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27. 十四歳のレティシア、その悪夢(前編)


――帝国フォレスティエ。広大な領地と多くの帝国民を抱えるこの国は、現皇帝ムサ・デル・フォレスティエの政策によって貴族とごく一部の平民だけが優遇される状況にあった。

 多くの庶民は苦しい生活を強いられ、華やかな大通りを少し入った裏道には、浮浪者や行き倒れも多く見られる。


 その日、十四歳のレティシアは母親と共に買い物に出ていた。


 馬車から見える景色は今のレティシアにとって色褪せ、退屈なもので、久しぶりの買い物にご機嫌な様子の夫人はそんなレティシアに気付くことなく、しきりに新しく出来た店についての評判を口にしていた。


「これから行くお店は、珍しい他国のお菓子がたくさんあるのですって。ノイトロ夫人のご紹介で、皇帝陛下とカタリーナ様もお召し上がりになっているとか」

「……そうなの」

「レティシアも、次回のお茶会の時に持参したらいいわ。あの方、甘い物と珍しい物がお好きだもの」


 カタリーナとのお茶会と聞いて、レティシアは思わず溜息を吐きたくなった。


 父親である侯爵の命により、レティシアは度々宮殿を訪れては寵姫カタリーナとのお茶会に参加させられている。

 時には皇帝もその場に同席して、テーブル一杯に並べられた珍しい茶菓子や他国の貴重な茶葉を使った紅茶を口にしていた。

 色とりどりの美しい菓子も、風味豊かな紅茶も、レティシアにとっては味気ないもので、皇帝やカタリーナと共に時間を過ごす度にリュシアンに対する罪悪感が沸々と湧き上がってくるのだ。


「ソフィー様が儚くなられてからも、皇帝陛下は変わらず貴女を可愛がってくださってありがたい事ね。カタリーナ様とリュシアン様は不仲だというから、貴女の立場も心配だったけれど」

「不仲というより、リュシアン様は実母であるソフィー様の事が未だ心の中を占めてらっしゃるのよ」


 リュシアンが十歳、レティシアが五歳の頃に死産が原因で体調を崩し、その後逝去したソフィー皇后。

 リュシアンはその頃既に寵姫であったカタリーナの事を心の底から嫌っていたし、そのような女を皇后の後釜に据えようと画策する皇帝の事は目に見えて軽蔑していた。


「でも、皇帝陛下はカタリーナ様を大切に想ってらっしゃるから。そのカタリーナ様と不仲なのはリュシアン様にとっても好ましく無い事よ。だって皇室には第二皇子のニコラ様もいらっしゃるのだし。いつ何時どのような理由で皇位剥奪という事になるか……」

「お母様、そのような事……」

「貴女は未来の国母。将来の皇帝であれば、別にリュシアン様が相手でなくてもいいの。どちらにしても皇太子の婚約者という肩書きを決して誰かに奪われては駄目よ。カタリーナ様と皇帝陛下に気に入られるよう、一層努力なさい」


 実際、庭園で茶会を開いている時などに偶然リュシアンが通りかかろうものならば、レティシアがいる事に気付かないふりをして足早にその場を去るリュシアンの背中を何度も見ている。

 後日リュシアンとレティシアの定期の茶会が設けられた際には、いつもにも増して険悪な雰囲気が二人を包み込んだ。

 言葉数少ないリュシアンに何とか話題を見つけて話しかけても、レティシアはその冷たい反応に虚しくなり、度々重苦しい沈黙が流れる。

 レティシアはとても辛かった。母親や父親の言う通りにすればするほど、リュシアンとの仲は険悪になっていく。


 今はリュシアンが皇太子であっても、カタリーナは自身の息子ニコラを皇帝にしたいと考えている。いつどんな方法で皇太子リュシアンを陥れるか分からないのだ。

 そのような相手と懇意にするレティシアを、リュシアンが嫌うようになっても仕方があるまい。


「レティシア、聞いているの? お返事は?」

「……はい、お母様」

「いいこと、決して勝手な事はしないように。お父様の言う通りになさい。それが貴女の為でもあるのだから」

「……承知しております」

「それならいいわ。あ! ほら、例のお店はあそこね。繁盛しているようよ」


 気乗りしないまま侯爵家の馬車を降りたレティシアは、見るからに貴族や金持ちの平民しか訪れていない様子の高級菓子店へと足を踏み入れる。

 美しく華やかな色形をした菓子達は次々と客に選ばれ、包装に使うだけには勿体無いような可愛らしいリボンで飾られていく。


「まぁ、どれも美しくて美味しそうね。目移りしてしまうわ」


 レティシアが弾むような声の侯爵夫人から視線を逸らし、ふと通りに面した窓へと目をやると、平民の子どもが三人、ベッタリとへばりついて店内を覗いているのだった。

 どの子も子どもらしからぬ痩せ細りようで、頬は痩け唇はカサカサに粉を吹いていた。

 窮屈そうな服はツギハギだらけのボロボロで黒ずんでおり、どう見てもこの店の菓子など口に出来るような経済環境に無いのだと一目で分かる。


「こら! 汚い浮浪者め! 店に近づくな!」


 子ども達に気が付いたこの店の店主らしき男が、太いめん棒を手に店外へ飛び出して行く。

 三人のうち一番小さな男の子が店主に捕まり、店の裏手へと連れて行かれるのをレティシアは見た。


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