03.バーカ!やっぱ王国が滅びろ!
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景色とは無縁の薄暗い鉄の馬車に揺られてると時間の感覚が狂うなぁ。おまけに少し眠くなっちゃう。
どれくらい長く思考をしていたかは分からない。その間、リリムとリリス、ソーキスは魔力を吸い終って全員オレのあぐらの上に乗っていた。
オレは眠気覚ましのために煙草を吸いながら、膝の上のやつらをいじっている。
「うお、子供のほっぺってこんなやわいのか」
膝の両脇に乗っている双子の頬を触るとめちゃくちゃ柔らかかった。
ぷにぷに?もちもち? とにかく柔らかい。
ぷにぷにもちもちぷにぷにもちもち……、永遠と触れそうだ。
「「くすぐったい」」
双子がクスクスと笑いだす。
「あ、悪い悪い、初めての感触だったから夢中になっちまった」
双子から手を離すが、こうなるとソーキスの方も気になるな。
どれどれ。
「わー、これがくすぐったいってやつかー」
ソーキスの頬はぷるぷるふにふにしてた。
「お前やわっこい水風船みたいだな」
「なーに」「それ」
「そっか、こっちには風船が無いのか」
今まで、アステルの祭りや店で風船を目にすることは無かった。
「風船ていう伸び縮みする袋みたいなもんがあるんだ。それに水を入れて膨らませたものが水風船」
手で簡単に風船を表現しながら説明する。
「ソーキスは」「みずふうせん?」
「ボクはみずふうせんー」
へらへらしているソーキスの頬を双子がつんつんして感触を確かめる。
そういや、子供達が子供達らしく遊んでるところを見たことが無いな。帰ったら何か遊べる物でも作ってみるか。シャボン玉とかくらいなら作れるかな? こういう時ネットがあれば色々調べられるんだけどなぁ。
……違う違う。おもちゃよりも、まずは現状を打破する方法を考えないと。周りの変化が一切無いからついつい思考が鈍化してしまったぞ。
気持ちを切り替えて考えようとすると、突然ソーエンから着信が来た。
今はコイツの名前を見るだけで怒りが沸いてくる。文句を言うためだけにボイスチャットに出てやろう。
「ソーエンから連絡が来たわ。今から魔道具を使うわ」
子供達が驚かれないように声を掛けてから、最近決めたチャットの合図として手を耳に当てる。
「ようようようよう、よくいけしゃあしゃあと電話が出来るな」
「そう怒るな。これも作戦のうちだ」
「オレを罪人にしたてあげる作戦か?」
「そんなわけないだろ。いいか、今から想定していた作戦をお前に伝える」
「遅いんじゃないの~? もっと早く言えたんじゃないの~?」
「教会の連中がしつこくて連絡するのが遅くなった。今も隙を付いて連絡をしている」
「そうかい、なら説明は手短にな。オレの文句を言う時間が無くなる」
「無論、説明の方はそうするつもりだ」
文句の方も考慮してくれと言いたかったけど、時間を無駄にしないために黙って聞こう。
「俺が考えた作戦は、まずラリルレの変わりにお前が捕まり時間を稼ぐ。お前が身代わりになっている間にカフスに協力を仰ぎ、ラリルレと共に事態解決に望むつもりだった」
「時間を稼ぐのはオレじゃなくて良くない? それこそお前やれよ」
「あそこで俺が黒幕だと出て行ってもラリルレを庇ったようにしか見えないだろう。それに俺にはお前みたいに騒ぎ立てることは出来ない。あの場では、告発された首謀者が逮捕を逃れるために嘘をついてるといったような立ち振る舞いが出来る役割が必要だった。つまり、お前が適任だ」
ソーエンの言うことは、一応筋が通っている。
「ならオレはこのままラリルレの代わりをしていればいいのか?」
「……ああ」
「おい、なんだ今の不自然な間は」
「気にするな、二つ問題が生じただけだ」
「気にしないわけ無いだろ。はよ教えろ」
「その前に。そっちに双子とソーキスはいるか」
「なんだ、もしかして問題と関係があるのか?」
「そんなところだ。で、いるのか」
