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火の扱い

 はて二人はどこに行ったのだろう。

 気づいたらいなくなっていた子供たちを探し首を巡らせてみると、だいぶん遠くの木の陰に隠れるようにこちらの様子を窺っていた。

 耳と尻尾が垂れているのがなんとも可愛いらしい。


「どうしたのですか、お二人とも」

「さっき、ボンって言った……お姉ちゃん大丈夫なの?」

「よく分からないものがユラユラしてるわ。臭いもするし……それは恐いものではないの?」


 なるほど。チラリと横目で角の生えた毛玉を見ると、微笑ましそうに目を細めている。

 どうやら二人は火が初めてらしい。かなり驚きであるけれど、こんな森の奥にいるのならそういうこともあるのだろうか。

 とにかく火との初めての出会いがトト神様の爆発だったわけで、二人とも驚いてしまったらしい。


 ……ああ、そうか。だとするなら、自分はわずかながらの年長者として、やるべきことを果たさなければ。


「そうですね、さっきは危なかったです。運が良かっただけで、死んでいたかもしれません。爆発がもっと大きければ手がなくなっていたかもしれませんし、破片が目に刺さっていれば失明しらかもしれません。そしてこの焚き火も、もしこれが燃え広がれば、この森がすべて焼けてみんな死んでしまうこともあるでしょう」


 少し考えてから、真剣な顔をつくりそう言った。幼子たちが震え上がる。

 火は危ないものだ。何も知らない子供が遊べば火事になることもある。

 恐怖は早い方がいい。


「ですので、火を使う作業は拙者が担当します。大丈夫、正しく扱えば良いのです。拙者は火のことをちゃんと知っていますので、お二人もそこまで逃げる必要はありません」


 ニコリと微笑んであげると、二人は顔を見合わせてからそろりそろりと近づいてくる。けれどやはり恐いのか、少し離れた場所で止まった。

 火を恐れる姿はまるで獣のようだ。耳と尻尾の分、性質はそちら寄りなのかもしれない。

 というか人の形をした二人がビクビクしているのに、丸い毛玉姿のトト神様が火の側で暖かそうにくつろいでいるのはちょっと納得いかない。本来の獣の反応はあちらなのだから、自分もトト神様は火を扱えないと思ったのだけれど。


『ウンウン、火は正しく使わないとダメだからね。神たちにも聞かせてあげたいな』


 先ほど被害にあった身としては、一番聞いてほしい相手が貴方なのですがね。


「トト神様、火に近づきすぎると毛が燃えますよ」

『こんなので神体が傷つくはずないじゃないか。上に寝転がったところでススで汚れるくらいだよ。ま、それはそれで嫌だけれどさ』


 神を傷つけるには一級品の神秘が必要だ。神そのものの力か、神が作った武器が要る。

 おそらく自分が背中の直刀で斬りかかったところで、この毛玉は避けようともしないだろう。

 まあ、大丈夫なら問題ない。調理の最中に気にしなくていいなら、わざわざどいてもらう必要もなかった。


 さて、では料理である。注目が集まっていることを自覚しながら、何を作るか考えてみる。

 鍋はないから手の込んだものは難しい。とはいえ煮るだけであれば、この森のやたら大きい樹たちの葉っぱは一枚一枚がかなり大きいし、組み合わせれば鍋の代わりにできるだろう。

 理屈は知らないけれど、薄い紙で容器を作り水を入れれば直接火に掛けても燃え上がらないものだ。……なんで自分にはこんな知識があるのか不思議だが、きっと忍者だからだろう。

 けれど具材は魚だけである。探せば山菜や木の実くらいは見つかるかもしれないが、近くには見上げるほどの大樹と絨毯のような苔と見たことのないキノコくらいしかなくて、すぐには用意できそうになかった。


「まあ、あれですかね」


 ため息とともに、細い木の枝をクナイで削る。大工仕事で使うクナイはここまで切れ味が良くなくてもいいはずだから、わざわざ武器として使う用に研いだのだろう。さすが自分、良い仕事をしている。

 そうしてできた串に、鱗と内臓を除いた魚を波打つように刺し、火に掛ける。

 料理というには抵抗があるけれど、これで遠火でじっくり焼けば、魚の串焼きの完成だ。


「できれば塩があれば良かったのですが……」


 ぬめりがある魚ではなかったので塩もみしたりする必要はなかったけれど、味付けに塩は欲しいところだ。しかしこんな森の中ではなかなか手に入らないのではないか。


『岩塩ならあるよ。持って来ようか?』

「本当ですか? ぜひ!」

『はーい。じゃあちょっと待ってて』


 気軽な返事をして、のそのそと毛玉が歩いて行く。どうやら岩塩はトト神様がさっきまでいたあの巨樹の方にあるらしい。……ところで今、もしかして自分は神にお使いを頼んだのだろうか。それって万死にあたるのではないか。

 いいや、神の好意だ。受け取らねばそれこそバチが当たりかねない。そう思い直して、頬の冷や汗を拭う。

 とにかく、自分は最高の串焼きを作ろう。今の無礼を忘れてもらえるほどに美味なものを。


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