表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
7/48

臨機応変と行き当たりばったりは紙一重

 翌日の土曜日は「かれんのココロノハナタバ」の放送があり、こちらの方も予想以上の閲覧数を獲得できた。

 ウズメプロジェクトではコメントの集計に大忙しだ。

 次の動画の方針がコメントを元にして決まるからである。

 「結構な数のコメントが寄せられていましたよ。」

 週明けの月曜日、データを全員で共有しながら朝から企画会議である。

 「まず、新商品アイデアですが、予想通り男性視聴者から多く集まってます。続いて女性からはウェアについての意見がありますね。」

 「アパレル系かぁ・・・」

 「うちの提携しているアパレルブランドから出すことは可能だとは思うけど、量がまとまらないと高く付くよ。」会議に参加してくれている高波の意見である。

 アパレルの難しいところは各サイズをどのくらい用意するかだ。

 クラファンの報酬型で納品まで期間を数ヶ月取れるならサイズと着数もあらかじめ決めることができるか?

 アウトドアギアの方はどうだろうか。

 まとめてくれたコメントデータを流していくと、焚き火台や着火器具の意見も多く見られる。

 これは動画でかれんが焚き火をしていた影響も大きいと思われる。

 やはりテント泊をしないと全てのギアを網羅できなさそうである。

 使用したバーナーについてはアウトドア用のOD缶か手軽に手に入るCB缶で議論がなされていた。

 マスターエルクではどちらも扱いはあるが、最近はCB缶のバーナーの売れ行きが良いらしい。手軽に燃料が手に入るのは確かに心強い。しかもリーズナブルだ。

 バーナー系は他社からも色々な種類が販売されており、新しい何かを追加するのは中々難しそうだ。

 使用していたチェアーやローテーブルもコメントが多い。

 耐荷重を120キロまでにして欲しいとか、よりコンパクトにして欲しいなど意見があった。

 素材的にはジュラルミンが軽くて剛性が高いのでよく使われる素材だが、コンパクトさを追求すると耐荷重と座り心地が多少なりとも犠牲になる。

 かれんのブランドでデザインだけをオリジナルにしてお茶を濁すようなことはしたくないのが全員の意見である。

 意見の中に『体重の重い自分が座ると耐荷重が高い椅子でもしなる感じがして怖い』と言うものがあった。

 「たしかにね。耐荷重は静止荷重と言ってゆっくり重さを掛けていって全く動かないときの耐荷重だからねぇ」

 「今回使用した物もしっかりした物でしたよ。」

 「それはかれんさんが軽いからだよ」と大柄な高波が苦笑いしながら答える。

 「ファミリーキャンプでお父さんの膝の上にお子さんが飛び乗ったりしたら一気に加重は増えるしね。いきなりフレームが折れたりはしないけど、曲がって戻らないということもあり得るね。」と所沢課長

 「例えば、超々ジュラルミンとジュラルミンの二層構造のパイプをフレームにしたらかなりの曲げ強度は実現すると思うけど、原価が跳ね上がるねぇ」

 ざっと計算してフレームのの変更だけで3倍にはなりそうだ。

 利益率を維持すれば販売価格は3倍以上になると言うことだ。

 これは一旦保留として次へ

 「続いてテーブルの改良案です。」

 「これも軽量化と剛性の強化、後・・・面白いのは焚き火もできるってのがありますね。」

 ローテーブルの上で焚き火をしたいという強者がいるらしい。

 「これも素材次第だなぁ・・・」

 「熱にも加重にも強いのはやはりチタンだね。」

 「どのような構造にするかですね。」

 「別パーツでロストルを付けるか、割り切って平板にするかだな」

 「ロストルとグリルになる網を乗せるオプションパーツをセットで別売にするとか」

 「それは、マスターエルクの従来商品でも対応可能だからわざわざ作らなくても良いんじゃないですか?」

 「12インチのダッチオーブンを載せたいという意見もあるぞ」

 「何キロですか?」

 「鍋本体だけで10キロ超えますね。」

 「中身が入るとその2倍にはなりますね。」

 「耐荷重最低で30キロ位は要りますね。」

 「天板はチタン合金ハニカム構造にして、15センチ×30センチの二枚を接続して30センチ四方の大きさになるって感じはどうですか?」

 「それ、悪くないな!高く付くけど・・・。」

 会議はランチを挟んで午後3時まで続いたが、議論はつきない。

 「しかし、面白いもんですねぇ。マスターエルクでも新製品の会議はよくやるし、アイデアは直ぐに商品化する方向でやってますが、リアルでカスタマーの声が聞けるのは新鮮ですね。」