「ああ、三人とも居るぞ。必要ならそっちに行くように伝える」
「いや、いい。他が心配していただけだ」
なるほど、安否確認をしたかっただけか。
「一つ目の問題はカフスがプライベートでアステルを離れていること二つ目の問題はお前がアステルを離れることになったことだ出来るだけこちらで何とかするからお前はそのまま時間を稼げ健闘を祈る」
安否確認をした直後、オレが口も挟めないほど次早にソーエンが問題を伝えてきて、強制的にボイスチャットが切られた。
「……」
オレは理不尽に切られたチャットを繋げようとソーエン、ラリルレ、全体のチャットにコールするが全く応答が無い。
あいつ、言うだけ言って逃げやがったな。しかもラリルレになんらかの手回しをしている。
一旦落ち着こう。煙草も吸い終わったし、アイテムボックスに入れてっと。冷静にな冷静に。
ソーエンが言っていた問題はカフスの不在とオレの遠方への輸送。
カフスはアステルの代表兼生き字引だ。教会と言う巨大な組織に立ち向かうために必要となるカードが今は使えないとなると、現状の打開が相当厳しくなる。
それに加えて、オレがアステルを離れるということは民衆の力に頼ることも出来なくなるので、必然的に孤独な戦いを強いられる。
……
「問題がでかい!!」
一つ目も二つ目もどっちも必要な物なのにどっちも使えないじゃないか!!
オレがつい大声を出してしまったので、双子がびくっと震える。
「ほっぺ」「さわる?」
失意のどん底にいると、双子が精一杯の気遣いをしてきた。
「ボクのもいいよー」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オレは<ローヒート>を消してやけくそになりながら三人の顔をくしゃくしゃにする。
ぷーにぽよぷにぽよぷにぽよぷにぽよぷにぽよぷにぽよぷにぽよもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふにもちふに!! 無心になって何かをすると心が落ち着くなぁ!!
「うるさいぞ~」
オレが落ち着きを取り戻しそうになったとき、急に声が掛けられる。
その声と共に小さな光が前から差し込んできたので目を向けると、小さな窓からあのやる気の無さそうな男が鉄籠の外から覗き込んできていた。
馬車はまだ動いているから、御者席の方から覗き込んでるんだろう。
「ってありゃ? 人増えてる?」
覗き込んできた男が双子とソーキスを見て素っ頓狂な声を出す。
「お初ー」
「ご丁寧にどうも、始めまして~」
ソーキスがマイペースに挨拶をすると、男もソーキスの挨拶にマイペースに返した。
「そっちの嬢ちゃん達はさっき会ったね、どうも」
男の言葉に双子はひらひらと手を振って返す。
逆光で男の顔は見えないけど、声の調子からみるに、この男に焦りや困惑の感情は見られない。
いつの間にか人が増えてるっていうのに、問い詰められるどころか普通に挨拶をしてくるなんて、何とも思って無いんだろうか。
「なんか調子狂うなあんた。いいのかよ、三人も増えてんだぞ?」
「いやぁ、そう言われても俺はあくまで教会の手伝いだし。それにこの籠からは逃げられないから、何人増えようと変わんないよ」
男が籠を叩いたのか、こんこんという音がした。
教会の手伝いか。そういや思い返すと、この男はオレ達に話しかけてきた以外何にもしてなかったな。
手伝いってよりもだたそこに居るだけってしか思えないけど、王国の騎士らしいし居るだけで何か意味があるのかもしれない。
「いくつか聞きたいことがあんだけどさ、質問いい?」
急に捕まり急に連行されて、おまけに教会や王国なんて新要素なんて出てきたから、オレは現状に対しての情報をほとんど持ち合わせていない。
だから今後のためにも情報は集めておきたかった。
「構わないよ。俺も一人で暇だったし、お話でもしよっか」
「一人? 他のやつらは?」
確か六人の教会騎士がオレの護送に当たってるはずだったけど……。
