07.ソーエンへの溢れんばかりの思い
双子とソーキスと一緒に四人で馬車の椅子を堪能していると、いつの間にか城に到着していた。
キアルロッドが馬車のドアを開けて降りるように言ってきたから、オレはふかふかを惜しみながらも仕方なく降りる。
「うおー……でっけー」
馬車を降りて目に付くもの。それは城しか無かった。右を見ても左を見ても前を見ても城、城、城。この景色だけで、どれだけ王国が力を持っているか分かるくらいに巨大で立派な城だ。
アステルに城なんて無いからこの世界に来て、いや、人生で初めて生の城を見た。こんなに迫力があるものなのか。
「ははは、そう感動してもらえるとこの城も守りがいがあるってもんよ」
「なぁ、やっぱりキアルロッドって」
「はいはい、それは後。とりあえず行くよ~」
ノラノラとキアルロッドが進んでいくのでオレ達は仕方なく後をつける。
城門を抜け、城に入ると全面が鏡なんじゃないかと錯覚するくらいにピカピカに磨かれた床と壁、カーペットが目に入る。
これが……権力か……。
天井には豪華なシャンデリア、壁には絵画、通路にはよく分からない高そうなツボ。これ、どれか盗んで売れば、当面は金に困らないんじゃないか?
そんな邪な心を持ちながら廊下を歩くと、メイドさん達が次々に頭を下げてくる。だからオレも思わず軽く頭を下げてしまう。
「イキョウは腰が低いね~」
その姿を見たキアルロッドは飄々と言ってくる。
「あんましこういうの好きじゃないんだよ」
「こういうの?」
「一方的に丁寧な対応をされるのが嫌なんだ」
このメイド達に、オレは特に何をしたわけでもないのにお辞儀をされる。
作法だから仕方の無いことなんだろうけど、それでもオレは敬われるような人間じゃないからテキトーに接して欲しい。そっちの方が気楽だ。
でも、それは叶わないようだからこっちもお辞儀を返して、せめて対等な立場になっておきたい。
オレが人の上に立つなんて性に合わない。
「あ~、そう言う奴ってたまに居るよね~。大抵そう言う奴って、自分に自信が無いかこズルイ奴か、過去に後悔する様な経験をした奴が多いんだよね~」
キアルロッドはオレを値踏みするような眼で見てくる。
なんだろう。理由は分からないけど、こいつ、オレの事を探ろうとしてんな。
何を期待してんのか知らんけど、そんな眼を向けられたて素直に話すと思ってんのか?
ってか、そもそもオレに後悔するような過去は無い。
「何? オレの護送に興味なかったくせに急に積極的になるじゃん」
「いや~、手紙とさっきの……ま、いいや。イキョウが王国に来てくれて本当良かったよ~」
こっちが逆に深堀しようとしたら、感づかれたのか急に感謝の言葉を吐かれて逃げられた。
そっちが逃げるならオレは追わないけどさ……。思ったよりもあっさり引かれたな。どうにも食えない奴だなぁ。悪い奴じゃないんだろうけど……。
「それより、嬢ちゃん達は肝が据わってるね。王城に来ても堂々としてるんだもん」
キアルロッドは、オレの両脇に飛んでいる双子と、オレの肩に乗っているソーキスに話しかける。
話題を変えたってことは、さっきの事についてはお互いに詮索はやめようってことか。
しゃーねーなぁ。オレは空気が読める男だから手打ちにしておいてやるよ。
