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54. 愛妾になれと言われた事、やっと話すレティシア


「ほぅ、なるほどのぅ。ジェラン侯爵も思い切った事をしでかしたもんじゃ。皇后付きの女官に手を出すなど、我が子のように女官を育て上げる皇后陛下にガブリと噛み付くのと同じじゃぞ」


 レティシアに温かいハーブティーを差し出したアヌビスは、ジェラン侯爵の思わぬ行動に驚きを隠せないでいた。


「私も……女官となってからは恐ろしい思いをする事が無かったもので、油断しておりました。そもそもソフィー様が私を女官にしたのも、ジェラン侯爵から守る為でしたから」

「何だと? それはどういう意味だ?」


 レティシアはこれまでジェラン侯爵から愛妾になるよう言われていた事をリュシアンには伏せていたから、ここで初めてその事についてそろそろと口を開いた。

 全てを話し終える前からリュシアンの表情は段々と険しくなり、話し終える頃にはすっかりレティシアの身体は小さく縮こまっていた。


「レティシア、何故そのような大切な事を黙っていたんだ? そういった事情があるのならば、もっと早くに婚約破棄は無効だと公表した。そうすれば此度のような怖い思いをせずとも済んだものを」


 リュシアンは決してきつい物言いはしなかったが、その言葉の端々には心配からくる焦燥が見え、アヌビスは「仕方がない」といった様子でリュシアンを諫めた。

 

「まぁまぁ、殿下。心配なさるのはごもっともじゃが、レティシアだってまさか女官となった自分をジェラン侯爵が狙うなどという事は思いもよらぬ事だったんじゃろうて。のぅ、レティシア?」

「はい……ごめんなさい。リュシアン様」


 しゅんとしてしまったレティシアを見て、リュシアンは身振り手振りで慌てた様子を見せ、言葉を付け足した。

 

「いや、そう辛そうな顔をしないでくれ。俺こそ悪かった! 心配から責めるような物言いになってしまった!」

「ほんに、殿下はレティシアの事となると冷静でいられなくなるんじゃからのぅ。ちっとは反省せぃ」

「……面目ない」


 アヌビスに言われてしゅんとしたリュシアンを見て、今度はレティシアが慌てて庇う。


「いえ、リュシアン様がとても心配してくださっている事は承知しております! ただ、今回の事に関しては私の危機感が足りなかったのです。今後気をつけるようにしますから、そう肩を落とさないでください」

「何じゃ、お互い謝るばかりでこっちが見てられんほどに仲が良いのぅ。フォッ、フォッ、フォッ……」


 アヌビスが二人を茶化したせいで、二人は揃って頬を赤くし、俯いてしまった。


「それで、二人は何用でここへ来たのかな? レティシアに至っては、今日は休日のはずだが」


 アヌビスに教えを乞い、すっかり見習い薬師のようになっているレティシア。近頃アヌビスはそのレティシアの事を「レティシア嬢」とは呼ばなくなった。

 自分の弟子として、「レティシア」と呼ぶのは彼なりに何事にも真面目に取り組むレティシアの事を認めているのだろう。


「あぁ、そうでした! アヌビス様、ニコラ殿下は近頃お加減がよろしくないのですか? 庭師の孫という子どもと知り合ったのですが、その子が言うには最近ニコラ殿下が遊び場にいらっしゃらないとか」

「それは庭師ジャンの孫、シャルルの事かのぅ?」

「そうです。シャルルという癖毛のかわいらしい子で。祖父が皇太子宮の庭師だと。流石アヌビス様、何でもよくご存知なのですね」


 レティシアは日々の様子からアヌビス老人に聞けば何でも答えてくれるような気がしていたが、まさか使用人の孫の名前まで知っているとは思いもよらず、驚きを隠せなかった。

 

「フォッ、フォッ、フォッ……。そりゃあ伊達に長生きしとらんわ。ニコラ殿下はお風邪を召されての。それで療養中じゃが、もうすぐ元通りお元気になられるだろうよ」

「そうですか。それでは私はシャルルにその旨伝えて参ります」

「休みだというのに、忙しいのぅ」

「いえ、大丈夫です。それでは」


 笑顔でレティシアが去った後、医務室にはリュシアンとアヌビスが残された。


「何が『伊達に長生きしとらんわ』だ。どうせニコラから聞いていたんだろう」


 リュシアンは呆れたようにため息を吐くと、足を組み替えた。

 アヌビスはニコニコ笑ったまま、ハーブティーのおかわりを注ぐ。

 

「おや、殿下に隠し事は出来ませんな。いかにも、ニコラ殿下からシャルルの事は聞き及んでおりました。誰にも見つからず、こっそり遊ぶ場所は無いかと聞かれて秘密の遊び場を教えてやったのです」

「そのような事、カタリーナが知ればただじゃ済まないだろう。ニコラも思い切った事をする」

「あの皇子はカタリーナとも皇帝陛下とも違う、なかなか面白い性質ですな。乳母が良かったのかも知れんのぅ」


 アヌビスがさも楽しそうにそう言うと、リュシアンは考え込むようにして腕を組み、やがてポツリと呟いた。


「今度こそ、ニコラと分かり合えると良いが」


 



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