01.今日も今日とて普通の日……じゃない? ★
この前起きたスライム騒動は双子が記憶改竄で、カフスと仮面部隊が順調に退治したということにして丸く収まった。
貪食王改めソーキスはだらだらとしながらも、冒険者登録をして緩やかに金を稼いでる。
シアスタはそんなソーキスや双子の面倒を見ながら立派に子供組のまとめ役を勤めていた。
ラリルレとロロは日によって大人組と子供組を行き来してサポートをしてくれている。
オレはリーダーとして皆のケアをしながらソーエンと金を稼いで、当分は何があってもパーティ全員が金に困らないくらいには貯金を貯めた。
リリムやリリス、ソーキスに苦労させられながら日々を過ごしてきた。
色町に行くこともできなかったので身を粉にして働いた。
オレはこの世界に来て今まで頑張ってきた。何か辛いことがあっても、仲間捜しに集中するための準備をしているんだと自分に言い聞かせて頑張った。
だからこの状況に納得がいかない。
「罪人イキョウを打ち首の刑に処す」
今まで頑張ってきたオレに無慈悲な刑を言い渡される。
人の話を聞かないコイツら全員ぶん殴ってやろうか。
覚悟しておけよ関係者全員。
* * *
スライム騒動から数週間。双子のときと同様に、オレの意見を無視してソーキスがパーティに加入し、オレ達は大所帯のパーティとしてアステルで活動していた。
「おにいさん、今日も働かなくちゃダメー?」
ギルドに向かう道中にソーキスがオレに尋ねてくる。
「何が今日もだ、昨日と一昨日は休みだったろうが。自分の食い扶持は自分で稼げ」
ソーキスはオレとソーエンの魂、カフスの魔力が混ざってるのに何故か怠け者のような性格を形成していた。いっつもだらだらへらへらしてる。誰に似たんだか。
食費もオレやソーエンよりもかかるし、食事の他にもちょくちょくオレの魔力も吸うからこのパーティ一番の大喰らいだ。
しかも驚いたことにソーキスはあれだけ大量の経験値や魔力を喰らっていながらレベルは15と低かった。オレ達の経験値はどこに行ったんだよ。
カフス曰く、「経験値というものは分からないけど、それが魂のことをさしてるなら、その経験値っていうもののほとんどは体の構成に使われたんだと思う」ということらしい。納得いかん。
というか、この世界において経験値という概念は無いらしく、レベルが上がったかどうかは体の感覚で判断するそうだ。
言われてみれば、この世界に来てからレベルを数値化する水晶は見たことがあるけど、経験値を数値化する装置は見たこと無かったから、この世界においてオレ達だけが、自分が後どれくらいでレベルアップするか分かる特別な存在らしい。っていってもこの世界に来てから一レベルたりとも上がってないけどな。
ソーキスはカフスにそっくりで間違われることが多発したので、髪の色を紫に変えるている。肉体の変更もやる気を出せば出来るらしいけど、疲れるので見た目を変えるのは髪色までらしい。
「じゃあわたしたちは」「はたらかなくてもいい?」
「自分の食い扶持以外も自分で稼げ。あとオレの両脇を飛ぶな」
サキュバスの双子、リリムとリリスはオレの魔力を主食としているので食費は掛からない。でも、遊んだりする金をオレが工面する気は無いので自分で稼がせてる。
休みの度にシアスタやラリルレと一緒に町に出かけているから、何かしら金を使っているのだろう。
仲間の経済状況は知らんけど、自分で使う分は自分で稼げ。
「ふふん、私が居る限り大丈夫ですよ」
シアスタは自慢げに宣言してくるけど、実際コイツが居るから子供組はちゃんと稼げているし、まとまりをもっている。
シアスタは挫折以来、皆で強くなるという目標を掲げ立派に子供組のリーダーをしていた。
