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転生してサラリーマンになった  作者: リッチー
10/48

不審な電話と俺の装備

 しばらくの間はSNSを中心に超新星のコスプレイヤーとか騒がれていたが、年が明ける頃には落ち着きを取り戻していた。

 正月は麗子と初詣に行って、帰りに兼人や栄美と合流して飲み会になり、翌日は二日酔いでダウンしていたりとあっという間に過ぎていった。

 いくらソーマでも限界があるというのも確認できた。

 すずめからは正月イベントで例の白魔道士をやって大好評だったとメールが来ていた。

 そう言えば装備が帰ってこないな。と思いつつ、リビングに出したこたつでのんびり迎え酒をしていたら、スマホに着信があった。通知不能と表示されている。公衆電話か?

 「はい、長谷川ですが」

 『・・・あんた、ハセガワっていうんだな?』

 くぐもったような聞き取りにくい音声だ。しかも言ってることがおかしい。

 「どちら様ですか?」

 怪しいのでスマホのレコーダーをオンにする。

 『調子に乗るなよ・・・』

 「なんの話をしている?」

 返事はなく無言のまま電話は切れた。

 レコーダーの録音を一度確認してからスマホを置くと、俺は杯に日本酒を注いで口に運んだ。今日の酒は純米大吟醸だ。香り高くフルーティな味わい。さすがに高いだけのことはある。

 と言いつつ、一本あれば俺にはいくらでもコピーできる。それを販売したら犯罪だが自分で楽しむ分には問題ないだろう。

 それはさておき

 「なんの電話だったんだ?」

 知らない男に電話番号が割れているのは気持ちのいい話ではない。

 相手は俺の名前さえ知らなかったようだし、一体どこから?

 不審な電話は出勤したら課長にでも相談するか。

 「どうしたの?」

 こたつに入って寝ていた麗子が起き出してくる。

 「なんでもない。」

 麗子にはミカンを一つ手渡しておく。

 「こたつにミカン」は「片手剣には盾」と言うくらいのつきものである。

 そろそろ酒のあてが欲しくなる。小腹も空いた。

 「麗子、なに食べたい?」

 ぼーっとしながらミカンをむいていた麗子は

 「今はとりあえずミカンかな?」と答えた。


 「明けましておめでとうございます。」

 俺は新年の挨拶と併せて課長に相談事があることを伝える。

 「わかった。昼に飯食いながら話を聞こう。」

 「おごりですか?」

 「なんで相談を聞く私が奢らないといけないのかね?」

 と言うことで、課長と俺は昼に会社近くの個室付き居酒屋でランチをしていた。

 「で、なんなんだ?」

 「妙な電話が掛かってきました。悪戯とは思うのですが」

 俺は録音した音声を課長に聞かせる。

 課長が再度再生する。

 「苛立ち、悔しさ、憎しみなどの負の感情が含まれているな。」

 「そんなことも分かるんですか?」

 「心の声は聞こえないが、録音された声には残留思念的なものが小さく聞こえる。」

 思い当たるとすると直近ならばやはりあのコスプレイベントか?

 「相手は俺の名前を知らなかったことをを考えると番号だけをどういう経路で手に入れたかが気になるところですね。」

 「長谷川の番号を知っている人間はどのくらいいる?」

 俺は考える。大学時代の友達が数名、営業第一のメンバー、ウズメの主要メンバー、マスターエルクの高波さん、キャンプ場の管理人さん、コスプレイベントの主催者・・・

 「それだな。」

 課長が言う。考えを読まれていたようだ。

 「そいつに電話をしてみろ」

 「ここでですか?」

 俺は言いながらイベント主催者の前田という男にスピーカーで電話をする。

 もちろん録音も開始。

 『はいもしもし。』

 「長谷川と申しますが、前田さんの携帯でしょうか?」

 『はいそうですが、どちらの長谷川さんでしたっけ?』

 「クリスマスイベントの時にコスプレ衣装をお貸しした長谷川です。」

 『ああ、ピーちゃんの友達の。お世話になります。あの衣装、ホントにスゴいですね。どこのオーダーメイドですか?もう本物としか言いようのない造りで、ホビー雑誌の編集者に見せたら度肝を抜かれてましたよ。』