「この馬車の後ろにもう一台馬車が付いててね、皆そっちにいるよ。後ろから教会側がこの箱を監視してるってわけ。俺はただ馬を歩かせてるだけ」
この男の言ってることが本当かどうか<生命感知>で捜ってみたけど、本当に男の言った通りだった。
この鉄の馬車は後ろの扉以外に出られそうな場所は無いし、監視にはこの配置が一番適してるのか。
「にーちゃん今何かしたか?」
おっと、男が<生命感知>に反応してしまった。
ゲームの頃と違って、こっちの世界はスキャンに気づく奴と気づかない奴が居る。レベルの高い低いは関係ないようなので、恐らく魔法感知能力が高いやつが<生命感知>に気づけるやつだ。
だけどこっちの手札を晒す必要は無いのでしらばっくれよう。
「お前捕まってるオレが何か出来ると思うなよ?」
「んー今魔法を使われたような感覚があった気がしたんだけど……まぁ、俺の気のせいだわ」
「そうそう。そんな感じ」
どうやら男の魔法感知能力は高くないらしく、ばれずに済んだ。
にしてもさっきから逆光のせいで男の顔が見れないから、いまいち話し辛い。魔法でこっちに光源を足そう。
適当に<ローヒート>を何個か飛ばして空中で維持する。
「おお、器用なことするね」
男が感心したような声と表情をする。
ようやく男の表情を見ることができた。よし、こっちの方が話しやすい。
「「きれー」」
「こら、触ると火傷しちゃうぞ」
「「はーい」」
<ローヒート>の火を見た二人が手を伸ばして触ろうとしたので止める。
「ははは、こうしてみると親子みたいだな」
「わたしたちと」「おにーさん」「おやこだって」「ぱぱ」「ぱーぱ」
「やめろぉ!! オレはまだ独身だ!!」
「にーちゃん達ってどんな関係なの?」
「関係? 一緒に住んでるただの同居人」
「パーティの」「なかま」
「ボクもなかまー」
「そうかそうか仲間か」
オレの意見が無視されたんだけど。
「パーティか。ってことはお嬢ちゃん達は冒険者なのか、働いてて偉いね~」
「ほめられた」「わたしたちえらい」
「はいはいお前らは偉いよ」
とっても偉いコイツラの頭をわしゃわしゃとする。このまま髪をぐしゃぐしゃにしてやろう。
「ははは、仲いいね~。……にーちゃん手枷はどうした」
「あ」
両手を派手に動かしたもんだから手枷を填めていないことがばれた。というか、手枷なんて填めてる時間が短かったから存在をすっかり忘れていた。
双子とソーキスに手伝ってもらって、横に落ちてる手枷をいそいそと填めなおす。そして全員でその手枷を男に向けて見せつける。
「いや……填めなおせばいいってもんじゃないんだけど……。ま、いっか。外に出るときには填めとけよ~」
今度こそ問い詰められると思ったけど、この男はまたもやスルーする。
人が増えても、魔法を感じても、手枷が外れてても、特に何も追求してこない。なんなんだこの男。
「オレが言うのもなんだけどさ、あんたやる気あんの?」
後ろの教会騎士は人の話を禄に聞かず、無理やりオレをここに閉じ込めた。かと思えばこの男は暫定罪人のオレが怪しい行動をしても特に追求してこない。熱意の差がすごくあるように感じられる。
「ぼちぼちかなぁ」
「やる気無いじゃん……」
やる気の有る無しを聞いて中間を答えるやつは絶対やる気の無いやつだ。
「だってこの護送自体に意味は無いし」
「は? なら逃がしてくれよ」
「それは無理。こっちにも事情があるからね」
「オレにも事情があんだけど?」
仲間に罪をでっちあげられたっていう事情がな。
「ねーねー、おじちゃんの事情って何ー?」
「おにーさんと」「かんけいあるの?」
双子とソーキスはオレの事情よりも男の事情の方が気になるらしい。薄情なやつらだ。
「俺の? んー、これ言っちゃてもいいのかな~? ……ま、いっか」
男の中で何か重要そうなことがあっさり決まる。
マジで何なのこの男……。
「事情を説明するための説明をするよ。あの嬢ちゃんは完璧な回復魔法を格安で使ってたらしいじゃん? それくらいなら教会からの厳重注意や少しの罰金で済む話だから、騎士を十人も派遣するほどじゃない。せいぜい一人か二人だ」
