カミヨノオワリとお客様
神さまたちは、この世界を創りました。とてもとても頑張りました。
神さまたちは、この世界にいろんな生き物たちを住まわせました。本当にいろんな生き物たちでした。
神さまたちは、この世界にたくさんの贈り物をしました。多くの恵みが与えられました。
そうして神さまたちは、自分たちが創った自慢のこの世界で、好き勝手やりました。それはもうムチャクチャでした。
やがて神さまたちは、自分たちがこの世界に住まわせた生き物たちに畏れられ、どうかもう何もしないでくださいと祈られていることを知りました。
自分たちの創った世界なのだ。自分たちが好き勝手してもいいだろう。多くの神さまたちはそう憤慨しましたが、しかし生き物たちはほんとうに必死に祈るので、しだいに可哀想になってきました。
そしてみんなで集まって話し合い、天の上や地の下に新しい世界を創って、自分たちはそこで暮らすことにしたのです。
しかし。
さあ準備もできたしみんなでお引っ越ししよっか、という段階になって、地上の者に恋した神が子供を作ってしまっていたことが発覚し、各方面からクッソ怒られたのです――
サァ、と風が木の葉を揺らす音。小鳥のさえずり。パタパタという軽い足音。
――……あれ?
頬に当たる土の感触と冷たさ。濃い森林の匂い。
瞼を少しだけ開けてみれば、霞む視界に木漏れ日で斑模様になった地面が見えて、とても太い木の幹と根っこがたくさん見えて、どうやら自分は森でうつ伏せで倒れているようだと分かる。
森林の土は軟らかくて気持ちいいけれど、石か張りだした木の根っこがお腹の下にあるようで、そこは少し痛い。そよ風に揺られる雑草が顔にペシペシ当たって、眉をしかめてそれから逃れようとして、けれど身体はピクリとも動かなかった。見える景色はさっきからずっとぼやけていて、ああそうか自分は行き倒れているのだなぁと他人ごとのように考える。
ここはどこだろう。
なぜ自分は倒れているのだろう。
動けないなら動けないなりに考えようとしたけれど、そこで初めて、自分がなにも思い出せないことに気づいた。
なんだろう。なんだかとても大変なことがあって、ひどく急いでいたような気がする。けれど記憶を辿ろうにも切れた糸を手繰るように手応えがなく、どこを探してもどこにもない感覚だけがあった。
「あ、気づいたみたいだよミズノト!」
「本当なのツチノエ? じゃあこれ、生きてるんだ! わあ、ドキドキするね、ワクワクするわ!」
そんな幼い童のような声を聞いた気がしたけれど、視線を向けようにもやっぱり身体は全然動かなくって、それどころか急速に意識は遠のいていって。
「ようこそお姉ちゃん、忘却の森へ!」
「ようこそお姉ちゃん、トト様の縄張りへ!」
そんな歓迎の言葉と共に、深く濃く、そして清浄な森の匂いに包まれながら、自分はまた気を失う。