 「え?専門家に見せたんですか?」

 『ダメでしたか?制作者は誰かと聞かれましたが、長谷川さん丁度良かった。教えてもらったりできませんか?』

 話がなんかちがう方向へ向かっているが

 課長を見るとすこし呆れているようだ。

 「ちょっと、それは、ご勘弁頂きたいんですよ。」

 『制作者の名前だけでもダメですか?』

 「名前だけでしたら」

 『いやー助かります。で作家さんのお名前は?』

 「セドリックという通り名ですが、普段はそういう衣装などは手がけていないようです。」

 『制作などを依頼したりはできるんでしょうか?』

 「それは分かりかねます。何分気まぐれな人という話なので」

 『長谷川さんは直接知っているわけでは?』

 「知り合いからの紹介でして」

 『制作費はどのくらいかは教えて頂けないですか?』

 「それはちょっと言えないですが、基本的には時価ということらしいです。」

 『そうですか。あ、それで何かご用がおありだったんですよね?』

 「あ、ええまぁ」

 と俺は課長を見ると顔を横に振ってみせる。

 「いえ、その衣装なんですが、いつ頃返却頂けますか?」

 『え?それは・・・しばらく貸して頂けないですかね?』

 「それはどうしてでしょう?」

 『例のホビー雑誌の企画でモデルさんに着てもらって撮影したいと・・・、あ、もちろん謝礼は出させてもらいますよ。』

 「それについては少しお時間ちょうだいできますか?全国誌に載ると不都合が出るかも知れませんので制作者の確認が必要になります。」

 『わかりました。ご連絡お待ちしています。』

 俺は電話を切った。

 「なんか、違う意味で変なことになってますね。」

 「そのようだな。今の男はウソはついていないようだが、どうもそれ以外に隠していることがあるようだな。コスチューム、どうせ自分で作って物なんだろう?」

 「ちょっとムキになってしまって。」

 「それとセドリックってなんなんだ?」

 「前世の俺の名前ですよ」

 「名前まで覚えてるんだな。それは驚きだ。」

 「課長は覚えてないんですか?」

 「前にも言ったが記憶自体靄(カスミ)が掛かっているように不鮮明なんだ。それは置いておいて、さっきの電話で分かったことは、多分だが、前田氏経由で長谷川の電話番号が漏れているな。」

 「どうしてです?」

 「コスチュームを長谷川に無断で雑誌記者に貸し出しているだろ?それに後ろめたさがにじみ出ている声音をしていた。」

 「じゃあその関係者のだれかが不審電話の犯人だと?」

 「可能性は高いというか、それくらいしかないだろう?」

 「意図はなんなんでしょうね?」

 「それは本人と喋ってみないと分からないなぁ」

 「とくに何もなければただの悪戯でも問題のないレベルだとは思う。前田氏の声には少なくともさっきの録音のような負の感情はなかったからな。」

 不審者のルートはほぼ絞れたが、理由が分からない。

 『調子に乗るな』の発言から考えられるのは

 SNSに投稿されバズった写真について

 装備品のクオリティーの高さについて

 小鳥遊すずめ、もしくは麗子に対しての嫉妬

 この辺りが分かりやすい理由になるだろう。

 俺の名前を知らないことについてはイベント関係者ほとんどの人間が知らないので絞り込む要因にはならない。

 わざわざ本人に連絡してくることと、足のつかない(と本人は思っている)公衆電話で掛けてくる行為には執着を感じる。

 「次また知らない電話番号から掛かってきたらまずは録音だな。それと確認なんだが、衣装を貸し出したときに書面なり何か証明できるものってあるか?」

 「書面などは交わしていませんね。」

 俺は少し考える。着替えてから小鳥遊がスタッフに合流してそこから前田と話して装備を貸して欲しいという話になった。

 「前田氏との通話は録音していたんだよな。会話の中でコスチュームを貸していたという確認が取れているので言い逃れは出来ないが・・・」

 「課長?」

 「あのコスチュームはどこかに転売される可能性があるな。」

 「ずいぶん話しが飛躍してませんか?」

 「一応、関係者である小鳥遊くんには伝えておいた方がいいだろう。残りの一着は彼女が持っているんだろ?」

 「インナー、ローブ、杖の三点セットは持って行きました。」

 「犯人がコスチューム狙いなら小鳥遊くんにも注意が必要だと思う。」

 俺は考えすぎだとは思うけど、課長の洞察力の高さは確信している。保険のつもりで対応することにする。


 昼からは株式会社ウズメ・プロジェクトの事務所に新年の挨拶に向かう。

 「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」

 形式的な挨拶を済ませ、早速今後のプランの打合せに入る。

 一月は「年明けキャンプオフ」の規格が昨年からあがっていた。

 キャンプ用品の試作品のモニターも好評だったのだが、量産体制に入るにはコストが高すぎると高波には言われている。

 ロットが大きくなれば可能だが、そこまで高価なキャンプ用品の需要が多いとはさすがに思えないので限定販売で出す案などが出ている。

 職人手作りで100個程度になると、焚き火台で販売価格は10万円位になる。

 マスターエルクではそこまで高い製品は出していないのでどうなるかはまったく予想がつかないと言うが、俺的には100個は軽く完売すると踏んでいた。

 商品は買う側が値段を付けるモノだからだ。どうしても欲しいと思ったものについては値段などあって無きがごとしなのである。

 「高波さん、100個作るとして、納期はどのくらいになりますか?」

 「職人確保して急いでも2ヶ月は欲しいかな?」

 「例えば、部品は仕上がっている状態で最終組立と品質検査、最終工程だけならどうです?」

 「それなら箱のデザインに依るけど、2週間あれば現物は用意できると思う。」

 と言うことで、俺は部品を作り株式会社プロト名義でマスターエルクへ納品した。

 俺が作っているので市場価格を崩さない程度に抑えた価格で提供した。

課長からは

 「無茶するなぁ」と呆れられたが、通常ラインに乗せない限定品だけならなんとでもなる。

 販売価格も5万円まで抑えられた。なんとか現実的な金額にできた。

 リリースはマスターエルクとかれんのブランドである「ベル・エトワール」となり、初のダブルネームである。その告知もかれんチャンネルで大々的に発表された。

 そして販売を予定するキャンプオフ会の申し込みは殺到した。

 キャンプオフ限定販売でかれんが収納袋に一つ一つサインを入れて手渡し販売となった焚き火台100個は軽く完売した。かれんチャンネルでは追加リリースを望むのコメントが殺到していたが製造工程に無理があるため申し訳ないが、これには答えることができない。

