10.ダンスよりも飯
後半は宮廷料理長視点です
……………。
「何考えてるの? キョーちゃん」
「ちょっとバンダナのことを……ん?」
ラリルレに呼ばれて一旦思考を止めると、いつの間にか周りの景色は一変していた。
オレが皆に似合うバンダナを真剣に考えている間に、もう舞踏会の会場に入っていたのか。
「どーしてバンダナなの? それより、パーティだよパーティ!!」
パーティか。そう言われてもオレはただ腹を満たしに来ただけだから特に何の感動も無いんだよなぁ。
「コロロさん、舞踏会って何をすれば良いんですか?」
「そうでありますね。セレモニーも終わっていることでありますし……後は食べたり踊ったりおしゃべりしたり、好きにしていただいて大丈夫でありますよ」
ほえー。好きにしていいんだ。
「じゃ、オレ飯食ってるわ」
「ボクも行くー」
「えー、何でですかー。ダンス見てみましょうよー」
「勘弁してくれ、こっちは一週間近く何も食べて無いんだ」
「そっか。……ごめんねキョーちゃん」
ラリルレが申し訳無さそうな顔になってしまった。
「ノープロブレム。ラリルレ、ニコってして」
ラリルレにグッジョブを送ると、ラリルレは応えて笑ってくれる。
よし、これでオーケー。
「何でそれで生きてるんですか……」
そんでもって、シアスタからはドン引きされてしまった……。
「言い方が酷い。とにかくオレは飯食うから」
「俺も行こう」
「へーい」
「私達はダンス見てくるね」
「へーい」
オレ、ソーエン、ソーキスはラリルレ達から離れて、食事の出来るスペースへと向かう。
食事スペースは、料理が並んでいるテーブルと座って食べる用のテーブルが用意されていた。
テーブルに向かう途中、度々変な視線を向けられたけど、直接絡んでくるような輩はいなかったから全て無視した。皆さん品がいいですことね。
「おぉおお? 美味そうだな、すげー……」
料理が並べられているテーブルの前まで来ると、思わす声が出てしまった。
テーブルには日常生活ではお目にかかれないような料理の数々が並べられていて、オレの食欲を挑発して来る。
「バイキング形式なのは嬉しいなぁ」
「ビュッフェだろ」
「バイキングとビュッフェって何が違うんだ?」
「どっちでもいいじゃーん。早く食べようよー」
「そうだな。結局食うことに変わりは無いんだし」
オレ達はテーブルに置いてある空の皿を取って、早速料理を選ぶことにする。
色とりどりの料理、そして気品溢れる空間。今すぐ料理の乗っている皿ごとテーブルに持って行きたい気持ちを抑えて、ここは場に合わせて上品に皿に盛り付けるか。
肉、肉、野菜、肉、野菜、時々果物一摘みっと。
「出来た!!」
我ながら鮮やに盛り付けられたんじゃないか?
「見てくれ二人とも」
オレは自慢の一皿を見て欲しくてソーエンとソーキスの方に皿を向ける。――が、そこには両手いっぱいの皿とその皿に大量の料理を乗せている二人が居た。
「なんだその壊滅的なセンスは。そしてお前は腹が減って無いのか」
「小食ー」
「この場の雰囲気に合わせてみたんだけど……そんなガバっと取って良いの?」
「雰囲気よりも食い気だ。周りの有象無象などどうでもいい」
「何回も取りに来るのめんどーい」
なんだよ、必死に盛り付けたオレがバカみたいじゃん。
「もういい、こんなちまちました作業は止めだ。オレはあっちの端から料理を全部取ってくるから二人は反対側からよろしく」
さっきは空気に流されて盛り付けなんてしちまったけど、元々オレは腹を満たしに来ただけだったはずだ。二人もああいってることだし、さっさと喰らってさっさと部屋に戻ろう。
オレ達は各種料理を皿いっぱいに取り分け、食事用のテーブルに乗せていくという作業をせっせとこなす。
「なんだあいつらは……」「品のない方々ですこと」
その作業中何回か侮辱のようなのもを受けたけど、オレはお貴族様なんてもんじゃないしそんなこと知るか。
貴族を無視してオレは次々とテーブルに皿を並べていく。
料理を全て取りきってはいないけど、テーブルが一杯になっちゃったから一旦作業を中断して三人で食べることにした。
「うっま!!」
席に座り、すぐに目の前の料理に手をつけたオレは感動して声を出す。
何だこの肉、ぷるっぷるだぞ。そう、ぷるっぷるで味が染みてて……とにかく美味い。
「腐っても王城のパーティか。金の掛かっている味だ」
「そのレビューめッちゃ分かるわ。高級な味だよな」
「感想が貧相ー、でもうまうまー」
オレ達はこの世界で始めての高級料理を、遠慮なくガツガツムシャムシャと片っ端から腹へ詰め込む。
食べる度に舌が小躍りしそうなくらい美味い料理の数々だったけど、庶民派のオレとしてはジャンキーな脂っこいものも食いたかった。
