14.第一試合
イキョウがヌボーっと座って、ヌルッとした目で観戦をし始めたその戦い。
始まりを告げたのは王の声。それが会場内に響いたと同時にスターフは動き出した。
狙うはまず先頭に立っているソーキスだ。
スターフの考えている戦略は、まずソーキスを剣の柄で殴って崩し、その後シアスタ、最後に謎の双子を狙うというもの。
本気で行くと言っても相手は子供達なので、万が一のためにスターフは刃引きされた剣を使っている。しかしそれでも、手を抜くつもりは無かった。
(おいおい、全然動かないじゃんかYO)
スターフが接近するなか、ソーキスは狙われていると分かっているにも拘わらず一切の動きを見せない。ただそこに突っ立ているだけだった。
(恨むなよ坊や)
あっさりと接近を許したソーキスを、スターフは気絶させるのに足りうる力を使って殴りつける。が。
「っNA!?」
威力適切、クリーンヒットの一撃でソーキスは沈むはずだった。
しかし、そのソーキスはというと一切何の反応もせずにただただ立ち続けている。
それがスターフの想定を崩し、そこに一瞬の隙が生まれた。
「今です!!」
それを予想していたシアスタは、即座に合図を出す。
合図は双子へ。いつの間にか姿を消していた双子、誰もが何処に行ったのか分からない双子。しかしリリムとリリスは、シアスタの合図を受けて姿を現す。現した場所は――スターフの目の前だった。
「「<えなじーばーすと>」」
「oh!!」
<エナジーバースト>。このスキルは、魔力をそのまま撃ち出して衝撃を発生させる。
衝撃による攻撃。それによって鎧の上からでもダメージを与えることが出来る。
しかし、所詮は低レベルの攻撃。屈強な騎士のスターフにはあまり効果が無く、少しよろめくだけに終わった。
「まだまだ行くよー」
しかしそこへソーキスが仕掛ける。
スターフがよろめいている隙に、ソーキスは腕からスライムの触手を伸ばし、鎧の上からその身を拘束した。
一本が二本、二本が三本。触手の数は段々と増えていき、そしてついにはスターフの体全体を縛り上げる。
「珍しいスキルや魔法ばっかりだNA。びっくりだYO!!」
そう言いながらスターフは軽くもがいてみるが、粘液に覆われるように拘束されているため、単純な力だけではこの拘束から抜け出す事は叶わなかった。
「<アイスニードル>!!」
間髪置かずにシアスタが氷魔法を叩き込もうとする。牽制、そして攻撃の勢いを利用しながら、ソーキスが拘束したまま移動をし、リングアウトに持っていくのが目的だ。
観客はどよめいた。スターフが負けてしまうと思ったからでは無い。シアスタ達が予想以上の力を持っていることに対してどよめいているのだ。
観客達は知っている。スターフは伊達や酔狂で四騎士をやっているわけではない。四騎士足りうる力を持ってその座に付いていることを。だから負けるとは思っていない。
その力を示す証拠に、シアスタの魔法はスターフに一発も当たっていなかった。それどころか――ソーキスの拘束からすでに脱している。
なぜか、理由は明白だ。スターフはその二振りの剣で全てを切り裂いたのだ。
ソーキスの体は打撃や刺突に強い。だた、その柔軟さゆえ、斬撃で本体から切り離されるとどうしようもない。
地に足を付けたスターフはすかさず標的を変更してシアスタへ向かう。
先ほどの一連の攻撃の中で、シアスタだけが唯一スターフに傷をつけることが出来ると分かったからだ。
標的にされたシアスタは、瞬時に判断を切り替えて氷の壁を張る。
しかしそれは身を守るためではなかった。あくまでスターフの動きをワンテンポ遅らせるためのもの。
スターフはシアスタの予想通り、氷の壁を回り込む動きをする。
シアスタはスターフが回り込んでくる方向にも氷の壁を作り、時間を稼ぐ。
この戦いにおいてシアスタ達の勝利する方法はリングアウトしかない。だからそのために色々な作戦を考えてきた。始めは自分達で、そして最後はイキョウ達から少しの助言を貰って。そうやって自分達で考えた作戦は、今シアスタに無数の可能性を示してくれる。
シアスタが四方を氷の壁で囲み終わる間に、ソーキスと双子はスターフに接近していて、再度拘束を試みる。
