金の涙
むかしむかし、あるところに一人の少女がおりました。少女はお金持ちの家でとても甘やかされて育ち、やがて町一番のわがままで嘘つきで意地悪な少女になりました。自分より強い者にはあれが欲しい、これが欲しいとねだり、自分より弱い者にはそれをよこせ、これをよこせと奪い取るのです。
けれど少女の自分勝手な振る舞いを止める者はおりませんでした。もしも少女が親に告げ口をすれば、何をされるかわからないと怖かったのです。それくらい少女の父親はお金持ちで、権力も持っていました。
ある日少女はいつものように町をぶらつき、小さな男の子から奪ったキャンデーを舐めておりました。彼女のポケットには他にも、お菓子や玩具がたくさん入っていたのです。けれどもちろん、それらの本当の持ち主は彼女ではありません。
町を散歩するのに飽きた少女は、町から少し離れた場所にある森に出かけました。そこで少女は一人の男に会ったのです。男はとてもみすぼらしい格好をしておりました。それにとても痩せていて、少女に何か食べ物をくれるよう乞うたのです。けれど少女は相手が弱っているとわかると、冷たくあしらいました。
「あなたなんかにあげる食べ物なんてないわ。さっさとどこかへ行ってちょうだい」
少女がそう言うと、男はとても悲しそうな顔をしてもう一度食べ物を求めました。それでも少女は何も与えようとしませんでした。するとどうでしょう。男の姿はたちまち立派な魔法使いの姿に変わりました。そして彼は杖を片手に少女に呪いをかけたのです。
「この呪いが解ける時こそが呪いだ」
魔法使いはそう言い残すと姿を消しました。少女は自分に何が起こったのかわかりませんでした。呪いをかけられたものの、体はちっともおかしくありませんし声だってちゃんと出ます。それでも怖くなった少女は一目散に森から逃げ出しました。
町に戻ると、先程少女がキャンデーを奪った男の子の兄がおりました。自分だけでなく、弟までいじめられたことに兄はとうとう我慢できなくなったのです。兄は少女に向かって言いました。
「おい!いい加減に自分勝手な行動はやめろ!」
少女はその子を睨みつけました。少女は悪態をつきましたが、怒ったその子は少女を突き飛ばしました。しりもちをついた少女は泣きだしました。誰かに突き飛ばされるなんて、それが初めてだったのです。しかし突き飛ばした子は短く叫び声をあげて逃げ出しました。
少女の流す涙は、金だったのです。
「金の涙を流している、金の涙を流している。あのわがままで意地悪なあの子が、金の涙を流している!」
誰かがそう叫び、町中の人がそれを聞きました。すると人々は少女を泣かせて今まで奪われた分を取り返そうとしました。
人々が少女の金の涙でお金持ちになり、少女の家が町一番の貧乏になった時、少女の呪いは解けました。
少女が金の涙を流さなくなると、人々は少女を放り出しました。今まで散々金の涙を流し、呪いが解けてもう泣きたくもないはずでしたが、あまりの悲しさに少女は透明な涙を静かに流しました。
少女は今までの自分の行いを心の底から悔やみましたが、彼女の頬を伝うそれが金の涙ではないからと、誰も少女に手を差し伸べようとはしませんでした。呪いが解けた時こそが、本当の呪いの始まりだと、少女は魔法使いの言葉を思い出しました。
少女がお腹をすかせて町をさまよっていると、一人の男の子に出会いました。それは以前少女を突き飛ばした男の子でした。男の子は痩せこけた少女を見ると、何も言わずに一個のリンゴを差し出しました。町の他の人は上等な洋服を着ていましたが、その子の格好は以前と何も変わっておりませんでした。その子は少女の金の涙を奪うことなどしなかったのです。
リンゴを渡す男の子のその手に触れた瞬間、少女は声をあげて泣きだしました。
少女は男の子にこれまでのことを謝りました。そしてあんなことをしたのに優しくしてくれることに、心から感謝したのです。その姿を見た町の人々も、自分たちがどれだけひどい事をしてしまったのだと悔やみ、少女に謝りました。少女も自分の過ちを反省し、心の底から彼らにきちんと謝りました。
それからというもの、少女は思いやりを持ち、優しい少女になりました。町の人々とも仲良く過ごすようになりました。
そんな温かな町を、魔法使いもそっと微笑んで見守っていたのです。
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