08.自己紹介と思い
「いや~お疲れ」
静まり返ったこの空間でキアルロッドが一番に声を上げる。
「キアルロッド殿は相変わらずでありますね」
「もっと緊張感を持ってくれYO」
そんなキアルロッドにコロロとアフロは苦言を呈していた。
「ははは、頑張るよ~。それより、イキョウ達はもう楽にしていいよ」
キアルロッドの言葉で、いつまで片膝をついていいか分からなかったオレ達はようやく普通に立ち上がる。
「っあー、疲れたわぁ」
「お疲れさん。どうだった? うちの王様」
「威厳感じる第一印象から、蓋を開けてみればお茶目なおっさんだった」
「言うね~。普段はもっと厳しいんだよ? イキョウ達がスノーケア様の知り合いだったからあんな砕けた態度だったけど」
「そうであります。あなた達は一体何者でありますか?」
「そうだYO。おいらも気になって仕方がなかったYO」
「……」
コロロとアフロから質問責めに会う。巨体の騎士は無言でフルフェイスをオレ達に向けているし、言葉に出さないだけで二人と同じことを思っているのだろうか。
「私達はね、カフスちゃんとお友達なんだ」
「カフス」「やさしい」
「普通は憚れることなんでしょうけど……友達です!!」
家の女性陣は惜しげもなく堂々と友達と言い放つ。
オレとしては、家にふらっと来てふらっと去っていくただの気まぐれドラゴンでしかない。
「友達!? あのスノーケア様とかYOo……」
アフロが驚きながらオレ達に質問をして来る。
「疑うならカフスに直接聞いてくれ。んでさ、オレ達はこれからどうすりゃいいんだ?」
大雑把に、王様から王城に泊まれとは言われたけど、この後どうすれば言いかは聞いていないから何をしたらいいのか分からない。
「折角四騎士が揃ってるし、俺達で王城ツアーでもするかい?」
キアルロッドは軽薄そうに他の騎士に向かって提案をした。
「お部屋にお通しするのが先でありますよ」
「おいらもそう思うYO」
「……」
キアルロッドと違って、他の騎士は職務に忠実なようだ。一人、ずっと無言の騎士も多分忠実なはず。
にしても……。
「なぁ、四騎士ってなんだ?」
度々耳に入ってきた、ずっと気になっていたことを聞く。多分、立場的に偉い騎士なんだとは思うけど。
「え゛っ、イキョウさん知らないんですか!?」
シアスタは驚愕の声を上げるけど、逆にそれ以外の面々はオレと同じような疑問を持っているような顔をしている。ゲーム組に加えて双子やロロ、ソーキスも知らないようだ。
「おお? イキョウ以外も知らなかったのかい。俺達のことって国外じゃ意外と知られて無いのかな?」
キアルロッドはオレ達の顔を見て少し驚いてる。もしかして、四騎士って言葉は知ってて当然の知識なのだろうか。
「ん~、自分で言うのも恥ずかしいけど教えてあげる。王国四騎士ってのは、王国騎士団の武力上位四人が任命される名誉ある地位。だからここに居るのは王国の最高戦力みたいなものだよ」
「ほえー。じゃあキアルロッドって結構強いんだ」
その割りに全然覇気を感じないんだけど……。
「そこそこね」
「何を言ってるのでありますか。キアルロッド殿は歴代で最強と謳われているのでありますよ」
「うーん、そういわれてもオレ王国騎士よく分からんからぴんと来ないな……そうだ、レベルは?」
レベルであらゆる強さを知る事は出来ないけど、一つの指標にはなる。
「百三十」
「……えッ!? むっちゃ強いじゃん!!」
さらっと答えたキアルロッドの言葉を聞いてオレは驚愕する。この世界に来てから初めてレベル百を越えている奴を始めて見た。
「驚くのも無理ないYO。レベル百越えなんて、世界で数える程しか確認されて無いからNA」
それくらいしか居ないの? キアルロッドマジでめちゃくちゃ凄いじゃん。激レアじゃん。激レアルロッドじゃん。
「激レアルロッドすげぇな……」
「……え? イキョウ今何て言ったの?」
「なあなあ、二百越えって居たりするのか?」
「今はいないGA、遥昔に一人だけ存在していたらしいZE。戦う者なら誰もが知ってる、あの水晶の開発者SA」
レベルを見る水晶のことか。てっきり、あんなもんを作るくらいだから研究者みたいな姿を想像していたけど、バリバリの武闘派だったらしい。
にしても、開発者は自分のレベルを参考にしてあの水晶を製作しやがったな。だから上限が三百になっちまってるんだ。
「コロロちゃんのレベルはどれくらいなの?」
