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03.ゼロから考えても分からないものは分からない

 オレ達が気持ちの整理をしていた時間は…………どれくらいだったろうか。世界が変わった、知らない町に飛ばされた。そんな現実を受け入れるのに、時間をどれくらいかけてしまったんだろう――――。


 ――――時計が無いから分からないやぁ。


 でも多分十分もかかってないわコレ。自信あるわ。ま、こういうこともあるっしょ精神は大体のことを何でも受け入れさせてくれる。


 恐らくだけど、オレの仲間達もこの世界に来てるだろうし、さっさと合流して帰る方法を探そう。


 あんなあっさり異世界に飛ばされたんだ。帰る方法も意外と簡単に見つかるかもしれない。


 そして。オレ達が気持ちの整理をしても、結論を出しても、衛兵はまだまだ戻ってこない。戻って来ないから、好きにやらせてもらう。


「とりあえずUI出して持ち物確認するかぁ」


「そうだな」


 ソーエンの同意も得られたことだし、やれる事はやっておこう。


 オレ達二人は目の前にUIを出現させる。といっても実際に出ている訳ではなく、自分の視界内だけに表示されるから、他人からは見ることも認識することも出来ない。出してる本人にしか見ることが出来ないんだ。


「確認開始ぃ!! 手持ちのアイテムー!!」

「変わりなし」


「装備ー!!」

「異常なし」


「ボックス機能ー!!」

「問題なし」


「ステータスー!!」

「変わりなし」


「……あれ? オレのHP若干減ってる……。なぁさっきのアイアンクローって――」


 オレダメージ食らっちゃってるんですけど?


 オレの種族は人間で職業は盗賊の上級職『叛徒』。


 ソーエンは種族がヴァンパイアで職業がシューターの上級職『ガンナー』だ。


 オレは職業的に能力値が低い。といっても、武器を持っていないガンナーの攻撃はそこまで強力ではない。種族によるステータス補正は無いので、貧弱ガンナーは本気で力を込めない限りはダメージなんてくらわないはず……こいつ、マジでやりやがったな。人の頭蓋骨潰す気概でオレの頭握ってやがった。