何で上品な料理って味が透き通ってるんだろう。口に粘っこく絡み付いてくるのも美味いじゃないか。
でも、こんな料理二度と食べられないかもしれないし、今日のところは腹の中を上品で満たそう。
「卑しい奴らだな」
「あの男達の姿、舞踏会を侮辱しているとしか思えん」
「おや……? スノーケア……様……な訳が無いか。舞踏会に参加するなんてありえない。風体が多少似ているだけの他人の空似……かぁ」
「そうでしょうよ。髪も短い、緩い表情、なにより雰囲気が全く違う。一目見ればすぐに分かるでしょう」
「初めて見る顔の輩達だ。どこかの国の役人か?」
「いやいや、そんな訳無いでしょう。あのふざけた格好、どうせ武勲を挙げた冒険者とか、そんなところですよ」
「しっかし、よく食べる者達だなぁ。小腹が空いてきた……かもしれん」
周りから色々と好き勝手言われてるけど、直接手出ししてこない限りは無視だ無視。面倒ごとは起こさないに限る。
オレ達は手を休めることなく食事を続け、テーブルに乗せられていた料理は全て食べ終える。
「よし、第二陣行くそ!!」
「行くか」
「はーい」
まだまだオレの腹は満たされないぜ。それに高級料理の食べ放題だ、食べなきゃ損だろ。限界まで腹に突っ込んでやる。
「立ち上がったぞ」「おいおい、まだ食べる気なのか」
オレ達が席を立って料理の並んだテーブルに向かうと、周りからざわめきが起こった。
「ボク達注目の的だねー」
「悪目立ちとも言うな」
「そんなことよりも飯だ飯、次は何食おうか」
食べたのは全部美味しかったから次の料理への期待も高まるってもんだ。
だからまたオレ達はテーブルに張り付いて、料理を掻っ攫う準備をする。
「おいお前」
そんなオレ達の背後から、男の子供の声が聞こえた。
「おにいさーん、次あれお願いー」
「はいよ、んじゃオレとソーエンはさっき取ってない料理を持ってくから、ソーキスは食べて美味しかったやつをお願いするな」
「うへー、全部取らなきゃー」
「そこの女!! おいってば!!」
「女だってー」
ソーキスはバカにしたような声でけらけらと笑う。
そりゃそんな格好してたら間違うに決まってんだろ。無視しとけ無視しとけ。
「何笑ってんだよ!!」
突然、けらけら笑っているソーキスの肩を背後の子供が掴んで無理やり振り向かせる。
「もー、なにー?」
ソーキスは対峙してしまったので、オレも事の成り行きを見守るために振り向くとするか。
身体をゆるりと半回転させると、そこには金髪の男の子と、後ろに複数人の子供が立っていた。
「お前、名前は?」
ちょっと生意気そうだけど、かわいらしい子供の顔をした金髪がソーキスに名前を尋ねる。
「ソーキスだよー」
「ふんっ、可愛くない名前だな」
金髪はソーキスの名前を聞くと、すぐさま非難をして来た。
オレはいい名前だと思うんだけどなぁ。
そう思っているオレの横では、ソーエンが銃を取り出そうとしてやがる。
「やめろバカ。子供のいうことだろがい」
オレはそんな物騒なバカの手を叩いて止める。
ソーキスの名前を決めたのはソーエンだったから怒る気持ちも分からなくもないけど、そんなことで傷害事件を起こされても困る。
「そっちの変な格好をしたお前らは何て言う名だ」
えっ
えっ、この子急にこっちへ矛先向けてくんじゃん。
「このバンダナの良さが分からないとはな~まだまだおこちゃまだな」
「名前を批判したのもおこちゃまなりの感性だったからか。撃つのはやめだ」
オレとソーエンのかっこよさが分からないような子供に批判されても、痛くもかゆくも無い。
「貴様等、このお方を誰だと心得る!!」
後ろの子供が怒ってオレに言ってくるけど、初めて王国に来たオレが知ってるわけ無いだろ。
大方どっかのお偉い貴族の子供とかだろ。
「お前らはオレ達が誰だか心得てるのかよ」
「知ってるわけ無いだろ!! そんなことよりも、さっきの発言は取り消せ!!」
「取り消せっだってさー」
「ソーキスとやら、お前さっきから何がおかしい。ずっとへらへら笑いやがって」
金髪が話し始めると、周りの子供は大人しくなる。ずっとこっちを睨みつけてはきているけどね。
にしてもターン制会話バトルかな? ちゃんとこっちの言葉を聞いてから反論してくる。これが育ちの良さって奴か。
「ふへーそーゆー顔なのー。それよりも用事が無いならどっかいってよー。ボク早くご飯食べたいんだけどー」
「まだ食うつもりなのか!? 女の癖にはしたない奴だな」
「もー食べるのに女も男も関係ないでしょー。それにー」
ソーキスは急にスカートをめくって、中身を目の前の金髪少年に見せ付けやがった。
「ボク男だよ?」
「なにしてんだバカ!!」
性別の証明の仕方が大胆過ぎんだろ!!
