18.近衛メイドのニーア
「なんなのでありますかあの戦い方は!!はっきり言って失望したであります!!どうして他の方々のように正々堂々戦えないのでありますか!!」
「勝つために……」
「勝てれば何をしてもいいでありますか!?まるで悪者のようなことを言うのでありますね!!」
閉会式が終わった後、オレはコロロにそんなことを言われて割と傷ついていた。これが理不尽に怒られたならまだしも、涙目で言われたから言うに言い返せず、オレはただ「はい」と「ごめんなさい」としか返すことが出来なかった。その顔にはほんと弱いんだって……。
そんな傷心中のオレは同じ日の夜、城から町を見下ろせるバルコニーでソーエンと煙草を吸っていた。バルコニーは半円状で広い。適度に開放感があって夜を見渡せるから煙草が美味く感じる。
オレの肩にはソーキスが、ソーエンの頭にはロロが乗っている。
「大ブーイングだったんすけど?」
「廊下ですれ違う貴族から、漏れなく舌打ちを貰っていたな」
「フリー舌打ち過ぎて、時間が経つごとに環境音にしか聞こえなくなっていったわ」
「おにいさん以外は皆賞賛受けてたのにねー」
「認められた者と認められていない者の差が如実だったな」
「その比較、七対一の一の方に重きが置かれ過ぎてるんだけど」
オレ以外対オレ。
「だが、これで不当な輩から声を掛けられることも無いだろう」
「多分その分すらオレが引き受けてるからな」
確かにあの試合のおかげで、貴族達からオレ以外へ向けられる眼は変わった。それと同時に貴族からオレへ向けられる目も物凄く変わった。
具体的には、無礼な奴から史上最低なやつへ。
「トホホ……」
この傷心をラリルレに癒して貰いたいところだったけど、今女性陣は女子会を開いているらしく男性陣は女子部屋に立ち入り禁止となっていた。
その女子会にコロロも参加してるの。あんなことの後だから絶対に行けない。
ロロがソーエンの頭に乗っているのも、ラリルレから立ち入り禁止令が出されたからだ。……ロロって性別オスなのか?
「我はカレーを食したい」
「ボクも~」
「ナイス提案ー。確かにお互い一週間近く食べてないし久々に作るか」
カレーは腹も心も満たしてくれるし、心の傷もルーで埋めてしまおう。
「どこで作る気だ」
ソーエンの疑問の通り、ここは自宅じゃないから自由に使える台所なんてない。
王城の調理場を借りようにも、一般人を立ち入らせてくれるわけ無いだろうしなぁ。
「どこって……ここ?」
「そうか。俺の分も頼む」
よし、この場に居る全員がカレーを食うって決まった。早速調理に入ろう。
「ソーエン、なんか燃やせるもんある?」
「丁度有る」
ソーエンはアイテムボックスから薪をいくつか取り出す。
「せんきゅー。食材とフライパンはオレが持ってるからこれで準備オッケー……ん? なんで薪持ってんの?」
「夜間に猫に会いに行く際、冷える夜は火を焚くと周りに集まってきてな。それで俺の素材は黒で熱を吸うので焚き火の前に座っていると俺の膝や首元に――」
「はいはい、分かったわ。その話はカレー食いながら聞くから」
「そうか」
「ねーねー、早く作ってー」
ソーキスは待ちきれないようで、オレの頭を揺さぶってくる。
「待ってろ。今すぐ極上の食い物を作ってやるからな」
「ふへへー、カレーだー、たのしみー」
そう言うと、ソーキスはオレの頭から降りて薪の側にしゃがみこんだ。
オレはというと、ソーエンが組んだ薪に火をつけようとする。
……薪を組むのが異常に早いって事は何度も猫に会いに行ってたなこいつ。度々夜間に外出してたのは知ってたけどまさか猫に会いに行ってとは。オレは色町に行けないってのによ!! ……気を取り直して、火をつけるとするか。
「何をしてらっしゃるのですか?」
唐突に、この空間に居るはずの無い女の声がした。
声のした方を向くと、城からバルコニーへ出る扉の影から見覚えのある顔がひょこっと出ている。
「皇女様じゃん」
「やっほー、どもどもー」
「御機嫌よう」
ナターリアは扉の影から出てきて丁寧なお辞儀をする。後ろにはお付きっぽいメイドさんが控えていた。
「ナターリアか。今からイキョウが料理を作る、お前も食っていけ」
「いいね、食べていきなよ」
「……今? どこで料理をするおつもりで?」
「ここ」
「えぇ……それはちょっと……」
「あの、少しよろしいでしょうか」
ナターリアが困惑していると、後ろに控えていたメイドさんが一歩前に出てオレ達を見つめてくる。
「なんだ」
ソーエンがメイドさんの言葉に無愛想に言葉を返した。
「お初にお目にかかります。私はナターリア様の近衛メイドを勤めております、名をニーアと申します」
藍色で品のあるオカッパ、凛とした顔をしているメイドさんは名をニーアというらしい。見た目的にナターリアと年はそんな変わらんだろ。背丈も同じくらいだし。
モデル体系というか、凄い整っている。ぶっちゃけ好み。めっちゃタイプ。
でも……近衛メイドって何だ?
