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転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
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ハイエナの矜持

 GTRの後藤田社長は一部の企業からハイエナと呼ばれている。

 法律には抵触しないが倫理的には微妙であるという噂が絶えない。

 俺自身はクリエイターの権利を守るという意味では悪くない、むしろ大手企業の食い物にされている一個人の権利を守っているという風に評価をしてしまう。

 俺自身がクリエイターの側に立っているからかもしれない。

 多くの個人のクリエイターはアイデアを搾取されても泣き寝入りしているという現状がある。権利主張するにしても膨大な労力と資金が必要になるから企業と戦っても勝利を得るまで体力が持たないのだ。

 自分の作品が世に出ることだけで満足してしまうクリエイターも多いが、本来そこには対価というものが発生してしかるべきなのである。

 特に日本という国は昔からそういう権利ものに対しての認識が甘いところがある。

 欧米諸国では発明家がその権利だけで莫大な富を稼いでいるのと比較するとあまりにもひどい扱いと言えるだろう。

 例えば、コンピュータのOSを開発した人物はアメリカでは億万長者になったが、それが日本で開発されたものであれば、企業の権利として開発スタッフには昇格や金一封で終わることだろう。

 それくらい日本と欧米とは個人の権利のあり方が違うのである。

 日本は全体主義という考えが蔓延している。

 GTRはそれを個人の権利として企業から奪い返す義賊のような企業なのだと後藤田は言う。

 義賊と言ってしまう辺り、企業から恨みを買っているのを自覚している。

 日本人は「判官贔屓」(ほうがんびいき)という弱い立場の人間に味方する気質がある。

 余談ではあるが、この判官とは牛若丸、源義経のことで、義経の役職が「判官」であったことに由来している。

 「弱きを助け強きを挫く」抑強扶弱(ごうきょうふじゃく)という精神が「正義」であるという考えもまた日本には根強い。

 政治家や上級国民主導の社会が未だに続き、搾取されるだけの庶民という弱者を助けるという義賊がGTRという組織なのだと後藤田は言うのである。

 もちろんその考え方は根底にあるのだろうが、やはり後藤田社長は利に聡いやり手ビジネスマン、もといビジネスパーソンだと俺は思う。

 言葉の選択が面倒な時代だ。

 彼は俺の作成したファンタジー鎧をすぐさま「実用性がある」と見抜き、新しい警備スタッフのボディアーマーとして採用したいと打診してきた。

 目の付け所が良いとおれは素直に思う。

 俺は前世で長年武器屋を運営してきた。基本的に実用性一辺倒だが、動きやすく防御力が高く値段も安いと冒険者をはじめ、多くの人が俺の武具を愛用してくれていた。

 その観点から現代の素材で作り上げた鎧である。もちろん実用性にデザイン性を兼ね備えた逸品と自負がある。

 フルプレート仕様だと警備スタッフにはオーバースペックだが、ライトアーマー程度に仕上げれば下手な防弾チョッキよりも良い仕上がりになるだろう。

 俺は防弾チョッキ、ボディアーマーのスペックを素材から製造工程まで全てを調べた。

 弾丸の貫通を防ぐだけではなく衝撃を吸収し拡散するためのクッションになる素材や刃物を通さない防刃効果の高い素材など調べれば調べるほど色々参考になるものは多い。

 興味が先に立ち、調子に乗っている内に、ついつい試作品を作ってしまった。

 ついでに防弾の効果の試験までしてしまった。

 こういう衝動は抑えることが出来ない性分なのだ。

 マスケット銃程度ではなんともなかったが、やはり小口径のライフル弾を止めてなんぼだろう。

 その試験のために、俺は5.7mmの弾丸を発射できるライフルを作った。

 結構簡単に銃自体の設計図は手に入るものである。

 ベースはレミントン社のM700をベースに口径を変更した。

 自分で言うのもおこがましいが出来が良く、銃身をカービン銃サイズに変更しても命中精度は落ちなかった。

 作ってしまったから気がついたが、これって結構な犯罪なのでは?

 まぁ後で分解してしまえばいいか。

 最近は創造のスキルと分解のスキルを併用できるようにスキルの熟練度を上げていたので、構成が分かっているものは苦労せずに分解できる。特に自分が作ったものは労せずして消すことが出来た。

 それで、ボディアーマーの方だが、まずまず納得の出来るものが仕上がった。

 身体へのフィット感と重量の軽減を主眼に置いたが、それでいて防弾防刃の効果はボディアーマーレベル4クラスを作ることが出来た。

 この設計・デザインを後藤田社長に渡すとして、量産するときにコスト面は問題となることは明らかである。そこまで俺が心配する必要は無いだろうが。


 試作品が出来てしまったので、所沢室長に見せることにした。

 俺はRIMOWAのスーツケースのそっくりさんを作り、ボディアーマーを会社に持ち込んだ。

 やはり収納状態も格好良くしたいのが俺のこだわりだ。


 所沢室長は話を聞くなり、村長(伏見)を呼び、俺には試作品を持って会議室に来るように言った。


 「では新作のお披露目と行こうじゃないか。」

 そう言いつつ俺に目で合図する。

 俺はスーツケースを開き、中に収納されたボディアーマーをテーブルに取り出した。

 表面はチタンの薄いプレートの積層構造になっている。間にケブラー繊維を挟み、薄いながらも防弾効果が高い。色はマットブラックに仕上げた。

 基本コンセプトは当世具足(日本甲冑)をファンタジーに仕上げたらというものである。

 当然胸当てだけではなく手甲から脛当まで一式入っている。

 ちなみに、以前コスプレイベントで造ったものは、銃弾に対しての防御は考えていなかった。前世では銃器などは無かったからである。

 村長の目がキラリと光った気がする。

 「長谷川さん、これは例の幻の造形師の作品ですね?」

 何だよその幻の造形師って?