「フレンドリスト……異常有りだ」


「え? マジで?」


 そんな怒りはソーエンの言葉で吹き飛んだ。


 慌ててフレンドリストを開いてみると、登録してあったはずのフレンドリストが、0/500の数字だけを表示して全て空っぽになっていた。


 前はもっとたくさんいたはずなのに、空っぽなウィンドウになってしまっている。


「これじゃチャット機能が使えないじゃん!!」


 チャット機能とは、フレンド同士で音声や文字によるやり取りを可能にする機能だ。これで仲間と連絡とろうと思ってたのに……。


「仲間の状況が分からないのは問題だ。とりあえず、今すぐお前に申請を送る」


「あいよ」


 フレンド申請が来たときの通知音が頭の中に響き、申請の許可/拒否ウィンドウが現れる。オレは迷わず許可を押した。


 ここら辺は変わりなくシステマチックなのね。


「ついでにパーティも組んでおくか」


 間をほとんど置かずにパーティ申請が着たので、そっちも迷わず許可しておく。


「あんがと。にしてもどうやって皆を捜したもんか……んお? ログアウトボタンあんじゃーん」


 UIにはいつもと変わらずログアウトボタンが表示されていた。だから、反射的、というか何も考えずに手を伸ばして押そうとした。


「おい待てバカ!!」


 そしたら何ででしょ。ソーエンが焦った顔をしながら大声を出し、オレを止めようとしてきた。


「急に大声出すな!! びっくりすんだろバカ!!」


 こんな静かな空間で、しかも普段大声を出さないソーエンが不意打ちをしてきたから、思わず驚いて体が跳ねる。


「「あ」」


 そしてオレ達二人は、オレの指先に視線を向けて声を出してしまった。


 何故かと言うと……プレイヤーならイヤでも分かるログアウトの位置に手が当たっているから。つまり、押しちゃった。


 ログアウトボタンは押した。押してしまった、このゲームではない現実の世界で。だったら、現実のログアウトってのは何を指すんだろう。


 答えは明白だった、すぐに分かった。直後視界が暗転した。


 もー……今日は白くなったり暗くなったりして眼に負担をかける日だなぁ。 


 * * *


「……い……おい、イキョウ!!」


 段々と覚醒に向かう意識の中、誰かから強烈に肩を揺らされる。


 どうやらオレは、仰向けになりながら揺らされているようだ。


「うるせぇぞぉーソーエン」


 誰が肩をゆすってるかなんて、一々確認しなくても分かる。だから、その肩を揺らしてる奴に向かって、オレはもったり話す。寝起きなんだからさ。しょうがないじゃん。


 そして喚くな喚くな。まだ頭が少しボーっとしてるから、大声が頭に響くよ。


「起きたか。……お前、自分がどうなったか分かっているのか。――死んでいたんだぞ」


「んなこったぁ身に染みて分かってるよ。いいから手ぇ離せって」


 一々騒ぎ立てるほどのことでもない。


 でもなんで現実に居るのに、ログアウトできると思ったんだろう。


 いつもならもう少し考えて行動するんだけど、この短時間で色々あったせいで疲れてんのかな。それとも……いやぁ、そんなことより。


「良いんだか悪いんだか、とにかく死んでみて分かったことがあるぞ」


「……蘇生のことか」


「当たりー。しかも元のシステムと変わりなく、オレ達は一日三回死ねるわ」


 ソウルコンバーションテールでは、一日に三回復活が可能だった。回数の補充は日付が変わった瞬間に行われる。


「もっとも、ゲームのときと違って周りは確認できないし、なんか死んでる間は暗闇に包まれてるし、その場復活みたいだけどな」


 ゲームの頃は、死ぬと俯瞰視点になり復活の確認が行われ、許可をするとその場で全快状態の復活ができる。拒否もしくは復活回数がゼロの状態で死ぬとクエストは失敗とみなされ、最後に訪れたプレイヤー拠点に戻される仕様になっていた。


「できれば二度と体験したくない光景だったよ。虚無の暗闇だった」


 あの虚無の暗闇は死を模倣しているかの如く、終わりを感じさせるものだった。でも死ってよりは終わりだ、無だ。死にたい奴でもあの暗闇にはずっと居たくない。


 進んでもう一度、あの暗闇に行きたいとは絶対に思えない。それくらいの冷たさがあった。


「俺としては、例え復活できるとしてもあまり死んで欲しくはないがな」


「今度はほんとに善処するよ。あれは多分、死じゃないから」


「分かればいい。

 一つ、気になることがあった。お前が死んでいるときにパーティメンバーのステータスを確認したのだが、HPが残っているのにも拘わらず死亡表示になっていた」


「え? HPが残ってんのに?」


「ああ」


 本来ならHPがゼロにならない限り死亡判定は起こらないはず……。この世界は違う法則でもあるのか?

 オレはそのまま腕を組んで少しばかり頭を動かしてみる。


 …………

 ………

 ……

 …


 考え込んだ結論としては。


「だーめだ、考えてもこんな牢屋じゃ何にもわからねーって」


「そうだな。何せ情報が全く無い」


 知らない世界にとばされた上、この体は何故かゲームの体。分からない事だらけなのに、何もない牢屋でただ考え込んでたって結論なんて出るわけが無い。


「ふむ。とりあえず一服するか。この世界に来てからはまだ煙草を一本も吸えていない」


 そう言いながら、ソーエンはアイテムボックスから、趣向品アイテムのノーマル煙草を右手に出現させる。


 嗜好品アイテムとは、ゲーム内で何の効果も持たない完全お楽しみアイテムで、アクセサリーやティーセットなど様々なものが存在する。現実の体験をゲームでもという面白いコンセプトで実装されているアイテムだ。


 ソウルコンバーションテールでは、UIでアイテムを選択し決定すると、自分の手が届く範囲だったら任意に出現させることができる。


「お前天才かよ」


 オレもその意見に賛成してアイテムボックスから取り出す。ちなみにオレはメンソール煙草。


 嗜好品アイテム煙草は現実世界と同じで、一箱二十本入りで一つのアイテムとして登録されており、箱はソフトタイプ、味はノーマルスタイプとメンソールタイプの二種類が設定されている。といってもソールコンバーションテールでは味はぼんやりとしかしないし、あくまで仮想だから煙草の成分は含まれてない。それは嗜好品アイテム全般に言えるが、あくまで仮の嗜好品であって本物って訳じゃない。


 その煙草はお互い倉庫に999×99スタックを保存してある。


 これは昔、オレ達二人が泥酔した状態でログインして寝落ちし、朝起きたら二人して手持ちのお金をほとんど使って買っていた名残だ。いわば泥酔記念日の証だ。二度と忘れねぇ。


 補充できるか分からない今となっては、あのときのオレ達に感謝だ。


 オレ達はそれぞれ同時に煙草を咥え、ソーエンは慣れた手つきでアイテムのライターを出す。


「<ローヒート>」


 オレは人差し指を立て、火属性の最弱魔法<ローヒート>で小さな火を熾して煙草に火をつける。


「ほえー、なんとなくいつも通りやったけど、普通に魔法使えちゃうのな」


「新しい発見しかないな。この世界は」


 そう囃しながら二人して煙草の煙を吸い、そして吐き出す。


 ソーエンは器用なことに、マフラーに煙草を埋め込むように吸って煙を吐いているから一切口元は見えていない。


 煙草を何回か吸ってお互いやれやれとしている顔を見合わせる。


「なぁこれ」


「あぁ」


「本物のたばこじゃね?」


「本当に、新しい発見しかないな」


 もうここまで来ると当たり前を捨てるしかないのかもしれない。


 だってここは未知の世界なんだから。


 そんなことを思いながら、牢屋の窓から逃げていく煙を二人で眺めていた。

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