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15. 庶民の子に扮して、宮殿の情報収集


 翌日から、レティシアは毎日のようにソフィー皇后の元へと通うようになった。

 皇太子の婚約者であるレティシアは皇后宮への出入りも簡単であったが、通常皇后宮に足を踏み入れるのは簡単な事ではない。

 勿論ジェラン侯爵とその娘のようなただの貴族が、気軽に歩ける場所では無いのだ。


 だからこそ、先日ジェラン侯爵とイリナが皇后宮の庭園を歩いていた事をリュシアンは見咎めた。


「ジェラン侯爵の味方につく何者かが、彼らの皇后宮への出入りを融通したのね。けれど、それでは皇后宮の守りの意味が無いわ」


 あれからレティシアはその事が妙に引っかかっていて、ソフィー皇后のところへ寄った帰りに皇后宮の周りを見回り、そして別の日には宮殿の内部を見て回った。

 簡単に何かが見つかると思ってはいなかったが、以前は宮殿の内部やそこで働く人々に注意を払う事は無かった為、何か新しい発見が有ればいいとの気持ちからだった。


「あら? あの方は皇太子殿下の婚約者様では?」

「本当だわ、可愛らしい」

「お散歩とか? お一人で大丈夫なのかな」

「まぁここは皇帝陛下の居なさる宮殿で、衛兵も多い。危険は無いだろうよ」


 たった五歳の令嬢が、トコトコと宮殿の中を歩くのは目立ち過ぎる。レティシアは翌日から着替えを持参し、ソフィー皇后の宮を出てから手近な部屋で庶民の服へ着替えるようにしたのだった。

 実はこの服、マヤの娘のお古を本人が遊びに来た時にこっそり頼んで譲って貰ったもので、レティシアは空き部屋で外出用のワンピースを一人で脱ぐと、その服へと着替える。最初はなかなか一人で着替える事が出来なかったが、今ではさほど時間をかけずに着替えられるようになった。

 空き部屋から出てくる頃には、すっかり城で働く使用人の娘の風貌で、誰もベリル侯爵家の令嬢とは気付かない。

 目立つ銀の髪も、しっかりとキャップの中に入れ込んだ。


「あんた、どこの子? 迷子になったのかい?」

「いえ、皇后宮で働いているマリーの子です」

「まぁ、しっかりしてるのねぇ」

「お手伝いしましょうか?」

「じゃあ頼もうかね」


 宮殿で働く使用人達の数は多く、持ち場が違えばお互いを把握している可能性は低い。

 レティシアは遠目に働く使用人の様子を観察し、自分から話しかけて作業を手伝いながら話を聞くという事を繰り返した。

 相手も子どもだと思って油断し、ついつい愚痴のついでに思わぬ情報を口にする事があるのだ。


「……って事でさ、カタリーナ様はソフィー様と違って人使いが荒いんだ」

「それは大変ね」

「近頃特にピリピリしている様子でさ、噂ではソフィー様がご懐妊しているとか。それで不機嫌極まりないらしいよ」

「ご懐妊って、お祝いすることじゃないの?」


 無邪気な子どものふりをして尋ねると、年嵩のおしゃべりな使用人は苦笑いを浮かべて口を開いた。

 手元の洗濯物は、もうほとんど干し終わっている。


「カタリーナ様はね、ご自分こそが陛下の寵愛を受けていて、皇后にふさわしいと思っているのさ。恐れ多い事だよ。だから皇子様か皇女様がお生まれになられたら、陛下の愛が揺らぐのではないかと不安なのさ」

「んー、よく分からない」

「ははは! そうだろうね! アンタみたいな子どもに話すことじゃなかったよ! さぁ、手伝ってくれてありがとう。ほら、ご褒美だよ」


 ゆさゆさとふくよかな体を揺らしながら笑う使用人の女は、エプロンのポケットからビスケットを取り出すと、レティシアの手に握らせる。


「ありがとう、また来るね」

「迷子にならないように気をつけるんだよ! 宮殿(ここ)は広いからね!」


 笑顔を返したレティシアは洗濯を担当する女の元を去り、着替えを置き去りにした空き部屋へと向かう。

 途中で騎士団の鍛錬場が見えて来た。石造りで堅牢なつくりの鍛錬場からは、ちょうど鍛錬を終えたばかりの騎士達が汗を拭きながら出て来るところだった。


「リュシアン様もここで剣を学んでいるのかしら」


 次々と出て来る騎士達の中にリュシアンの姿は見つけられずレティシアはがっかりしたものの、今の自分が庶民の姿をしている事を思い出す。

 リュシアンに見つかれば上手い言い訳を出来る自信は無い。慌ててその場から逃げるようにして鍛錬場に背を向けた。


「そこの君! 待ちなさい!」


 そんなレティシアに声を掛ける者がいた。ビクリと肩を揺らして恐る恐る振り返る。何故か、叱られるのでは無いかと思ったのだ。

 それほどまでに、その声には人を従わせる力があった。


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