「どうも、オレ達は――」
「挨拶は必要ありません」
「そ、そう」
何か雰囲気が冷たい。ってかトゲトゲしい。
ナターリアの近衛メイド? っていうくらいだし、オレ達のことはどこかで聞いたのかな?
「お尋ねしたいのですが、この場で料理を作ろうと言い出した方をお教え願えないでしょうか」
「「「イキョウ(おにいさん)」」」
ニーアの問いに、仲間全員がオレの方を見て即答する。
全員察したのだろう。これはお説教が始まると。
「異議あり!!共犯だぞ!! コイツラ全員共犯だぞ!!」
「はー……。やはりあなたでしたか」
ニーアは盛大にため息を着いてから、凛とした冷たい目をオレに向ける。
「話し聞いて? 最初に食べたいって言い出したのは――」
「もういいです。理解しておりますから。あなたがそういう人だって言うのは」
ニーアが心底失望したような顔でオレを見る。
「何でそんな顔すんの? オレあんたになんかした?」
「何かされたわけではございませんが、私もあの戦いを見ておりました」
あの戦い。昼間に行った試合のことかな?
観客席には貴族しか居ないと思ってたけど、近衛メイドってくらいだし、ナターリアと一緒に観戦していたんだろう。
ってか、そもそも近衛メイドってなんだよ。
「戦いを見てオレの何が分かるってんだよ」
「下劣、卑怯、恥知らず」
「本当に試合見てたの?」
「見ておりました」
オレの問いに、ニーアがピシャッと答える。
どうやらニーアからの評価は最底辺らしい。ぶっちゃけ、こんなことゲームの頃から散々言われていたから慣れている。
貴族からもそうだったけど、メイドからですらオレの戦い方に最悪の評価が下されんのかよ。
「なんだよ。ただの冒険者が王国最強に勝つために、最善の手段を取ったのがそんなに悪いってのかよ」
「勝つためだったらどんなことをしてもいいのですか?あなたに相手を敬う気持ちはないのですか? なにより御前試合であんな戦い方をするなど、あなたに誇りというものはないのですか?」
「オレにそんな大層な誇りはないね。誇りを持って死ぬくらいなら、誇りを捨てて逃げる方がいいだろ。生きたもん勝ちだ」
「ふぅ……。あなたと話すだけ無駄ですね」
「話合いを放棄するなよ。お互い分かり合えないままで終わるぞ」
「いえ、もういいです。あなたの事は十分分かりましたから」
諦めの顔をしたニーアがオレに心底冷たい眼を向ける。
くっそ。見た目がいいからって調子に乗るなよ。
「くっそ。見た目がいいからって調子に乗るなよ」
おっと、思わず心の声がそのまま出てしまった。
「なんですか?お世辞ですか? やめてください」
「良かったわねニーア、美人ですって」
「お戯れを」
このメイド。自分が褒められたってのに一切反応しない。
良いよな。分かってるよ。ソーエンを身近で見てきたオレだからこそ分かってる。見た目が良い奴って、容姿を褒められるのがとても煩わしいらしい。
そんなことを思って、オレははっとする。
って事は、オレは失礼なことを言ってしまった。この女には多少むかついているけど、ソーエンの苦労を身近で見て来たオレだ。容姿に関しての発言はフォローしておこう。
「間違った、訂正しよう。あんたはどうしようもないブスだ。眼を向けるのも辛いくらいだ。早くここの場から消えてくれ」
「……お戯れを」
ニーアはオレを殺そうと言わんばかりの眼で睨んできてしまいました。