現在、ゲーム組は自由にやって、子供組はシアスタがまとめて、全体はオレが仕切るといった形態で<インフィニ・ティー>は動いていた。
「自信満々なシアスタに全部任せるから今日も各々頑張るぞ。目標は、自分のことは全部自分で、だ」
「んふふ~、そうだねぇ自分のことは自分でだよね。ねーロロちゃん」
「そうだな」
「どうしてラリルレさんは笑ってるんですか?」
「さあな。分からんわぁ」
なぜラリルレが笑っているかと言うと、ゲーム組は少し前から内緒で貯金を始めている。
理由は特になく、稼ぎすぎた分はパーティの共有財産と言うことにして緊急時に使えるようにしているだけだ。
別に、オレ達に何かあった時に、それこそ急に元の世界に送還される可能性を考えて異世界組が困らないようにとか、パーティで何かやる際の軍資金に当てるようにとかいう訳じゃない。断じて違う。余ったから貯金しているだけだ。
ロロは相変わらずラリルレにべったりだから、あいつの稼ぎもオレ達の貯金に入れている。
初めは、余った分はラリルレのために使うって言ってたけど、ラリルレがお願いしたら秒で了承した。
「キョーちゃんは分かんないんだって。ねーソーちゃん」
「照れくさいんだろ」
「何がだよ。あれは四人で決めたことだろ」
貯金はオレ、ソーエン、ラリルレ、ロロで決めたことだ。
「でも言い出しのはキョーちゃんだったでしょ?」
「覚えてませーん。知りませーん」
「なんの話ですか?」
「きになる」「おしえて」
「後でボクにも教えてー」
シアスタがオレの袖を、双子がオレの外套を掴んで揺らしてくる。ソーキスはそれに乗じてオレによじ登って移動の楽をしようとしてきた。
さっき上げた四人以外には貯金のことは内緒にしている。あくまで貯金は緊急時や軍資金に使う物であって、金があるからと当てにされるのは困るからだ。
町中で緑のバンダナ、黒コート、緑ローブ、白ゴス、タコ、白黒ワンピース、淡い水色パーカースパッツと全然統一感のない一団がギルドの近くで団子になる。
「やーめーろー揺らすな。ソーキスはオレの外套に潜り込むな」
「狭くて落ち着くー」
「ねえー教えてあげようよ」
いつの間にかラリルレもオレの手を引っ張っていた。
「なんでラリルレも引っ張ってくるの?」
「だってキョーちゃんの優しさを知って欲しくて」
「オレはサイコパスでソシオパスでエンパスだから優しくない」
サイコパス以外の意味は知らんが、なんか似てるし同じようなもんだろ。オレは優しくない。
オレも笑顔で「アハッ!!」とか言いながらナイフ舐めてみようかな。
PKやってた奴等を参考にするのも良いな。あいつら色んなパターンの悪人が居たから後で参考にでもしてみよう。
「もー、そーやってすぐ難しい言葉使うんだから」
「ロロはオクトパス」
ソーエンがボソッとくだらない事を言う。ちょっとニヤッちまった。
「ちょいとそこのにーちゃん達、お話いいかい?」
ソーエンにちゃちゃを入れようと思った矢先に、変な男に話しかけられた。
その男は暗い茶髪で無精鬚を生やし、立派な騎士甲冑を身に着けている。
でもヘルムはしていなくて、見えている顔はやる気の無い表情なもんだから、立派な鎧と装備者がアンバランスだった。
知らない男に急に話しかけられて驚いたのか、シアスタ達がオレに引っ付いてきた。
「おっと、おじちゃんは怪しいもんじゃないよ。ふぁ~」
男が右下を向きながらあくびをすると、後ろで束ねた髪が見えた。
「騎士? でいいんだよな」
アステルは衛兵が警備をしているので、騎士なんて見たことが無い。
「そうそう、クライエン王国の騎士だよ」
クライエン王国? 前にカフスから聞いたことがあるような。
確か……アステルの南に位置する広い領土を持つ国……だったかなぁ?
