走れ! オーボン・ホース!
8月中旬。死者達の霊を現世へと送り届ける組織『オーボンタクシー』はかつてない程の危機を迎えていた。
彼らの足であるマッハ・キューカンバーとキャンピング・ナスが恐るべき病魔。ネオ・うどんこ病にやられてダウンしてしていた。
「どうする。このままでは、皆を送迎することが出来ないぞ」
「代わりのショウリョウ・ウマを探しましょう」
この時期、旬を迎える野菜達を次々に当たった。トマトやカボチャが適さないことは誰もが分かっていた。必要なのは風を切って進む流線型のフォルムだ。
「オクラはどうでしょう?」
「体躯は小さいが、スピードを極めたかのようなフォルム。決めた、今年の送迎はオクラ・ロケットだ!」
期待を一身に背負ったオクラ・ロケットは迎え火目掛けて、猛進した。マッハ・キューカンバーを上回るスピードは制動すら許さず、直撃して香り高く、粘り気の強い煙を上げていた。送迎ではなく、葬芸と言わんばかりの有様だった。
「オクラは駄目だ。アイツらは制動が利かない」
「粘り強く付き合って行けば、何とかなりそうですが時間がありません」
「では、粒選りの存在を紹介します。トウモロコシです」
ガッシリとした安定感。ナスにも負けぬ重厚さは、どんな加速にも耐えられる。
期待を一身に背負って出立したモロコシ・バイクの加速力は良かった。しかし、風圧に晒され、全身の粒と一緒に運転手と乗客を弾き飛ばした。
「コーンなことになるとは思っていなかった」
「我々の見通しは、トウモロコシより甘かったのかもしれませんね」
「次だ! 次を用意しろ!」
「はい! トウモロコシは飛びやすいので駄目でした。今度は、しっかりと滑り止めが付いています。ゴーヤです!」
キュウリとナスを彷彿とさせる流線型のフォルム。もはや、この形に囚われているとしか思えないが、運転手達が執着しているので仕方がない。
背負う期待がやや薄れながらも、見送られたゴーヤ・ホースは速度も安定性も悪くはなかった。ただし、尻が痛くなるという苦情が相次いだ。
「今度こそは行けると思ったのに」
「苦い結果となりましたね。いよいよ、最後です。そう、最初からこれをすればよかったのです。キュウリとナスの相の子っぽい立ち位置! ズッキーニです!」
いい加減リアクションの種類も尽きて来たのか、現れたズッキーニに対して期待のまなざしを向ける者は誰も居なかった。
「今度こそは行けるんだろうな?」
「行けなくても、これかゴーヤしかありません」
苦渋の選択だった。ズッキーニ・カウに乗った運転手は、ナスの様な乗り心地に安心した。マッハ・キューカンバーよりは遅かったが。
「運転手さん、もっと急いでおくれ。向こうに居られる時間が短くなっちまうよ」
ボスボスと腹を蹴ってみるが、速くなる気配はなかった。
ナスよりは早い為、くつろぐには適さない程度の速さで現地に辿り着いたが、ゆっくりする暇もありゃしない。イライラする客さんを和ませるために、運転手は小話をした。
「余韻に浸る暇もねぇってのか」
「すいません。代わりに、帰ったらコイツを漬けますんで」
「お前が浸かってどうするんだ! 馬鹿にしてんのか!」
帰り道。ナスよりは速かった為、客から暴言を投げられる時間は短くて済んだ。這う這うの体で帰って来た運転手達は、口を揃えて言う。
「今年は散々だった」
「でも、一つだけ良い事があった」
「なんだ?」
「アイツはお浸しにすると美味いって事が分かった」