スターフの体には、先ほどと同じ様にソーキスの触手が絡みつく。ただ一点違うところがあり、今回は双子がスターフの頭からエナジードレインをしている。
「OH? 何だこの感覚は……?」
なぜ最初からそれをしなかったのか。理由は、シアスタの魔法が双子に当たってしまうからだった。しかし、今回はシアスタは攻撃をしない。
シアスタは氷の壁を解除して、すぐさまスターフに魔法を繰り出す。
「<アイスバインド>!!」
氷のリングがスターフの胴体と足に巻きつき、スターフの自由を奪う。
今行ってるのは氷とスライムによる二重拘束と、双子による精神減退攻撃だ。
「このままリングの外へ!!」
「まかせてー」
ソーキスは、スターフを持ち上げてそのままリングの外へ運ぼうとする。
だが、再度拘束は簡単に破られた。
「これでもダメですかっ!!」
拘束時間は持って三秒。シアスタが今いる位置から外に運ぶには時間が圧倒的に足りない。
だからといって、リング端で戦っても、シアスタ達がリングアウトする危険性が高まるだけだった。
「やるNE君たち。リングアウト狙いか。堅実だ、大変よろしい。勝ちを掴み取ろうとする良い戦士達だ」
「まだ終わりじゃないです <アイスグラウンド>!!」
今度は移動を阻害するために、シアスタとソーキス周辺の足場以外を氷結の床で埋め尽くす。
次の作戦は、この凍った床を利用しシアスタの魔法とソーキスの触手による押し出しを狙うといったものだ。
その氷に埋め尽くされたリングを見て、観客は驚きの声を出す。
「ひゅー」
スターフは軽く口笛を吹く。それはバカにしたものではなく、賞賛の口笛。
「氷の精霊、観客歓声、これじゃおいらも負けられねー」
スターフが韻を踏む。そのさなかにも、シアスタの<アイスニードル>とソーキスの触手は迫っていた。これも嘲りではない、スターフなりの賞賛であり、自分と本気で戦った子供達への返礼であった。
「行くぜおいらの<ファイアーボール>」
スターフは子供に向けてではなくて、自分の足元に<ファイヤーボール>を撃つ。
(あいつも魔法使いかよ……)
離れて見ていたイキョウは、モヒカを見たときと同じ感想を心の中で突っ込む。
「ソーキスさんストップ!! 止まって下さい!!」
シアスタはスターフが足元の氷を溶かして自由を得たことを察してソーキスに止まるよう命じる。が、その指示を通すには後一歩遅かった。
「いい判断だ、だが一歩遅かったNE」
スターフは、迫ってきたソーキスの触手を掴んで自分に引き寄せる。
ソーキスは防御力は高くても筋力はそれ程でもない。だからスターフの力に逆らう事は出来ず、いとも簡単に引き寄せられた。
「うへー……お近づきー」
ソーキスはそのままスターフに捕まってしまう。
「キャッチ&リリース」
スターフは、そのままソーキスを振りかぶってカーリングのように氷の上を滑らせる。
その滑らせた方向。先にはシアスタがいた。
「ちょっと、待ってください!! ソーキスさん!!」
「むりー、止まれないー!!」
スターフの力によって勢い良く滑り出したソーキスは、そのままシアスタの居る地面の上も滑って、シアスタを巻き込んだまま滑り続ける。
「「わあああああああああああああああああ!!」」
リング上、この会場に絶叫が鳴り響いた。
「「へぶっ!!」」
止まらない、止まる事の出来ない二人はそのまま滑っていき、そしてそのままリングの外へと落ちる。
リング上に残されたのは、双子とスターフ。
「このまま続けるかい?」
スターフが優しく双子に尋ねると、双子は無言でスターフの足元、氷の床に座った。
「おしだし」「おねがい」「やさしく」「してね」
「懸命な判断DA」
双子のお願いをスターフは聞き入れて、軽く力を込め背中を押し出した。
「「わー」」
そして双子もリングアウト。――――今ここに、勝敗は決した。
「勝者、四騎士スターフ!!」
王様の声が決闘場内に響き渡り、第一試合は幕を閉じた。
* * *
「うぅ……」
リングアウトしたシアスタは泣きながらオレ達の元へ戻って来た。
悔しそうな表情をしながら俯いて、顔をぐしぐしと手で拭っている。……慰めればよかとですか?