 会議終了後に会議室でコーヒーを飲みながら雑談タイムに高波が感心する。

 「次のロケまでに試作が作れたら最高なんだけどねぇ・・・」所沢課長が俺を見る。

 嫌な予感がするが何も言わずにコーヒーをすすっておいた。

 

 今日は長丁場の会議があり疲れてはいたが、麗子が一緒に夕飯を食べたいと自宅まで付いてくることに。

 「この頃祐介くんの手料理を食べてないんだもん。」

 とか言われると仕方ないと思いつつ何を作るか少し楽しんでいる自分もいる。

 自宅近くのスーパーで食材を物色する。

 朝飯用のレタスやトマト、野菜ジュースなども買い込み、肉類のコーナーでは鶏肉が安くなっていたので鶏もも肉をかごに入れた。

 胸肉の方がヘルシーなのは分かっているが、旨いのはもも肉だ。

 鶏肉に合わせて美味しい野菜はセロリなのだが、世の中にはセロリの嫌いな人が案外多い。麗子は何も言わずに食べていたが顔からして好きではなさそうだ。

 今日は鶏肉をガーリックオイルでソテーしてケチャップソースにしよう。

 スープはショートパスタのオニオンコンソメ。

 サラダはトマトのマリネにモッツアレラチーズと生バジル。

 パンかライスか麗子に聞くとパンが良いとのことで、バゲットとも悩むがバターロールを購入。

 今日はワインも開けようかな。鶏肉には白が良いが、ケチャップソースの濃さと合わせるなら赤でもいいな。ライトボディの赤にする。

 ここまで行くとウキウキしてくるな。

 俺はモノを作っていくことが好きなようだと実感する。

 自宅に戻り調理を開始。

 まずはトマトの湯むきから、と言ってもヘタの部分をフォークで刺してコンロであぶる回しながらほんの短時間で皮がはじけるので冷水に取り皮をむく。

 ざく切りにしてイタリアンドレッシングと和えてバジルとモッツアレラチーズも入れたら冷蔵庫へ。

 マリネは多少時間が欲しいので急いで準備したが後はゆっくりと、缶ビールを開けつつ麗子と話しながら調理を進める。

 麗子はココハナの進捗には興味があったようで、色々聞きたがった。

 現在進行中のキャンプグッズ開発についても感心したり思案したりと色々考えてくれた。

 女性の意見は貴重である。特にキャンプ経験のほとんどない麗子の意見は枠にとらわれない。

 「お湯なんかはいつも沸いてると便利だよね。」

 家の感覚なら電気ポットのようだが、最近は必要な分だけ沸かすタイプの電気湯沸かし器が人気なようだ。一人暮らしには特に。

 自分が前世で野営していた時を思い出すと・・・

 まずテントなどが無い。水をはじくようなゴワゴワとした毛織物などで夜露を防ぎ、馬車の荷台で寝るか地面にマントを敷いて何かに寄りかかり眠る。

 幌付きの馬車なら特等席みたいなもんである。

 調理は焚き火一択で、飯も腹を下さなければ文句を言わないのが一般的だ。

 ただ、俺はスキルのおかげでマシなモノが食えた。

 無尽蔵には生み出せないので少人数だと全員が喜ぶくらいには堅焼きパンや水、干し肉なども提供できたが、最後の魔王討伐戦などはそんな余裕は無かった。

 と思い出して、堅焼きパンを製造してみた。

 うーむ、硬い。

 よくこんなモノ食ってたなぁ。

 「麗子、こんな珍しいパンをもらったんだけど味見してみるか?」

 「なになに?」

 包丁で切った堅焼きパンは断面も白くは無い。ライ麦が主成分で水と塩のみで発酵もしていないので鬼のように硬い。

 「なにこれ?パンなの?」

 「一応はパンに分類されるね。」

 ライ麦の粉に塩を加えてを水で練って焼いただけのモノだからなぁ

 汁物に浸して食べていた記憶はある。

 イメージ的には腹を膨らせるために詰め込んでいた印象が強い。

 「面白いねぇ。パンじゃ無いみたい。」

 「スープに浸して食べたら食べなくは無いかな?」

 料理を仕上げて食卓へ運ぶ。