オレはすぐさまやめさせるためにソーキスの頭をぶったたく。物理防御が高いから思いっきり叩いても問題ない。
「な、な、な――」
止めはしたが、目の前に居た子供達はソーキスのスカートの中をガッツリ見てししまったからか、顔を真っ赤にして驚愕している。
ってか、中にスパッツはいてたのかよ。ドレスにスパッツ、新しいファッションだな。
「――ハレンチー!!」
それだけ言うと金髪はどこかえ走っていった。
その跡を、困惑している子供達も着いていき、オレ達の周りは元通りになる。
「なんだったんだあれ?」
「さー、どーでもいいじゃーん。それより料理取ろうよー」
「そうだな」
子供達が居なくなったことだし、料理を取るのを再開するか。
幸い、さっきのスカート捲りはテーブルの影になっていたおかげで、他の奴らからは見られていないようだった。
その後はまた料理をテーブルに運び、オレ達は食べ始める。
周りからは相変わらず奇異の目を向けられたけど、さっきと同様オレ達に直接関わってくる者は誰一人として居なかった。
第六陣まで行ったところでようやくオレ達の腹は満たされた。
いやー、あれだけ食ってよく料理が尽きないな。王城の底力に感心しながらオレ達はテーブルで食休みをすることにした。
* * *
なんだ、なんなんだあいつらは……。
私がこの城の料理長に付いて以来初めてだぞ、こんな事は……。
事の始まりは、配給係りが調理場に戻って来た際に、料理を運んでも運んでも消えていくといった報告からだった。
私はそれを聞いたとき、配給係りが途中でこぼしてしまったことを隠すために嘘を言っているのだと思って思わず叱ってしまった。しかし、その後料理の運ばれていくペースがどんどん上がっていったので、彼の言っていた事は嘘ではなかったと思い知らされた。後で彼は謝っておかなければな。
何事かと思い、私が会場に見に来たのは正解だった。
私が目にしたものは、品も無く料理を喰らっている怪物共が居た。
料理は目で、鼻で、口で、歯で、喉で、体のありとあらゆる器官を使って味わい楽しむもののはずだ。だが、怪物たちは一心不乱に、食べること、腹に入れることしかしていない。
「ふむ……」
しかし、この高揚感はなんなのだろうか。
やつらに勝ちたい。やつらに目いっぱい食わせてやりたい。
長年料理人をしてきたから分かる。やつらは体全体を使って私達の作る料理を美味しいと言ってくれている。
上品な貴族とはまた違ったその表現方法は、私の心をくすぐらせた。
懐かしい。私がまだ子供だった頃は母親の作ってくれた手料理を腹いっぱい食べたものだ。その私の姿を見た母は自分の分も私に譲ってくれたっけか。たまには実家に帰って、今度は私が母に料理を作ってみようか。父には酒に合う物でも作って一緒に酌み交わすのも悪くない。
「……おっと、浸っている場合ではないな」
今はあの者達を腹いっぱいにさせることが先だ。
私は早足で調理質に戻って、見てきたものを他の料理人に伝えた。
「私は彼らに勝ちたい。皆、力を貸してくれ!!」
「そんな者達が会場に……やりましょう!!我々宮廷料理人の底力を見せ付けてやりますよ!!」
「いつも一所懸命、でも今日は限界を超えてみせます!!」
「「「「「おおおおおお!!」」」」」
「皆……頼もしい仲間達だ……」
食材は緊急用に余分に発注しているものと、備蓄があるので問題は無い。もし使いすぎて大臣に怒られたら私から謝って弁償しよう。だが、今だけは全力を、ありったけの力を出す。後の事など知らん。
さぁ、今からメニューの考え直しだ。
【お知らせ】
第一章第二部「ここはどこ?オレはイキョウ」に第一章の表紙を追加(4/28)
Twitterに、今後乗せるであろう挿絵のラフや完成品を置いておきました。
②にはネタバレが含まれているので、閲覧は自己責任でお願いいたします。
追加で、私のTwitterには18禁イラストも乗っているのでログを閲覧する際にはお気をつけください。
①ラフや完成品
https://twitter.com/tabunsorede/status/1387400413024899073
②終盤のワンシーンのボツイラスト
https://twitter.com/tabunsorede/status/1387400605358968839




