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第21話 貰い損ねたもの

「扉と内部がミスマッチ過ぎる……」

暫し呆然と立ち尽くして居た僕だったがガッジーラとアルミの声に漸く意識を現実に戻した。


「如何なされた」

「早くいこうよ、主様」


「あ、うん……うん?あっ……」

彼らの声に誘われるように板の間へ足を踏み入れようとした僕は、上げた足の裏の余りの汚さに上げた足を戻し、小上がりに腰を下ろしクリーンの魔法を両足にかけてから尻を回転させて板の間で立ち上がった。


「えぇ〜」

顔をあげ、 見るとガッジーラもアルミも僕の不可思議な行動を訝しげな目つきで見ている。

彼らの足元はぬかるんだ泥やら小枝やらで板の廊下をガッツリ汚していた。

「クリーーーン!!」

反射的に僕はガッジーラとアルミに向けてクリーンの魔法を放つ。


「廊下汚れる、ダメ絶対」

うちのログハウスレベルならあまり気にしないが、こんな綺麗な所、汚せない!日本人的に!無理!そして傍らにキチンと並べられていたスリッパを2人に投げつける。

「それ、ちゃんと履いて!」



廊下にペタペタスリッパの音が響く。

特にアンデッドのエンカウントは無く、ひたすら長い廊下が続いていた。


漸く突き当たりのT字。正面は磨りガラス越しに見事な日本庭園風の箱庭、左側の通路は箱庭に沿うように縁側となり、奥には厠はこちら、と案内板が見える。

「左に行こう」

僕らは左の廊下をかなり進む。するとまたT字の突き当たり。右を見ると見慣れた懐かしい暖簾がかけられた通路。左はまたまた長く続く廊下。

暖簾には「ゆ」


お、温泉か?!行きたい、いや見てみたい、気になる。

「右、いこう!絶対右」

2人に異論は無いようで、僕らは右の廊下にかけられていた暖簾をくぐった。



「うわあ……」

暖簾の先は広い広い広間。床は竹で組んだゴザのようなものが敷き詰められ、壁沿いに棚、棚の中に藤のかご。

そして奥にガラス障子があり、ガラスは白く曇っている。

どう見ても 脱衣所!です、ありがとうございます!


僕は奥に進み、カラカラと音を立ててガラス障子を開けるとそこには見事な岩風呂が設えられて白く濁った湯がもうもうと湯気を立てていた。

奥には庭園が竹の短い柵越しに見える。

先程廊下越しにみた箱庭かな?

何故か室内なのに天井は夜空だ。



一度ガラス障子を閉め、脱衣所を見回ると、棚のひとつにリネンが置いてある。

近づくと何かが分かり自然と小走りになっていた。

「うわ、ああああああああぁぁぁ、ガッ、ガッジーラ、コレ、コレ……」

そこには5年ぶりのちゃんとした衣類……甚平が色んなサイズ毎に畳まれて置いてあった。


「問題ない。この階層主は我と懇意故、度々オンセンとやらも利用……」

ガッジーラの言葉を最後まで聞く余裕もなく、僕は欲望のままに 体臭が染み込んで臭い毛皮を脱ぎ捨てて奥の露天風呂に向かってダッシュをしていたのは仕方ないと思う、うん。



