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走れ! オーボン・ホース!

掲載日:2022/08/22


 8月中旬。死者達の霊を現世へと送り届ける組織『オーボンタクシー』はかつてない程の危機を迎えていた。

 彼らの足であるマッハ・キューカンバーとキャンピング・ナスが恐るべき病魔。ネオ・うどんこ病にやられてダウンしてしていた。


「どうする。このままでは、皆を送迎することが出来ないぞ」

「代わりのショウリョウ・ウマを探しましょう」


 この時期、旬を迎える野菜達を次々に当たった。トマトやカボチャが適さないことは誰もが分かっていた。必要なのは風を切って進む流線型のフォルムだ。


「オクラはどうでしょう?」

「体躯は小さいが、スピードを極めたかのようなフォルム。決めた、今年の送迎はオクラ・ロケットだ!」


 期待を一身に背負ったオクラ・ロケットは迎え火目掛けて、猛進した。マッハ・キューカンバーを上回るスピードは制動すら許さず、直撃して香り高く、粘り気の強い煙を上げていた。送迎ではなく、葬芸と言わんばかりの有様だった。


「オクラは駄目だ。アイツらは制動が利かない」

「粘り強く付き合って行けば、何とかなりそうですが時間がありません」

「では、粒選りの存在を紹介します。トウモロコシです」


 ガッシリとした安定感。ナスにも負けぬ重厚さは、どんな加速にも耐えられる。

 期待を一身に背負って出立したモロコシ・バイクの加速力は良かった。しかし、風圧に晒され、全身の粒と一緒に運転手と乗客を弾き飛ばした。


「コーンなことになるとは思っていなかった」

「我々の見通しは、トウモロコシより甘かったのかもしれませんね」

「次だ! 次を用意しろ!」

「はい! トウモロコシは飛びやすいので駄目でした。今度は、しっかりと滑り止めが付いています。ゴーヤです!」


 キュウリとナスを彷彿とさせる流線型のフォルム。もはや、この形に囚われているとしか思えないが、運転手達が執着しているので仕方がない。

 背負う期待がやや薄れながらも、見送られたゴーヤ・ホースは速度も安定性も悪くはなかった。ただし、尻が痛くなるという苦情が相次いだ。


「今度こそは行けると思ったのに」

「苦い結果となりましたね。いよいよ、最後です。そう、最初からこれをすればよかったのです。キュウリとナスの相の子っぽい立ち位置! ズッキーニです!」


 いい加減リアクションの種類も尽きて来たのか、現れたズッキーニに対して期待のまなざしを向ける者は誰も居なかった。


「今度こそは行けるんだろうな?」

「行けなくても、これかゴーヤしかありません」


 苦渋の選択だった。ズッキーニ・カウに乗った運転手は、ナスの様な乗り心地に安心した。マッハ・キューカンバーよりは遅かったが。


「運転手さん、もっと急いでおくれ。向こうに居られる時間が短くなっちまうよ」


 ボスボスと腹を蹴ってみるが、速くなる気配はなかった。

 ナスよりは早い為、くつろぐには適さない程度の速さで現地に辿り着いたが、ゆっくりする暇もありゃしない。イライラする客さんを和ませるために、運転手は小話をした。


「余韻に浸る暇もねぇってのか」

「すいません。代わりに、帰ったらコイツを漬けますんで」

「お前が浸かってどうするんだ! 馬鹿にしてんのか!」


 帰り道。ナスよりは速かった為、客から暴言を投げられる時間は短くて済んだ。這う這うの体で帰って来た運転手達は、口を揃えて言う。


「今年は散々だった」

「でも、一つだけ良い事があった」

「なんだ?」

「アイツはお浸しにすると美味いって事が分かった」


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