本気を出すとき
「カレン!本気!?」
大井Dは第8会議室に飛び込んでくると同時に声を荒げた。
「そう。今回は遊びじゃ無いから。」
「・・・」
大井Dはじっとカレンを見つめていたがフッと力を抜いて言った。
「それで、どうしようっていうの?」
カレンと室長がゲリラライブの趣旨を説明する。もちろん、目的は伏せてある。
「で、この協力者の不明瞭な写真をヒントに日本中から情報を集めて狐狩りみたいなことをするって言う話ね?」
「そう言うこと。あくまで情報提供がメインで、対象者を確保したりしちゃダメなの。」
「その辺りの趣旨もちゃんと伝えないと、捕まえて一緒に写真撮ったりしたりする人が出てきそうね。」
俺はこの包囲網の危険の一つを認識した。
犯人に誰かが接触してそこから逆算されるとカレン身元にたどり着く。
それは危険じゃ無いのか?
いや、そもそもそれが狙いか?
「長谷川、難しく考えることは無い。エサに食いつくもよし、追い込まれて所在が明かされるもよし、と言うことだ。」
ライブ用のスタジオに移動する。
今回、突然のイベントとなるのでスタッフは大井Dとカメラマンだけという体制だ。
「本番行きます!5、4、3、・、・。」
大井Dのキューでカレンが画面に映し出される。
「皆さん、こんにちは!星野カレンです。今日はね。特別企画でゲリラライブをしちゃいますよ。お、早速視聴者が出始めました。15人、35人・・・わぁ、どんどん増えてます。みんなありがとう!さて、今回のゲリラライブはカレンからのプレゼント企画です。」
ここで、例の写真がアップになる。
「この写真に写ってる人の情報をダイレクトメッセージで送ってね。一番早く正解にたどり着いた人には豪華賞品を用意してますよ。」
配信はまたカレンのアップに戻る。
現在の視聴人数は・・・3000人を越えたところだ。
「今回はコメント欄がないよね。そう、みんな公平にする為にあえてコメント欄無くしてます。スーパーチャットも今回はご遠慮致します。」
「早速DMが届いてきてますね!ありがとう。」
「はい、もう一回画像出してください。」
「この画像の人物、よく見て。2人写ってるように見えますよね?」
「どちらの人でもかまいません。1.見かけた場所、2.見かけた日にちと時刻。この二つを必須で答えてね。他に情報があれば加算対象にするわね。」
「答えはDMでこっそり教えてね。」
「画像は正解が出るまで概要欄に貼っておきますからよく見てね。」
「さて、5000人を越えたね!みんなありがとう。」
「ではお待ちかね。豪華景品の内容の発表です。」
カレンの画面に戻ってドラムロールの音がSEで入る。
「はい、景品はこちら!星野カレンとの一日デート券!」
「カレンとお友達になって、一日一緒に遊んだり、勉強したり、悩み事の相談を聞いたり、ご飯食べたり、なんかを楽しめるチケットです!でも大人な関係はNGよ。」
「男の子も、女の子も、お兄さんも、お姉さんも、おじ様も、おば様も、絶対に楽しい一日をカレンがコーディネートしちゃいますよ。」
「もちろん、その日はカメラ無しで取材無し。プライベートを共有しちゃいましょう。」
「ああ、これは何人か死んだな・・・」
所沢がモニターで見ながらつぶやいた。
「大丈夫なんですか?こんな企画。」
「まぁ、俺とお前が見張ってりゃ大丈夫だろう。精神的な防衛は俺に任せろ。物理的なのは長谷川に任せるから。」
相手が能力者だったらどんなスキルがあるか分からないのに・・・
「そうだ。油断はするなよ。」
俺はカレンの配信の方に注意を向ける。
「ではもう一度最後に注意事項。この画像の人物を見つけたり、思い出したりしたらDMで連絡してね。一人3通までOKにします。そして絶対に相手に話しかけたりしちゃダメですよ。ゲームが成り立たなくなっちゃいますからね。結果発表はDMでお知らせしますからお楽しみに。」
「じゃあ、そろそろゲリラライブは終了しますよ?みんなDM待ってるよ!」
