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彼女が帝国最強の水術士になった理由  作者: 滝川朗
第十九章:闇術士とその召喚獣が愛し合うなんて、おかしなこともあったものね……
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(1)

 翌日の朝早く、船はアルバート唯一の港、シュトマールに到着した。ほぼ、予定した通りの航行だった。

 サラは優秀な自社の水夫達に礼を言って、船を降りた。

 そして、港では、ピカピカに磨かれた黒塗りの四頭立ての馬車が一行を出迎えた。

 馬車は二台停められている。

 更に、騎乗した護衛の兵士たちも多数。

 エドガーたちは呆気にとられていた。


「お、お見逸れしました……。リファールあなた、本当に、王太子サマなのね……。今までのご無礼、どうかお許しください……!」

 サラが平伏しそうな勢いで言う。


「くす……何今さら言ってるんだ」

 王太子様は出迎えた兵士達に向かい颯爽と進み出た。


「出迎えご苦労……!」


「は……っ!殿下、よくぞご無事で……っ」


 兵士達が一斉に最敬礼して、そのうちの代表格らしき者がびしっと答える。

 エドガーはますます不思議に思う。

 アルバートの王に子どもが何人いるかは知らないが、リファールは大切な王位継承第一位の大切な王太子なのに、なぜわざわざランサー帝国の学院などに留学してきたんだ……?

 ランサーに悪意はないものと思いたいが、とても危険を伴う武者修行だ。


 アルバートの王はいったい、何を考えているのやら。


「お帰りなさい、リファ……!」


 兵士のうち一人が馬車の扉を開け、従者に手を引かれて、美しくたおやかな姫君が姿を現した。


「ただいま、シシー」


 二人はしっかりと抱き合った。


「会いたかったよ、リファ……」

 鈴を転がすような美しい声が王太子の名を短い愛称で呼ぶ。


 エドガーは軽くショックを受けていた。

 リファールが許嫁に掛けた「ただいま」の言葉は、幼い子どもみたいに甘えた声で、学院では一度も聞いたことのない声色だった。

 リファールは今、とても寛いだ顔をしている。

 学院で演じている、爽やかな隣国の王子の姿でも、闘いに挑む際の狂気染みた顔でもない、これが、『素』のリファールなのだ。

 愛する許嫁の傍らが、最も寛げる場所なのだろう。

 ここにも心から愛し合う男女が一組、か。

 エドガーには分からない世界だ。

 そして、シルヴィア姫は絶世の美姫だった。

 『上』の中の『上』だ。彗星の色に染められた髪色とはよく言ったものだ。

 輝く銀髪。折れそうなほどに細くたおやかな腕。絹のような白く滑らかな肌は、触れればよほど心地よいことだろう。


見惚(みと)れてるんじゃないですよ、エドガー。シルヴィア姫はリファール様の許嫁なんですからね!」


 チネに突っ込まれて、我に帰る。

 傍らのサラは今にも泣き出しそうな顔をしている。


「安心しろオマエら。さすがの俺も、最強の焔術士の許嫁に手を出す勇気はないぞ」


 エドガーは苦笑した。

 さてはこいつら、リファールの恐ろしさを知らないな?


「貴女がクロエ・カイルさんと、サラ・オレインさんね?」

 クロエとサラのフルネームを完璧に記憶していらっしゃる許嫁様だった。


(わたくし)が、未来のアルバート王太子妃、シルヴィア・ウッディールですわ。以後、お見知りおきを……っ!私のリファに何かしようものなら、ぜーーーーーったいに、許しませんわっ!リファは誰にも渡しませんから!」


 シルヴィア姫はこれ見よがしにリファールの腕にくっ付きながら言った。

 綺麗なお姫様……。サラは、(ほう)けた様に、アルバートの隣国、コルネイフ王国のお姫様を見詰めていた。

 サラの想像の斜め上を行く美しさだ。まさにお伽噺の主人公、継母がいたら嫉妬されるぐらい美しきお姫様、と言ったところだ。

 こんなに可愛いお姫様に、誰にも渡しませんから、とか言われたら、そりゃ、爽やかな王太子様も、メロメロになっちゃっても仕方ないよ……。


「ご学友のみなさまは、こちらへ……」


 エドガーたち、リファールのご学友五人は、従者に促されて、ぎゅうぎゅうと馬車に詰め込まれる。

 深紅のベルベットが張られた、ふかふかの座席だった。こんな高級な馬車には乗ったことがない。


「バランス悪くない?私たち庶民は一つの馬車にぎゅうぎゅう五人で詰め込まれて、王太子様と婚約者様は二人っきりって……」

 サラはこそこそ言う。


「野暮なこと言うなよ」

 ユーシスもサラにこそこそと言い返す。


「可愛い許嫁に一年ぶりに合うんだからさ、そりゃ爽やかな王太子様だって、我慢できないよね!さっきのリファール様の(とろ)けきった顔、見た?」

 ユーシスは嬉しそうにニヤニヤしている。


「こら!変な言い方をしないでください……っ!この下衆(げす)……っ!」

 チネが大好きなご主人様を(かば)って、真っ赤になりながら抗議する。


 この五人の中で一番堪(こた)えているのはチネに違いない。さすがにもう慣れっこにはなっているものの、チネはアルバートに帰還する度に、これを見せ付けられているわけだ。


 自然と、サラの隣はエドガー、その隣がチネ。そして、向かいにユーシスとクロエの並びになる。

 馬車の旅は丸一昼夜だと言う。休憩を挟みながら、アルバートの王都に着くのは今日の夕刻頃とのこと。

 サラはそんなに長い間エドガーとゼロ距離と言う状況に、幸せが止まらないのだった。

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