05.牢・Low・牢
オレは数日間、煙草、睡眠、遊びをただただ繰り返すだけの一日を送った。
たまにソーエンやラリルレにチャットを繋ごうとしたけど、一回も出てくれなかった。
多分ソーエンが何かラリルレに吹き込んでいるのだろう。じゃなきゃラリルレがオレの連絡を無視するはずが無い。
途中、何度かあのやる気の無い男がオレを心配してきたけど、オレが寝ている間の双子とソーキスの世話をお願いしてそれ以外は無視を続けた。
男に罪は無いと分かっていてもどうしても怒りを向けてしまいそうになるので、なるべく関わらないようにしている。
「おーい、そろそろ王都に着くぞ~」
その関わらないようにしていた男が窓越しに報告をしてきた。
床に寝ていたオレは、その報告を聞いて久しぶりに男の方を見る。
でも、寝ていては外の景色が見えないので起き上がって窓から外を覗く。
そこには、アステルと似たような城壁と門だけが目に入ってきた。何の面白みも無い景色だ。
「よう、気持ちの整理はついたかい?」
男はいつもと変わらない調子でオレに尋ねてくる。
「とりあえず、あんた達の王様をぶん殴らないくらいにはな」
「ははは、そりゃよかった。そういやにーちゃんに教えてなかったが、大事にしただけあってそれなりの判決が下されると思うから」
「やっぱり今から王様ぶん殴ってくるわ」
「待って待って。その判決は後日取り下げになるよう、王様が手配してくれてるから安心して裁判を受けてくれ。なんならにーちゃん達がやったことももみ消すってさ」
ほほう。ラリルレやオレが前科者にならなくて済むのは助かる。
「それはありがたい話だけどさ、そんな簡単に出来るもんなの?」
元の世界で裁判を受けたことが無いから分からないが、犯罪や判決なんてそう簡単に取り消せるようなものじゃないと思うけど。
「全然簡単じゃないよ。教会の協力者と王様が裏で相当手回ししてるらしい。ま、それだけ今回のことに対してうちの王様が本気になってるってことよ」
「本気って……教会は一体何を企んでるんだよ」
「んー……ね。分からないけど、調査途中の情報だけでも結構やばいのとかあったりしてさ。ただ事じゃないってかんじかなぁ」
……なんかコイツ……まあいいや。
「だったらもう捕まえちまえ。で、オレを帰してくれ」
「それはまだ早い。怪しい連中と企みを洗い出して一掃しないと再発の危険があるから、まだ泳がせる必要があるわけよ」
オレ、今からその怪しい企みをしてる所に向かうんだけど……大丈夫か? せめて自衛できるように情報だけでも聞いておきたい。
「さっき言ってた、教会のヤバイ情報を教えてくれよ」
「それは秘密。それより王都に入るから窓閉めるよ」
男がそう言うと窓は閉められ、また暗闇に戻される。
さっきまで色々ぺらぺら喋ってたんだから、聞かせてくれてもいいじゃん。
でもあの男が喋ったことって、ほとんどオレが置かれてる現状についての説明だったし、あの男なりに気を使っていてくれたのかも知れないな。
今まではあの男が敵に見えていたけど、これからは考えを改めてもいいかも。双子とソーキスの面倒とかも見てもらって結構お世話になったしな。
「おーい、聞こえてるか? オレの名前はイキョウだ。そっちの名前を教えてくれ」
「おにいさんボク達名前出してじゃーん。やっぱり覚えてなかったんだー」
オレは閉ざされた窓に向かって話しかける。
すると、少しだけ窓が開いた。
「あれ、知らなかったのか。俺の名前はキアルロッドだよ」
その男、キアルロッドはそれだけ言ってまたすぐに窓を閉めた。
キアルロッド……かっこよすぎだろ。親御さんのネーミングセンスはバケモンかよ。
「ひま」「あそぼ」
オレが男の名前に衝撃を受けていると双子がオレを揺すってきた。
平原を走ろうが王都に入ろうが、この籠の中は何も変わらないのでまた子供は時間をもてあましてる。
「はいはい」
今度は何をしようか。そう考えながらオレは教会の到着を遊んで待つことにした。
* * ……じゃないよ。
「いや待てお前らどうすんだよ」
オレはこれから教会に拘束されるはず。でも勝手に着いてきた双子やソーキスはどうなるか分からない。
仮に教会が保護すると言ってきても、危険渦巻く連中に引き渡したすことなんて出来ない。
王都に知り合いは居ないから誰かに預けることも出来ないし、一旦逃がしても今は手持ちの金が少ないから三人が宿を取ることは出来ない。それに逃がしても、双子やソーキスが誰かに攫われる可能性もある。
出来ないことだらけの八方塞じゃん。
「おにーさんに」「ついていく」
「いや無理でしょ。暫定罪人と子供を一緒にしておくわけ無いじゃん」
「だいじょうぶ」「こうする」
