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彼女が帝国最強の水術士になった理由  作者: 滝川朗
第十章:そんなお前に、朗報だ
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(2)

「どうしたサラ……?なんかいつも以上にキレッキレじゃないか……?」

 クラスメートのアロイが焦った声で言う。


「なんか文句ある……?」


 サラはイライラしながら、風術の刃でアロイを思い切り切りつけた。

 アロイは防ぎきれずにたたらを踏む。

 実技の授業だった。

 風術の授業は、詠唱するスペルのある術の練習か、地術士との攻防戦か、後は剣道のように、風術士同士の打ち合いが主だった。

 今日は、実力が拮抗している者同士の互角稽古をしていた。

 ひたすら打って打って打ち合い、相手の動きを見切り、隙を伺っては打つ。

 季節は初夏だった。じわりと額に汗が滲む。

 アロイが体勢を崩し、反撃を打ち損なったところで、サラは彼の懐に入り込んだ。

 その胸元に刃を突きつけて、試合終了だ。


「相変わらずクソ強いなー」


 アロイは悔しげに言った。

 そして、飲み物を手にしてその場に座り込む。


「ユーシスのことか……?」


 アロイは遠慮なく切り込んでくる。

 サラはむすっとしたまま答えなかった。

 図星だった。

 今まさに、サラは目の端でユーシスを追っていた。

 ユーシスはクロエと仲睦まじく、新たな術の習得に励んでいる。

 最近、ずっとそうだ。二人は四六時中一緒にいる。

 初めは大騒ぎしていたクラスメート達も、あまりに二人が堂々としているので、もはや突っ込む気にもならなくなったのか、完全に放置されていた。


「ほんと、びっくりだよなーあの氷姫が、まさかユーシス・クローディアと付き合うなんて……天地がひっくり返っても起こりそうにないことだ」


「ねえねえ、サラも知らないの?ユーシスがどうやってクロエを落としたのか」

 興味津々と言った様子で、ニーナも話に入ってきた。


「知らないわよ、そんなこと……」

 サラはため息をつく。

 クロエが本命に振られて、気晴らしのために付き合ってるなんて、口が裂けても言えない。


「二人とも、何考えてるんだか。授業中だって言うのにイチャイチャイチャイチャ……目に余るのよ……!」


 ひたすらもやもやしてくる……。

 ユーシスにはそれほど興味がないと言うような、恋する乙女とは程遠い顔をしているクロエに対して、ユーシスは本当に優しく献身的に尽くしている。

 今までのユーシスとは百八十度違う姿だ。

 ユーシスが、女の子にあそこまで献身的で、お姫様を扱うみたいに優しく優しく接している姿なんて、子どもの頃からずっと一緒のサラだって、見たことがなかった。


「あちゃーこりや、重症だね……」

 ニーナが額に手を当てて天を仰ぐ。


「サラ、ユーシスが他の女の子とどんだけイチャイチャしてても、鼻で笑って、呆れて見てるだけだったのにさ、相手がクロエだとダメなわけ?」


 ううっ……。そんなこと、言われても。


「ユーシスも、今度こそ、きっと、ほんとに、本気なんだよ……」

 サラは暗い口調で言った。


 天使のように優しい顔をしたユーシスと、張り詰めて、今にも切れてしまいそうなクロエ……。物語の主人公とヒロインみたいに、最高にお似合いだ。

 自分が、どす黒く染まっていきそうな心地だった。

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