「わたしたちは」「おにいさんがいれば」「あんしん」「おちつく」
「わかりみー」
双子はオレに引っ付きながら、ソーキスは相変わらずオレの頭にもたれながら答えるけど……。
それってどうせ、何してもオレが全部責任を取るからだろ。
「ははは、にーちゃん信頼されてるね~」
「いろんな意味でな」
信頼は信頼でも、尻拭いとしての信頼だからな。素直に喜べない。
「そんな信頼されてるにーちゃんだから、お仲間も朝一に手紙を届けに来たんだろうね」
「へー、あいつらが」
さっきキアルロッドが言ってた手紙って、ソーエン達が持ってきたのか。
……。
「なぁ、オレの仲間って今どこにいるか知ってる?」
「さぁ? 多分謁見の間の前で待機してると思うよ?」
「ふーん。じゃあ、謁見の間ってどこ?」
「あの階段を上って、右に曲がって進めば謁見の間だよ」
「そう。サンキュ」
広い王城とはいえそれなりに歩いていたから、謁見の間とやらの近くまで来ていたようだ。
いや、そんなことどうでもいい。
今は一刻も早くソーエンに会いたい。言えなかった事、話したい事、伝えたい事、やりたい事。この連行されている数日間でソーエンへの思いは膨らむ一方だった。さっさとぶちまけてやりたい。
「オレさ、先に行ってもいい?」
「ま~いいけど、迷子になんないでよ?」
「大丈夫。目印があるから」
オレは<生命感知>使ってソーエン達らしき反応を捕らえる。
「またあの反応が……」
「じゃ、先に行ってるから!!」
オレは全速力でダッシュをする。
早くソーエンに会いたい。その一心で。
「おおおにににさささんんんはははやややいいいよよよ」
ソーキスはオレの背中に引っ付いていたので声を震わせながらオレに文句を言ってくる。
「だったら今すぐ降りろ」
「いいいやややだだだ」
「おにーさん」「はやーい」
いつの間にか双子もオレのことを掴んでいて、オレに付いてきていた。
どうやら、このまま行けば久々に仲間が大集合するようだ。
「舌噛むなよ」
階段を駆け上ったオレは、そのまま右に曲がり通路を直進する。
その通路の先には見知った影が見えた。
ああ、あれは、仲間達の姿だ。
ソーエン、シアスタ、ラリルレ、ロロ。約一週間ぶりだ。特にソーエン、お前には感動が有り余る。
オレが歓喜に打ち震えながら廊下を全力で駆けていると、ソーエンもこちらに気がついたようでとっさにオレの方へと視線を向け始めた。
「ソーエン!!」
オレは全力疾走の勢いを一切殺さずにソーエンに駆け寄る。この思いをぶつけるために。
「イキョウ……ッ!?」
どうやらソーエンもオレの思いを理解しているようで、とっさに構えの姿勢をとる。
「よーくもオレの前に堂々と姿を現せたなぁ!! ここであったが百年目じゃオラァ!!」
全速力の勢い、オレ+双子+ソーキスの質量、積年の恨み、全てを掛け合わせてオレはソーエンへ飛び蹴りを放つ。
許せるわけが無い。オレをこんな状況に追いやった原因を。
ソーエン、この思いを受け入れやがれ!!
超速で放った飛び蹴りはソーエンの顔面に向かって放たれる。
――――が、完璧に捉えたはずの蹴りは、謎の影が割り込んできて、そいつが持っている盾でいなされた。
「何をするでありますか!!」
その影にオレは叱責を受ける。
誰だァ!! オレの激情をせき止めやがった奴はよぉ!!
