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転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
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状況分析

 まずは状況の整理から始めようという所沢の意見に従い、現在分かっている状況を共有する。

 協力関係にある星野かれんには現状を伝える必要がある。今後のことも考えると必要不可欠だ。

 俺の不安定な精神状態がいつ安定するかは正直俺自身も断言できない。そこで、梶原がちょっとヤバめの処方を組んでくれた薬の服用と所沢の催眠術(?)で急場はしのぐこととした。

 かれんには悪いが梶原総合病院まで来てもらい医院長室で話すことにした。

 かれんには麗子の外傷の状況を話すのみで終わらせるつもりでいたのだが、本人がどうしても一目会いたいというので仕方なく意識のない麗子に会って貰うことにした。

 やはり精神的ダメージは大きかったのか、かれんはその場で泣き崩れてしまった。

 そのまま医院長室に連れて行ったのだが、そこで回復したかれんは感情を爆発させてきた。

 同じ女性としての思いもあるのだろう。あれだけ身体をボロボロにされるまで陵辱を受けたという憤りは俺と同等の怒りの熱量だった。

 一族郎党皆殺しにしてやるとまで言ったときの星野かれんは前世の記憶がよみがえったのかと思ったほどだ。

 「それでは作戦会議といこうじゃないか。現状分かっていることをまず列挙しようと思う。」

 所沢は切り出した。

 クロシエ、ヨツバに対しての榊組の関与は鈴木社長殺人未遂一点についてのみであること。

 その依頼者はユニオンと自称していた。

 ユニオンとの連絡係は毒島で、監禁していた鈴木社長が自力で脱出しそうになり、刺したという実に間の抜けた展開だったようだ。

 麗子が襲われた経緯はユニオンと毒島の話を聞かれたと思った毒島主導で行われ、たださらうつもりが、ユニオン担当者が手足を切り落とし自分の能力を毒島に誇示したかったからだという。

 榊組組長の榊真一には元々変態趣味があり肢体欠損などに強く惹かれる性的指向があり、拷問などもそれに含まれていた。

 美しい麗子の四肢のない姿をさらに痛めつけることで性的興奮を覚えていたという話だ。

 ユニオンに関しては毒島は闇で殺人などを請け負う犯罪組織として認識していたようで、特殊な能力を持つ人間が数人はいたと供述している。

 今回のヨツバの山路氏、内藤氏、の殺害についてはユニオン主導で動いていたこともあり毒島自身は情報を持っていない。

 鈴木社長の監禁場所や使われた凶器などは榊組の管理下にあったようなので、その情報は既に所沢が警察内部の「知り合い」を通じて流しているので警察の捜査に進展が出るはずであるとのこと。

 犯罪組織ユニオンについては今のところまともな情報はないという。


 「やはり能力者の犯罪組織があったということですね。」

 「ああ、俺も予想はしていたが、ここまで俺たちに近い場所にいたとはな。ともあれ、まずは場当たり的にはなるが、現状対応できる事柄から進めていきたい。」

 「そうですね・・・」

 俺はやはりモヤモヤしている。麗子をこんな目に遭わせた奴らの情報が少なすぎる。

 両手足を切り落としたヤツは俺の手で必ず始末してやらねば・・・

 「まぁ待て、長谷川。まずは山本君の身体を治してやろうじゃないか。」

 所沢は梶原に向かって言う。

 「山本君の手足についてはもうダメになっているんだな?」

 「ああ、それは残念ながら今から接合しても回復は見込めない。」

 「じゃあ、同じものを作れば、接合は可能だな?」

 「それは可能だろう。大手術にはなるが」

 「長谷川、今のお前の能力で神経から血管から筋繊維から全ての断面を正確に新しい断面に合わせて創造することは可能じゃないか?」

 俺は考える。断面と断面がピタリと一致していれば、後は固定さえしてしまえば組織は動き出すはずである。鈴木社長の時は破損箇所を修復しながら創造したが、俺の脳裏には切り落とされた手脚の情報が全てインプットされていた。

 あの日、麗子のベッドで手脚をみた瞬間俺はそのデータを読み取ったからだ。

 「手脚については可能です。ただ、眼球や内臓については正確なデータが今はありません。」

 「長谷川君、拒絶反応について考えているのだろう?」

 梶原が意見を挟む。

 「はい、他人の眼球をコピーした場合その遺伝子情報もコピーされますからどうしても拒絶反応、免疫の問題が出てきそうです。」

 「眼球やその周辺の組織を山本さんの身体の一部から・・・例えば幹細胞などから情報を読み取り上書きするようにコピーを作れないものか?」

 眼球をコピーするのではなく、一から構築するようなイメージか・・・

 「可能どうかはやってみないと分かりませんが・・・」

 「それと長谷川、俺は気になっていたことがあるんだが・・・」

 所沢が言う。

 「お前、確か前世で武器や鎧の修繕を請け負っていたんだよな?」

 「そうですよ。それが?」

 「修理するに当たって刃こぼれしている箇所はまぁ言えば不要な金属と言うわけだよな?」

 「そうですね。」

 「新品同様にするにはその部分は不要になるならそこはどうなってるんだ?」

 そのことについては深く考えたことはなかった。イメージで新品の剣に仕上げるということで出来上がってしまっていたからだ。

 「俺が言いたいのは、お前は作り出すことはできても消去することはできないと言っていたが、それはお前の思い込みじゃないのか?常に創造と消去を同時に使っているからそれが一つの能力と思って使っているだけで、本質は違うのじゃないか?」

