20.弾丸の行方
「なぁ!!お前はこれでいいのかよ!!」
「命令ですので」
オレの言葉に、ただ義務的に返してナターリアと共に去っていったニーア。その顔は言葉とは裏腹に、苦虫を噛み潰した挙句に舌に塗りたくったような顔をしていた。
「どうしてこうなった……説明しやがれ!!」
バルコニーで立ち尽くしていたオレは、事の経緯を知るためにソーエンに掴みかかる。
「かくかくしかじか」
「それで流せると思うなよ。全部洗いざらい話せ」
「……分かった。――――」
オレはソーエンから事のあらましを全て聞いた。
なるほどな、そう言う事情があったのか。……でもさぁ。
「オレじゃなくても良くない?」
あらましを聞いた感想は、これしか出てこなかった。
「そうかもな」
「そうかもな。じゃないんだよなぁ。ねぇどうして!? どうしてオレを巻き込んだの!?」
「忠義を尽くすメイドにせめてもの安らぎをと思ってな」
「おめぇがそんな殊勝な心を持つわけないだろが!!」
コイツ何かオレに隠してるな。確実に何か隠してる。
クッソ。いつもだったらごねてこの約束を無効にするところだけど、ニーアの身の上話やナターリアの願いを思うと断り辛い。なにより、ソーエンがこの一件に加担してると思うと、親友としては無碍に出来なかった。
断りたい。でも断れるほどの理由がない。
「あーもうゥ!!分かったよ!! 三日後はオレが頑張ってやるよ!!その代わり金稼ぎとかプランニング付き合えよ!!」
急に王国に連行されたから、家に金置きっぱなしなんだよ!!
それにエスコートという立場を任命された手前、金銭に余裕は持っておきたい。そしてプランを立てられるほどオレは王国に詳しくは無い。なら、ソーエンに全面協力して貰うしかない。こいつが勝手に決めたっていう、責任もあるしな。
「出来る限り協力しよう」
「頼もしい返事どうもありがとよ」
「カレー」
「分かってるロロ!!気晴らし&リフレッシュに最適な提案だ!! 皆ついて来い、カレーで心と体を創造しに行くぞ!!」
オレはこのむしゃくしゃした気持ちをカレーで洗い流そうと思い、さっきにニーアから言われた調理場に行けという言葉を思い出しながら歩き出す。
歩きながら三日後のことを考えればいい。まだ三日ある。金は最悪冒険者ギルドで依頼を受ければ問題無く稼げるから、思考の比重はプランニングに。王都の店は分かんなくても、どんな傾向か喜ばれるくらいは考察しておこう。あんだけ言葉を交わしたんだ、趣向の断片くらいは汲み取れるだろう。ほとんど悪口だったけど。
そんなことを考えながら、バルコニーから王城に入りずんずん進んでいると、横で歩いていたソーエンが一瞬部屋の壁に眼を向けてすぐさま戻す様子が伺えた。
「はいストップ。ソーエン、今何見た」
「着弾地点だ」
「ちょっとよく分かんない。詳細を言え」
「大したことでは無い。ついさっき俺が放った銃弾があっただろ」
「あのニーアとナターリアの間に撃ったやつか」
「そうだ」
そういうとソーエンは何も言わずに、薄暗いせいで色彩が曖昧になってる壁へと歩き出す。だからオレは何も考えずに付いていく。
この場にはオレ達しか居なく、進む足音は静かな城内へと響き渡った。
コツ、コツ、コツコツと、ただただ平凡なソーエンの足音はその静寂に飲み込まれて消え去っていく。
「俺は未だに銃で手加減する方法を習得できていない」
「そうだね」
ソーエンはこの世界に来て以来、魔法銃の研鑽に励んでいたけど、どうにも魔法銃の威力を調節するに至っていなかった。
あまりに加減が出来ていないから、<叛徒>の特性の一つ、どんな武器でも装備することができるってもんを利用してソーエンの魔法銃を触らせてもらったけど、あれの調節は無理だ。
込めようと思えば、目一杯装填分の魔力が持っていかれ、手加減しようとすれば弾は発射されない。
現状でソーエンがやっている、威力は全く無くそれでいて派手に散るような射撃はオレからしたら神業なようなもんで、あれが出来るだけで相当精密な魔力の操作が出来てるって言っても過言ではない。
「それで、さっき撃った弾の着弾点がこれだ」
ソーエンが壁を手の甲でコンコンと叩く。
「……穴じゃん」
そのソーエンが叩いた壁には点と表現するにはおこがまし程の穴がえぐれていた。
「どうすんのよこれ。壁補修する方法なんて知らないぞ」
「だからさっき俺は見逃そうとしたんだ」
「そっちの方が後々問題になってただろうが!! ってかなんでこんな抉れてんの?手加減は?あの威力ない奴撃ったんじゃないの!?」
「言っただろう。ザレイトを倒した攻撃の内の一発だと」
確かに、さっきソーエンが銃弾を放ったときにそう言っていた。でも、あんなの比喩表現って思うじゃん。少なくとも一般人に向ける威力じゃないって。
てっきりそれは脅しで、あくまで威力無しの弾撃ったって思うじゃん。ザレイト戦では威力の低い武器使ってたけどさ。それでも十分威力強いんだから王城の壁なんて壊れるに決まってんじゃん。
「これ……どうすんの?」
「今から考えるしかないだろう」
壁を補修するために、床に座り込んでオレとソーエンがうんうんと頭を唸らせてると、見かねたロロが口から謎の鉱石を取り出してオレ達に託してくれたから、それで無理やり補修することにした。
鉱石を壁の穴に当ててオレとソーエンでがんがん殴って壁にフィットさせた。これならパッと見分からないだろ。良いフィット感だ。誰もここに穴が開いているなんて思わない。よし、これで万事解決。
その後、ロロに対してのお礼で、カレーを作ろうと調理場にお願いしに行ったところ、なぜか料理長なる人物がこの時間に一人で残って居て偶然にも貸してもらえたので思う存分カレーを全員に嗜なわせた。