「私は七十二でありますよ、ラリルレ殿」
コロロはラリルレの質問ににこやかに答えた。
コロロも普通に高い。絶影と同じくらいか……えっ、絶影ってほんとに何者なんだよ。王国四騎士の一人と同じくらいの強さだぞ。
「ついでにおいらも紹介しちゃうYO。おいらはスターフ、レベルは七十五だZE」
このアフロはスターフって言うのか。……にしても、こいつ見覚えある気がするんだよなぁ。具体的にはアステルの冒険者ギルドでなぁ。
「スターフってさ、兄弟居たりする?」
「いるZE。おいらは長男、下に次男」
お? これは、もしかしたらもしかするかも知れない。
「次男ってどこに住んでるの?」
「アステルSA」
弟ってことは男だろ、そしてアステルに住んでる。だったら弟ってのはフローの可能性が高い。でも、アフロだからって決め付けるのはよくないし、もうちょっと捜りを入れよう。
「冒険者やってる?」
「YES」
フローは冒険者をやっている。やっぱりフローが弟なのか?
「平和の旗印ってパーティを組んでるZE」
フローだ、やっぱりフローに違いない。
「名前は――」
フローだろ。フローだよな?
「モヒカDA」
「なんでだよ!! どう見てもフローが弟じゃん!!」
髪型で人を決めるのは良くない事かもしれないけど、どう考えたってモヒカンが弟よりもアフロが弟の方が筋が通るだろ。ってか兄弟揃って髪型ァ!!
「フローはおいらのアフロブラザー、モヒカとおいらは血のブラザー」
「じゃあキンスは?」
「飲み友達だZE」
「平和の旗印と仲いいんすね……」
「子供の頃からよく一緒に遊んでたからNA」
「そっすか……」
平和の旗印って幼馴染で組んだパーティーだったのかよ。まさかのところで平和の旗印について詳しくなってしまった。
「おいらの紹介、どうだい、理解?」
「おなかいっぱいになったわ。で、最後の騎士さんは?」
「……」
「え? 無視?」
大男の騎士はオレの言葉に一切反応しくれず、そのフルフェイスに覆われた顔は背後の子供達に向けられていた。
「ごめんね。こいつの名前はザレイトて言うんだ。別にイキョウを無視した訳じゃなくて、物凄い無口な男なの」
「なるほど……」
「ほれ、ザレイト。自分で話せ」
「……ザレイトだ。レベル八十」
ザレイトは微動だにせず言う。一切動かないから、まるで鎧が飾られているようだ。
……そしてどうやらこれで話しは終わったらしい。
「あっ、ども」
「俺達の紹介も終わったことだし、キリが良いからそろそろ移動するか~」
「そうだったな悪い悪い。オレ達の事は部屋についたら話すよ」
そういえば、四騎士が部屋に案内しようとしたところでオレがそれを止めてしまったんだった。
その後オレ達は、四騎士の案内で城内にある客人用の部屋に向かうため、キアルロッドの後にぞろぞろ付いていった。
城内は広く、歩けど歩けど似た景色が続くので、四騎士の案内がなきゃ迷ってしまいそうだ。
移動中、家の女性陣とコロロはなんか後ろでキャッキャしていて、楽しそうだった。
でもオレはというと、ソーキスがいつの間にかザレイトの背中に乗っていて、いつ怒られないかとずっとヒヤヒヤしていたせいで道中何を話したのか覚えていない。
そんなヒヤヒヤしていたオレをよそに、いつの間にか客間に到着する。
「この部屋と、一個隣の部屋を使ってくれ。部屋割りは任せるよ」
「え、あ、ああ? そうだなぁー……女性陣と男性陣で分ければいいだろ」
「二人と五人かい? そうなると、この部屋は四人用だしもう一部屋手配することになるなあ。あ、水槽も必要か」
「いやいや、丁度半々に分かれるから大丈夫」
正確には四人と三人+一匹になるだろうけど。
「ん?」
キアルロッドは疑問の顔を浮かべて、オレ達全員の顔を見直す。
やっぱりソーキスが男って気づいてなかったのか。ってか、さっき王の紹介で弟って言ったじゃん。よく聞いとけよなぁ。
「キアルロッド、こいつね男」
オレはザレイトの上に乗っているソーキスを指差しながら教える。
「は?」
「えっ!?」
「oh」
「……」
オレの言葉で騎士達がザレイトの上に乗ってるソーキスを見て驚愕する。
「えっ、本当?」
「マジマジ」
「……そっかぁ。さっきの弟って聞き間違いじゃなかったんだ……。まぁ、アステルだし……」
キアルロッドは自分を納得させるように言葉を発する。
最後の言葉、納得の材料になるの?