「おいイキョウ。あれは相当怒っているぞ」
わざわざソーエンがオレにチャットを使ってこそっと教えてくれる。
「言われなくても分かってる。今オレあの視線だけで死にそうだもん」
この反応……。自分の見た目にコンプレックスを持っているソーエンと違うじゃん。めっちゃ自分の見た目に自信を持っている人の反応じゃん。
「嘘、ホントはめっちゃタイプ。意地悪しちゃっただけでマジドストライク」
「そうですか。ありがとうございます」
そうですかと言って了承して、ありがとうございますと言って感謝したとは思えないような、とーっても鋭い眼をオレに突き刺してくる。痛いって錯覚するほど鋭い。
「不愉快なやり取りは止めましょう。
王城の中で火を焚くなんて非常識です。このことはキアルロッド様に報告させていただくので、あしからず」
まだ薪を持っているだけで火をつけてないのにそのことを見抜いてくるなんて、このメイドはなんて慧眼なんだ。
「どーして分かったのー?」
カレーが作れないって事が分かると、ソーキスはオレの体にまたよじ登ってきた。
「理解したのではなく推察したまでです。ソーキス様」
「現状を見れば誰だって分かるだろう」
「はい、当然のことでございますソーエン様」
「我はどうでもいい。早く極上を食したい」
「大変申し訳ごさいませんロロ様。王城で火を熾すといった危険行為は見逃すことが出来ません。どうしてもと言うなら王城の調理場をご利用ください」
「なんだよ借りれんのか。だったら今から行くか」
「あなたにあの料理長が貸すとは思えないけどね」
「あれ? 他と態度が違くない?」
他と比べて、明らかにオレへの接し方が違う。
ニーアは他の奴らとのやり取りでは見られない面をオレだけに押し出してくるな。
「あなたと違って他の方を私はとても尊敬しています。だからこそ私はあなたを許すことが出来ません」
まーたオレを殺そうと言わんばかりの眼でオレを見てくる。一つ文句を言ってやろう。
「ちょっとちょっと、ナターリアぁ。このメイド」
「ッ!!」
え、何急に。ニーアがどこからとも無く出したナイフをオレに向けようとしてくる。
ナイフの出所はエプロンの内側からか。暗器かよ。
体の動きと軌道的にはオレの喉元で止める気だろ。避ける必要ないか。
「ナターリア様を呼び捨てするとはいいご身分ね」
案の定、予想通りニーアはオレの喉元にナイフを突き立てて脅迫するような姿勢を取る。
ニーアはナイフを突きつけるために急接近をしたから、オレとニーアの体の距離は拳二個分くらいしかない。動き速いね。
ニーアの身長はオレより頭が一個分下だから、睨みつつの上目使いになる。……こんな殺意と怒りマシマシの上目使いなんて嬉しくねぇ。
「ニーア!!」
直後、ナターリアの声がバルコニーに響き渡る。
その声は、従者を収めるための注意ってより、今していることをやめてと言っているような懇願しているような声色だった。
「……申し訳ございません。この男の口からナターリア様の名が出るだけでも不愉快で、思わず……」
ニーアはナターリアの言葉を聞いて、しぶしぶと言った感じでオレの喉元からナイフを降ろしてナターリアの後ろに戻る。
「ですが、今の攻撃を見切れないようではキアルロッド様に勝つことなど到底叶いません。あの卑劣な勝利は偶然の産物だったのでしょうね」
このメイド、慧眼かと思ったが実は節穴かぁ?