 「いただきます。」

 「いただきます。」

 料理はどれも悪くない出来だ。

 バターロールと堅焼きパンの差は逆に面白い。

 今、健康ブームだしライ麦の堅焼きパンは売れるかも知れない。

 いや、無理だなさすがに・・・

 「祐介くん、このサラダ美味しいね!ワインともすごく合うよ!!」

 確かにトマトにモッツアレラチーズにバジルだからピザのマルゲリータだな。白ワインにもよく合うはずだ。

 つい冷蔵庫の前に行って冷えた白ワインを合成してしまった。

 「麗子、白ワインも冷蔵庫に残っていたよ」

 「わぁ嬉しい。」

 新しいグラスをも持ってくると冷えたワインを注ぐ。

 モデルにした白ワインは俺が飲んだことのある最高級のフランスワイン、ラモネというワインだが、ワインは作られたブドウの質で味が変わる。なのでよく「当たり年」とか「〇〇年物」とか言うのだが、シンプルに言うと、雨が少ない年に収穫されたブドウを使ったワインは当たりのようだ。ブドウの味が濃いのが重要なのだとか。

 と言うことで、俺が飲んだ中でラモネが一番高いのだが、正直ワインの味は好み次第だ。評価が高いのと口に合うのは別の話だ。

 幸い、ラモネは麗子の口に合ったようだ。

 白ワインは冷やして飲むのが常識なので、アイスペールに氷を入れて冷やしておく。

 週の初めなのになんだか豪華な夕食になってしまった。

 この頃、人前で合成のスキルを簡単に使う癖が付いてしまっているのに気がついたので、自重せねばと自分に釘を刺す。

 麗子はしっかり酔いが回ったのかトロンとした目で一緒にネット動画を見ている。

 テーブルの上にはワインとデザートに用意したアイスクリームが載っている。

 空いた食器は既に洗ってある。

 麗子はお泊まりセットと称して俺の部屋に置いているバッグからラフな部屋着に着替えて、楽な姿勢でクッションを抱えてぼうっとした顔で画面を見ている。

 明日も仕事だというのに仕方が無い。

 俺は麗子が座っている後ろのソファーに腰を下ろしながら画面を見ていた。

 ちなみに赤ワイン既に空いて、白ワインは2本目に突入している。

 月曜日だというのにこれでいいのだろうか?

 俺は堅焼きパンののスライスにレーズンバターをのせて口に運んでいた。

 この食べ方だと案外美味しいかも知れない。

 今見ている映画はアニメだ。

 少し前に話題になっていた鬼と剣士が戦う話で、大ヒットしたと評判の映画だ。

 前世にも鬼のような魔王の配下がいた。こいつらも恐ろしく強かった。

 「鬼か・・・」ついつぶやいてしまった。

 「祐介くん、鬼、腹立つよね!」

 突然麗子が振り向きつつ俺に食ってかかる。

 「いや、うん、腹立つよな。」

 鬼に出くわしたときどうやって逃げるかなどと考えていたから焦ってしまった。

 俺のスキルは計測・解析・合成だ。基本的には戦闘向きでは無い。

 まぁ、現世では鬼なんて実在しないから大丈夫だろうけど。

 麗子を寝かしつけ、部屋を片付ける。

 いつの間にか白ワインは2本とも空になっていた。

 「麗子のヤツ飲み過ぎだろうが・・・」

 俺はソファのマットレスをベッドに変形する。

 時計を見ると午前1時だ。

 照明を落とし寝ることにする。

 課長の言葉が頭をよぎる。

 『長谷川、生まれ変わりとか信じるか?』

 信じるも何も・・・思わず苦笑いになる。


 翌朝は麗子が俺のクローゼットから出した出勤用のスーツに着替えている。

 俺はいつもより少し早めに起きて、シャワーを浴び、サンドイッチを作る。

 ハム入りの野菜多めのサンドイッチに野菜ジュース。堅焼きパンも残っているがコンソメスープと併せて出してみる。

 思ったよりは悪くない。ただ物珍しいからかも知れないけど。

 朝食を終え、洗い物を済ましオンタイムに二人で部屋を出る。

 

