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転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
19/48

春が終わる

 その日は前日の晴天と打って変わり朝から強い雨が降っていた。

 俺は早出のシフトなので、まだ混んでいる電車で出勤することになった。濡れた傘が更に鬱陶しい。

 麗子は遅出なので朝のミーティングには顔を出さない。

 俺は室長に挨拶をしてハーブティーを入れようとティーバッグのストックしている棚に向かうと思ったよりストックが少なく、後一つしか残っていない。

 「しまったなぁ」

 「どうしたのでありますか?」

 ベアード大佐こと大熊が声を掛けてくる。

 「うん、ティーバッグの残りが無くてね。」

 「副室殿、良ければ抹茶などいかがでしょうか?」

 大熊は今度販売するマスターエルクの木製の茶碗に手際よくお薄を立ててくれた。

 「ありがとう。」

 俺は茶碗を受け取りミーティングの席についた。

 今日のミーティングの題材は数日後に控えたキャンプイベントの確認であった。

 と言っても基本的にオンタイムで動いているので今更変更点は無く、確認程度で終わりネットトレンドの話やキャンプブームがいつまで続くかなどの話題にシフトしていった。

 もうしばらくすると麗子や兼人も出勤してくるだろう。

 俺は自席に戻り抹茶も悪くないななどと呑気に考えていた。

 ティーバッグが切れてきていることを麗子に伝えておこうとLINEで短文を打つ。

 「オフィスのティーバッグ、後一個でなくなるよ。」

 それからしばらくして兼人が出勤してきた。

 「うぃーす。麗子ちゃんは?」

 兼人が栄美と合流して俺の所にやってきた。ミーティング第2部の直前であった。

 「まだ来てないか?おかしいな。」

 俺は化粧品関係の資料を見ていたモニターから顔を上げて時間を確認する。

 「おかしいわね。麗子が遅刻するなんて。」

 確かに、几帳面な麗子にしてはまだ出勤していないのはおかしい。

 「おーい、長谷川」

 室長が会議スペースから俺を呼ぶ

 「はい。」

 俺は室長のところへ早足で向かった。

 何か悪いことが起こっているような漠然とした不安がじわりと胃の辺りからせり上がってくる。

 「山本くんはどうした?」

 室長は俺の目を見てから尋ねた。

 俺が何か言おうとしたが

 軽く手を上げて発言を制する。

 「昨夜別れてきり連絡なしか。分かった。」

 「おい、全員集まってくれ!」

 室長はおもむろに出勤している全員を招集した。

 「先日来・・・というか去年からクロシエの周りが妙なことになっているのは知っているだろう?ヨツバの件も知っての通りもうすぐ我々の関連企業になると考えると、特定の企業で殺人及び殺人未遂が合わせて3件起こっていることになる。」

 「この事実は偶然で済ますにはあまりに高確率だ。そこで不安を煽るつもりは無いが、各員身辺については充分気をつけてくれ。遅出のミーティングは本日は無しとする。以上だ。」

 「長谷川、少し残ってくれ。」

 メンバーが自席に戻る傍ら、俺はいつものように室長に呼ばれ、喫煙室へ向かった。

 「どうしたんですか?」

 「妙な胸騒ぎが治まらない。お前、今から山本麗子を探しに行け。」

 「え?」

 「もう出勤時間が過ぎているが彼女が来ていない。電話にも出ない。これは今までにない事だ。さっきも言ったが、何者かにクロシエは狙われている。」

 「でもどうして麗子が狙われると?」

 「それはわからんし、何事も無ければそれでいい。とにかくすぐに動け」

 「わかりました。」

 俺は急いでスマホと財布だけを手にオフィスを出た。


 所沢室長に言われた言葉が妙に頭の中でリフレインする。

 クロシエは狙われている。

 なぜだ?

 最寄りの駅に着く、計ったように所沢から電話が入った。

 「はい、今駅に着きました。すぐ電車も来そうです。」

 『わかった。山本くんの部屋の前まで来たら、俺の携帯へ必ず電話を入れてくれ。わかったな?』

 「了解しました。」

 俺は電車乗った。

 麗子の自宅最寄りの駅に着く。会社を出てから30分ほどだ。

 徒歩で10分ほどのマンションが麗子の自宅だが俺は数度しか来たことが無かった。

 ただ、合鍵はもらっていたので入ることは出来る。

 傘を差しながら歩く住宅地には公園があり、桜が植わっていたが、今朝からの雨で大量の花を落としてしまっていた。

 昨日は満開だっただろうに・・・

 気持ちに焦りを感じていると、見るモノ全てが何か不吉な意味があるのではと考えてしまう。そんなはずは無い。たまたま寝坊しているだけ、たまたまスマホを忘れて出勤した途中で怪我人を助けて病院まで送っているとか・・・

 どうにも思考が鈍ってしまっている。

 マンション前まで到着したので所沢のスマホへ電話を入れる。

 『着いたか?』

 「はい、いまエントランス前まで来ています。」

 『合鍵は持っているな?ではこの通話は切らないでポケットにでも入れておけ。スピーカーにしておけよ。』

 「了解です。」

 所沢の意図は女性の自宅に侵入するのに一人で入るのは後々問題になることを考えての措置だろう。通話は録音しているはずだ。

 俺は合鍵を使いオートロックを解錠する。

 そのまま麗子の自宅がある3階までエレベーターで上る。

 エレベーターを出たらすぐに麗子の部屋のドアが見える。

 大丈夫。寝ているだけだ。

 言い聞かせても膝に力が入りづらい。

 大げさだ。なんでも無い。寝坊を起こしに来ただけだ。

 鍵を持つ右手にも力が入っていない。

 所沢室長のせいだ。俺を脅かすからビビってしまってる。

 「入ります。」

 俺は胸ポケットに入れた通を状態になっているスマホに声を掛ける。

 『わかった。』

 スピーカーから所沢の声が聞こえる。

 まずはドアノブを回して引いてみるがドアには鍵が掛かっている。

 俺は合鍵を差し込み解錠する。

 やけに大きく音が響く。

 俺はドアを開けて麗子の部屋に侵入した。

 人の気配はしない。

 焦る気持ちを抑え、寝室の方へ歩を進める。

 リビングの横にある扉に手を掛ける。

 深呼吸を一つして、ゆっくりと扉を開く。

 人影は無い。

 『どうだ?山本はいたか?』

 ポケットから所沢の声が聞こえる。

 「いえ、麗子はいないようです。」

 俺はベッドへ歩み寄る。

 もちろん麗子の姿は無いが違和感を感じたのだ。

 ベッドには薄い桜色の掛け布団が掛かっている。

 俺は布団をめくってみる。

 俺はベッドの上に並べられているモノを見た。

 一瞬理解が追いつかない。

 麗子のベッドの上に・・・

 『どうした?!長谷川!おい!』

 遠くで所沢の声が聞こえる。

 なんで室長がしゃべってるんだ?

 俺は今何をしてるんだっけ?

 ああそうだ、麗子を探さないと・・・

 いや麗子はココにいるじゃないか。

 俺はベッドのそれから目を離せないでいた。

 それは切断された2本の腕と2本の脚であった。

 俺は直感的にその脚と腕は麗子のモノだと知った。

 そして俺の脳はショートした。


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