一、
自身が、昔作成したウラノメトリアの灯台という詩を小説にしたもの。いつか、どこかに投稿するかもしれない。
Mei.といます。小説初心者ではないですが、小説家になろう初心者です。不定期更新(一週間に一回更新を目標に頑張ります)になると思われますが、何卒よろしくお願いします。
一、
ポワル、ポワルと耳奥で深い水音が鳴る。水面下の上昇気流は、浅いポロラド水溶液を巻き上げ、発掘された鉱石を光跡と映し取るように流動的だ。とある宝石鑑定士に吹き込まれて、うねりうねり、ぐるぐると発達を促す汽車の蒸気が水中に銀河をもたらす。二億光年ほど遠くだろうかに、梅雨前線と衝突した指先を通り抜けていく水粒。白熱灯にビリビリと痺れだした掌を押し付け、肺の中にアルミニウムの欠片達を吸い込んで隠した。
ドボンと、いう。白いアブクが立ち並ぶ。ぷつぷつと弾ける、肌の上の二酸化炭素有機酸水。ペタリと座り込んで動かない海底の27時を掻き分けて、黒い影が落ちてきた。青白い靄が水中に浮かび上がる。つっと、手を伸ばすと、黒い袖で見えない手の先が私を手繰り寄せた。
詞を発そうとも、ボコボコと呼吸がエタノールに燃やされていく。白い貝殻がカチリと音を立てたとき、私は一体何が起きているのかということもわからないままに、私の手を手繰っていた黒い何かに全身を包み込まれ、心地の良かったテラリウムから引き摺り出されてしまったのだった。
大きな太陽が目を焼いた。久方ぶりらしい本当の呼吸に、気管が詰まる。げほげほと咳き込みながら、ぼんやりと見上げた空は、オレンジの夕日に覆われ、培養された金属による炎色反応が右から左へ、奥から手前へ、縦横無尽に走り巡った。
びしゃびしゃに濡れた自分の身体を抱き締めるように踞る。もうじき夜が来るであろう可視化された飽和水溶液は、ドロップアウトした絵画のごとく、ただただただただ単調に淡々と迫り来るっているようだった。
「おい。」
そこで、自分以外の誰かの存在に気づいた。くるりと、後ろを前を横を振り返る。何処かまでへと続く一本道と、澄んだ小さな川のような池のようなものがひとつ。遠くに森林のようなものが見える。あとは、大それて立派すぎる赤々とした太陽が地平線をゆらゆらとしているに限った。それ以外、他には何もなかった。
「おい、そこまでキョロキョロしておいて、命の恩人が見えないのか?」
私は、その声が自分の目線よりも下から聞こえてきたことを悟った。
地面を、座り込んだままに見つめる。そこには、真っ黒な猫がいた。
「おい、自殺未遂をしておいて、無視か?」
そこで、私は漸く口を開いた。
「自殺、じゃないよ。」
ペタリと座り込んだままに。なんの変哲もないけれど私と同じようにびしょ濡れの猫を見つめる。液体窒素に封じ込めた幽霊が出てくるまでのカウントをする。そして、五秒後。理解したように頷いた猫は、ペロリと自分の肉球を舐めてから言った。
「じゃあ、どうして水の中に?しかも、俺が見たところ。お前は、浅瀬で溺れていたようだけれど?」
灼熱の黄燐が絶対零度の熱波を放った。私は、ふっと力を抜くと、ほんの少しの笑みを漏らした。
「落とされたんだよ。要らないものを捨てるために。でも、浅瀬で勘弁してくれたんだね。浅瀬でなければ、きっと溺れずに済んだのに。」
ふんっと、猫が毛並みを震わす。その顔の中で、唯一美しいアセチレンの塗り潰された瞳がぱちりぱちりと瞬きを繰り返した。
「もうじきで、夜になる。」
猫はすっと立ち上がると、私に先んじて歩きだした。
「ついてこい。」
砂金がバラバラと砕け落ちていく諸行無常の行いみたいな、蜂蜜を溶かして全部掬ってとろりと瓶に滴り入れるような不思議な感覚。
追いかける道理も権利もないが、私は揺れる尻尾目指して、濡れた体のまま、彼の後を追った。
家の近くの猫屋敷におる、丸々と太った白猫さん。あいつが、黒かったら…。そんな適当なインスピレーションから生まれた話です。あの白猫さん、自分が高校生の頃から一歩も動かず同じ場所で餌をむさぼってますが、年々丸くなっている気がしますね。