そういうと双子はあの夢の力とやらで姿を消す。
「でもそれ燃費悪いじゃん。ずっとは持たないでしょ」
「おにーさんに」「てつだってもらう」
双子の姿は見えないけど、下から声がするな。
それと同時にオレの足に何かがしがみついて来て、体から何かが抜けていくような感覚に襲われる。
この感覚、初めて双子に会った時にエナジードレインをされたときと同じだ。
力を使いながら魔力を補充するって魂胆か。
「いい考えだとは思うんだけどなぁ……四六時中吸われたらオレの魔力が持たないからむーりー」
MPの自然回復よりも吸われる速度の方が速い。このままだといつかは双子の透明化が切れる。ずっとは使えない。
「ならこれでどー?」
ソーキスがオレの腹にしがみついて足を双子の方に垂らすと、ソーキスの姿が消えた。
「え? それ他のやつにも使えんの? てかソーキスはそのこと知ってたのかよ」
オレの<隠密>みたいな能力だな。
ついでに双子はソーキスからも魔力を吸っているのか、オレの魔力の減りは段々穏やかになって、ついに自然回復の方が上回った。
「ふへへーよくクエストのとき使ってるからねー」
「そうだったのか……」
最近忙しくてあんまり子供達の活動報告を聞いていなかったから知らなかった。
「でも、それじゃ今度はソーキスの魔力が持たないだろ」
元貪食王とはいえ、今のソーキスは普通の子供と能力値はそんなに変わらない。そんなソーキスの魔力を吸い続けても気休め程度にしかならない。
「大丈夫だよ。ボクおにいさんの魔力沢山持ってるから」
「へー魔力をストックして置けるのか。どれくらいだ?」
「今はおにいさん十人分くらいかなー」
さすが元貪食王。オレ十人分の魔力量を保有できるだなんて。
元の器よりも容量は小さくなったとはいえ、それでも十分でかい。
でもコイツ、魔法はほとんど使えないから宝の持ち腐れなんだよなぁ。魔力の主な用途は体の再生らしい。
「……あれ? オレそんなに魔力吸わせたっけ? 道中寝てから分からんかったわ」
「んーん、ほとんどはおにいさんが寝てたときに吸った分だよー」
だから寝てて知らないって言ってるだろがい。ソーキスはバカなのか?
……待てよ。ソーキスは、寝てたときって言ったけど、いつとまでは言って無い。
「ソーキスが言ってるのって、この鉄籠で寝てたときのことだよな?」
「違うよー、お兄さんが家で寝てるときー」
「お前、夜な夜なオレの部屋に忍び込んでたのかよ!!」
知らぬ間に魔力吸われてたんですけど!? 仲間しか居ないからって部屋の鍵をしてないことが仇になったぞこれ!?
「わたしたちも」「たまにいっしょする」
「嘘だろ……」
コイツらつまみ食い感覚でオレの魔力を吸ってくんじゃん。
そのおかげで今の危機を乗り越えられるけど、だからとって許すわけじゃない。
「お前ら帰ったら説教だからな」
いくらオレの魔力が無限に沸いてくるからって、オレの魔力はオレのものだ。せめて寝てる間に吸って良いか許可を取ってから吸ってくれ。許可する気は無いが。
「わたしたち」「かえりたくない」
「ボクもー」
「なら今説教してやるよ」
「わたしたち」「かえりたい」
「ボクもー」
「帰ったら説教な」
「「……いじわる」」
「ねー」
「文句を言うな。元はといえばお前らが悪いんだからちゃんとお説教は受けなさい」
今こんな状況じゃなかったらすぐにでも説教をしてやりたかったところだ。
それに、馬車の動きがゆっくりになってきたからそろそろ目的地に着くだろうし、説教してる時間も無かった。
「いいかお前ら。絶対にばれないようにするんだぞ」
「「「はーい」」」
三人の返事を聞いて、オレは馬車が止まるのを黙って待つ。
程なくして馬車は停止し、鉄籠の扉が開かれた。
久々の大量の光で目が焼かれそうだ。
「着いたぞ。さっさと降りろ……って、子供達はどこに行った」
扉を開けてオレに命令をした教会騎士は鉄籠の中を見ると、子供達の行方を聞いてくる。
は? コイツ等も子供達のこと知ってんの? いつの間に?
「おにいさん、おにいさん」
ソーキスがオレにだけ聞こえる声で話しかけてくる。
「ボク達ねー、馬車の休憩中に何度か遊んで貰ったんだー」
オレの知らぬ間に馬車は休憩していて子供達は遊んでいたらしい。
なんでオレの寝てるときに色々起きてんの? てか、知ってるんだったらこんな暗闇に子供達を入れとくなよ。
それはさておき、何て言い訳しましょ。
「んー? おお」
キアルロッドがゆらーっと来て鉄籠の中を覗くと、何かを理解した顔をする。
「嬢ちゃん達は、さっきこっちで保護したから気にしないでくれ」
「おお、いつの間に。さすがはキアルロッド殿、手際が鮮やかですね」
……え? それだけで納得すんの?