「よしっ。とりあえず中に入ってくれ」
キアルロッドは自分の疑問と折り合いをつけ終わったらしい。
入れと言われたから部屋の扉を開けて中に入ると、四つのベッドとでかいソファーが備え付けられていた。
その部屋の広さに感動していると、キアルロッドがソファーに着くように促してきたためオレ達は素直に座ることにした。
と言っても、三人掛けのソファー三つに全員は座れないから、オレは双子を膝に乗せながらソーエンとラリルレと一緒に座り、シアスタとザレイト、その上にソーキス、で、オレ達の向かい側に残りの騎士が座った。
……なんでザレイトは怒んないんだろう。
「さてと、じゃあそろそろイキョウ達のことを教えてくれ」
「そうであります。スノーケア様とお知り合いの冒険者だなんて、気になって気になってうずうずしてたでありますよ!!」
「そう期待されても面白いものなんて何もないけどなぁ」
「いや~、大分面白い面子だと思うよ?」
そう言ってキアルロッドは双子とタコを見る。
「見られてるし、双子から始めちゃうか」
「「はーい」」
双子が手を上げて返事をする。
「わたしたちは」「にんげん」「リリムと」「リリス」「ねんれーは」「じゅっさい」「レベルは」「十五」
双子ももう十五なんだよなぁ。
今子供達はぐんぐんレベルを伸ばしてきている。偉い偉い。
「どうして交互に話すんだい?」
「わたしたちは」「ふたごだから」
「そっかぁ、仲いいんだね~」
「人間が空を飛ぶのでありますか?」
「まぁ~……アステルだしね」
「YES」
「……」
「そうでありました」
何か勝手に納得されたけど、双子の正体を隠す手間が省けたからいいだろう。
「そのまま子供組から続けて行ってくれ」
「はい。私の名前はシアスタと言います。氷の精霊で、レベルは二十です」
「へー、双子ちゃんもそうだったけどその年でそのレベルは凄いね」
「むふー」
「精霊を見るのは初めてであります」
「まぁ……アステルだしね」
「YES」
「……」
あれ、精霊ってそこら辺にいるって前にシアスタが言ってたよな? あれってアステル限定の話だったのか……。
「次ボクー。ソーキスって言うんだー。種族は内緒、レベルは十八だよー」
「何で内緒なのでありますか?」
「カフスとの約束ー」
「それなら仕方ないでありますね」
「まぁ~、おおっぴらにドラゴンだ何て言えないだろうしね」
あ、勝手に勘違いしてくれてる。完全人型のスライムはこの世界では珍しいらしく、正体は内緒にするって決めていたから、双子と一緒で隠す手間が省けた。
残る子供はラリルレだけだ。でも、そのラリルレはまだ口を開かない。
「どした? ラリルレの番だぞ?」
「え? そうなの?」
「だって、最後の子供はラリルレじゃん」
「!! むー、私は子供じゃないよ!! もう十七歳の立派なオトナだよ!!」
あー、ラリルレのこれほんと好き。心の底から安心できるわ。
「「「「!?」」」」
「なんで皆私を見るの!?」
「い、いやぁ。何でもないよ?」
「そ、そうであります。なんでもないであります」
「なんでもないこの見つめ合い」
「……?」
わあ。ザレイトまで小首傾げてるよ。
「ごめんなラリルレ、ちょっとした冗談なの。久しぶりに会ったからふざけたかったの、許して」
「なんだぁ、そうだったんだ。そうだよね、私もキョーちゃんとお話したかったもん」
多大な幸福感と少しの罪悪感が心で入り乱れる。
「せっかく私が注目されてるから紹介しちゃうね。私の名前はラリルレ、ドライアドでレベルは十五だよ」
ラリルレの言葉を聞いた四騎士はドライアドの身長について話し合っていたけど、珍しい種族なため誰も結論が出ず、ついにはドライアドは低身長という答えを無理やり出していた。
