前世の記憶と日常と非日常
「よお、セドリック。やってるか?」
俺が店で商品の在庫を確認しているとガタイのいいおっさんが開け放しの扉から入ってきた。
「おう、バートン。今日はなんだ。修理か?」
俺はカウンターの内側へ移動する。
「今度、遠征があるだろ?」
そう言いながら愛用の盾と剣をカウンターにゴトリと置く。
相変わらず傷だらけで刃こぼれも酷い。
「その前に直しておこうと思ってな。」
俺は剣を手に取って軽く振ってみる。ガタつきがある。
盾も軽く拳で叩いて音を聞くとくぐもった音がする。
「よくこんな状態で使ってるなぁ?」
「へへへ、まぁな。ついギリギリまで使っちまうんだよな。ここんとこ実入りが良くなくてな。」
そう言えばバートンのチームは魔物討伐で親玉を逃がして懸賞金があらかた入ってこなかったと噂で聞いていた。
「作り直すか?」
一応聞いてみる。
「いいや。使える程度に直してくれたらそれでいい。金がなくてよ。」
「世知辛い話だなぁ」
俺は剣に手を触れながらイメージする。傷だらけの刀身が見る間に輝きを取り戻し、刃こぼれ一つない状態に戻っていく。
盾も同様にリペアする。
「お、ありがとうよ。」
バートンは剣を握って上下に振ってみる。
「新品同様だ。これでまた稼げる。」
「なぁ、今度の遠征なんだが、支度金が出ただろ?」
「ああ、雀の涙だけどな。」
「鎧の方はいいのか?」
「そうだなぁ・・・いいやコレで。遠征前にちょっと遊ぶのにも金が要るからな。」
そうニヤリと笑う。
笑うと愛嬌があると言えばあるのだが、なんだかワニが笑っているようにも見える。
「どうせ女だろ?」
「分かってんじゃねぇか大将。」
と親指を立ててみせる。
「まったく飽きないねぇ。」
「お前さんは硬いんだよ。命張るのに酒と女以外に何があるってんだ?」
「所帯を持つとか、子供を作るとかだな。」
「独身貴族のセドリックさんには言われたくないね。さて行くわ。幾らだ?」
「1ゴールドと言いたいが8シルバーに負けておいてやるよ。」
「いつも悪いな。」
ジャラリと革袋から銀貨を取り出し、無造作にカウンターへ置く。
バートンが扉から鼻歌交じりに出て行くとアラームの音が聞こえてきた。
徐々に大きくなる。
俺は目を覚ました。
「夢か・・・最終遠征前にバートンが店に来たときの記憶だな・・・」
俺はベッドから起きだし、シャワーへ向かう。
リビングには段ボール箱が山積みになっている。
昨夜遅くまで製造スキルを使いまくったせいで前世の記憶が夢で呼び覚まされていたのだろうか。
熱めをシャワーを浴びながら交感神経を高めていく。
意識が活性化してくる。
冷蔵庫からトマト、レタス、ハム、マヨネーズ、野菜ジュースを取り出し、食パンをトースターに放り込む。
トーストが焼き上がるまでの間に髪を乾かす。
ネットニュースを斜め読みしながら朝食を喰らう。
麗子が泊まりに来た翌朝はさすがにこうはいかないので、前世の記憶が活性化している今朝などは特に充実感がある。
知的生命体にとって食は栄養補給であり娯楽でありエンターテインメントなのだと思う。
ネットニュースにふと目がとまる。
市内の公園で男性の遺体が発見されたという事故のニュースだった。
俺の生活圏内だ。
少し注意をして読んでみる。
記事によると、会社役員のAさん62歳が自宅近くの公園で意識不明の状態で発見される。日課のウォーキングから戻らないAさんを息子夫妻が発見した。
Aさんは既に心肺停止の状態で病院に搬送され死亡の確認がされたようだ。
警察は事故と事件の両方で捜査を始めているとのことだった。
ヨツバの山路前社長の事件がフラッシュバックしてくる。
「まさかな。」
俺は食器を片付け、身だしなみを整え、オンタイムで自宅を出た。
