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彼女が帝国最強の水術士になった理由  作者: 滝川朗
第十六章:サラ、いつになく可愛いなおまえ……
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「お願い……っ!みんな、起きて!!!」


 船室に飛び込むなり、サラは泣きそうになりながら叫んだ。

 気持ちばかりが急いている。


「甲板に、スピリット系の魔物が現れたの……っ!私とエドガーには、手も足も出ない。倒せるのはユーシス、貴方だけなのよ!お願い……っ!いますぐ来て……っ!」


 サラはハンモックで心地良さそうに眠っていた幼馴染みを思い切り揺さぶった。


「なにサラ、その状況。まさか君たち、二人きりで甲板に出て、よろしくやってたってこと?」


 ユーシスはハンモックから降り、眠たげな顔をして髪を整えながら、呑気な口調で言った。


「そんなこと、言ってる場合じゃないでしょう!?エドガーはたった一人で魔物を引き付けてくれてるのよ……!焔術士には、幽鬼相手に戦う(すべ)なんてないのに……!」


 五人は慌てて甲板へ向かう。


「サラを(たぶら)かす悪い男なんか、助ける義理は僕にはないけどね……」

 ユーシスは冗談なのか本気なのか分からない口調でそんなことを言う。


 それでも、ユーシスは全力で走ってくれた。

 エドガーの生命力(ライフ)が尽きる前に甲板へ出るために。


 サラは思わず悲鳴を上げた。

 エドガーの上に馬乗りになった花嫁姿の亡霊は、嬉々として呪力の刃でエドガーを滅多刺しにしているところだった。

「感謝しろよバカ焔術士。お前のことは大っ嫌いだが、サラのためを思って助けてやるんだからな」


 ユーシスは涼しい顔で悠々と呪文を詠唱する。


「“浄化の光”」

 聖術士からすれば、頭が半分寝ていたとしても唱えられる、基本中の基本の術だ。

 心を浄化させるような淡く優しい光が甲板の暗闇を明るく照らし、一瞬にして花嫁姿の幽鬼は昇天した。


「おせーんだよバカ」

 エドガーは仰向けになって星空を見詰めたまま言った。


「めちゃくちゃいてーんだからな、こっちは」


 クロエが心配そうな顔で覗き込む。

「精神攻撃ね、これは。水術の“魂の捕縛”とも似てるけど、身体の自由自体を奪うと言うのは……“金縛り”とでも言うのかしら」


「お嬢さん……?解説はそのぐらいにしてくれますか?」

 エドガーは悠長に状態を分析するクロエに突っ込みを入れた。

 もしかしたらサラを誑かす悪い男へのクロエ流の『いじめ』なのかも知れない。


「“解呪”」

 クロエもまた、水術の十八番を口にした。

 あらゆる妨害呪文を解除する、水術の基本の『き』だ。


「助かった……」

 エドガーは命からがらと言った様子でその場に起き上がる。


「よかった……っ!」

 サラはエドガーの身体に思い切り抱き付いた。


「イチャイチャすんのやめろって言っただろ!?ブレイクに言い付けるぞバカ女……!」

 ユーシスがぶつぶつ言いながら二人の間に割って入る。


「だから……!別にいいでしょ、お相手はエレンブルグのご長男様なんだから!」


「てめー、調子乗ってっと、遊ばれて捨てられるのがオチだぞ、このくそあま!」


「ち、ちょっとお前ら、今は、まじで、勘弁してくれ……!こっちは死に掛けたんだならな……!」

 エドガーは悲鳴を上げる。


「お前はいつも死に掛けてるよな、ダセーやつ」


「うるさいな。お前らみたいな頭でっかちな後衛には分かんねー痛みだよくそ、腹立たしいことこの上ない……」


「私だって、こないだ痛かったよ、小鳥達に傷だらけにされて」


 エドガーを労るサラと、罵るユーシス――三人は、ぶつくさ言いながら仲良く船室へと引き上げていった。


「サラは本当に、贅沢者ですね……」

 二人の男の間で揺れるサラを見ながら、チネ・リリアナは呆れた口調で残る二人に呟く。


「それはね、サラが『いい女』だからよ。誰にでもできることじゃないわ」

 クロエは感心している。


「だから俺は修羅場だって言ったろう?エドはともかく、サラとユーシスまで一緒とは……無茶すぎるだろう」

 リファールはチネにぼやく。


 たしかに、旅はまだ初日の夜なのである。

 初日からこんな様子では、先が思いやられると言うものだ。

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