アステルからは一番近い国で、クライエン王国の首都までは馬車で一週間くらい掛かるとか言ってたな。行ったこと無いからあんまり詳しい事は知らん。
自慢じゃないけど、オレとソーエンは他の国に行ったことが無い。
本当は仲間捜しに行きたいんだけど、今は子供達の面倒を見るので精一杯だからアステルから離れられない。
例を出すなら。双子は一日一回オレの魔力を吸わないと気が済まないようでご飯をくれないなら町全体に催眠を使うと言ったり、ソーキスの稼ぎが少ないときはオレ達の金で飯を奢ってやったりしている。そのせいで、遠方のクエストを受けても超特急で向かって即効で帰ってくるから外泊なんて出来ない。
だったら貯めた金を持って全員引き連れて捜しに行けばいいと思ったけど、氷の精霊やサキュバス、人型スライムと言った人族以外の種族はこの町以外では珍しいらしいから、もし攫われたりでもしたら大変だ。だから、仲間捜しに連れては行くことは出来ない。
オレは子供達の世話、ソーエンはそんなオレのサポート、ラリルレはクエスト中の保護者。今のところ、ゲーム組は子供達中心に動いているのでこの町から動けない。
元の仲間も大切だけど、あいつらは皆強い。だから今はこの世界で出来た仲間達のことを優先させて貰おう。てか、コイツ等見捨てて仲間捜ししましたーなんて知られたらあいつらからどやされる。
「クライエン!! ねね、私旅で通ったよ!!」
そういやラリルレの旅話で、クライエンのどっかの領土を通ってきたって言ってたような。村だったか町だったか、とにかく田舎の方を通ってきたとか。
「お? ちっちゃいのに旅なんて偉いね~」
「大人だもん。一人でもへっちゃらだよ、そして二人ならうきうきになるんだよ」
騎士はラリルレの大人と言う言葉を聞いて笑いながら「そうかそうか」と言っている。
「それで、そのクライエン王国の騎士様がオレ達に何の用だ?」
何でアステルから出た事の無いオレ達が他国の騎士に話しかけられるんだ?
「いやね~、人捜ししてるのよ。で、情報が欲しいな~って」
人捜しか。ならオレ達がピンポイントに選ばれた訳じゃなくて、手当たり次第に声を掛けているのかもな。
人を捜すことの大変さはよく知っている。なるべく力になってやろう。
「オレ達が知ってることなら教えるよ。その人の特徴は?」
「助かるよ。そうだなぁ……小さい女の子で」
騎士が捜す小さい女の子。お姫様とかかな。お忍びでアステルに遊びに来てはぐれたとか。
「緑色のローブを着てて」
ふーん。ラリルレが着てるようなやつか。
「ピンクと緑のグラデーションが掛かった髪の色で」
…ふーん。ラリルレの髪の毛と似てるな。
「確か喋るタコを連れているとか」
……ラリルレの事じゃん。
最後以外は他人の空似かもしれないけど、喋るタコはロロしか居ないに決まってる。
「おお? ちょうどそこのお嬢ちゃんにそっくりじゃないか」
ジロリと騎士の男がラリルレを見る。その視線を受けたラリルレは怖がってオレとソーエンの後ろに隠れた。
あの眼は確信している眼だ。偶然じゃないな、オレ達に話しかけてきたのは。
「てめぇ、ラリルレに何の用だ」
オレは普段通りにしながらあくまで言葉だけで牽制するけど、ソーエンとロロは臨戦態勢に入っている。もちろんオレもいつでも動けるようにアイテムボックスからダガーを取り出せるようにしている。
理由は分からんが、仲間に危害を加えるようなら容赦はしない。
「おーおー怖いねぇ、そんな目で見ないでくれよ。俺は手伝いをしてるだけで、用があるのはこっちの面々さ」
騎士の男が両手を上げて降参のポーズをしながら軽く目配せをすると、人ごみの中からひらひらの服とチェーンメイルを着てヘルムを被ったやつらが現れ、囲まれる。十人くらいか。
最初からこうする気だったんだろう。じゃ無かったら段取りが良すぎる。
「我々は教会騎士団である」