 次に懸念したのは限定品にありがちな転売問題だが、フレームにシリアル番号を刻印しているので転売したらすぐに足がつく。

 No.000番をかれんが所持していて、それに続く番号になっているのがファンの購入意欲を高めつつ転売を防ぐという効果もあった。

 続いて「かれんモデル」としてチタンフレームの軽量かつ強靱なキャンプチェアのリリースが予定されていた。

 こちらも同様に次回のキャンプオフ会で手渡し販売する。数は200脚限定の予定だった。

 シリアルナンバー付きで、背もたれにかれんの直筆サインがその場で入れられる。

 第一弾を買い損ねたファンの声もあり、300脚に増産することに。

 キャンプオフの規模も当初より大きくなっており、キャンプ場の方でも予定日には貸し切り状態にしてくれるため、入場の管理さえしっかり行えば関係者以外は入り込みにくい管理体制になったのも主催者側、参加者ともに有益に働いていた。

 参加のスタイルもソロからファミリーまで多くの層が参加し、年間10回も開催する全国的に見ても珍しいキャンプオフ会となった。毎回何かしらの限定アイテムの販売があるのも大きな魅力になっている。オフ会当日はマスターエルクのアストレット即売会も開催されており人気を博していた。 

そして俺は一人で忙しくなっていた。まさに自分の首を絞めるというヤツである。

 株式会社プロトには徐々に資金が集まり始めていたが面倒なので会計処理は全て課長に丸投げした。

 高波が言い出した。

 「長谷川くん、プロトと正式に契約して部品供給をお願いできないだろうか?」

 いやいやいや、それは無理!

 課長がやんわりと断ってくれた。

 俺は製造スキルを使いまくったせいで以前より早く効率的に創造を行うことができるようになっていた。

 以前なら10秒掛かる製造が2秒ほどでできる。コレは仕事が捗る。

 俺はブドウ糖をかじりながらどんどん製造を続けた。

 キャンプチェア用のチタンパイプとアラミド繊維の座面一式を作り終えてブドウ糖の溶液(タブレットより吸収が早く飲むのが楽になった)を飲み干して休憩がてら、YouTubeを見ていた。

 するとすっかり忘れていた俺が作ったコスプレ衣装を着て配信をしている人物に遭遇した。

 「どういうことだ?」

 前田氏に電話を掛けるもちろん録音はしておく。

 「もしもし、前田さん?長谷川です。遅くにどうもすみません。」

 『あ、どうもお世話になっております。どうされましたか?』

 「いえ、あの貸し出していますコスチュームの件なんですが、返却時期などもう決まりましたか?」

 『あ、いや、先方からまだ連絡がなくて・・・』

 「例のホビー誌ですか?」

 『あ、そうなんですよ。』

 「ちなみにですけど、貸し出しの書面とか用意されてました?」

 『え?』

 「一応、他人から借りているものを貸し出したわけですから、もし紛失などなった場合は私から前田さんに金額の弁済を求めることになるんですが、大丈夫です?」

 『いや、あの・・どういうお話でしょうか・・・』

 「ですから、お貸し出ししているコスチュームがなくなった場合、前田さんに弁償してもらいますよと聞いてるんですが?」

 『ち、ちょっと待ってください!それは・・・困るのですが』

 「なにか不都合でも?確かに私は当日のどさくさで、そのままコスチュームをよく見せて欲しいからと前田さんから依頼されて貸し出しましたよね?そのことについては前田さんとも後日電話ででも再度確認済みですよね?」

 『いやその・・・そうですね。』

 「返却の日程については決定していませんでしたが、ホビー誌の企画でモデル撮影という話も一旦は保留にさせて頂いていたと思うんですが、もしかして勝手に進めてます?」

 『すいません、そこまでは把握していなくて。』

 「では至急ご連絡頂いて、今コスチュームがとのようになっているか、何かに使おうとしているのかなど詳細を連絡頂けますか?」

 『分かりました。急いでご連絡させて頂きますので・・・』

 電話を切り、もう一度動画を見てみる。

 間違いなく俺が作った装備に違いない。

 面倒なことがまた起こりつつあるなぁ。

 俺は中断していた部品の作成に集中することにした。

 

 勢いでキャンプチェアの部品一揃え作り終えたのがその日の深夜。

 段ボールを生成して部品ごとに箱詰めしてリビングに積んでおく。大きめの箱が12箱である。さすがにやり過ぎたか。低血糖気味なのか考えがまとまらない。

 明日以降、高波さんに連絡して引き取りに来てもらう手配を考えよう。


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