 「おはようございます。」

 就業時間の20分前にデスクに到着する。

 「うーす。なんだ、同伴出勤か?」

 また兼人がちょっかいを出してくる。

 「おはようございまーす。」

 すずめが出勤してくる。

 「あ、先輩。おはようございまーす。あれ?」

 すずめが麗子の髪の匂いを嗅いでいるように見える。

 「先輩、長谷川先輩と同じ匂いがする・・・」

 「すずめちゃん!」

 すずめがビクッと飛び上がる。

 栄美が後ろがらすすめの背中をバシッと叩いたのだ。

 「そういうことは思ってても言わないもんなの。お子ちゃまなんだから。」

 麗子がなんとも言えない顔をしている。

 照れているのか気まずいのかその両方だろう。

 「朝から元気だな。結構結構。」

 「課長、おはようございます。」

 「おはよう。ダメだぞ長谷川。シャンプーやボディソープはちゃんと分けなきゃ」

 「なんのアドバイスですか!?」


 朝から色々あったものの、麗子はすずめと外回りに出かけ、他のメンバーも営業に向かった。

 課長と俺とかれんは相変わらず商品の洗い出しをしていた。

 そして次のロケはかれんのソロキャン一泊予定だ。

 と言っても一人では間が持たないので、シャングリラから川田真穂と小野かつらのメンバー二人を急遽招集した。

 川田は21歳のギャル系で、小野は26歳の大人びた雰囲気を持つ女性だ。

 川田はキャンプの経験はないが、バーベキューなどは友達とよく行くと言うことで、「あっしに任せといてよ!」などとのたまっていた。

 小野の方は「料理は得意なのでお手伝いできます。」と大人なコメントがあった。

 急遽、二人を連れてマスターエルクの高波さんに相談。アウトドアウェアの提供を願った。昨今、マスターエルクはアパレルにも力を入れており、明るくかわいい色合いから、シックな色合いとデザインまで網羅していた。

 「高波さん、ほんと助かりますよ。」

 「俺もかれんチャンネルのファンだからね。それに新商品のリリースもあるし、力もはいるって。」

 と言うので遠慮無く二人分のテント、タープ、シュラフの提供のお願いした。

 今回は夜間の撮影もあるから、ランタンや焚き火が映えることだろう。

 使い勝手の楽なLEDランタンに雰囲気のあるオイルランタン、キャンドルランタン、大光量のガスランタンをそれぞれチョイス。

 今回はホワイトガソリンやケロシンを使ったマニアックな照明はなしにした。使い方に熟練が必要だからだ。

 ロケ当日、現地入りするとどこで調べたのか、かれんのファンらしい人が十数組キャンプ場に現れた。

 キャンプ場の管理人さんに問い合わせると、この日は撮影もあるからと念押したところ、それでもいいというので予約を取ったとのこと。

 キャンプ場は以前に紹介もしていたので見つけても不思議はないが、どうして撮影日が分かったのか不思議に思っていたら、この一週間ほどは平時にも限らず結構な予約が入っていたのだとか。そろそろ次のキャンプ動画の撮影があると考えたファンが予約していたらしい。

 しかも撮影があると管理人からの話で間違いないと、ファンの間で情報が回ったらしい。

 ウズメのスタッフと協議するとかれんから、顔出し撮影許可が取れた人全員一緒に動画にしてしまおうという驚きの提案があり、大井Dがシナリオの修正に追われていた。

 急遽かれんチャンネルオフ会の様相を呈してきたが、そこは大井Dの腕の見せ所。

 まず顔出しOKのファンを確認する。驚いたことに全員OKとのこと。

 撮影の邪魔はしないこと、食事は各自で作ること、食事の調理過程は衛生的に行うこと、SNSに投稿しても良いが、かれんの動画がアップされた後にすること。など最低限のルールを通達し、後は自由にキャンプを楽しんでもらうこととした。

 この配慮にはファンも大喜びで急ごしらえの動画出演の承諾書にサインをした。

 こういう書面は後々を考えると大事。

 撮影班も賑やかしが増えたことで、撮れ高も増えると歓迎していたが、編集班はげっそりとしていた。

 夕飯の準備をかれんが見て回りインタビューをしたり、大夕食会になってしまった焚き火タイム、かれんとの撮影会など予定にはなかったイベントが中心になり大井Dから矢のような指示が撮影班に飛ぶ。

 高波がこの日のために特注していた大型焚き火台のすかしがかれんチャンネルのタイトルロゴになっていて大きな流れ星のイラストと沢山の星のすかしが巧みにデザインされていた。炎の明かりがすかしを抜け出光るさまはとしも美しく、ファン達の絶好の撮影スポットとなっていた。

 かれんチャンネルではオフ会の企画を催したことが無い。期せずして初のオフ会開催となってしまったが、今後のキャンプ企画のロケに合わせて一般来場者が増えることが予想される。キャンプ場の管理人さん達にお願いしても秘密裏にロケを行うのは難しいだろう。

