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彼女が帝国最強の水術士になった理由  作者: 滝川朗
第三章:な、なんて破廉恥な……っ!  何を考えてるの、私ったら。
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(1)


 学院の食堂で夕食を採るアルバートの王太子の隣には、今日もエドガー・エレンブルグが居た。

 隣に座るアルバートの王太子の赤髪とは対照的に、暗い褐色の髪、瞳は射抜かれるような深紅の三白眼だ。

 火焔(かえん)使いにぴったりの、身体の内側に獣でも飼ってそうな見ためなのだが、中身は普通に好青年なので、二人は出会ったその日に意気投合して、以来ずっと仲良しだ。


「しっかし、オマエも、爽やかな顔してえげつないことするよなー!あのクロエ姫の完璧な連携技を華麗にかわして、『雷撃』だもんな……。可哀想にクロエ、泣いてたらしいじゃないか」


 エドガーは、この一見主人公系のイケメン王太子が、実は物凄い闘志の持ち主だと言うことも知っている。

 学年のアイドルである氷姫に対しても容赦ない。


「あのクロエ・カイルが泣いたんだぞ。やっぱりうちの氷の女王サマも、オマエには一目置いてるんだよなあ」

 エドガーはなぜかニヤニヤしながら言う。

 エドガーも、その他大勢の学生達と同じで、クロエとリファールがくっ付けばいいのにと、いつも無責任に囃し立てているのだ。

 リファールに許嫁がいることも知っているくせに、そんなことはお構い無しだ。


「俺がアルバートの出身者だからだろう?ランサー随一の水術の名門カイル家のお嬢様は、随分愛国心が強そうだ」


 よく分かってるじゃないか。言わずもがなのことだ。

 クロエは、首席の座を隣国の王子に奪われて、ただでさえ悔しい思いをしていたというのに、そんな状況下でのあの試合だ。

 ランサー帝国の術士勢の不甲斐なさに歯噛みしているに違いない。


「エレンブルグ家だって、ランサー随一の焔術の名門なんだろう?エドガーには、国家への忠誠心が欠けているように見えるな」


 リファールは、王太子様の洗練された仕草で皿の上の肉を丁寧に切り分けながら言う。


「そりゃあな!俺たち焔術士に、『闘う理由』なんて、必要ないだろ!俺は楽しく焔がぶっ放せりゃそれでいい。オマエこそ、焔術士のくせに、こそこそ姑息な試合ばっかしやがって。俺はお前みたいなコスいやり方は好きにはなれないんだよなあ……。やっぱ焔術は、殴り合いだろ!」


 エドガー・エレンブルグは、とても焔術士らしい性格をしている。今日の第二試合では、エドガーのチームが序盤から力押しのアグレッシブな闘いを繰り広げ、瞬殺で相手チームを負かしていた。

 たしかに、派手で、見る者を爽快な気持ちにさせる闘い方だ。

 エドガーの竹を割ったような性格をよく現していると言える。


「殴り合いと言えば……サラ・オレインも、最近ますます腕を上げてるな。剣士みたいな武闘派の風術士が流行ってる中、彼女みたいな、いかにも術士らしい古色蒼然とした闘い方は、見てて好感が持てる」


 リファールは、学年トップの風術士サラ・オレインに冷静な評価を下していた。


「ああ、サラね。非術士家系の出身者で、あそこまで才能溢れる術士も珍しいよ。あれはズルいって。本人に相当な呪力の所要量(スタミナ)がないと、あんな闘い方、まずやろうと思わないから。普段から練習してたんだろうなー。息のあったコンビネーションだった」


「だよねーっ!オレも同感」


 今日の打ち上げだ、とばかりに、チネ・リリアナを伴って、フレイ・アサルが現れた。聖術士のフレイは、長い銀髪をポニーテールにしている。


「早かったなお前ら。身体は大丈夫なのか?」


 フレイの頬に大きな絆創膏が痛々しい。二人とも、学院の医務室で治療を受けていたのだ。


「痛いよ。サラのヤツ。相変わらず手加減というものを知らないんだから……」


 フレイは頬を撫でながらぶつくさ言う。


「私は、全然大丈夫です!私は、リファール様のお側を、片時も離れることはできませんから……!」


 チネはそう言ってちゃっかりリファールの隣を陣取る。

 フレイは、長いポニーテールを揺らしながらエドガーの隣に座り、ニヤニヤして言った。


「エド!オマエも、いい加減そろそろ、サラ・オレインを口説いてみたら?オレの目は誤魔化せないよ。実技の授業ではいつもサラを目で追ってるだろう?」


「またその話か……だから、何回も言ってるだろ?サラなんか追い掛けたって、仕方ないんだよ。アイツがずっと、彼氏の一人も作らないのはなんでか、知らないのか?」

 エドガーは憮然とした顔で言う。


「サ、サラ・オレインはやっぱり、リファール様のことを狙っているのですか……?」


 エドガーの言葉を受けて、小さなチネが、焦った顔で言った。

 チネは『リファール様命』なのだ。誰かに大切なリファール様を奪われないか、常に目を光らせている。

 エドガーは吹き出す。


「違う違う……!リファール様に密かな恋心を抱いてるのはサラの隣にいるクロエ姫の方だろ。サラは、腐れ縁のユーシス・クローディアのことをずーっと一途に想ってるんだよ。同郷の幼馴染みだって言うじゃないか」


 エドガーは小さな子どもみたいな見た目のチネに、言い聞かせるように言う。

 ええーーーーっ?ないない、と一同不満げな声を出す。


「いくら幼馴染みとは言え、学院のアイドル達と片っ端から浮き名を流しまくってるユーシスのことを、七年間も一途に想い続けるなんてこと、あるかなあ?」

 フレイは首を傾げる。


「いいや、間違いない」

 エドガーは断言するように言った。


「俺は昔、サラに聞いてみたことがあるんだ。なんで、あんなクズのことを、いつまでも見放すこともなく付き合い続けてるんだ?って。そしたらサラは言ってたんだ。今でこそユーシスは甘いマスクにモノを言わせたクズに成り果ててるが、昔は地元の英雄だったんだって!」

 エドガーはニヤニヤしながら面白そうに言う。


「サラは、ユーシスが色んな女をつまみ食いしてふらふらしてても、最後に帰ってくるのが自分のところだって分かってて、我慢して待ってるんだろう?耐え忍ぶ女だよ、最高だろう」


「それのどこが最高なのか良く分かりませんが……私はクロエさんが、リファール様に密かな恋心を抱いていると言うお話の方が気になりました。そんなこと、あり得ますか?親の敵みたいな顔して見てるじゃないですか、いつも」


 チネの言葉は不安を帯びている。

 大好きなリファール様を奪い取ろうとする存在は、チネに取ってすべて憎き(かたき)だった。


「エドガーの話はいらん妄想が入り過ぎてると思うんだが……。まさか、愛国心の塊のクロエ・カイルが自国の地位を脅かすかもしれない他国の王子に恋心を抱いたりはしないだろう」


 リファールは呆れた声で言った。自分の話なのに、まるで他人事のように言うものだ。


「どうだかなー!少なくともクロエの頭の中は、アルバート・ロムルス・リファールのことでいっぱいだろうさ。あいつは毎日毎日、お前を倒すことだけを考えてるんだから」

 


フレイの口調を、オレに統一しました

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