「そして、こっちがロロちゃん!!」
「ロロだ」
「……やっぱり、謁見の間で聞いた声は幻聴じゃなかったのか……」
「私も最近は疲れていたのでそう思っていたでありますよ……」
「OMG」
「…………?」
四騎士はそれぞれ困惑するリアクションを取った。
「ロロって言ったか。あんたの種族はなんだい?」
「ラリルレと同じだ」
ロロはさらっと適当なことを言う。
んなわけねぇだろ。もっとマシな嘘をつけよ。
「……レベルは?」
おっと? キアルロッドはこれを綺麗にスルーしたぞ。
「ラリルレと一緒だ」
「……スノーケア様の客人じゃなかったらなぁ……」
キアルロッドは頭を抱えて項垂れる。
なるほどなぁ、だから今まで不審な答えをしても深堀して来る事は無かったのか。それほどまでにカフスの客人ってのは影響が大きいんだな。さすがはアステルの王だ。
「まさか、イキョウとそっちのフードの兄ちゃんもぶっ飛んだこと言わないよね?」
「んなわけない。オレの種族は由緒正しきただの人間だ」
「俺はデイウォーカーだ」
ソーエン……お前まだそれ引っ張ってたのかよ……。
「二人とも人間か……」
オレ達の言葉を聞いて、四騎士ほっとした顔をした。
見事にスルーされたソーエンは不服そうな眼をしていたけど、このくだり何回もやってんだろ。いい加減学習しろよ。
「っと、勘違いしないでくれ。今安心したのは親近感みたいなもので、別に嬢ちゃん達を警戒したりしてるわけじゃないんだ」
「大丈夫ですよ、分かってますから」
「そう言っても貰えると助かるよ」
キアルロッドでこの反応か。やっぱり王国で子供達を野放しにするのは危ないな。
「イキョウのレベルは?」
「オレは……二十」
「あの蹴りでそのレベルでありますか……?」
オレの蹴りを受けたコロロは訝しげな眼でオレを見てくる。
こっちにも色々ややこしい事情があるから説明できないんだ。
本当はレベル三百二十のところを、同行の指輪をつけているせいでステータスがレベル五十並に下がっていて、おまけに水晶の表示では下二桁の二十を表示しますなんて説明できるわけ無い。
思い返すとオレ達の事情ってややこしすぎない?
「ふ~ん……そっちのにいちゃんは?」
「名はソーエン。レベルは二十一」
「……ふ~ん」
キアルロッドは何かを言いたそうにオレ達を見てくるけど、その何かを言ってはこなかった。
オレも追求されたところで答えられない質問をされても困るから、その何かを追求する事は無い。
「ま、いいや。誰しも秘密の一つや二つはあるもんね」
「何のことだよ」
「いいっていいって、皆まで言うまい」
「そーかい。これで話は一旦終わりか?」
「そうだね~、確認したいことも終わったし。あ、そうそう。イキョウ達さ、五時には自分の部屋に居てね」
「なんで?」
「ご飯の時間だからだよ」
「なるほど、分かった。それまでは自由でいいんだよな?」
「何か急かしてきてない? まあ、自由っちゃあ自由だけど……。俺達も五時まで暇だし、お話でもしよ~よ」
王国騎士って仕事無いのか? でも、今はそんなことより。
「自由って言うなら好きにさせてもらうぜ。なぁ……ソーエンよぉ」
「……さらば」
ソーエンは何かに感づいて即座に部屋から出て行きやがった。
「あ!!てめぇ!! 逃がさねぇからなぁ!!」
オレはその後を速攻で追いかける。
「えぇ、何事ですか……」
「なんだろうね? 二人とも久しぶりさんだから遊びたいのかな?」
背後からはシアスタの困惑の声が聞こえてきたが、そんなの気にしない。
だってオレにはやらなければならないことがある。
オレはさっきの続き。ソーエンの積年の恨みを晴らす、ただそれだけのために王都を飛び出すことになった。