 なんだか目からウロコの考え方だ。

 そう言えば前にプログラマーの友達から聞いたことがある。

 『お前、朝起きたらまず何をする?』

 『顔を洗って、歯を磨くかな?』

 『違うだろ?朝起きたらまずすることは「目を開ける」だ。』

 そういう視点でものを考えれば俺たちの能力はもしかしたらものすごい多様性があるのかも知れない。所沢の言っていた「枝葉」の部分に繋がる。

 所沢がニヤリと笑う。そして梶原のデスクに向かうとそこから高そうな万年筆を一本取り上げた。

 「借りるぞ?」

 そう言うなり万年筆をへし折った。

 「おいっ!」梶原は慌てる。

 「長谷川、修理できるよな?」

 「ええ、貸してもらえますか?」

 俺は二つ折りになった万年筆を解析する。そして修理するイメージで集中する。

 「ちょっと待て!」

 いきなり所沢に止められて中断する。

 「貸してくれ」と俺に手を出す。

 俺は修理中の万年筆を所沢に手渡した。

 「うむ、破損して曲がってしまっている箇所や変形している箇所がなくなっているな。」

 俺も万年筆を見てみると確かに正常な箇所以外がきれいに消え去っている。

 「これがお前の能力の本質だよ。」

 所沢は万年筆をゴミ箱に投げ入れた。

 「おいっ!それは高かったんだぞ!」

 俺は早速、先ほど手に持っていた万年筆をイメージして創造する。

 「はい、梶原さん。細かい傷とかも修復しておきましたから勘弁してください。」

 「はは、スゴいな。正に物理法則を無視した能力だ!」

 新品になった万年筆を細部まで見ながら梶原は言った。


 「続きだが、今回は毒島ともう一人・・・どうやらユニオンの関係者の写真を全国にばらまいたわけだが、これで星野君もターゲットになっている可能性が高い。苦肉の策だったとしても申し訳なく思っている。」

 「その点については気になさらないでください。私自身、そのユニオンという組織は壊滅させなければと強く思っています。逆に私に接触してくる人物を洗い出せば組織に近づくチャンスも生まれるかも知れません。」

 気丈なかれんはそう言った。

 「かれんチャンネルの件もあるし、早めにその組織をなんとかしてしまおう。」

 「所沢さん、相手にも能力者がいるのを警戒した方が良いと思います。」

 「もちろんだ。今判明しているのは今回の実行犯である切断する男、ヨツバの事件に関与していた溺死させる男・・・コイツは男かどうかはまだ不明だな。」

 「確実に言えることはこの組織は1年以上は活動していると言うことだ。しかし真の目的が今のところ不明なのが気になる。」

 クロシエとヨツバに関連するとなるとやはり医療関係か美容関係・・・医薬品の取り扱いの線の方が濃い気はする。

 俺が考えていると梶原が言った。

 「確か、ヨツバは今、製造メーカーとして登録をしている最中だったんじゃないか?」

 化粧品や医薬品の製造メーカーに登録する基準は決して低くない。

 設備を整え、人材を確保し国に申請を出して許可が要る。

 「所沢さんは聞いてましたか?」

 「いや、俺も初耳だ。それを梶原が知ってるとなると」

 「私は以前に山路社長から相談を受けたことがあってね。薬剤師の免許を持ってる人材はいないかって。」

 医薬品の製造販売業を行うにはそういう資格もいるんだった。

 今回の一件に関係あるのかは不明な情報だが一度、現社長の時任氏に確認することにしよう。

 「気になる事があるのですが・・・」かれんが小さく手を上げる。

 「ネット配信で情報を集めたとき、毒島の情報は多数集まりましたが、ユニオンの人物の情報はありませんでしたよね。それっておかしくないです?」

 「確かに不自然だ。毒島に比べ写りは悪かったようにも感じるが、比較してそこまで差があるようには感じないな。なのに一件も情報が無いのは・・・」

 所沢も考え込む。

 「認識阻害系の能力とかあるんでしょうか?」

 「うーん・・・俺の能力の使い方でそこにいる者を意識させないようにする事は可能かもしれない。だが、不特定多数にそれを仕掛けるのは不可能だ。」

 常に誰からも意識されなくなるスキルというのは隠密行動にはもってこいの能力だが、そんなに都合良いものはあるんだろうか?

 「いや、長谷川。考えても見ろ。俺たちの能力の発現は前世で使っていた『使える』能力が引き継がれている。製造業のお前は思い描く物を作り出すことが出来る。政治家のような生業の俺は人の心が読める。星野くんの魅了もそういう物なんだろう?」

 「えぇ、ちょっと言いづらいのですが・・・前世はこちらで言う所のサキュバスだったみたいです。」かれんがもじもじしながら告白した。

 『え!』男3人は図らずも声を揃えてしまった。

 「いや・・なんというか・・・すまん。」

 所沢も虚を突かれたようで思わず謝っていた。

 「室長、謝られると余計に・・・」もじもじと身をよじるかれんからは間違いなく魅了のスキルが漏れ出ている。

 「星野さん、ちょっとここでそれは止めて頂きたい。」梶原が一番冷静のようだ。

 チャームパーソンというスキルなのだろう。俺のいた前世でもそういう魔法を使う者もいたし、魔族の中にもそう言う種族は確認されていた。

 ただ、俺がいた世界と所沢のいた世界では構造が違うようなので、同じ世界線に前世があるとは限らないだろうはことは予測できた。

 話は逸れてしまっていたが、結局ユニオンの男の正体は不明で、相手の出方に対応するしか無いと言うこと、かれんは安全のため当面はウズメ本社ビルの社長室で生活すること、麗子の治療をまず優先して行うことで意見は一致し作戦会議は終了した。


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