「これはこっちのセリフだ!! 邪魔すんな!!」
やるせないまま着地したオレはその影に目を向ける。
そこには、剣と盾を持った由緒正しき騎士のような装備をしている女がいた。
金髪で短いポニーテール。発育のいい体、何より女騎士……これは。
「イキョウ、お前の言いたいことは分かる」
「やっぱ? 殺して欲しそうだよな」
怒りは怒り、これはこれ。今はソーエンの言葉に答えるしかない。
見た目だけは完璧なほどに、オークに負けそうな女騎士がそこにいた。コイツ、あの怒りの蹴りを止めるなんて只者じゃないな。
「何を言ってるのでありますか!?」
オレの蹴りをいなした奴はオレ達の言葉に驚いている。
「それよりもソーエン、よくオレの前に顔を出せたな」
これはこれ、怒りは怒り。言うべきコメントを言い終えたオレは、ソーエンへとまた話題を戻す。
「勝手にお前が出てきた。言わせて貰うが、その姿で凄まれても迫力が全く無い」
ソーエンが言うその姿とは、子供達に引っ付かれている姿だろう。
「ちょっとお前ら一旦降りろ。そしてソーエンは外見じゃなくてオレの中身をよく見てくれ」
「断る。お前の中など碌な物ではない」
ほんわか空間じゃなく、この怒りに燃える炎をよく見て欲しい。心の内にある激情を見やがれ。
双子とソーキスはオレの言葉に従って降り、傍にいたラリルレの方に移動した。
「キョーちゃんは優しい人だよ? 中も外もとっても優しいもん」
双子とソーキスを抱き締めながら、ラリルレはオレの中身に付いて優しい言葉を掛けてくる。
ダメ、言わないで。全然優しくなくても、ラリルレにそんな事を言われちゃうと優しくあろうとしちゃうから……。
「やめてラリルレ。今そんなことを言われるとオレの炎は鎮火しちゃう」
ラリルレの慈愛の心を真っ向から受けると、大体の生き物は安らぎを得てしまう。
邪神だって穏やかになっちゃうくらいの温かさだ。だが、ラリルレには悪いけどオレの炎を消したくは無い。
この約一週間、理不尽な苦労をするハメになった原因を目の前にして、許すわけには行かないのだァ!!
「ねえ、優しいキョーちゃん。よーく見て」
ラリルレは自分の後ろに居るシアスタを手で指す。
「見なくても分かるよ、シアスタだろ? ……!?」
シアスタはシアスタだった。あんな白い存在を見逃すはずが無い。
でも、シアスタは泣いていた。オレが唯一逆らえなくなる状態のシアスタだった。
「あ、ごめん!! 急にソーエンに蹴りかかってびっくりしたよな!!」
「怒ったり謝ったり、忙しい人でありますねこの方……」
シアスタは興奮すると体が溶けて涙になる。今も、悲しいから泣いているわけじゃない。びっくりして泣いてるだけだ。それは分かっててもどうしても泣いているって思うと謝らずにはいられない。
ぐおおおぉぉぉぉ。
「どうしてイキョウさんはソーエンさんに蹴りかかったんですか?」
泣きながらも表情は普通のシアスタに質問される。
多分、シアスタとラリルレはソーエンから何かを吹き込まれて、オレが自分から教会に身を捧げたとでも思っているのだろう。だから蹴りかかった理由が分からないんだ。
ラリルレの安らぎ、シアスタの涙、このコンボでオレの心はどうしても激情が治まってしまう……。
「……じゃれあいです」
「じゃれあいにしては威力と殺意が――」
「じゃれあいです」
オレの一撃を流した女騎士が余計なことを言いそうになるけど、封殺する。
「ソーエン」
オレはソーエンに今回の事は一旦流してやるからオレの話しに合わせろと、今の言葉だけで伝えた。
「……今のは俺とイキョウのじゃれあいだ」
「えぇ……お二人のじゃれ合いって過激ですね……」
「それだけ久々に会えて嬉しかったってことなの……」
「私もキョーちゃんに会えて嬉しい!!」
ラリルレがオレの手を掴んでぶんぶんと振ってくる。
温かい。これが温かみ……仲間の心がオレの手を伝わってオレの体に染み込んで来る。
これが慈愛。これが救済。
「神はここに居たのか?」
「我のことか?」
「ちげーよ!!」
ラリルレの頭に乗っているロロは、邪神だからあながち間違いじゃないけど、オレの言っているのはラリルレの事だ。
「それで……あなたは何者でありますか?」
今まで傍観していた女騎士がオレに尋ねてくる。
今日はよく何者と聞かれる日だなぁ。
「オレはコイツらの名ばかりパーティリーダーだぞ」