 「最初からそういう企画にしてしまえば良いじゃん。」とギャル系川田の意見が通り、次回から人数限定のファンとの交流会&キャンプ企画に変更された。

 しかもこの企画にマスターエルクの高波さんが乗っかった。

 「かれんちゃんのファンの中にはキャンプが初めての人も多いはず。なので、かれんチャンネル経由でうちのECサイトでテントやシュラフを買ってくれたお客様には特別割引を実施しましょう。」

 これはありがたい申し入れだ。今回もホームセンターで急遽購入したという人も何組か目にされた。とくに女性のファンはかれんチャンネルをきっかけにしてキャンプをしてみようと思った人も多かったのだ。

 「スゴいな。」

 「ええ、全くです。」

 所沢課長はノンアルビールを片手にかれんとファンたちとの交流を見ていた。

 俺は管理人さん特性のコーヒーを頂いていた。

 「見て見ろ長谷川。これだけ人がいて全員笑顔だぜ」

 「そりゃまあ、彼らからしたらアイドルみたいな感じですしね。」

 「それを通り越してる気がするんだよなぁ。」

 この人は何が言いたいんだ?と思いつつ、コーヒーを飲み干す。

 いやホントに旨いなこのコーヒー。

 などと考えていると大井Dがやってきた。

 「撮れ高はどうですか?」

 俺は質問してみた。

 「もちろんOKです。本チャンネルとココロノハナタバと二回に分けようかしら?」

 「一気に盛りだくさんになりましたもんねぇ」

 「一回で終わらせるのはもったいないですよね?」

 「そろそろ撮影は終わりですか?」

 「流して撮ってますけどね。クロシエの方はもう上がって頂いて良いですよ。」

 「そうですか?おい長谷川。ビールだ。」

 課長が嬉しそうに俺にビールを取りに行かせる。

 管理棟の冷蔵庫をお借りしてビールを冷やしてある。

 管理棟に入ると管理人さん夫妻が迎えてくれる。

 「どうですか?」

 「もう撮影は終わる感じですかね。あ、お預けしていたビールなんですが何本かもらっていっても?」

 「はい、管理棟はもうしばらくしたら閉めますけど、表にクーラーと保冷剤を入れておいておきますよ。」

 管理人さんは6本のパッケージを一つ冷蔵庫から出すと手渡してくれた。

 「お手数掛けます。」

 「いえいえ、平日でこれだけサイトが埋まることはないのでこちらもありがたいことです。」

 「明日以降の予約はどんな感じですか?」

 「結構入ってますよ。ただ、キャンセルも少し出てますね。うちの場合お盆時期以外の平日はキャンセル料をもらってませんから」

 まだかれんのロケ目当てのキャンパーの予約は入っているようだ。

 「じゃあ、これなんですけど」

 俺はポケットから封筒を取り出すと管理人さんに手渡した。

 「なんですか?」

 「ほら、ロケ目当てのお客さんがガッカリしないようにってかれんチャンネルから心ばかりの粗品です。」

 封筒の中身はかれんチャンネルの公式ステッカーだ。

 「受付の時にかれんの話が出たキャンパーさんに差し上げてください。」

 「私も一枚もらってもいい?」

 隣にいた奥さんが目をキラキラさせて聞いてきた。

 「もちろんですよ。」

 「気を遣わせて悪いねぇ」

 「多分来週からはそういうお客さんは減ると思います。今週末の配信で正式にロケに参加したい人の受付をしようと言う話になっているので」

 「そうなんですか?」

 「20組位を上限にしてロケをキャンプオフみたいに運営しようと思います。ただそうなると他のキャンパーさんの迷惑になっても困るので平日に予定を組むことになると思います。」

 「平日なら・・・うーん25組にしてもらえるなら貸し切りにしますよ。」

 「本当ですか?明日までには正式にご連絡させて頂きますね。」

 俺はビールを持って管理棟を後にした。


 それから後は、参加者も飲酒解禁となり、午前0時に閑散となるまで多いに盛り上がった。

 誰か一人くらいはフライングでSNSに投稿するかと思ったが、それは無かったようだ。大井Dの案で、参加者全員のSNSアカウントを聞いていたので裏アカを使わない限りチェックができるようになているというのも抑止になっていたようだ。

 ただ、翌日からは噂でかれんチャンネルがゲリラ的にオフ会を開催したという噂はSNSで小規模ながらバズっていた。

 翌日は朝から参加者全員でキャンプ場のゴミ拾いをかれん先頭で行い、全員に公式ステッカーが配られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