16.第三試合後
第三試合。ソーエンvsザレイト。いやー、悲惨と言うかあっけなかった。
ザレイトは、試合開始前に入場通路に引っ込んだかと思うと、巨大な盾を両手に装備して戻って来た。
もう第一印象は動く壁だったよ。しかも印象通り、ザレイトは両手に持った盾を隙間無くくっつけて構えてたから本当に動く壁だった。
キアルロッド曰く、ザレイトは四騎士の中で唯一防御に特化していて、何者も通さない、通称壁の騎士と呼ばれているらしい。
ちなみにスターフは爆炎の騎士、コロロは先代と同じく縦横の騎士と呼ばれているらしい。キアルロッドの通称を聞いたら、内緒って言われた。
壁の騎士。その呼び名の通り、ザレイトは試合開始直後から盾を隙間無く閉じて、そのまま突進を始めた。
でもなぁ、相手ソーエンなんだよなぁ。
あいつ、<空歩>使って飛んだ挙句、突進しているザレイトの背後に回って、空中から魔法銃の弾を凄まじい速度で連射してぶち当てたから、そのままザレイト吹き飛されちゃってリングアウトしちゃった。無慈悲が過ぎる。
さっきのラリルレといいソーエンといい、試合を速攻で終わらせたもんだから観客はずっとポカーンとしてる。
席に戻って来たザレイトは敗北しても尚何もしゃべらない。
それと入れ替わりに、キアルロッドはニヤッと笑ってすぐにリングへ向かった。あいつはどうやらヤル気マンマンらしい。
「まだまだ高みはあるのでありますね。感服いたしました」
「そうか」
すぐにリングに向かったキアルロッドを他所に、オレが席でちょちょいと仕込みをしていると、横でソーエンとコロロが話し始めた。
「ねえコロロちゃん……あのね、私達、その……勝っていいの?」
「えっと……? いいの、とはどういう意味でありますか……?」
ラリルレは質問の趣旨が言い辛いらしく、言葉を濁した。
「ラリルレが言っているのは、仮にも一国の最強戦力がたかが二十レベルの俺達相手に無様に敗北してもいいのかということだ」
濁した言葉を脚色なくストレートに伝えるソーエン。でも無様ってのはソーエンの言葉であって、ラリルレはそれを抜きにした意図で質問している。
「良い訳ではないでありますが、そこら辺の事情は王様が裏で根回しを……おっと!!」
慌てて口を押さえるコロロ。
「根回しがどうした」
「いえ、何でもないであります!! 本当であります!! それよりも個人的には、巨大な力に立ち向かいそれを退けるあなた達の姿。まるで勇者様みたいではありませんか!!」
「勇者様はカッコイイ人なんだね」
「騙されるなラリルレ、コイツは今何かを隠し話を摩り替え――」
「そうなんであります!!例えば第二章八節の勇者様が村娘を助けようと魔物の群れに飛び込むところとか、第五十章四十節の復活した四天王との決戦とか、何より第九十章百二節の魔王戦決着のシーン!!とってもかっこいいでありますよ!!魔力が切れ、聖剣もボロボロになっても尚折れない心と光る眼差し。何度でも立ち上がる姿は私の心の支えであります。訓練が辛いときとかに思うと私も何度でも立ち上がれて、でも、私的には普段の優しい勇者様もいいでありますけど、ピンチのときに見せる荒々しさがまたギャップと言うか、あとあと――」
「……ラリルレ、後は任せた」
「恋する乙女だよコロロちゃん!!」
人が仕込みをしてる間に、横では異様な盛り上がりが起こっている。
チラッと横目でコロロを見たけど、めっちゃ顔が煌いていた。あいつ勇者オタクか?
「……っし、準備完了」
他を無視して準備してたからスムーズに作業を完了できた。
「イキョウさん、何をしてたんですか?」
オレが立ち上がってリングに向かおうとすると、シアスタが質問してきた。
多分、今までオレの準備が終わるのを待っていたんだろう。
「勝つための準備」
「私見てましたけど……いや、いいです。なんでもないです」
シアスタは、オレが右手の指で挟んで持っている四つのビーカーをチラッと見た後、オレの顔に視線を戻す。
「おっ!? お前これが何か知ってるの!?」
オレは驚いて体を揺らす。でも、ビーカーの中に入っている液体はあまりゆれることが無かった。
「いえ、知りませんけど……。でも、その魔法で出してた液体が準備って言われてもふざけてるようにしか思えなかったので」
「んだよぉ……びっくりさせんなよ。そうだよな。よかったよかった」
「?」
ほっとしているオレを、シアスタは疑問の表情で見てくる。
「そんな危ない薬なんですか?」
「……薬じゃないし人体に害は無い」
「じゃあ何かの魔法が付与されてるとかですか?」
「……付与されてない」
「だったら――」
「おっとっとぉ? キアルロッドも待ってるみたいだし、さっさと行かなきゃなー」
オレはシアスタから逃げるようにそそくさとリングへ向かう。
このまま質問責めされても、この液体の正体は教えられない。ってか、教えたくない。後でラリルレに怒られそう。
「あっ、キョーちゃん頑張ってね!! ファイトだよ!!」
「うぇいうぇい、頑張るぅ、ラリルレに応援されたならめっちゃがんばりゅぅ」
「おや、行かれるのでありますか。キアルロッド殿には悪いでありますが応援してるでありますよ!!期待マックスであります!!」
「へいへーい」
後ろからの声援が黄色くて気合が入るわぁ。
辺りを軽くうかがうと、観客達は期待する視線をオレに向けて、試合が始まるのを今か今かと待っていた。それは王様も同じらしく、この会場にいる皆がオレを見てくる。
ラリルレとロロ、ソーエンのせいでこの会場のボルテージは今が最高潮らしい。
そりゃそうだ。王国最強と謎の無礼集団トリの試合が今から始まるんだから。
「もう良いのかい?」
「待たせたわ。準備に手間取っちゃって」
「いいってことさ」
そう応えながら、キアルロッドは青い槍を構える。
オレもそれに応じるように、左手に防御構えのダガーを、右手は四つのビーカーを指で挟んだ状態で背中に回す。
見るからに強そうな槍だ。キアルロッドは槍使いだったのか。……ん? 強そう?
「なあキアルロッド。さっきのスターフとコロロって、刃引きした訓練用の武器を使ってたよな?」
「そうだよ」
キアルロッドの解説でオレはそう聞いてた。ザレイトは盾使いだから刃引く部分はないけど、訓練用の盾を使っていたとか。
でも、今キアルロッドが持っている槍は何度瞬きしても訓練用には見えない。オレの目は何度瞬きしても、訓練用の槍とは思えない槍を視界に写している。
「その槍も訓練用?」
「ははは、細かい事は省くが……実戦用の武器だ」
「は? なんで?」
キアルロッドの雰囲気が、若干だけど変わった。いつもの雰囲気を保って入るけど、それでも鋭い闘志を向けてきている。
「少しばかり本気でやりたくなった。それに、四騎士がこのまま負けるって訳にも行かないだろ」
「ちょっと!? こっちレベル二十なんですけど!?」
文面上は、だ。能力値的にはレベル百だ。それでも一国の最強騎士が一般人相手に振るうもんじゃないだろ!?
「大丈夫って俺の勘が言ってるから大丈夫」
「それ自己完結じゃん……ちょっと王様ぁ!!」
「試合開始!!」
「あ゛あっ!!」
ずっと構え合ってたせいで試合開始しちゃったじゃん。でもリング上で言い争ってんだから一回止めろよ!!
しかし現実は無慈悲かな。試合はそのまま始まった。




