あたしのなかの魔法
いつか魔法は使えなくなっても。
翼を失くしたペガサスも ただの馬じゃない
たとえ空は飛べなくたって あいつらはちゃんと
空を飛ってことを知ってるから
だから いつか たとえ
あたしのなかの魔法が すっかり涸れ果てちゃって
歌も歌えなくなって
絵も描けなくなって
おはなしも紡げなくなっても
それでもあたしは ちゃんとあたしだ
歌を歌うことも
絵を描くことも
おはなしを紡ぐことも
ちゃんと知ってるよ
星座の繋ぎかたがわからなくなって
北天に にくきゅう座をさがせなくなったときは
ずいぶんおちこんだけど
猫の耳のうしろをかりかりやっても
まえみたいに喜んでくれなくなったときは
もうだめかとおもったけど
それでもあたしは ちゃんとあたしで
夕陽を見れば 唇から歌がこぼれそうになるし
虹を見れば その七色のパレットから 絵を塗りたがるし
あくびしてる猫を見て おはなしの糸口をつかむよ
だけど なんだかおかしいな さいきんのあたしは
歌えない歌が
描けない絵が
紡げないおはなしが
だんだん 増えていってる
これはやっぱり あたしのなかの魔法が
すこしずつ涸れていってるんだろう
そんなふうに気づいたら
すっごく こわくなってきて
翼のないペガサスに相談してみたら
ふたつからえらぶように おしえてくれた
空を飛べない だめなペガサスだって
肩身を狭くして生きるか
空を飛ぶことを知ってる とくべつな馬だって
きどりながら生きるか
あたしが どっちもいやだってこたえたら
じゃあ じぶんがペガサスだったことはすっかり忘れて
はじめから空を飛ぶことなんか知らなかった
ふつうの馬として生きるんだな
あたしにそう告げると
翼のないペガサスは ぱからん ぱからん
とっとと 帰っていった
きっと美味しいニンジンが待ってるんだろう
だったら あんたはどれをえらんだのか
おしえてくれたっていいのにさ
あたしはどれもいやだったから
あたしなりに悩んだんだけど
そのいやだってきもちこそ あたしのこたえなんだって
なんとなくわかったから
翼のないペガサスにも それなりに感謝してる
だから いつか たとえ
あたしのなかの魔法が すっかり涸れ果てちゃって
歌も歌えなくなって
絵も描けなくなって
おはなしも紡げなくなっても
それでもあたしは ちゃんとあたしなんだよね
あたしのなかにちゃんとあった魔法
いつか たとえ涸れ果てちゃったとしても
あたしはちゃんと それをおぼえてる
もうないことに くよくよもしたくないし
かつてあったことに いい気にもなるつもりもないし
ましてや 忘れることなんてまっぴらごめんだ
あたしのなかにちゃんとあった魔法
翼を失くしたペガサスも
たとえ空は飛べなくたって
空を飛ぶってことを ちゃんと知ってるから
あいつらはただの馬じゃない
だったらあたしも
あたしのなかにちゃんとあった魔法
いつか たとえ涸れ果てちゃったとしても
ちゃんと それをおぼえてるうちは
それでもあたしは ちゃんとあたしだ
歌を歌うことも
絵を描くことも
おはなしを紡ぐことも
ちゃんと知ってるし ちゃんとおぼえてるよ
かつて、魔法を使えたことを忘れないでいたいですね。