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彼女が帝国最強の水術士になった理由  作者: 滝川朗
第十三章:ユーシス、お前の行動を一つで、大戦争が勃発するぞ
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「陛下、いつになったらリーファに会わせてくれるんですか……?約束だったでしょう、一目でいいから、リーファに会いたい」


 ランサー帝国の現皇帝ファルセウスの傍らに、真っ黒な髪、真っ黒な瞳の少年が座っていた。

 名をアデルと言う。

 アデルは、一国の王子に相応しい、王侯貴族の着るような、きらびやかな衣装を身に付けていた。

 物語の主人公のように、整った顔立ち、日の光を浴びたことがないのではないかと思うほど白い肌に、貴族風のタイの付いたシャツと細かな刺繍で飾られたウエストコートにジャケットを身に付けた姿は、まるで美しい人形のようだ。


「可愛いアデル……。申し訳ないけれど、今はまだ会わせてあげることは出来ないんだ。あとたった一年じゃないか。リファールもアデルも、いい子にしていれば、そのうちに会えるよ」

 皇帝は愛しげに少年の髪を撫でながら言った。


 忌まわしさに総毛立つ思いがする。

 それでも、そんな気持ちはおくびにも出さず、敵国の皇帝に、愛でられるがままになっていた。

 この方に、恩があるのは確かだった。


 少年は本来、この世に存在することを許されない『漆黒の呪力』の持ち主だった。

 『漆黒の呪力』の持ち主は、いずれの時代、いずれの場所においても、等しくこの世に存在することを許されない人種とされていた。

 普通は、『漆黒の呪力』を持って産まれた時点で、間引かれるものと聞いている。

 少年がこの年齢まで生き永らえて来られたのはただ、いくつかの幸運が重なっただけ。

 少年がたまたま、王族の血筋に生まれ、酔狂にも両親が、哀れな息子のことを、「殺すには惜しい」と思ってくれたこと。

 そして、そんな自分のそばに、いつもリーファが居てくれたこと。

 そして、偶然にも同じ時代にランサー帝国の術士養成学院の教師の一人に『漆黒の呪力』を使いこなす『闇術士』が存在し、アデルが幼い頃から持て余していた漆黒の力を、正しく扱う方法を教えてくれているからだった。


 本当に、信じられないほど愚かな人たちだ。

 『敵に塩を送る』ようなことをして。

 

 少年は、燃えるような紅い髪、紅玉のような瞳の、美しいリファールの顔を思い浮かべながら思った。

 リーファに、会いたい。

 一目見るだけで構わない。

 少年は、美しい兄のことを溺愛していた。


「そうねえ……。陛下、ちょうどいいかもしれないわ。今度、リファールとクロエの試合があるんです。クロエ・カイル――ご存知の通り、この学院で一番の紺碧の使い手ですわ。二人の試合を見学に行かせると言うのはいかがでしょう?」


 椅子に腰掛けたアデルのすぐ傍らに寄り添った女が、にこりと艶やかに笑って言った。


「良い機会です。そろそろアデルにも、術士同士の闘いというものがいかなるものか、見せてみるのもいいかもしれません」


 女の瞳孔は漆黒で、その周りの虹彩は、血のように紅かった。

 波打つ長い黒髪と、人間にしては白すぎる肌、そして、唇は虹彩と同じ、血の色だった。

 彼女の名はイグレットと言う。

 年の頃は三十代前後に見える。

 なんせ見た目はグラマラスかつ絶世の美女なので、学院においては、陰術の教師として、学生たちから絶大な人気を誇っていた。


 なんとも、哀れなことだ。

 ランサーの皇帝は、学生たちに心から同情していた。


 【漆黒のプレイヤー】は、胸糞が悪くなるほどに性格が悪かった。

 『災厄の魔女イグレット』の名に相応しい女だ。

 自分は脇役に過ぎないくせに、盤上を搔き乱し、ゲームをより『面白く』しようと暗躍している。

 それでも皇帝は、ひとまずはこの女の言いなりになり、漆黒のプレイヤーの力を最大限利用してやろうと考えていた。


 いずれにしても、将来この地上が、術士による戦争に巻き込まれていくのだとしたら、それがどれ程汚いやり方であろうとも、国の利益のために最善の方法を取るべきである。

 それが、現皇帝の考え方だった。



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