ生きたくて必死にここに縛られてる哀れなゴースト達なんだろうね。
「君たちはどうしたい?助けてあげる」
『こ、こ……くら、い……明る……いき、た……』
ガチャガチャ、と足枷が揺れた。
「分かった、助けてあげるから静かに目を閉じていて」
僕は足枷に連なる鎖を愛用ドラゴンナイフで断ち切った。
『お……お、……ぉ』
閉じる瞼もない眼窩から水滴が少し流れたような気がした。
「アルミ、彼らに聖なる霊獣のヒールをかけてあげて」
「ヒール」
彼らの影が段々と色を薄め、徐々に本来の姿が現れた。大きくふわふわな耳が頭に生えた、イヌのような鼻を持った、酷く痩せた獣人の親子が身を寄せあい、抱き締めあっている。
「浄化」
僕が浄化の魔法を行使すると、彼らは笑い、小さな子は僕らに手を振り、親は頭を垂れながら消えていった。
「胸糞悪いな」
ヒト族は獣人を奴隷にしていると聞く。天翔の人達みたいに良い人も居れば、奴隷の命を簡単に奪う悪いやつもいる。
前世でもそれは同じなんだけど、無性にやり切れない思いを感じた。平和ボケしている日本人だったからなぁ、僕。悪意に晒された死なんて見た事も無かったし。
僕らは朽ちた小屋を後にして散策に戻る事にした。
宿屋が立ち並ぶ付近は飲み屋街にもなっているのでヒトでごった返している。
露店も店じまいなのか店の顔が入れ替わり、商店は閉まり軒先に飲食店の露店が忙しそうに開店準備をしている。
まるで夕方の酔っ払い横丁のようだ。
特にすべき事は終えてしまったので暇だ。
本当は服や靴も買いたかったんだけど、どのお店にも子供服は売って無かった。
そりゃそうか。ダンジョンに小さな子連れで来る奴なんてほぼ居ないだろうし。
探知さん稼働中で天翔の鷹さん方の居場所は脳内マッピングに緑色で表示されている。緑の・はどうやらパーティーメンバー表記で居場所が分かる。因みに従魔の表示範囲は1キロ内、パーティーメンバーや仲間の表記は0.5キロ内だと表示されるとのライガの言。敵は赤・で表示され、5キロとか10キロとか魔力と気合いで無理出来るようになったそうだ。
魔力は分かるが気合いって何だ?
……で。ですね。天翔さん方六つの緑の・は動きが無いんだけど、今僕達の座っている場所を中心に50メートル先に赤い・が10個有るんですよね。うーん、どうしようかな。
アルミもフジも既に気づいていて、直ぐに動けるように警戒・指示待ちである。
『ね〜主様〜やっつけていい?』
『待ちなさい。勝手に動いたら飯抜きな』
アルミは好戦的なので時々暴走するんじゃないかと心配にはなるが、ちゃんとお伺いしてくるから、、、。
フジは僕の首元ガッツリガード態勢である。
『ミヤビ様、ここは待機ですか』
『相手の出方を探りたいからマーフィも待ちね』
マーフィは従魔では無いけれど、僕と深い繋がりが出来た事で念話も通じるし、なんなら僕のステータスの影響を受けて大幅に能力強化されてるんだってライガが言ってた。
『ライガ、敵はヒトかな?・に名前が無い』
『ヒト族と思われますの』
やはりヒトか。だとしたら心当たりは二つ。
アブドラだかアブドルだかいう雑貨屋のオッサンかその命を受けた連中。
若しくは僕が干し肉を売り捌く所を目撃した金目当ての強盗。
う〜ん。どっちかな。まぁ、どっちでも掛かってきたらぶっ潰す……いやまてよ、安易に僕が野盗?を倒したら倒したで問題になるよな。
アンドールさん達が額に掌当ててる光景が目に浮かぶよ。
よし、野盗なら従魔が守ってくれた体で戦闘不能にして詰所のヒトに突き出そう。
あの雑貨屋なら僕が囮になって探り入れよう。
雑貨屋なのにこの短時間に10人も手下動かせるような奴はマトモじゃない予感しかないしね。
『という事で、マーフィ、君に大役を任せていいかな』
『!はい!頑張ります!』
僕はマーフィに雑貨屋おっさん懲らしめプランの内容を打ち合わせし、大きな袋に岩塩を詰め込んで渡し、彼に隠蔽を掛けた。
暫く動かなかった赤い・が動く。一気に距離を詰めてくるのではなく、ランダムな方向から徐々に範囲を狭めて追い込んでいく、追い込み漁みたいな感じ。空が暗くなり、闇が支配する刻を待っているのだろうと予想。
見晴らしの良いベンチの前は頼りない木製の柵と崖だから、僕が逃げるには一方が塞がれている状況だ。敵も土地感に詳しく熟知しているみたいだから三方から迫ってくるな、とは思ってた…けど。随分とチンピラを寄越したなぁぁ。
『アルミ、フジ、絶対手を出さないように。僕が殴られても攻撃しないこと。いいね!』
『えぇぇ…』
従魔達に命令があるまで動くな、と命令しておかないと絶対瞬殺しちゃうからね。
「おい、随分とイイものを持ってんな?」
下卑た笑みを浮かべ口端を片方だけ歪に引き上げた、鼻の孔が妙に大きい不細工が近寄ってきた。世紀末ならトゲトゲの服着てるけど速攻ぶっ飛ばされそうなヒャッハーな人。そいつが正面。
そして左右にガタイだけは良い頭の悪そうな顔してナイフをチラつかせてる男たち。
背後に同じく獲物をもった薄汚れた男女が七人、計10人が僕らの周りを取り囲んでいる。
「僕、お金なんて持ってないよ」
そう囁くように呟くと前方の三人が品の無い笑い声をあげた。
「あるだろ、塩っぱいアレがな」
ほーん、やっぱり雑貨屋のおっさん……雑貨屋のクソオヤジでいっか……の差し金ってやつね。
依頼者を指し示す言葉吐くコイツら馬鹿なの?
どうせあとから出てくるクソオヤジに
『なんで貴方が!』とか驚かなくちゃいけないやつなの?馬鹿らしい。
無言でいると、短気な正面のヒャッハーに殴られた。
『手をだすな!』
従魔達はぐっ、と我慢。ここは相手の指示に従おう。
バカスカ蹴られて意識を失った振りをしていたら何処かに身体が運ばれるのを感じた。
しかし、演技って難しいな。全然痛くないしさ。アルミのジャンピング目覚ましの方が100倍痛いわ、と思ったら不本意念話が飛んできた。
ゴメンゴメン。
さて、何処に連れていかれるのでしょうね(棒)
定番来ました、暗い石床の地下室、檻を添えて。近くにランタン机に置いた見張り二名。
油断してるなぁ。地下室アルコール臭い。見張りさん達酒飲んでるよ。
僕は目を閉じたまま従魔に指示を飛ばす。
『やっぱり雑貨屋のクソオヤジだったからプラン続行。マーフィは岩塩をあそこに運んで部屋奥待機、アルミはアンドールさんの近くで待機、合図したらマーフィの所に連れていく。フジは僕と一緒に待機、脱出時まで大人しく』
『『『はい!』』』
うん、良い返事。それじゃあ、クソオヤジを待つとしますか。