「ニーアとか言ったか。お前、武芸の嗜みがあるのか」
ソーエンがニーアに問いかける。
「左様でございます。ソーエン様」
丁寧な所作をしながらソーエンの問いに答えるニーア。
目に見えて態度が違うじゃん。
「ナターリア。近衛メイドとはお前を守る為に居る者なのか」
「えっと、そうでもありますけど……他にも身の回りのお世話をしてくれたり、後は私の愚痴を色々聞いてくれたり……私に無くてはならない存在です!!」
「そんな……ナターリア様」
ニーアはナターリアに向けて最上の喜びと言った表情を向けた。
「近衛メイドとは近衛騎士とメイドの両方の役割を担っているのか」
「そうですね、それに近いですね。ニーアはこの国唯一の近衛メイドなんですよ」
「それはナターリア様が無理やりこの役職を作ったからで……」
「だって、ニーアじゃないと私グータラできないんだもの」
ナターリアは自信を持った表情で情けないことを言う。
二人の間に何が有ったのかは知らんけど、とっても仲がいいんだろうな。メイドと姫ってよりも友達のような距離感に思える。
「まったくもう……」
そういいながらニーアは満更でもない表情をナターリアに向ける。
「そうか。皇女の側近がその程度とはな」
「……何を……言いたいのですか」
一瞬ニーアが怒りの目つきをソーエンに向けてから冷静に言葉を紡ぐ。
その怒りは、自分がバカにされたからではなくナターリアの眼を馬鹿にされたことに対しての怒りだろう。
「いやなに。卑怯な手を使われ、偶然で負けるような騎士が最強の国だ。ならば、側近の実力も高が知れていると思ってな。このバカならば王国全てを敵に回しても問題ないようだ」
「え、やめてよ。そんな物騒なことしないから変なこと言うのやめて?」
「お言葉ですが、先ほどの私の攻撃を見切れないような輩が――」
「見切っていたぞ。だからイキョウは避けなかった。なによりキアルロッドの初撃をイキョウは避けていただろう」
「それは偶然か何かの産物であって――」
「話しにならんな」
「きゃっ!!」
「ぅわっ!!」
ソーエンはノータイムで魔法銃を取り出し、ナターリアとニーアの間に撃つ。
は? 急に何やってんのこいつ。
「お前何してんだよ!! 言葉で説得すんの諦めんな!!」
ソーエンの腕を知っている者だったら当たらないと分かっているけど、それでも人に向けてやっていいことじゃないだろ!!
「試したまでだ」
だってのにこのバカはやったことと釣りあわないくらいにさらりと平然と答える。
人に向けて撃ったけど、あのサキュバス騒動で放った信号弾のような威力が皆無のものを今撃ったんだよな? そうだよな?
それでも人に向けて急に銃を放つのは心臓に悪い。
「今何かが耳元で……」
「ソーエン様、一体何を……?」
至近距離で魔法弾を放たれた二人は、何が起こったか分からないようだ。
「見えなかったか。今のはザレイトを倒した攻撃の内の一発だ」
「ナターリア様に向かってなんてことを!!」
ナターリアが危険に晒されたと思ったのかニーアがソーエンに敵対的な眼を向ける。
そりゃそうだ。ソーエンの腕前を知らなかったらそうなるよな。
「案ずるな、絶対に当てない。だがな、イキョウならこの程度の攻撃見切っていたぞ」
「そんなことが」
「証拠だ」
ソーエンは降ろしていたかと思っていた魔法銃を瞬時にオレに向けて、弾を五発放った。
頭、右脇腹、右肩、左腰、左太股に銃弾が次々にオレに襲い掛かる。
「あっ、っぶねぇなおい!!」
「あわわわたたたたたべべべべべべ~」
回避する度にソーエスの声が振動して聞こえてくる、けど、一発も当たりたくないのでその声を無視して意地でも全弾気合避けする。
「そ、んな……」
この光景を見たニーアは、この事実を目にして驚愕の表情を向ける。どうやらニーアは俺の回避力に驚愕しているようだ。
「どうかしたの? ニーア」
ナターリアは、何が起こったのか分からない表情でニーアを見た。
多少武芸を嗜んでいるニーアと違って、ナターリアには早すぎるソーエンの射撃が見えなかったんだろう。
「分かって貰えたようでなによりだ」
ニーアの表情を見て、ソーエンはやる事は終わったといった声色で銃を仕舞う。
「え?え? 一体何が?」
この場で一人、状況が把握できていないナターリアが困惑の声を浮かべる。
「ナターリア様……」
ニーアが今起こったことを報告しようと、ナターリアに顔を向ける。
まったく。オレの凄さをようやく理解したか。その目で見たオレの凄さをナターリアに懇切丁寧に説明するがいい。
「ソ、ソー――」
まずはソーエンの銃弾のことからかな?