「ふわわぁー、沁みるぅ〜」

露天風呂の隅に設えてある台の上の編みかごにはなんと石鹸が置いてあり、嬉々として石鹸を使ったが全く泡立たない。

しかし何度も体と髪に石鹸を押し当てて擦るうちに泡立ちが良くなってきた。

きっと僕の体が石鹸が泡立たない位汚れてバッチかったんだろう。

良かった……人に会わなくて。

汗臭い適当毛皮服に汚れたふんどし、油ぎってテカりのあるボサボサの髪……ホームレスみたいだ、いや、僕今ホームレスだったわ。


身綺麗にして湯に浸かる。内風呂は無いみたいだけど問題ない。

ガッジーラは樽に湯が注がれ続けている五右衛門風呂に浸かり寝息をたてている。

うん、眠くなるよね、温かい風呂って。

「バチャバチャバチャ」

アルミは毛皮を濡らし、水に濡れたチワワみたいに容量を減らしながら露天風呂で楽しそうに泳いでいる。意外と痩身だったんだね、アルミ……


一頻り風呂を満喫したあと、僕は生活魔法のドライを使い身体と髪を乾かした。

ドライはアブソーブと比べると出力は可也弱く、且つ持続力がないので物を乾燥させるには向かないが、ドライヤーとしては優秀優秀。

僕は小さい子供用の甚平を手に取り身につけた。5年ぶりのちゃんとした服に感動して手足が震えるよ。

因みにガッジーラも甚平を身につけ、ダンディ1割増になってる。

アルミは甚平サイズが無かったので……というかケモノ用は無かった……が、綺麗になってフサフサになった毛皮に御満悦で跳ね回ってる。

そして僕らは探索に戻った。

次は左の道だね。長く廊下が続いているが矢張りアンデッド、いや敵は出てこない。

探知さんが仕事してくれているから近くに居ないのは分かってるんだけどね。1箇所を除いて。

最奥の周辺に反応がある。きっとそこが階層ボス部屋かな。

「なぁ、ガッジーラ、ガッジーラはこの階層ボスと懇意だって言ってたよね。どんな聖獣なの?いきなり待ち伏せ襲ってくる系でないと良いんだけど」

「なぁに心配要らぬよ。奴は大人しい。我が知る中で1番温厚で御座るな。……怒らせねばの」

普段大人しい人物程キレたら怖いっていうしな。取り敢えずまあ突然襲われる事は無さそうだ。

「この奥に居るみたいだね、階層ボスと……取り巻きかな?」

探知さんが廊下を進んだ先、突き当たりに複数の生物反応を示している。

「奥の間じゃな。ふむ、変だの。奴は奥の間手前の広大な庭園にいつも居るのじゃがな」

「気分なんじゃない?寝ているとか?」

「うーむ、部屋の中に収まるサイズでは無いのだが……人化かの、珍しい」

「そんな大きいの?」

「この城が三つほど並べた位」

「でか!」

「聖獣、玄武。巨大な亀だからの」


玄武か、聞いた事あるな。

長い廊下を抜けると突き当たりの障子がガラリと自動で開いた……と思ったら亀の甲羅を背負い、和装を着こなす人型の小さな人間?が二人障子を開いてくれていた。

「ようこそおいでくださいました」

2人の声がハモる。息ピッタリだね。頭にお皿ないからカッパじゃないよね?

「上に行く故通らせて貰いたい。玄武はおるか?」

2人は顔を見合せたあと、何か言いたそうに口ごもっている。何か事情がありそうだ。


「詳細は奥の間で……」

そう言ってから首を回し広間の先、背後にある障子を二人は見遣る。

180度首が回ってて、可也ホラー……悪魔に魅入られた少女の映画を思い出し、僕はゾクッと体を震わせた。


亀人?なのに足速いな。

僕らが畳の上を移動するとススッと二人は移動する。いや、浮いてる。浮きながら足も動かさず水平移動している。

怖い……


「ではごゆるりと」

亀人達が障子を開く。

「まるで将軍の間のようだなあ」

40畳はありそうな和室。敷き詰められた畳のい草の匂いも新鮮で緑色が映えている。

部屋の左右両側に亀人がズラリと並び、中央奥は1段高くなっている。あれは金屏風ってやつかな。背後左右に目隠しのようにたち、中央は竹で組まれたような御簾が下がっている。

あの奥に玄武さんが居るのかな?


「よくぞ参られた」

御簾の奥から声がする。が、甲高い声だ。女性なのかな?アレ?でも僕の知っている玄武って雌雄同体……こちらの世界では違うのだろうか?

だが、その声を聞き、ガッジーラが眉間に深い皺を寄せ、ツカツカと御簾に歩み寄り


「うわあ、あ、それは不味いだろ!」

御簾がガッジーラの手によりバラバラに破壊されて広間に飛び散った。亀人達も一斉に立ち上がり、僕は両手で顔を覆った。しっかりと自分とアルミに聖域結界を貼ったあとでね!

「みんな!!やめて!戦っちゃ、だめ」

緊迫した雰囲気の中で上げられた甲高い声に即時に反応した亀人達は再び元の位置まで移動し腰を下ろした。

「……玄武、なのか?」

「いえ……私は、……まだ……」

甲高い声の主は 赤い座布団の上でとぐろを巻いた小さな蛇だった。



落ち着いた雰囲気に戻った広間、亀人が僕ら三人の為に座布団とお茶と茶菓子の乗った盆を持ってきてくれた。

手の込んだ茶菓子は最中で、お茶は緑茶のように緑色で程よい渋味によく合う。

アルミは苦いと言ってお茶を避けてガッジーラの分の最中を頬張っている。


「左様であったか。あの玄武が血相を変えて外に出たなど。しかも孵化寸前のそなたを置いて」

「はい……私は卵の中でしたので理由などは存じ上げません」

「その姿は……成程」

得心して頷くガッジーラに口を寄せて尋ねる。

どうやらこの蛇さんは「玄武」のお子さんで、聖獣なんだけど、親獣から十分な魔力を貰い損ね、本来の姿にも、人化……転変も出来ず、能力も中途半端だそう。

蛇と亀、両方を併せ持ってこその玄武。蛇は男の子、亀は女の子。この蛇さんは女の子の自身の片割れを親の玄武から与えられないと成獣にもなれないらしく、玄武の不在なこの場所でただただ過ごしているとの事。

「私も玄武を探しに行きたいのですが、能力が発揮できず……見た目はこの通り、小さな蛇ですから」

僅か20センチ位の体長しかない小さな玄武の幼体は悲しそうに首を下げた。


「親玄武が見つかれば、君も魔力貰えて成獣になれるの?卵の時じゃなくても後付与可能なんだ?」

僕が蛇に尋ねると蛇は小さく首肯した。

なら、問題は簡単じゃないか。


「僕も外に出る予定なんだ。良かったら君も一緒に行かない?どんな旅になるかは分からないんだけど、ただ待つよりはいいんじゃない?ね?ガッジーラ?」

傍らのガッジーラはニヤリと牙をみせ、頷いた。

「い、いいのですか?私は今何もお役に立てそうも無いんですが」

「役立つとか、そんなの関係ね……、ないよ。一緒に旅する仲間が増えて僕も嬉しいし」


蛇さんはキョロキョロと周りを見渡す。

亀人たちは涙を流しながら良かった良かった、と喜びの笑みを浮かべ、主の落胤の蛇さんと僕らに何度も視線を移動させ、深々と畳に頭を垂れていた。


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