キアルロッドの言葉で教会騎士達は簡単に納得をして、それ以上追求は追求してこなかった。
あいつ何者だよ。それにあの顔、双子とソーキスが透明かしてることに気づいてるな
「キアルロッドって」
「あー、話しはまた今度。これ被ってさっさと移動するぞ~」
オレの疑問はキアルロッドに遮られて、ついでに麻袋を手渡される。
なんで麻袋?
「なにこれ?」
「後で無罪になるからって、一度付いたレッテルは剥がしづらいもんさ。だから、イキョウが特定されないように、人の目が多いところはこれを被って貰う」
「なるほど。なら喜んで被るか」
キアルロッドの言う通り、一回有罪になったのにその後無罪になったって聞いても、人によっては邪推するだろう。
オレも別に悪評が欲しいわけじゃないから、大人しく麻袋を被って正体を隠す。
「よし、後は教会騎士団が案内してくれる。俺はここでお別れだ」
「そっか。ごめんな、オレはあんたを勘違いしていたようだ。色々とありがとな」
「いいさ、こっちだってにーちゃんを利用してるしお互い様ってことで。おーい、後は頼んだ」
キアルロッドが声を飛ばすと、教会騎士団の返事が聞こた。それと同時にオレの手枷に付いている鎖が引っ張られ、どこかを歩かされる。
引っ張られながら、その力に従うようにただただオレは歩く。
暇だし歩数でも数えとくか。
麻袋のせいで周りは見えないからオレはどこに居るのか分からない。ただ、階段を上るよりも下るほうが多かったから、多分地下に連れてこられたんだと思う。
「よし、着いたぞ。麻袋を取ってやれ」
オレは手が塞がっているから、騎士団の誰かが代わりに麻袋を取る。
ようやく視界が確保された。
「また鉄の扉かよ……」
オレの目の前には壁に取り付けられてる鉄の扉があった。
辺りを見ると、同じような扉がいくつも並んでいて、ここはまるで独房を思わせる空間だった。
「貴様にはここで三日過ごしてもらう」
「三日? なんで?」
「アステルで入手した情報が届くまでに必要な時間だ」
「なるほどね」
流石に証拠も無しにオレを裁くようなことはしないらしい。
……オレを捕まえたときにその場で証拠集めればよかったじゃありませんこと?
「分かったならさっさと入れ。食事は朝と夕の決まった時間に持ってくる」
「へーい」
教会騎士の一人がごつい鍵を三つ使って扉を開ける。
言われたとおりに中に入ると、二畳ほどの空間にベッドとトイレが付いていた。
中に窓は無く、教会騎士が手渡してきた燭台以外に明かりは無い。その明かりに照らされた壁は石造りになっていて、容易に脱走できるものではないと思い知らされる。
「蝋燭は後で渡す。大人しくしてろよ」
その言葉と共に扉は閉められた。
そして複数の足音が扉の前から離れていく。
「……解除していいぞ」
ここなら他のやつに見られる心配は無いから、双子に力を解くように言う。
「「ばぁ」」
「うへー、疲れたー」
双子とソーキスが姿を現す。そしてオレから離れると思って少し待つ。今のうちに手枷を外すか。
<解錠>を使って手枷を外して両手を自由にする。
けど……まだ誰一人としてオレの体から離れなかった。
「いつまで引っ付いてんだよ」
「だって狭いしー、いーじゃん別にー」
「くうかんの」「ゆうこうかつよう」
「いや双子は浮けんじゃん。三次元に空間を使ってけ」
「さん」「じげん?」
双子は疑問の声を浮かべる。
ああ、子供にはまだ分からない知識だったのかも。どうせ三日間は暇だし勉強でも教えてるか?
この狭い空間じゃやることも無いだろ。
でも、コイツ等勉強嫌がりそうだしなぁ。オレも勉強嫌いだし、無理に教えるのはなんかちがうよな。
ん?狭い空間? よくよく思うと、この狭い空間で四人が三日も暮らすの?
トイレどうしよ。双子やソーキスはトイレに行かないからいいけど、オレはするぞ。
ってことはまた 移動中と同じで煙草で過ごすしか無いじゃん。ちくしょう、ここから出たら思う存分食ってやる。腹が減っても死ぬ事は無いこの体に感謝だな、おい。
てなわけで、提供される食事は全部ソーキスに任せ、鉄籠と変わらない生活スタイルで三日間を過ごすことになりました。