「ソーキス様が、ソーエン様の武器の魔力を吸収いたしました……」
驚いた声でニーアがナターリアに報告をする。
「おやぁ?」
思ってたのと違う。ここはオレの回避力の凄さを口にするところだろ? ニーアはオレの凄さに驚いてたんじゃないのか?
なんでソーキスのこと? と思ってソーキスを両手で持ち上げて、顔が見えるように掲げる――と。
顔が向き合ったソーキス、その口はモゴモゴしてた。
「何してんの、お前?」
「もったいないからーソーエンの魔力食べておいたよー」
「あっ、そう……勿体無かったかぁ」
「うんー」
「なぁニーア。今何について驚いてるの?」
「ソーキス様が……魔力を吸収したことについて……」
ニーアは信じられないといった表情でソーキスを見ている。
そっかぁ。こっちに向けてた視線って、オレじゃなくてソーキスに向けてだったのかぁ。
「珍しいの?」
「それはもう……ええ」
ニーア、驚いちゃってオレの質問にも素直に答えてくれてるよ。
「ソーキス、お前珍しいってよ」
「激レアー」
「激レアルロッドに続いて二人目だぁ」
オレは掲げていたソーキスをまた頭に乗せて元の位置に戻す。
「すまんイキョウ。失敗のようだ」
「大丈夫。オレも予想外の事態だから」
オレの身近には魔力吸収するやつ多いからもう何とも思わんけど、人間国家からしたら珍しいんだろうなぁ。
でも、逆に言うと身近なやつらしかオレは知らないし、どれくらい珍しいか聞いておこう。
「どれくらい珍しいの?」
「……私が知っている範囲ですと……ってどうしてあなたに教えないといけないんですか」
あちゃ~、一瞬真面目に考え込んだかと思ったら急に正気に戻っちゃったよ。
そんな混乱から正気に戻るほどオレのこと嫌ってるのか。
「私が知っている種族ですと……サキュバスくらいですかね」
オレの質問には、ニーアに変わってナターリアが答えてくれた。
サキュバスについては身近に居るから嫌でも知ってるのよね……。
「それ以外は居るの?」
「サキュバス自体珍しいですので、それ以外となると……思い当たりませんね」
サキュバスって珍しいんかい。家に二人も居るけど……。って思ったけど、サキュバスって催眠使うし、そりゃ発見例なんて早々挙がらんか。
「あの、ソーキスちゃんってサキュバスなんですか?」
まさかの穿った回答がナターリアから出てくる。
こんなところで、大昔に邪神と戦ったスライムだよ、ってなんか言えないし……。
「カフスの血縁だから特殊なんだ」
オレはだめ押しでソーエンに目配せをする。
「そうだ、ソーキスはカフスの血縁だ」
オレとソーエンは嘘をつく。
嘘だけど本人公認だから、このことについて怒られる事は無い。だから平気で嘘をつかせてもらう。
「…………えぇ!? スノーケア様の!? 申し訳ございませんでした!!」
「無礼をお詫びいたします!!」
急にニーアが膝を突き、ナターリアがお辞儀をする。
え、何急に。カフスの名前を出しただけで急にこれ?あいつ思ったよりもこの世界でお偉い人? ドラゴン?