「名ばかり……? あっ、申し送れました、私はコロロであります」
「オレイキョウ。よろしくね」
「ご丁寧に、こちらこそよろしくであります」
オレが握手を求めると、コロロは返してくれた。こいつ多分良いやつ。
そして声も良い。明朗快活そうなのに、耳に透き通ってくる。聞いてて飽きない。
どうやらキアルロッドがオレ達を案内をしたように、コロロもソーエン達を案内していたようだ。
「ちょっとちょっと、速いよ~」
オレが挨拶を終えると、キアルロッドがのろのろと通路を歩いてこちらに向かってきていた。
いくらオレがダッシュで向かったからってキアルロッドの到着は遅すぎだろ。どんだけゆっくり歩いてきたんだ。
「キアルロッド殿」
キアルロッドの姿を見たコロロが軽く手を上げて挨拶する。
「よぉコロロ。他はもう中に居る?」
「はい。揃っているであります」
どうやら謁見の間にはオレ達だけが入る訳ではないらしい。
「ねーねーキョーちゃん、私達王様に会うんだって。作法とか大丈夫かなぁ」
「ある程度はキアルロッドが取り計らってくれるらしいぞ? 適当に畏まっとけば大丈夫でしょ」
「そっかぁ。王様に会うならもっとオシャレしてくれば良かった」
「ラリルレはそのままでも可愛いのにもっと可愛くなれるの? 最強じゃん……」
「んふふ~、、キョーちゃんって褒め上手だねぇ。嬉しくなっちゃう!!」
「事実」
「真理」
「摂理」
オレの言葉にソーエンとロロも続いてコメントする。
だよなぁ。お前等分かってんじゃん。
「またこのお三方は……」
そんなオレ達をシアスタは呆れた目で見ていた。
「ほら、揃ったしちゃっちゃと入るよ~」
そしてそのまま、緊張感の欠片もない状態でキアルロッドが謁見の間の扉を開いてしまった。
作法を知らないと言っても、ある程度の礼儀はわきまえているので気持ちを切り替えて失礼の無いようにしよう。
豪華な扉が開かれると、豪華な部屋が姿を現す。
石造りの壁と柱、複数のシャンデリア、白と金を基調とした広い部屋の奥には段差の上に見るからに高そうな椅子が置かれていた。これも……権力か……。
ただ、オレ達以外は誰も居ない。部屋自体は無人。
オレ達はキアルロッドの後ろを付いて歩き、玉座の前まで来たところで足を止める。
「んじゃ、ここで片膝付く感じで待っててね」
そっか、王様は初めから居るわけじゃないのか。ゲームとかだと、王様みたいなNPCが動くことは無いから最初から居るんだと勘違いしてしまった。
オレ達はキアルロッドの言う通りに方膝を付いて待機する。
前にゲーム組、後ろに子供達が並ぶ。
ロロは……ラリルレの頭から降りないけど大丈夫だろうか。
「俺達は王様呼んでくるからそのまま待機してて」
そういうと、キアルロッドとコロロは玉座横にある扉から部屋を出て行ってしまった。
「なぁロロ。床に降りない?」
「断る。我は頭を下げるつもりなど無い」
「そう……」
まぁ、この姿を見てもキアルロッドは何も言わなかったから大丈夫か。
ロロに確認をとったのも束の間、玉座横の扉が開かれ、騎士四人と一人の男が入ってくる。
騎士四人のうち二人はキアルロッドとコロロだった。他の、アフロの男は知らん顔……アフロ? 多分知らん顔だ。もう一人はフルフェイスだったから顔が分からなかった。ただ、フルフェイスの男は周りに比べて背丈が大きく、フルプレートと相まって威圧感が凄い。
騎士装備では無い男は、赤いロングジャケットの中にぴっちりとしているVネックを着て、足に張り付くようなパンツを履いている。
ああいう、脇がクルンクルンしてる髪型ってなんていうんだろう。でも、りっぱな白髪っすね。
騎士は玉座とオレ達の間に、クルクル髪の男は玉座の横に立つ。
「これより、王が入室される。くれぐれも無礼を働くことのないように」
クルクル髪の男が偉そうにオレ達に命令をしてきて、その後王が入室することを大声で宣言した。
王様のことをじろじろ見るわけにも行かないので、頭を下げてじっと待ことにしよう。
「おもてを上げよ」
おお、この言葉生で聞くことになるなんて。
オレはちょっと感動しながら頭を上げると、長くてブロンド髪の厳格そうなおじさんが玉座に座っていた。
赤いローブと煌びやかな衣装は着ているだけで威厳が溢れそうだ。
……おもてを上げたあのはいいけど、誰も喋らない。これってオレから何か言ったほうがいいのか?