 「なんでもモデラー界隈ではそう呼ばれているらしいぞ。」

 所沢が面白そうに言う。

 「そう言えば、長谷川さんはオリジナルでフィギュアとかも造るんですって?」

 「え?」俺は虚を突かれた。

 「どうして?」

 「小鳥遊さんが自慢してましたよ。スゴいフィギュアを長谷川先輩から貰ったって」

 あ、あのかれんの衣装のデザイン案の時に見本に造ったヤツのことだ・・・

 「ああ、アレは・・・3Dプリンタを持っている友達がいて、それを使わせて貰ってね。」

 「小鳥遊さんから写真を見せて貰いました。スゴい仕上がりでしたよ。まるで金属で造られたような・・・」

 「それは、ただの写真写り方がそう見えただけじゃないかな?」

 「伏見、もうそれくらいにしてくれ。それでこのアーマーの出来をお前はどう見る?」

 「良く出来てますね。思ったより軽いし、何よりかっこいいです。でも僕より大熊くんに見て貰った方が良いんじゃないですか?彼の方がこういうの得意ですし。」

 その後、大熊も呼んでデザインについての意見を聞き取り、とりあえず後藤田社長へ提案することになった。


 「星野くん、後藤田社長のことどう思ってる?」

 「どうしてそんなことを?」

 いつもの梶原医院長の部屋での話である。

 「なんか後藤田社長の前ではいつもの君らしくない気がしたので。」

 「長谷川さんも所沢室長のまねごとですか?」

 「そう言い方は好きじゃないな。」

 所沢は黙って口を出さない。

 「同族嫌悪かね?」

 「梶原先生。私もそういうのは好きじゃないです。」

 「失敬」

 梶原は口をつぐむが、かれんはまだ何か言いそうになったのを思いとどまったようだ。

 「長谷川、どうしてそう思うんだ?」

 所沢が俺に質問をする。

 「そうですね。いつもの星野くんのような優しさというか、そういうものが欠けている気がしたので」

 「星野くんは長谷川の意見に対してなにかあるかな?」

 「正直に言うとあまり好きなタイプではありませんね。自分のしていることは正義だとでも言うような感じと・・・後はお金や人脈の使い方に躊躇ないところとか・・・梶原先生が言うように同族嫌悪なのかもしれませんが・・・」

 「確かに傲慢不遜な感じはするけどやってることは悪いことではないと思う。」

 実際に権利が守られたクリエイターもいるし、ウズメの新事業である警備部門のシステムも今のところほぼ無償で進めてもらっている。

 かれんが感じているものの正体を俺はなんとなくわかる気がする。

 後藤田の軸は振れない。ひどく独善的で後藤田の意にそぐわない事は悪と断じそうな気配がある。

 「なるほど、君たちの考えは解った。後藤田氏は一歩間違えれば独裁者になる素養を持っているというのが二人の見解というところだね?」

 俺とかれんは顔を見合わせる。

 考えは似たようなものなのだろう。

 「そうですね。要約するとそんな感じになります。」

 「自分もそれに近い感じです。」

 「梶原先生はどうかな?」

 全員の視線が梶原医院長に集まる。

 「私としては特に意見はないね。彼が独裁者たらんとしても何らかの勢力がそれを許すまい。そうだろう、所沢くん?」

 所沢の読心術はどうも梶原には効きにくいらしい。

 所沢の読心術は考えている事を読み取る能力なので、考えていないことは読めないのである。

 所沢は苦笑いしながら

 「梶原先生、それは後藤田氏か独裁者たらんとした時には、私が止めるという意味でしょうか?」

 「そうだとも言えるね。ただ、後藤田の進む道が所沢くんと同じであればそうはならないかもしれない。」

 「・・・星野くん、ウズメのシステム管理の人材で今回のVRシステムやセキュリティシステムに強いエンジニアはいるかい?」

 「当たってみたら1人くらいはいるかしら?うちは映像系に強い人間が多いからなんとも言えませんけど」

 「GTRのシステムの解析はうちでも進めておくべきだと判断する。もし今後、このシステムが国の基幹部門のシステムに採用され、最初からシステムに侵入できるバックドアが付いていたら情報が筒抜けになる。」

 俺はふと思った。もしそのバックドアをわざと見逃してこちらが使えるように仕込んでおけば所沢が後藤田の代わりに独裁者になれるんじゃないのか?

 「いい考えだ。長谷川」

 所沢はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。


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