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66. アリーナの墓標の前で、弟との再会


 レティシアがアヌビスと共に教会を訪れた時、外から見てすぐに分かるほど、教会の内部は分厚い暗闇に包まれていた。

 どうやらパトリックは教会の中に居ないようだ。


「パトリックはどこへ行ったのかしら? もしかして、私達と入れ違い……?」

「そうかも知れんのぅ。まっすぐ帰らずに回り道でもしたのかも知れんぞ。我々も、墓地へ寄って帰るとするか」


 子爵邸からこの教会までの道順はいくつかあるものの、レティシア達は最短の道をやって来たのだが、もしかするとパトリックは別の道を帰ったのかも知れないと考えた。

 教会の建物自体は石造りで丈夫そうであったが、扉や窓枠などの木製の部分は傷んでいるところも見受けられる。レティシアとアヌビスはそんな教会の周りをぐるりと歩いて、裏手にある墓地へとランタンの灯りを頼りに向かった。


「アヌビス様、あれ……」


 月明かりの下、数多くの墓標が立ち並ぶ墓地の奥の方で、ぼんやりと広がるランタンの灯りが見えた。


「あの辺りはアリーナの……」

「あら……もしかして、パトリック……?」


 墓標の合間をそっと背後から近づく形になり、レティシアとアヌビスはランタンの灯りのそばに立つ、背の低い痩せた後ろ姿を確認した。

 その髪色が闇に溶けるような黒色だった事からレティシアはパトリックだと思い、その背中に向けて声を掛ける。


「パトリック!」


 レティシアの呼び掛けに、大袈裟なほど肩を揺らして驚いた後ろ姿の持ち主は、そろそろと背後を振り向き目を見開いた。


「アヌビス……?」


 侯爵邸からほとんど出る事がないパトリックは、皇族専属の薬師であるアヌビスと面識など無いはずだった。

 それなのに静かな墓地でレティシアと並んで立つ老爺の姿を見て、大層驚きアヌビスの名を呟いたのだった。


「何故……」

「……レティシア、此奴はお主の弟、パトリック・フォン・ベリルで間違いは無いのかな?」


 パトリックが思わずと言った様子で「何故」と口にしたのと、突然険しい表情で当たり前の事をレティシアに問うてきたアヌビスの声が重なり合う。

 レティシアは一体何が起こっているのか分からないまま、アヌビスの問いにコクコクと頷きで答えた。


「ワシには何故このような奇怪な事になっているのかは分からんが……。ファブリス、お前は全て分かっているのか?」


 アヌビスはパトリックに向けて「ファブリス」と名を呼ぶ。レティシアは未だ何が起こっているのか、全てを理解しないままに成り行きを見守るしかできなかった。

 二人がじっと息を顰めてパトリックの答えを待ち構えていると、観念したように大きなため息を吐き出したパトリックは、やっとの事で口を開いた。


「何故こうなったのか、仕組みは分からない。ただ、僕の魂とこの身体の持ち主……パトリックの魂が混じり合っている、という事だけは確かだ」


 レティシアは未だ理解が追いつかないのか、言葉を紡ぐ事を忘れてパトリックの方を見ていた。

 アヌビスはうっすらと笑みを浮かべたような、しかし困ったような表情で短く息を吐き出す。そしてレティシアの方を見やると、皺を深めて目を細め、安心させるように頷いた。


「それでお前はアリーナの墓へ通っているのか。しかし、多少は思い当たるところもあるだろう? 何故お前の魂が、このパトリック・フォン・ベリルと混じり合ってしまったのか」


 アヌビスの問いにパトリック……今はファブリスとも言う相手が、スッと視線を落とす。その先には長い年月を経て傷んでしまったアリーナの墓標があった。


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