「おはようございます。」
出勤するとルート営業に向かっている社員は全員出払っていた。
今日の俺は遅めの出勤シフトだからだ。
「長谷川、また無理したんじゃないのか?」
課長が席から声を掛けてくる。
「マスターエルクへの納品分、昨日のうちに片付けました。」
課長は半分苦笑いをしながら
「頑張ってくれるのは良いのだけどな。あんまり納品が早すぎるのも要らぬ誤解を生むことになるぞ。それでなくても高波氏は株式会社プロトをエラくお気に入りだからな。」
「自宅に段ボールで保管してますが、今後、こういう事態が起こると色々問題が起きるかも知れませんね」
「と言うかな。元々プロトは試作品を提供する専門の会社だろうが。それが生産工場みたいになっている現状に問題があると俺は思うんだがな。」
確かにそうだ。俺自身、製造スキルで金儲けは考えてはいなかったのだが、最近はスキルを使っているのが自然になりつつある。
言い訳かも知れないが、俺以外にも異能の力を持つ人間がいることを知り、すこし安心したせいかもしれない。
「ただ、やはり気をつけろよ。長谷川の能力は悪用するととんでもないことができるからな。」
「肝に銘じておきます。」
「資材は一旦クロシエの資材庫にでも移動させよう。山本に知られるのも困るだろう?」
「助かります。」
今日はまたココハナの定例会議なのだが課長から先に俺に伝えておきたいことがあると言い出した。
「第一営業なんだがな。事業内容をココハナ専門部署にすることが決定した。」
「ルート営業は?」
「一部人員を残して、クロシエ販売株式会社の方へ業務を移譲する。」
確かに本社管轄以外の地域はほぼ全域販売会社に業務を任せている。
「先代からのこだわりで本社が直接販売していた代理店もあるんだが、販売会社に任せてしまう方が効率的という指摘は以前から有ったんだ。」
なるほど、それはその通りだ。
「それで一部残すというのは?」
「ココハナはまだまだ未知数の可能性があると首脳陣も考えている。もちろん俺もそう思っている。ただ、個人の適性というものもある。」
「確かにそれはそうですが」
残った人材に不満が出るのではないかと俺はとっさに考えた。
「長谷川の懸念はもっともだ。その点も考えて上には上申してある。人事異動については4月付けになるが、近く内示が出るだろう。」
俺はデスクに戻り通常業務を行う。まずは営業を引き継いだレポートに目を通す。
伏見がなかなかの健闘を見せている。頑張れ村長と心の中で激励しておく。
ココハナの進捗状況の確認だ。
今月末にクラファンのアウター全てが納品される予定だ。納期に問題があれば高波さんより連絡が来るはずだがその件に関して連絡は来ていないのでオンタイムで進んでいるはずだ。「はず」というのは想定外のことが起こったときに一番の原因になることを思い出し、一応確認の連絡を入れておく。
「お世話になっております。クロシエの長谷川です。高波様はお手すきでいらっしゃいますか?」
しばらくして、電話が高波さんに繋がれる。
「はい、高波です。」
「長谷川です。お世話になっております。」
「はいお世話になっています。長谷川くん、どうかしたかい?」
「一応なのですが、クラファンのアウターの納期について問題ないですか?」
「ちょっと待ってくださいよ。えーと、問題なく期日通りの発送予定になっていますよ。」
「了解いたしました。引き続きよろしくお願いします。」
昼からウズメの事務所で先月、1月の振り返りと2月予定、3月の企画を検討する。
1月のキャンプオフ会での焚き火台の販売については比較的スムーズに進んだが、引換券とシリアル番号の照らし合わせでもたついた感があったのでその点の改善案が検討された。
