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試練

 朝の心地よい快晴の空の下、自分は岩屋の周囲の広場で正座していた。

 目の前には丸い毛玉のトキヨツヒマガツトト神がいて、ツチノエとミズノトがその横でちょこんと自分のマネをして座っていた。


『まず、シノは禁足地に入った咎人である以上、ただ記憶を返却するわけにはいかないし、帰すわけにもいかない。だって他の神々がうるさいからね。よって、君には試練を受けてもらおうと思う』

「はぁ……」


 試練。

 咎に対する罰が記憶を失うことと閉じ込められることであるならば、それを免除されために試練を乗り越えろ、とはなかなかに神らしい差配である。

 とはいえ、自分は忍び。諜報活動を主とする者ならば、外へ出ればこの森のことは報告せねばならないだろうと結論付けたばかりである。なのでもう出られないものと覚悟していた手前、気の抜けた生返事になってしまった。


 自分がこの森を出ることになるときは、ツチノエとミズノトが大きくなって、忘却の森が必要なくなったときだろう。


『練の内容は簡単だ。まず君は一日一回だけ、陽が出ている間の好きなときに、試練に挑戦することを宣言することができる』

「一日に一回、ですか?」


 陽が出ている時間、つまり日の出から日没までというのは分かる。なんなら説明を聞いてすぐ挑戦してもいいのだろう。

 しかし、一日一回というのはどういうことか。それでは何度でも挑んでいいような言い方だ。


『うん。今日挑んで失敗しても、明日また挑戦していい。神の試練として、それくらいの難易度だと思ってくれ』

「……なるほど」


 何度挑戦しようが簡単には達成できない、ということか。

 達成しても口外しないと約束できない以上、自分にこの森を出る許可は降りないだろうけれど、そういうことならばむしろ興味が出てくる。

 神の試練。それも高難易度。わざわざ用意してくれるというのならば、これほど挑戦しがいがあるものもない。たとえ賞品を受け取れなくとも、自分の力でどれだけできるのか挑んでみたくはある。


「して、その試練は具体的にどういうものでしょうか?」

『うん。君は挑戦を宣言したら、その場で目を閉じて十数える。そしたら開始だね。日が落ちるかシノが降伏を宣言するか、もしくはツチノエとミズノトの二人共に触れて試練に勝てば終了だ』


 …………それは、えっと。


『つまり、鬼ごっこだよ』

「はぁ……」


 返事が気の抜けたものに戻ってしまった。

 子供と鬼ごっこ。それはただの遊びではないのか。見れば、ツチノエとミズノトも心なしかワクワクした顔のような気がする。

 しかしこの身は忍者であるならば、さすがに勝てる気がするが……いや。


「範囲はどこまででしょう?」

『君は盟約によって森を出られないからね。ツチノエとミズノトも、忘却の森を出てはならないとしようか』


 広い。

 森については昨日少し歩いたくらいだけれど、ここがとてつもなく大きい森の最深部であることはすでに分かっていた。

 つまり、この広大で隠れる場所だらけな森林で、小さな子供を探し回らなければいけないのか。鬼ごっこでありながら隠れ鬼でもあるわけだ。それはたしかに難易度が高い。


 そも、鬼ごっこというのは狭い範囲で、鬼よりも逃げる者が多く、鬼は誰に触れてもいいという遊戯だ。なのにこんなに広い場所で、しかも二人ともを捕まえなければならないとなれば、明らかに別物になってくる。

 ……とはいえ、負けるとは思えなかった。多少は手こずることを覚悟したが、しかし日が落ちるか自分が降伏するまでならば、時間は十分ある。獲物を見つけた狩人のように追うことはできるだろう。

 この広い範囲ではさすがに無理だろう、と思われているのだろうか。それとも単純に子供たちの遊び相手が欲しいのか。あるいは、少し悲しくはあるが、子育て中にやってきた厄介な特例をさっさと追い返してしまいたいとか?


『そしてシノが晴れてこの試練を越えたならば、記憶を返却し森から出る許可をあげよう。ただし、この森で得た記憶は差し出してもらうけれどね』

「は……?」


 記憶の返却と森を出る許可はあらかじめ言われていたことだ。だから問題ない。けれど、新たな条件が出てきた。

 この森で得た記憶を差し出す?


『いくらシノが我やツチノエとミズノトの存在を知ってしまったと言っても、記憶ごと失えば吹聴はできないからね』


 それは、なんというか……身も蓋もないというか。それができればたしかに問題はないというか。

 なんとも神らしい解決法ではあった。


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