配信はエンディングに入る。今回は例の写真が大写しになって配信が終了する。
概要欄には画像のリンクが張られている。
すぐにアーカイブ化された生配信はより拡散していく。
「8000人くらいはリアルタイムで見てたわね。多分、Xでもバズると思うわよ。」
と大井D。
さあ、これでこの写真の意味が分かるはずだ。
ライブ中からも届いていたDMがどんどん増えていく。これは少人数で対応していたのではらちが明かない。
「星野くん、他の連中はどうしてる?」
「全員、野点キャンプイベントの準備に入っています。」
所沢の問いにカレンが答える。
そりゃそうだろう。野点キャンプは2日後に控えているんだから。
「長谷川、キャンプイベントの方は大熊に一任して他の連中はDMの仕分けに入るよう連絡入れろ。」
「了解しました。」
すぐに内線で連絡を取る。
兼人、栄美、伏見、すずめ、大熊が会議室にやってくる。
「祐介、休みじゃ無かったのか?」
開口一番兼人が声を上げるが、室長も休みの予定なのに気がついて状況を察する。
「なんか、訳ありなんですね?」
最近成長著しい伏見が皆の声を代弁する。
「そう言うことだ。大熊、お前はイベントの仕切りを任せると伝えているはずだが?」
「室長殿、問題ないのであります。全て滞りなく状況は進行中なのであります。」
敬礼しそうな勢いでベアード大佐が答える。
「わかった、それじゃこちらを頼む。」
届くDMは未だに増え続けている。
「数が数なのでざっと目を通して、まずは場所をクロシエ本社より近隣の地域に絞り込む。」
「続いて、時刻を2日前の20時以降で絞ってくれ。」
カレン宛に届いたDMをウズメのスタッフが各PCに振り分けていく。
現在時刻は14時オンエアから約30分、DMは1000件を越えている。
とにかく時間との勝負なのだが、見落としを避けるため2人が同じデータを読んでいく。
引っかかるDMは別ホルダーへどんどん放り込んでいく。
更に30分経過した頃には一時の勢いが減り始めた。
DMの総数は約2200件
地域でのフィルタリングの結果340件が候補に残った。
それを一つひとつ俺と室長が確認していく。
怪しそうなものを更に絞って120件
地域と時系列で見て、かなり有力なのが38件
地図上に表示していく。
そして見かけた人物は情報提供者全員「向かって右の男」としていた。
これは信憑性が上がったのではないか?
午後3時30分
「大体の絞り込みは出来た。ご苦労さま。星野くんはイベントの準備もあるだろうからそちらに戻ってくれ。後は俺と長谷川で対応する。」
「ちょっと所沢さん!それは無いっすよ!」
兼人が異議を申し立てる。
「これ、麗子、山本さんの件と何か関係があるんでしょ?俺らも手伝わさせてくださいよ!」
「・・・いやダメだ。長谷川に任せてやってくれんか?」
この言い方はいささかずるい気がしたが、俺は兼人の肩に手を置いて言った。
「任せておけ。」
「祐介くん、麗子を頼んだよ。分かってるわね。何があったかは聞かないけど」
栄美が少し青ざめた顔で俺を睨む。
「俺は出来る男だ。」
一旦DMの内容チェックは止めて、有力な情報を室長と精査する。
「地域が限定されているな。」
「もう一人の方の情報が全く無いのも気にはなりますね。」
大井Dに頼んでまだ届き続けているDMのチェックと「右の男」に絞った情報を回してもらう。
時系列を過去のものと比較すると行動範囲がミナミの繁華街に絞られてくる。
「あの辺りの筋モンの可能性があるな。」
室長がどこかへ電話をする。
「あ、どうも所沢です。その節はどうも。ちょっと面通しして欲しい人物画像があるんですが、ええ、写メ撮って送りますよ。じゃ追って連絡しますね。」
所沢は今回の人物画像をスマホで撮影するとメールでどこかへ送った。
「何か分かりそうですか?」
「まぁ、しばらくしてから連絡してみよう。」
そう言いながら目撃情報と地図をにらめっこしている。
一昨日に絞るとクロシエ本社の近くでの目撃が多そうだ。過去に遡るとミナミの方面へ集中している。