トラブルも少なく、ちょっとした小競り合いはウズメのスタッフとクロシエの男性スタッフで解決できる範囲であった。
常連に近いファン層も出てきているので、特別感のある仕掛けを検討する。
3月のオフ会では、チェアの販売が行われるのでその資材の運び込みなどちょっとした大荷物になるのでシリアル番号順に箱詰めして前日にはキャンプ場に納品しておく。
3回以上オフ会に参加しているファンに対して、ファシリテーターとして軽いお手伝いを依頼する。目的は労働力の確保ではなく準スタッフ的な立ち位置にすることでモチベーションのアップと全体の規範になるようルール・マナーの向上を目指してもらう。
目玉になっている大夕食会以後は飲酒量が増えるため、スタッフ間の連絡を向上させる目的でインカムを導入する。
ネットニュースの取材が入るのでかれんのスケジュールの確認を都度行うこと。
ちなみに紙媒体の雑誌、週刊誌、TVの取材は一切お断りしている。
例外はマスターエルク絡みからのアウトドア雑誌の記事くらいだ。
タイアップしている以上、ガン無視はできない。
3月の企画についてはひな祭り企画が上がっている。女性参加者全員でおひな様のコスプレをしようというトンデモ企画である。
言い出したのは小鳥遊すずめである。
なぜ彼女がココハナの企画にいるかというと、課長に直談判して準メンバーに加わったためである。
麗子から聞いていたが、また騒がしいのが構成メンバーに入ったものだ。
一蹴されるかと思ったが、案外かれんが乗り気で、全体でのコスプレはハードルが高いため、希望者のみコスプレしましょうという企画に変更された。
会議は午後5時に終了した。今回も長かった。
「お疲れ様」課長と一緒に会議室を出る。
脳が糖分を欲している。とりあえず自販機のコーナーで甘めの缶コーヒーを買う。
と、そこへすずめが現れた。
「長谷川先輩!かれんちゃんのコス衣装、作ってくれますよね?」
満面の笑みですずめに迫られたが、課長を見やるとそっぽを向いている。
俺は心の中で
『課長!なんとかしてくださいよ!』と念じてみる。
課長はチラリとこちらを見たが親指を立ててまた知らん顔を決め込んだ。
結局作ることになってしまった。
デザインはすずめが描き起こすと言うことで、後日メールで送るということなった。
「そう言えば、小鳥遊、お前ストーカーに狙われてるとかないよな?」
何の気なしに聞いたが、すずめの表情が一変した。
「先輩、どこから、それを?」
俺は少し考え込む。
そこへ課長が
「小鳥遊くん、思い当たることがあるなら聞いてあげるから言ってみなさい。」
と話に入ってきた。
「課長・・・1月のコスプレイベントの後から、なんだか後を付いてくる人がいるような気がして。でも誰かわかんなくて、いつもじゃないんですけど・・・」
「麗子は知っているのか?」
「山本先輩には言ってません。心配掛けても悪いし・・・。」
「誰か思い当たる人物はいるか?」
「多分ですけど、コスプレ関係の人だと思う・・・思います。」
語尾を気にしてる場合ではないのでそのまま尋ねる。
「やっぱり俺の渡した衣装を着た後くらいからストーカーが出始めた感じか?」
「クリスマスイベントの日は居なかったと思う。スタッフさん達と飲みに出て、遅くなったからってみんながタクシー代を出してくれて家に帰りました。」
「次のイベントは正月のだな?」
「はい、初詣でコス始めってイベントで」
酷いネーミングだな・・・
「その日はやっぱりタクシーで帰ったんですけど、自宅マンションに着いたら、直ぐ後ろにタクシーが止まって、ちょっと気になってたんですけど一旦コンビニに寄ってから帰宅しました。」
マンションの前でタクシーを降りてコンビニに行って戻ってきたということだろう。
「人影もなかったし、急いで部屋へ戻りました。」