「だったら、なんでオレは騎士団に捕まった挙句に王国まで連れてかれてんだよ」
「そう結論を急ぐなって。最近、教会の王国支部の一部の連中が怪しい動きをしてるって、王へ密告があったんだよ。で、教会側の協力者の力を借りて極秘に調査をしろって、うちの王様から騎士団に命令が降りたって訳」
「俺関係ないじゃん」
教会の怪しい動きと王国の調査にオレは全く関係ないじゃん。
「それが関係してるんだよね~。正しくは関係させられたって感じだけど」
「お? 今不穏な言葉が聞こえたぞ?」
「いやー、王国支部の教会のガードが固くて調査が難航してたんだよ。そんなときに教会が保有する騎士団を使って人捜しをするって聞いたから、うちの王様が無理やり一枚噛ませて王国騎士と教会騎士が合同で動くってことになったの。で、せっかくだから大事にすればもっと動きやすくなるじゃんって事で、王国ににーちゃんを護送することになりましたとさ。後ろの騎士達は事情を知らないから仕方ないけど、知ってる俺からしたらやる気で無いよねー」
「……」
……
「にーちゃんには感謝してるよ。おかげで教会の内側と外側の両面から調査がしやすくなった。勘違いしないでくれよ? 俺はにーちゃんのことを信頼してるし、護送自体にヤル気が出ないだけで、教会の問題に対してはヤル気あるから」
……
「それに、にーちゃんがあの嬢ちゃんを庇ったじゃん? いくら国のためとはいえあんな小さな子を利用すのは気が引けたからね。大人の男なら多少は罪悪感も薄れるってもんさ」
……
「……あれ、怒ってる?」
……
「おにーさん」「だいじょうぶ?」
「顔怖いよー」
……
落ち着け、落ち着けオレ。オレが身代わりになったことでラリルレはこんな思いをしなくて済んでる。仲間が辛い思いをするくらいならオレがしたほうがマシだ。
今ここで暴れるのは得策じゃない。クール、クールになるんだオレ。さっき落ち着いた方法を試そう。
「わっ、またー?」
「わたしたちのこと」「いっぱいさわって」
双子とソーキスをめいっぱい触りまくろう。
「大丈夫かい? にーちゃん」
「ああ、オレはいたって冷静っすよー。あんただって王の命令とやらで動いてるんだろ?ならしゃーないよなー」
「おお。そうかい、ありがと……なんかヌルってした目で睨まれてる……」
「いいっていいって。働くって大変だよな」
生きるためには働いて金を稼がなきゃいけない。この男も好きでこんなことをやっている訳じゃないだろうから、殴りかかる相手を間違えてはいけない。規準だ、規準を考えろ。
「そう言って貰えると助かるよ。もっと言うと、その変な怒りの目を向けないで貰えると助かるな~」
どうやらオレは冷静な態度を取っていると思っていたけど、感情がまだ冷めていなかったらしい。
いや、ぶっちゃけ冷静な態度を装っているけど内情は火が燃え上がっている。この激情は収まるはずが無い。
「……双子とソーキスは好きオレの魔力を吸ってていいぞ。オレは王国に着くまでに気持ちの整理をするからほっといてくれ」
このままでは王国に着いた瞬間にクライエン王国の王に殴り込みしてしまいそうだから、それまでに気持ちの整理を着けよう。感情で動いて仲間に迷惑がかかるのは避けたい。
だからそれまで存分に気持ちの整理をしよう。
王国までは煙草さえ口にすればいいや。食事も取りたくない。
何か他のやつらがオレに言ってくるが、もう知らん。とりあえず寝よう。頭をすっきりさせよう。
そしてオレは<ローヒート>を全て消してから横になり、自分の暗闇へと閉じこもった。
「すまんなにーちゃん。でも、俺の目的のために付き合ってくれ」
暗闇で何かが聞こえた気がした。その声は小さく、まるで自分に言ってるような声だ。
でも――。
「うるせぇ!! 寝るっつってんだろ!! ボソッとしゃべんねぇで黙って静かにしろォ!!」
「えぇ……」
オレは今から寝るんだ、静かにしやがれ!!