所沢のスマホが鳴る。
「はい、所沢です。早かったですね。はい、なるほど毒島と言うんですね?はい。指定暴力団の榊組ですね?事務所の場所ははい分かります。助かりました。また今度一杯、ええ、じゃあどうも。」
「長谷川、素性が分かった。榊組の構成員で名前は毒島徹というらしい。」
「ぶすじま・・・」
「たしかに悪人っぽい名前だよな。全国の毒島さんには悪いけど・・・」
「いえ、あ、そうですね。」
俺は苦笑いするしか無い。心を読まれてるんだから偽ってもバレることだ。
それよりこの毒島なる人物が写っている写真を麗子が撮ったことの意味である。
何か理由があるのは間違いない。
「ほぼ間違いないのは、今回のヨツバ、クロシエに絡んでいる事件の関係者だろう。」
確かに所沢のいう事が正しい。
問題はどういう関わり方をしているか、なぜ麗子がそれを知ったか、そして一番重要なのはこの毒島が麗子をさらった人物なのかどうかだ。
「逆になるが、まずは毒島を捕まえよう。それから一言俺が聞けば全ての情報が洗いざらいになるだろう。」
俺たちはまず榊組の事務所に向かうことにした。
榊組はミナミの繁華街からほど近いが水商売の店や風俗店などが建ち並ぶ場所からは少し外れた場所に事務所がある。
とにかく時間が惜しいので、少し強引な手を使うことにする。
事務所を監視していると程なく一人の男が事務所から出てきた。
組の構成員なのは一目瞭然なチンピラに見える。所沢が目で合図する。
俺は音も無く男の背後に忍び寄ると後から男の口元を右手で押さえた。
と同時に右掌にテニスボール状の物体を創造する。
ボールは男の口腔を埋める形で出現する。
男は一言も声が出せないまま目をむいている。次の瞬間激しく暴れ始めるので両腕と両足を創造した極太ザイルで固定して男の襟首を引っ張り物陰に引きずり込んだ。
そこには所沢が待機していた。
俺は男を引きずっている間に目隠しのアイマスクを男の両目の上に作りだした。
「よお、聞きたいことがある。毒島は今事務所にいるか?イエスなら頷け、ノーなら首を振れいいな?」
そんなことをしなくても質問した瞬間、所沢には答えが読み取れているはずだが、一応の偽装工作なのだろうと理解しておく。
男は激しく頷いた。
「数日の間に女が事務所に連れ込まれたか?」
男は激しく首を振る。
「人間が入るくらいのサイズの荷物は運び込まれていたか?」
男は少し考えた様子を見せたが首を振る。
所沢はおもむろに男の顔を固定すると鼻をつまんだ。
男が激しく抵抗するので俺は体重をかけて男を地面に押しつけた。
しばらくすると男はぐったりとした。どうやら気を失ったようだ。
「長谷川、ブルーシートをこの男に被してくれ。」
俺は言われるとおり男の身体にブルーシートを創造して被せた。
俺も所沢も両手にラテックス製の薄いグローブをはめているので何処にも指紋やDNAを残していない。
「長谷川、靴もだ。同じ素材でカバーを作ってくれ。靴底は・・・そうだな。このひっくり返ってる男の靴と同じ模様にしよう。」
所沢が軽く右足をあげてみせるので、その靴にカバーをするように靴カバーを作る。俺の分も両足の上に創造する。
「長谷川」
所沢が俺の目をのぞき込む
「よし行こう。」
何の緊張も無く所沢が組事務所に向かって歩いて行く。
監視カメラの画角に入る直前で俺の創造のレンジ内にカメラが入った。瞬間カメラのレンズ表面にコールタールを創造する。これでカメラの目潰し完了。
インターホンを押す。
監視カメラが3方向から俺たちをフォーカスしているが何も写ってはいない。
『はい。どちらさんで?』
所沢は顔に笑顔を貼り付けたまま言った。
「毒島さんはそちらにいらっしゃいますか?」
『そういうヤツはここにはいませんねぇ。』
「そうですか?ところで、この玄関のロックの暗証番号ですが、あなたはご存じですよね?」
『はぁ?何言ってやがんだ!』
やれやれ、我慢の足りないヤツだ。