「最近になって気がついたことは?」
「会社帰りとか駅から付いてくるような気がしてて、道を変えたりしてるんですけど・・・」
俺は課長へ断ってから麗子へ電話を入れる。
「あ、長谷川です。今日空いてる?うん、小鳥遊を部屋に泊めてやって欲しいんだけど。大丈夫?助かるよ。じゃあ後で」
麗子は何も聞かずにOKしてくれた。
「課長。」
「ああ、俺も大丈夫だ。」
「あの、どういう?」
「山本先輩が今日は部屋に泊めてくれるって言ってるから、そうしてもらえ。俺と課長で小鳥遊の最寄り駅からマンションまでを見てみる。」
「大丈夫なんですか?そんなことお願いして」
「任せておきなさい。」
課長がうなずく。
俺たちは一旦本社へ戻ることにした。
デスクに戻り、帰り支度をした麗子とすずめを見送った。
「さて課長、どうしますか?」
「まぁまずは小鳥遊の最寄り駅まで移動だな。」
「何か用意しますか?」
「懐中電灯くらいで良いだろう。」
と、課長が取り出したのは先端にストライクベセルの付いたタクティカルライトだった。
「課長、過剰防衛になりませんか?」
「これで殴るなんて言ってないじゃないか。」
言ってはいないが・・・
俺たちは小鳥遊すすめ自宅の最寄り駅へ到着した。
住宅地で駅前は閑散としている。スーパーやコンビニも見当たらない。
ここで降車する乗客は近隣に住居を構えていると考えるべきだろう。
改札口は東西に一つずつ、小鳥遊宅方面は東出口だ。駅の出口前には自販機2台と公衆電話のボックスが設置されていた。今時珍しい。
さらに向こうに月極駐輪場がある。
西口の方はバス停があるため、多少は賑やかなのだろう。
「なんだか寂しい駅ですね。」
「まぁ、郊外という感じだが、新卒生が一人暮らしするには丁度良いところだろう。」
俺と課長は自販機でコーヒーを買い求め、その場で飲み始めた。
課長が近くの心の声を拾っているというところだろう。
課長がコーヒーを飲み干し、ゴミ箱に空き缶を捨てた。と同時に俺に耳打ちする。
「近くにいるぞ。」
俺はさすがに緊張した。缶コーヒーを握る右手に力が入る。
「なあ、山田、この辺に煙草吸える場所知らないか?」
課長が言い出す。即興で寸劇をするつもりらしい。
「どこかにありましたっけ?」
俺は空になったコーヒーの缶を右手に持ちつつ、駐輪場の方へ歩を進める。
課長が数歩遅れて俺を追尾するように動き出す。
その右手にはライトが握りしめられているのを確認した。
もうすぐ駐輪場というところで課長の歩が早くなり俺を自然な形で追い越す。
「山田、あっちにあるかもしれんぞ」
言うなり、振り返りつつライトを点灯させた。
「うっ!」
駐輪場の柱の陰に潜んでいた男が強烈な光に照らし出され顔を背ける。
「行け!」
課長が俺に命令を飛ばす。
俺は一瞬で男の背後に回り込み、登山用のザイルを合成する。同時に男をぐるっと巻き付け縛り上げる。
「な、何しやがるっ!」
男は抵抗しながら騒ぐが更にザイルで巻き取り抵抗できなくする。
「手慣れてるなぁ」
ライトを当てつつ課長が近づき感心するような声を上げる。
「俺をを犬みたいにけしかけたくせに」
二人で男を両脇から捕まえてその場の柱を背に座らせる。
更にザイルを出して柱ごと男を拘束する。
男は完全に身動きできなくなった。
「さて、色々教えてもらおうかな。まずは名前だ。」
課長がそう言うと男の目をのぞき込む。ライトは光量を落としているが、まだ顔に照射され続けている。これでは男からこちらの顔は認識ではないはずだ。
「山田、尻のポケットに財布がある。まず確認だ。」
俺は無言で柱の後ろから手を回し男の右の尻ポケットとから財布を取り出す。
その前に両手にはラテックス製の手袋をはめておくことも忘れない。
