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転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
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夢の入り口

 行った2回の実験で分かったことは以下の通りだ。

 今現在のかれんのスキルだけでは対象者の夢を傍観するしか出来ない。

 所沢のスキルとかれんのスキルを併せることで誰かを夢の中に送り込むことが出来る。

 その時、所沢は夢の中を見ることが出来る。

 夢は本人が意識している以外のディテールは曖昧になる。

 本人の注意が別に移ると周りのシーンもその意識に引きずられる。

 本人の中で整合性がとれていれば一般常識にはとらわれない。

 ただこれらの法則はあくまで岡田医師から検証された事柄なので正確性には欠ける。


 以上の非常に頼りないモノを頼りに俺は麗子の夢の中に入る準備をする。

 時間があればもう少し準備も出来ただろうが、こればっかりは仕方がない。

 「長谷川、俺は山本くんの夢に干渉することは出来ないが、お前の見聞きしたものを読み解き、アドバイスすることはできる。一人ではないことを常に意識しておくんだ。」

 「私もどんな助力が出来るはまだ分かりません。でも麗子さんを助けたいと心から思っています。」

 「私も楽しみにしている。」

 梶原だけが微妙にニュアンスの違う意見ではあるが、全員が協力的なのはありがたいことだ。

 あとは本番でやれることをやってみるだけだ。


 場所は移って、麗子の病室にもう一床ベッドを入れ、それには俺が横になることになった。

 俺には麗子同様に心電図や脳は計測器が装着され、ベッドとベッドの間にかれんが椅子に腰掛け、俺の手と麗子の手を握る。

 この辺りのやり方もその場での発想からの行き当たりばったりだ。

 かれんがそうした方が良いと思うことは全てやってみる。

 こういうモノはイメージが大事だ。「出来る気がする」ことは成功しても「出来ない気がする」ことはまず成功しないモノだ。

 「長谷川、一度お前の感情の封印を解く。恐ろしいイメージが襲いかかってくるだろうが、我慢して耐えるんだ。」

 「夢の中に入ってしまえば俺はお前に干渉出来なくなる。夢の中とはいえ、山本くんが悪夢を見ている可能性が高いとすれば、お前はそれと戦う可能性があり、山本くんの恐怖のイメージから恐ろしくそれは強力だろう。」

 「戦う覚悟がいる。その為には今お前に掛けている感情抑制の暗示は足かせになるかもしれない。」

 「わかりました。よろしくお願いします。」

 所沢が俺の目を覗く。

 俺の心がざわつく。

 凪いでいたような精神状態が突然の突風で波立つ様に荒れ始める。

 不安感が身体を冷やしているようだ。

 手足が冷たくなる。

 意味もなく怒りの感情が湧き出してくる。

 麗子をこんな目に遭わせた全てに対しての怒り、理不尽への怒り、この国への怒り、世界の不平等への怒り・・・

 その感情が所沢とかれんにも伝わる。

 今、この二人は俺の精神と深いところで繋がっている。

 二人の感情も俺に流れ込んでくる。かれんの悲しみと所沢の俺以上にある熱量の怒り。

 この人はこんなに大きな怒りを抱えているのかと俺は別の頭で考えてしまう。

 まだ麗子の夢の入口には到達していない。

 所沢主導のスキルで俺たち3人が意識を繋いだだけの状態だ。

 これからかれん主導のスキルで意識を麗子の夢に同調する。

 「長谷川冷静を保つ努力をしろ!俺たちもお前の感情に引きずられている!」

 耳から聞こえる言葉なのか念話なのかももう分からなくなっている。

 この怒りの感情は今は冷たく保つのだと言い聞かせ、深呼吸をする。

 3回ほど深呼吸をすると少し落ち着いた。

 深く大きく息を吐くと、その吐息が燃え上がっているようなそんなイメージが湧く。

 怒りの熱を体外に吐き出しているイメージで心を冷やしていく。

 『そろそろ大丈夫だろう。星野くん、次のステップへ進んでくれ』

 かれんの心の声は聞こえないが、何かが変わった気がした。

 何もなかった空間に何か空気のようなモノが生まれた気配がする。

 かれんの意識が空間を包み込んだのだろうか?

 遠くに光の強い箇所が見えてきた。

 岡田医師のときにも見たような

 あれが夢への入口だ。所沢も俺の目を通して見ていたのでかれんも含めて3人は2回目だ。

 岡田と麗子の夢の入口が同じに見えるのはこの空間はまだかれんの作り出した領域だからだ。あの光の向こうが、麗子の夢。麗子にとっては現実そのものだ。

 俺は意識を光の方へ向け移動する。歩くのではなく空間を滑るように進んでいく。

 この空間はイメージ力が全てを支配しているようだ。

 『入るぞ。長谷川』

 所沢の声と共に俺の意識は途切れた。



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