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33. リュシアンの苦悩、すれ違う心(後編)


 革命へと踏み出したリュシアンはもう、後戻りは出来ない。しかし決して消す事が出来ないレティシアへの想いは、複雑に絡み合い、いつの間にか雁字搦めになったリュシアンを苦しめた。

 

 だから隣国との戦に向かう数週間前の茶会の日、どうにもならない苦しみから来る感情から、ついレティシアを責めるような物言いをしてしまったのだ。


 


 ――「俺は民達を救う為に隣国との国境へ向かう。皇族が進んで解決せねばならない問題だ。生きていれば母上もそうしろと言うだろう。皇帝から行けと言われたから行くのでは無い」


 あの時、吐き捨てるように告げた言葉を聞いた時のレティシアはひどく不安げで、こんな俺の事でも心から心配しているように見えたのは幻だったのだろうか。

 

「其方は……俺が死ねば弟ニコラと共にこの国の頂点に立つのだろうな。どちらにしても皇后となれるのだからベリル侯爵家は困るまい」


 イリナからレティシアとニコラとの婚約話を聞いてから、俺は苛立ちと焦燥感に日々を埋め尽くされていた。だから女々しくもあのような言葉をレティシアにぶつけてしまった。

 けれど……レティシアもその事を既に知っていたのか、否定しなかった。「ニコラとは婚約などしない」と、すぐに否定してくれれば俺だって……。


 その後、戦に向かう俺にレティシアから届けられた守り袋には、二人の思い出であるヒソップが刺繍してあった。

 

 俺が昔からこのヒソップという植物を好んだのは、レティシアの咳に効く薬草だからでも、俺を追いかけてはよく転んでいたレティシアに使う傷薬だったからでも無く、レティシアの透き通るような美しい紫色の瞳の色と似ていたからだ。


 そのような事をレティシアは知らない。二人の思い出の花だからたまたま図案に選んだだけだろう。


 戦に出立する日、俺はレティシアが聞き分けのない子どものように「行かないで」と言うのでは無いかと、心の奥底で期待した。

 子どもの頃はそうやって俺や周囲の者を困らせていたレティシアだ。戦に行けば無事に帰って来られるかどうかは分からない。

 しかし現実は、まさかそのような子どもじみた事をする筈もなく、むしろいつもは見せないような強い眼差しを俺の方へと向けてレティシアは立っていた。


 せめてひどく悲しげな表情で見送ってくれたなら、俺はそこに見失ったレティシアの心を見つけられたかも知れないのにと、そう思うのは自分勝手な希望だろう。


 今の自分はひどく情けない、全てが空回りして、悪い方へと向かっている事も承知している。

 はじめはほんの少しだけ間違えた道が、いつの間にか大きく逸れて本来向かうべき所とは全く違う場所へと向かっているようだ。

 このまま進んだら、その先には真っ黒な深淵がポッカリと口を開けて待っているような気がしてならない。


 後悔しても、もう決して元通りとはいかないだろう。

 





 




 

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