「シアスタ」「ごめんね」
オレが慰めるかどうか迷っていると、双子がシアスタに抱きついた。
「ごめんねー」
ソーキスもシアスタの傍に居る。
……負けはしたけど、あんだけ頑張ったんだ。賞賛の一つくらい言ってもいいだろう。
「……よくやったと思うぞ」
「う゛ぅ゛っ!!」
「何で激しくなんだよ!!」
オレが精一杯の言葉を掛けるとシアスタはもっと泣き始めた。でも悔し涙だからセーフ。
「シアスタ」「ごめんね」
「私が、私がっ!!」
双子もそれに影響されたように涙目になる。ソーキスだけは相変わらずへらへらしていた。
四騎士共々、オレ達は子供達が悲しんでいる姿を見ていられなくなり、皆でシアスタ達を慰め始める。
良かったところ、感心したところ、凄かったところ。ありとあらゆる言葉を使って宥めようとはした……けど、それでもシアスタは泣き止まない。それどころか双子も本格的に泣き出してしまった。
スターフめっちゃ苦しそうな顔してるよ。でも目を瞑って拳を握りながらも何も言わないのは、この勝負の結果と子供達の感情を慮っての事だろう。現に、苦しそうな顔はしてるけど、我が子を谷に落とす親の気持ち的な奴で、子供達へ優しい厳しさを与えていた。スターフお前……自分も苦しいだろうに、それ以上に子供の思いを優先するってお前……。流石あのモヒカの兄だよ。
こんな状況でも、ソーキスは相変わらずへらへらしている。こいつってへらへら顔意外に表情もってねぇんじゃねぇだろな。
グスグス涙の状況、皆で慰めてる中、ようやくシアスタが声を上げる。
「また、負けました……ぐすっ……」
またって言うのは、ハイフィンドウルフの一件をさしてるんだろう。
子供達は昨晩一生懸命作戦を考えていた。勝つつもりで挑んだ。だから負けたのは悔しかっただろう。
このまま泣き続けられてはこの後の試合に集中できない。
どうやって泣き止ませようか考えていると――観客席からぽつり、またぽつりと声が聞こえてきた。
その声は、シアスタ達を賞賛する声であり、激励する声でもあった。
その声は段々大きくなり、ついには会場全体が子供達を褒め称える声で溢れた。中には、『私の領民にならないか』なんて貴族なりの褒め言葉も聞こえてくる。
シアスタ達にもその声は届いていて、その声を受けると泣きながらも顔を上げ、会場全体を見渡し始める。
「皆の者!!」
会場の盛り上がりがピークに達したところで、王様が立ち上がり大声を出した。
「あの小さき戦士達に、惜しみない賞賛を!!」
王様の言葉で、会場に居る全ての貴族が拍手をし始めた。
最初はあれだけ冷笑していた貴族達が、今は子供達を認めている。……って言っても、冷笑されてるのってオレとソーエンだけなんだけどな。正しくは、『子供と四騎士で勝負になるのか?』って疑問を抱いていた奴等を認めさせたって感じだ。
凄いな。コイツらはこんなに大勢の人の心を動かしたのか。
「うぐぅ」
子供達は泣きながら手を繋ぎ横一列に並ぶと、そのまま手を上げてお辞儀をする。
シアスタはまだ泣き止まない。だけど、もう顔は俯いていなかった。