所沢は躊躇無く玄関のロックを解除した。
『おい!何やってんだ!なんだ?画面が黒いぞ!?』
所沢と俺はそのまま事務所に入り込む。
一階が事務所で二階、三階が生活スペースのようだ。
まずは一階を制圧する。
玄関すぐの部屋はモニターがある
インターホンで話していたらしい男が椅子から立ち上がり飛びかかろうとしている。
まずこの男を無力化する。
両脚をザイルで巻き付けて固定してやる。
男は突然の事になすすべ無く受け身も取れない状態で床に前倒しになる。
腕も拘束する。
怒声を発するが瞬間的に口にテニスボールが生み出され声が出なくなる。
俺もだんだんコツをつかんできた。
ミリ単位で丁度良い位置にモノが作れるようになってきている。
更に奥に続くドアを開けると4人の質の悪そうな男達が一斉に振り向いた。
「あ、いた。」
所沢が緊張感の無い声で毒島の発見を告げる。
俺は一歩踏み出し全員がレンジに入ったことを確認して一気にザイルで拘束する。
『ぐわっ!?』『なんじゃ?』
口々に驚愕とも怒声ともつかぬ声を発しながら倒れていく。
毒島だけ首、両腕、腰、両足を拘束し、頭から布袋をかけた状態で拘束した。
所沢は倒れた男達をスタンガンで次々に気絶させていく。
毒島さえ意識があればそれでいい。
「上の階に何人いる?」
所沢が毒島に声をかけるが答えは返ってこない。
「二階に3人だ。行け。」
俺は音を立てないように奥手の階段を昇る。
一階での物音は二階に伝わっているはずなので下りてこないと言うことは待ち伏せしている可能性が高い。
俺は半身が隠せる程度のポリカーボネート製の盾を作り更にアラミド繊維で織られた全身を覆うポンチョを着込んで二階リビングに侵入した。
「おらっ!」
怒声と共に一人の男が日本刀を振り下ろしてくる。
腰の入っていないただ振り下ろしただけの刃の一撃は俺の左手に持った盾で軽く軌道を逸らされ、勢いで床に叩き付けられる。
がら空きになった男の腹部に俺は右手の拳に鉄甲をまとわせつつ渾身の力で打ち込んだ。
男は目を見開き手から日本刀を取り落とすと糸の切れた操り人形の様に膝から崩れ落ちる。
それの胸ぐらを俺は右手で押さえ肉の盾としてさらに奥へ進入する。
パンッ、パンッと2回爆竹のような破裂音がしたと思うと俺の持っている肉の盾がビクリ、ビクリと痙攣する。
どうやら拳銃か何かを発砲したらしい。
衝撃と痛みで覚醒したらしい肉の盾は口元から血の泡を吹いている。
俺はその血を浴びないように音がした方へ肉の盾を突き飛ばす。
後ろ向きに蹈鞴を踏むようにして肉の盾が奥にいる男2人に背中から倒れ込む。
男達は瀕死の肉の盾だった男をよけて後に下がり黒いピストルを俺に向ける。
俺はその銃口の中に鉄の塊を創造した。
そして間髪入れずピストルは暴発した。
ピストルは派手に壊れたが、撃った男に致命傷は無く鉄くずを床に落とすと腰から短刀を引き抜いた。
もう一人の男は三階へと逃れようとしていた。
俺は左手にも鉄甲を生成し左半身を前に半身に構え、相手から見えない位置で短めの棍棒を創造し右手に握りこんだ。
全身ポンチョに覆われている俺の動向は相手からすればどう動くか察知するのが難しいらしく動きに戸惑いが見られる。
俺はその男の頭上、天上ギリギリの場所に重さ10キロの鉄の塊を創造し落とした。
その鉄の塊は男の頂頭部に命中し体勢を崩されるのには十分な威力があった。
それでも男は短刀を離さずにいたことは立派だと思いつつ、俺は後ろ手から渾身の力で振った棍棒を男の左側頭部にたたき込んだ。
暴力行為の場数では男の方が経験が豊富で熟練していたであろうが、不意打ちが功を奏したおかげで俺は男をたたき伏せることが出来た。
運が良ければ半身不随程度で助かることだろう。もう暴力の世界では生きてはいけないだろうが。
俺はもう三階へ逃げた男を追って階段へ向かう。
階段にはもう男の姿は無い。
階段下から上階の様子をうかがうが、物音がしない。
慎重に階段を昇る。
三階に何人いるのか?