「……えっと、こんにちは」
無難な挨拶でもしてみるか。
「そこの冒険者、王に向かってその口の聞き方はなんだ?」
玉座横の男がオレをジロリと睨む。どうやら不正解だったようだ。
「よい、キアルロッドから話は聞いている。楽にせよ」
楽に……楽にってどのくらい楽にだ?
ボイスチャットでソーエンとラリルレにこっそり相談しよう。
「楽の度合いなんて分かんないんだけど、どれくらいが楽だと思う?」
「普段カフスに接しているような感じだろう」
「そっかぁ、あいつも一応アステルの王様みたいなもんだしな。あんがと」
「ソーちゃん頭良いー」
「照れる」
「何をこそこそしておるのだ」
ボイスチャットしているオレ達の声を聞いて王が訝しげな声を上げる。
これ以上こそこそしてても不審がられそうだし、結論も出たから密談は終了だ。
「相談してたんだよ。楽にしろって言われても分かんないんだもん」
「……貴様ぁ!!何だその態度は!!」
オレの言葉を聞いて、玉座横の男が大激怒しちゃった。
「なんで!? 楽にしろって言ったじゃん!!」
「限度があるだろ!! 楽にしろと言われて本当に楽にするやつがあるか!!」
「カフスはこれで良かったの!! 怒るならオレ達を勘違いさせたカフスを怒れ!!」
「貴様、スノーケア様まで!!」
「はっはっはっ、よいよい」
怒る男を笑っている王様が宥める。
王が良いって言ってんだからこの対応で正解か?
「ですが!!」
「よいよい、よいのだ。……お前、打ち首な?」
「は?」
王様が椅子に片肘を付きながらオレを指差して打ち首宣告をして来る。
その顔はとても良い笑顔だった。
「教会も王も揃いもそろって打ち首大好きかよ!! 気軽に首飛ばそうとしすぎだろ!!」
「反抗するというのか? 余の命令であるぞ」
「文句しかないんだけど!! オレ、曲がりなりにもあんたの言葉に従っただけなんだけど!!」
「王をあんた呼ばわりだとッ! ?ありえん、なんだこの無礼な男は!!」
「無礼っていうならどれくらい楽にして良いかの基準を教えろよ!! こちとら謁見初見なんだよ!!」
「初見といえど思い切りが良すぎではないか?」
「だってカフスの楽にしてはマジで楽にしてよかったんだよ!! 初めてであんなこと言われたらそれが規準って思っちゃうじゃん!!」
オレ、王、男の三人で問答が繰り広げられる。
視界の端ではキアルロッドが笑いを堪えている姿が見えた。
「貴様ぁ、即刻処刑台に上がらせる!! 覚悟しておけ!!」
怒り心頭の大臣。
「はははっ!!もうっいいんじゃない? ふふっ、王様」
その様子を他所に、キアルロッドがついに堪えきれずに笑い出した。
お前ずっとニヤニヤしてたもんなぁ!!
「ククッ、そうだな。さきほどのは軽い冗談だ。大臣も溜飲を下げよ」
なーんか王も笑い始めたぞ。
死刑を冗談で宣告するなよ。
「ですがっ!!」
「なに、カフス殿の書状通りの男か試したまでだ。我が身のために激怒した大臣の姿、余はとても嬉しかったぞ」
「我が王……!!」
大臣と呼ばれた男は王の言葉に感動して、涙を流し始めた。
「下がってよいぞ大臣。顔を洗って来い」
「感謝いたします我が王」
ハンカチで顔を押さえながら大臣は扉の奥へと消えていった。
「えぇ……」
何この茶番劇。アステルと言い王国と言い、王には皆あんな感じになっちゃうの?