「どれどれ、お名前は井上雅彦さんね。年は42歳。自宅は・・・ちょっとここからは遠いね。こんなところまで何しに来たのかな?あぁ、女の子のストーキングだったねぇ。良い趣味をしている。」
「そんなことはしていない!何のまねだ!警察を呼ぶぞ!」
「ほう、警察を呼んでも困らないと?」
「そんなことできるもんならしてみやがれ!」
「ホントにいいのかな?」
「・・・」
「まぁいい。私はあなたが今後一切のストーキング行為を誰に対しても行わないというのであれば、身に覚えのある様々な軽犯罪法違反には目をつぶってあげてもいい。と思っている。」
「!」
「どうするかね?」
「何を証拠にそんなでっち上げを言ってるんだ!馬鹿馬鹿しい!」
「そうかな?例えば・・・先週の金曜日、午後3時頃かな?あなたはとあるマンションのベランダにいましたね?」
「!」
「お仕事をサボって何をしていたんでしょうか?あの部屋は確か一人暮らしの女性の部屋だったのでは?」
「な、なぜ・・・」
「どうしますか?警察・・・呼んでみます?」
横で課長が男をじわりじわりと追い詰めていくのが分かる。これはヤバい。
「コスプレ好きなのは責めたりはしませんが、節度って物があるでしょう?」
「・・・」
「あのコスプレイベント会社への出入りもやめて頂きたい。」
「どうして・・・」
「迷惑している人がいるのですよ。へんなイタズラ電話とかにね。」
やっぱりコイツだったのか。
「井上雅彦さん、約束して頂けますね?でないと、後ろの男があなたの首を引き抜きそうな顔で睨んでますよ?」
いや、俺はそんな顔をしていない。
「わ、分かった。もうしない。約束する。コスプレイベントにも参加しない。前田とも縁を切る。これで良いんだな!」
「それで結構。次にストーカー事件が耳に入ったりしたら、今あなたの後ろにいる猟犬のような男が迎えに行くとそう覚えておいてください。」
「わ、わかった。」
「井上さん、今から猟犬が縄を解くから」
そう言って、財布を井上の膝の上に放り投げる。
「あなたは、まっすぐ前の道を50mほど後ろを見ずに走ってください。その間に私たちは消えるとします。もし振り向いたら・・・いいですね?」
井上はこくこくと頭を縦に振った。
「山田くん、縄を解いてやりなさい。」
俺はザイルを2本とも外した。
井上はのそのそと財布を手に取りライトの逆光で顔の見えない課長の横を通り過ぎ走り出した。
「行くぞ」
短く言うと課長は反対方向へ駆け出す。俺も後を追う。
自販機の明かりを避け駅舎の影まで来ると俺は言った。
「課長、猟犬はないでしょう?猟犬は」
「ははは、悪い悪い、あの男、犬が苦手みたいだったんでね。」
「で、さっきの軽犯罪って何なんですか?」
「下着泥棒だよ。どうも衣類に偏執的な執着があるようだね。」
「それでコスプレ衣装を?」
「まぁ、変態紳士の考えることはよくわからん。それより、一杯行くか?」
「お供します。」
俺は麗子に電話をして、すずめにはストーカーは現れないと伝えた。
「しかし、長谷川、ロープなんてよく持っていたな?」
「もちろん、さっきとっさに作り出したんですよ。」
俺は鞄にしまったザイルを取り出してみせる。
「うーん、よくできてる。しかもあの短時間で製造できるのか・・・」
「消せないので捨てるのには苦労しますけどね。」
「貰って良いか?」
「はい?」
「このロープ、要らないなら貰って良いか?」
「良いですけど何に使うんです?」
「成分とか縒り方とかちょっと調べたくなって・・・」
俺はため息をつく。
「なんでですか?これは高波さんの店で売ってるザイルをそのままコピーした物ですよ。」
「なんだ。なんかすごい秘密があるのかと思ったんだが。」
それでも課長はザイルを自分の鞄にしまい込んだ。