「知らなかったとはいえとんだご無礼を!!」
ニーアは今までにないような焦った声色で言い放つ。
「スノーケア様の血縁とは知らずに抱き寄せてしまい申し訳ございませんでした」
ナターリアも真摯に謝罪をして来る。……これは真摯……な、はず。
「えぇ……」
「何だこの状況は」
「恐怖と畏れを感じる。愉快愉快」
ロロがソーエンの頭の上で触手をウネウネさせて小躍りをしている。
「今言ったことラリルレに言うからな」
「……不愉快不愉快」
ロロが触手を収める。ラリルレって言葉はロロによく効くなぁ。
「やめてよー。ボクそんなガラじゃないんだってー」
ソーキスはというと、頭を垂れている二人に向かって止めてと言っていた。
「ですが――」
「やめてー。ボクが疲れちゃうー」
「……そ、そうですか」
「……畏まりました」
ソーキスの適当な発言を受けてようやく二人は垂らした頭を上げる。その顔は神妙な面持ちだった。
今後は、ソーキスがカフスの血縁だって言い訳は迂闊に使わないほうがいいなこりゃ。王族すら頭を下げるんだから。悪用厳禁だ。
「ありがとねー」
「そんな、滅相もございません」
「あの、ソーキスちゃんとは先ほどのように接してもよろしいのでしょうか……」
「いいよー」
「ほっ」
ソーキスの言葉にナターリアは安殿の表情を浮かべる。
「あの…………なぜソーキス様のようなお方が、この男と行動を共に?」
ニーアの、ソーキスに対する評価とオレに対する評価違くない? って思ったけど、全然最初からこんな感じだったわ。ファーストコンタクトと今、何も変わってないわ。
「なんでー? んー、ご飯?」
いや、ソーキスの言ってること間違いじゃないけど、もっと色々あるじゃん。貪食王のことについては話せなくても、カフスがオレ達に託したとか、オレ達がお前に勝ったとかさぁ。
言い様によっちゃオレの株が上がるような言い方もあっただろ。
「「?」」
ほら。ご飯とか言っちゃったから、サキュバスやソーキスみたいに魔力がご飯になるような奴が周りに居ない人達は困惑しちゃうじゃない。
「え、っと。それは、この男の魔力がソーキス様の血と成り肉と成るという解釈でよろしいのでしょうか?」
「そー。そんな感じー」
「成る程……。この男は食のため……。全て理解いたしました」
ニーアは顎に手を当てて考え込んだと思ったら、全てを理解したような表情で顔を上げた。
「ホントに理解したの? 本人に答え合わせしなくて大丈夫?」
「大丈夫よ。悪かったわね、近衛食料の身に強さを説いてしまって」
「近衛食料って何!? 何一つ理解してないじゃん!!」
心底申し訳なさそうな顔でニーアからそう告げられるけど、その申し訳なさをオレは受け入れられないんだけど。
「さっきあなたに言った事は気にしないで。誰がコックに対して包丁ではなく剣を持てなんて言うのでしょうね。あなたはコック以前に食料だけど。お門違いも甚だしかったわ」
「人に向かって食料って言うのもお門違いだと思うけど? お前バカだろ?」
「は? ちゃんと教養を身に着けておりますが?」
「その教養の中に一般常識と礼儀は入ってなかったのかよ」
「敬意の無いものに振舞う礼儀などありません。ましてや礼節を欠いていて、あんな卑怯な手を使う格下の食料に礼儀を払うなど笑止千万」
「食料は置いといて、仮にオレが丁寧に振舞ってたら丁寧に返してくれた?」
「あの試合を見た後では絶対に無理」
今日起こった全ての出来事はあの試合に帰結している。どうして……そんなにダメなことだったのかよ……。分っかんねぇ……。
「良ければ私が教えましょうか? 常識と礼儀と戦い方を」
「言わせておけばこの野郎!!」
「野郎は男に使う言葉よ」
「じゃあアバズレクソビッチ」
「あなた……っ!!」
見た目が良いからってオレが引くと思うなよ。こちとらソーエンの女問題のせいで外見と中身を分離して接することに慣れとるんじゃい!!
こうしてオレとニーアの口喧嘩は幕を開けた。