まだ銃を持っているヤツがいるかもしれない。
アラミド製のポンチョは防刃にはなっても防弾にはならない。
そうそうさっきみたいに暴発させることが出来るとは限らない。
見えない場所から撃たれたらどうしようもない。
防弾まで考えて鎧のようなものを纏うのも動きが鈍る。
それを考えれば防弾チョッキというものはよく出来ていると言わざるを得ない。
そんな事を考えつつ、じりじりと階段を昇る。
正面にポリカーボネート製の透明な盾を構えつつ右手に鏡付の自撮り棒のようなモノを作り死角の様子を見る。
動くものがないので姿勢を低くして三階フロアに進入する。
ビルの三階と思えないが和風な作りになっている。
板張りの廊下に大きな座敷、その奥は襖で仕切られている。
人の気配はあるのだが、座敷に人影は無い。
どうやら襖の奥の部屋にいるらしい。
ここで時間を置くのは好ましくない。相手に落ち着きと迎撃の準備を与えてしまう。
俺は一応の警戒をしつつ座敷を突っ切り襖に手をかけた。
『まて!』
頭の中に所沢の声が響いた。
俺は瞬間的に身を反らした。
襖を突き破り日本刀の切先が俺の左目すぐ横に飛び出してくる。
俺は右に倒れ込みながら盾を捨て左手に先端の尖った鉄棒を生み出し、刀が生えている襖に突き刺した。
「くっ!」
腕だけで突き刺した刺突攻撃は手応えは軽かったが相手を怯ませる事はできたようだ。
相手が襖から身を引いたのを気配で感じ、襖を蹴破り奥の部屋に侵入する。
その部屋は十畳ほどの広さだろうか。
真ん中に布団が敷かれその上に何かが横たえられている。
俺は一瞬で理解した。
麗子だ。
俺の視界が真っ赤に染まった。
俺は髪の毛がポンチョのフードの中で逆立っていくのを感じていた。
男は二人居た。
二人いるということは一人は死んでも問題ない。
もう一人も脳さえ無事なら所沢の能力で情報は取り出せるだろう。
俺はポンチョを脱ぎ捨て、手早くあのコスプレの時に作った鎧を全身に、纏わせた。色は漆黒。俺の精神状態を反映したか禍々しい意匠となった。
右手には長槍を作り出す。
対峙している男二人は目を見開いていたが一瞬で我に返り一人が麗子の胸に日本刀の切先を押し当て震える声で言った。
「う、動くな!」
もう一人は短刀を手にじりじりと俺との間合いを詰めてきていた。
馬鹿め、なんのための槍だと思ってるんだ。
間合いがそもそも違うのだよ。
俺は無造作に右手を振るうと短刀男の喉元に槍の先端が突き刺さっていた。
いくらクラフトワーカーの俺でも冒険者として戦に参加した身だ。
体の作りは確かにヒョロくなったが、筋肉の使い方は忘れていない。
次の一振りで絶命した男から槍を引き抜き麗子に刀を押し当てている男の眼の前に槍の切先を突きつける。
「ひっ!」
男は日本刀を取り落とし、その切っ先が麗子の全裸の胸を傷つけた。
だが麗子は全く反応していない。
その事実は俺を現実に引き戻しそうになる。
『殺すな!』
所沢の声が響く。
俺は尻もちを着いた男の喉元を狙った一撃を寸前で下方へ修正し男の股間へと深々と突き刺した。
「ぎぁぁっ!」
何かがブツリとちぎれる感触と共に大袈裟な悲鳴が轟いた。
槍はそのまま畳に突き刺さり男を縫い付けていた。
俺はゆっくりと布団の上に転がされた全裸の麗子を見やり、一歩一歩と近づいた。
そばに跪き名前を呼ぶ
「れいこ・・」
麗子は切断された両手脚の傷には止血と思われる包帯と紐が巻かれており
顔も目には目隠しのように包帯が巻かれていたが両目のあった箇所は出血で赤く染まっていた。
酷く拷問のような仕打ち、凌辱が繰り返された事は嫌でもすぐに理解できた。
「なぜだ・・」
俺は手甲を外して麗子の首の脈をみる。
生きている。
涙が溢れた。
まだ麗子は生きている。
「長谷川!」
所沢の声が聞こえる。
これは肉声だな。
頭に響かないから
俺は甲冑を外して小さくなってしまった麗子を抱きかかえた。
「こんなに軽くなっちゃって」
階段の方へ俺は歩を進める。座敷で所沢と合流した。
「長谷川、山本くん・・・」
所沢も流石に動揺しているのだろう。
所沢は頭を一振りすると言った。
「長谷川、俺の目を見ろ!」
俺と麗子は所沢に抱きかかえられるように座敷に倒れ込んでそのまま俺は意識を失った。