「はっはっはっ、して、本題に入ろうか」
「勝手に話を進めないで貰いたいんだけど。カフスの書状って何?」
「知らんのか? 朝方、そなたの仲間が我が城に持ってきたものだ」
「なんも知らないんだけど……」
「お前を救出するため、この国の王に一筆書いて貰った」
ソーエンがオレに教えてくれる。
「その手紙に、イキョウという男は賑やかな奴だと書いてあってな。つい試してみたくなったのだ」
「王様めっちゃお茶目じゃん…」
「なに、あのカフス殿がそう書いたのだ、気にならない訳が無いであろう。普通ならばこのような態度は許さぬが、カフス殿の知り合いとならば大目に見よう」
あっちから吹っかけてきたのに許すとか、横暴だろ。
それにしてもカフスって一体どれだけ凄い存在なんだろう。王様に手紙を書くだけでオレを救出させたり、王様から殿付けで呼ばれたりしている。立ち位置的にアステルの王みたいなもんだし、他国の王と対等な存在なのだろうか。
「大目に見るといえば、オレはもう無罪ってことでいいんだよな?」
「もちろんだ」
「っしゃおら!! これで自由の身だぜ!!」
「おめでとう」「おにーさん」
「やったー。久々の家だー」
「ソーキスは先に帰ってていいぞ。オレはやることあるから王都に残るけどな!!」
帰りたい気持ちは山々だけど、折角王都に来たんだ。オレは仲間捜しをしたい。
「えー、おにいさんも帰ろーよー」
「……先ほどから気になっていたのだが、そちらのカフス殿に似ている子供は一体……?」
そうか、カフスの顔を知っている王様からすればとっても気になる存在だろう。
なにせ髪色と髪型以外は瓜二つだからな。
「ボクー? カフスの弟みたいなものー」
へらへら笑いを王に向けながら身分を明かすソーキス。
一応ソーキスの扱いはカフスの弟と言うことになっている。これはカフスと一緒に決めたことだから本人からもそう名乗ることを許可されてる。
「カフス殿の? 弟が居たなど聞いた事はないが……」
「ほら、カフスって口数多くないし、聞かなきゃ答えないことも多いから。あいつたまに過程をすっ飛ばして結論言うこともあるし」
細かい事を詮索されないように適当にごまかしておくか。
「はっはっはっ!! 確かに、確かにな!!」
王様はオレの言葉を聞いて急に大爆笑する。
あれ? オレ、そんなに面白いこと言っちゃいました?
「初めてだ、カフス殿をそんな風に言う輩は!!」
確かになぁ、アステルでもカフスに自然体で接するのってオレ達くらいだったけど……。でも、そんなに笑うことか?
「王が……あれほどまでに笑うなど……うぅ!!」
顔を洗って戻って来た大臣は、また泣き出して扉から出て行った。
「何この城……」
良くも悪くも緊張感のない王城だな。それだけ平和で豊かな国ってことなのかもしれない。
「はっはっはっ、クク、んん゛。……して本題に入るが」
爆笑していた王様は、咳払いをして自分を落ち着けると話を本筋に戻してくる。
「キアルロッドから話しは聞いた。そなたが枢機卿を捕まえたのだな?」
「そうそう。枢機卿が黒幕ってことでいいのか?」
オレを救出しに来たキアルロッドは、黒幕が分かったと言っていた。そして今の王様の口ぶりや、なにより枢機卿がやったことなどを考えると、この結論しか思い浮かばない。
バカなオレでもこれくらいなら分かる。
「そうだ。此度そなたを救出したのは、カフス殿からの願いもさることながら枢機卿が全ての元凶だったと分かった事の方が理由としては大きかったのだよ」
オレの救出は枢機卿捕獲のついでかよ。
「もちろん、枢機卿が元凶と分かったのはそなたが協力してくれたおかげだ」
「……」
協力した記憶無いんだけど。強制的に協力させられたんだけど。
でもこれで教会の企みは防げたし、なによりオレの罪もといラリルレの過ちが清算されたし万事解決だ。
オレからしたら教会の件はあっさり終わった気もするけど、王国は時間をかけて相当念入り調査をしていたようだしオレがそんなことを思うのはお門違いか。
ただ、一瞬キアルロッドの顔が曇ったように見えたのは……気のせいだろう。
「よって、無罪にすることとは別に、特別に褒賞を与える」
――今王様は何て言った?
ほーしょー。ほうしょうって褒賞でいいんだよな? 褒賞ってことは褒賞が貰えるんだよな?
待つんだオレ。最近の出来事を思うと、そんなうまい話が簡単に転がり込むとは思えない。しっかり確認しよう。
「褒賞って、例えば?」
「そうだな……此度の件に見合ったものを用意しよう」
好条件のような気もするけど、まだだ。まだ具体的な物を聞いていない。見合ったものなんてふわふわ言葉を真に受けていられるか。
「具体的には?」
「騎士団との手合わせとかどうだ?」
「お、いいね~」
なんでそれが褒賞になるんだよ。あと、なんでキアルロッドは乗り気なんだよ。
「出来れば金とか金目の物とかでお願いしたいんスけど」
「金か……先ほどイキョウは王都に滞在するようなことを口ばしっておったな。ならば、そなた等全員、一ヶ月の滞在料の免除と宿泊費の負担というのはどうだ?」
マジかよ……オレ、こんなまともなもの貰っていいの? 今までオレが何かすると決まって碌なものを得られなかったのに、今はとんでもなくまともな対価が用意されている。
でも考え直してみれば、今回の件ってオレが自主的に動いたわけじゃなくて巻き込まれたようなもんだよな。ならこの結果は妥当なものなのか?
「皆、いいよな? オレ、この褒賞受け取ってもいいよな? この条件で問題ないよな?」
ついつい動揺してしまってオレは仲間に同意を求めてしまう。
「ああ。これならば問題はないだろう」
「キョーちゃんが良いなら私も良いよ。キョーちゃんが一番頑張ったもん、頑張ってくれたもん。ありがとキョーちゃん」
「ラリルレがそういうなら我も同意する」
「私もいいですよ」
「いいよ。おにーさんと」「いっしょにいられるなら」
「んー、みんながいいならいいよー」
凄い……!! 今日始めてオレの行いが皆に認められた気がする。すっごく達成感がある。今回ばかりは自分の身を犠牲にして良かった。
騎士共と王が、喋ったロロに視線を向けていることなんてこの際どうでもいい。
「王サマ。褒賞はそれでお願い致します」
「喋るタコ……アステルにはそういう者も集うのか……? ……ふむ、良いだろう。では後ほど手の開いてる者に町を案内させる。その際に宿泊先を決めるが良い」
「宿泊代の上限などはおありますですしょうか王サマ」
「なに、カフス殿の友人だ。糸目はつけんから好きに選ぶが良い」
その言葉を聞いて、オレは思わず小さくガッツポーズをしてしまう。
オレがした事に対して提示された褒賞は至れり尽くせりだ。アステルにいた頃はこんな素直な報酬貰ったことが無い。
お言葉に甘えてとびっきり高い宿を取ろう。そしてサービスやオプションも利用しまくろう。
「ただ、今日は王城に泊まって行け……そうだな、滞在場所を王城にするというのはどうだ?」
「え?いいんすか? マジのマジ?」
町の宿なんて目じゃないくらいの宿泊先を王様から言い渡される。
「よいぞよいぞ。カフス殿があれだけ手紙にしたためるほどだ、余もそなた等と話をしてみたい」
カフス、お前と知り合いで良かった。王国から帰るときは何か名物のお菓子でも買っていってやろう。
「謹んで泊まらさせていただきます、我が王よ」
「余はそなたの王ではない」
「あ……すんません」
「では、これにて謁見を終了する。後は四騎士の皆に任せるぞ」
「「「「はっ!!」」」」
王の言葉で、オレ達の前に居た騎士が声を上げる。
そして王様は、あの王座横の扉に消えていった。




