風邪の引きのシアスタ(3/3)
後日談。
双子が風邪を引きました。
そりゃ、風邪引いてるシアスタの横で寝てたらそうなるわ。
とりあえず、看病はラリルレに任せてオレ達はまた薬屋に行くことになった。
現在、シアスタと双子は家で寝てる。
「お前、自分で歩けよ」
「やだー。こっちのがらくらくー」
町中を歩くオレの肩にはソーキスがだらりと乗っている。
コイツ、いっつもこうだ。移動中、暇さえあればオレかソーエンに引っ付いて自分で歩こうとしない。
なんでソーキスは風邪にかからず平気なんだろうと思って聞いてみたら、「風邪もたべちゃったかもー」とか適当な返しをされた。でも、ありえそうな事だったから納得してしまった自分が悔しい。
「ソーエン、変わって」
「断る」
横で歩いているソーエンに頼みごとをしたらばっさり断られた。
ソーキスはカフスにそっくりで間違われることが多発したから、髪の色を蒼紫に変えるている。肉体の変更もやる気を出せば出来るそうなんだけど、疲れるとのことで見た目を変えるのは髪色までらしい。
それに、カフスから直々にお触れが出た。内容は、「私の姉弟がアステルに住むからよろしく。一住人のように接して」 以上。その言葉だけでソーキスは町の住人に受け入れられた。
それで住民達が納得するんだからカフスって本当に信頼されてんのなぁ。
こんなそっくりな奴居たらオレ気になっちゃうもん……そういや家に双子いたわ。なんなあいつ等浮いてるし、そっちの方が色々突っ込まれそうなのに誰も疑問に思ってない。
アステルって、結構適当で大らかな奴が多いもんな。流石は種族間交易都市。
そんな大らかな町を歩いていると平和の旗印メンバー、キンスの姿が見えた。
なんか、顎に手を当ててを悩ましながら歩いてるなぁ。
「おはよ、どしたの?」
様子が気になったので、近づいて声を掛けてみた。
「おお、お前等か。おはようさん」
振り向いて挨拶を返すキンスだったけど、まだ悩ましそうな顔をしている。
キンスだけしかいないし、平和の旗印に何かあったのだろうか。
「何かあったのー? キンスー」
「町を歩いていたら、急にカフス様からお礼を言われたんだが……全く心当たりが無い」
ソーキスに尋ねられたキンスは、オレ達と会話をするように普通に答える。
皆こうだ。普通、ソーキスはカフスの姉弟だから敬いそうなもんだけど、お触れに「一住民のように接して」と書いてあったからその通りに接している。
ならカフスとも普通に接すればいいじゃん、と前に受付さんに言ったら、「それは違います」と一蹴された。違いがよく分かんねぇ。
「もうキンス達は徳が高すぎるから、当たり前のように世界でも救ったんじゃないの? だから心当たり無いんじゃないの?」
平和の旗印は徳高きこと山の如し集団だから、オレの言ってる事はありえなくないんだよなぁ。
「んな訳あるかよ……。それがなぁ、ここ二、三日でアステルじゃ風邪が流行り始めただろ?」
「えっ……知らない」
「そうだったのか。初めて知った」
さも当たり前のように言われたけど、オレとソーエンはそんなこと知らない……。
「何で知らないんだ……」
最近は、クエスト受注、遠出、帰宅飯風呂晩酌が一日の流れだったから知らんかった……。
昨日シアスタが風邪を引いたのも、その流行に乗せられたからだったのか。
流行を知るためにも今度新聞でも取ってみようかな。アステルにも新聞屋あったし。
「まあいい。それでモヒカとフローも一昨日からダウンしていてな、旗印は冒険者業を休みにしてるんだが……。だってのに、カフス様から昨日はありがとうって言われて……本当に何のことだか」
キンスは本当に訳が分からないようで、説明中も頭をさすっていた。
「理由は聞かなかったのか?」
「急にお礼だけ言われちまったもんだから、混乱しちまってな。その間にカフス様はどこかへ行っちまって……訳は聞けず仕舞いだ」
「情景が目に浮かぶな。口下手な奴だ」
「お前も似たような所あるからな。ってか、カフスも理由くらい言えよ……あいつ、ホント口数少ねーな」
どうせ、キンスを見かけて急に話しかけ、御礼を言ってすぐに立ち去ったんだろう。
「お前等くらいだぞ。カフス様に向かってそんなこと言えるのはよ」
「だって普通に接しろって言われたし」
「その方がこちらとしても楽だ」
「俺だったらそう言われてもできねーなぁ。イキョウとソーエンは肝が据わってやがる」
「いやー、照れるぜ」
「ふげ」
頭を掻こうとしたらソーキスの顔に当たってしまった。――何だコイツ!?めっちゃ柔らか!!
「ところで、お前等はどこに行く気だ? ギルドか?」
「え? あ、ああ。家の子三人がダウンしたから風邪薬を買いに行くんだ」
昨日貰った薬は一人分だったからな。追加で二人分貰わないと。しかも、双子もシアスタを見習って自力で風邪を治したいっていってからな、回復魔法はNGだ。
「おお……大丈夫なのか?」
「メタクソに心配してる顔をしてくるなキンス……大丈夫大丈夫。皆頑張って病気治すって気合い入れるくらいには元気だよ」
「そう……か。よかった、本当に良かった」
「ふへー、ほっとした顔ー」
キンスは本当に子供が大好きなんだなぁ……。
「丁度良い。俺もよ、昨日から質の良い薬が格安で出回り始めたらしくてな、それを買いに行くところだったんだ」
昨日から? なんだよ。オレ達が採取しに行かなくても待ってれば薬を手に入れられたのか。
「買いに行くってどこ? オレ達と同じアラクネの店?」
オレ達はそこ以外に薬屋知らんから、必然と行き先はそうなる。
安くて効果のある薬も気になるけど、こっちはタダで最高品質の薬が手に入るんだ。だったらアラクネの店一択だ。
あんだけ素材を渡したんだ。二人分くらいはまたタダにして貰うからな。
あの材料を使った薬はほとんどの種族に効果があるらしいし、サキュバスにも効くだろ。
「そうだぞ。そこがさっき言った薬の出所だからな」
……んん?
昨日から……そして出所はアラクネの店…。
「ソーエン、またオレ達はアステルを救っちまったようだぜ」
「またとは言うが、その内の大半は自業自得だがな」
ガランドウル…貪食王…うごごごご、とんでもないマッチポンプをしている気が……。
「何言ってんだお前等? まあいい、お互い病人が待ってんだ。さっさと行くとしよう」
「……へい」
救世主の気分に浸りたいけど、浸ると自分が犯したことに向き合うハメになりそうだったから、大人しくキンスの言葉に従うことにした。
途中ソーキスに、キンスの方が乗り心地良さそうだからあっちに乗れって言ったら、「こっちのが落ち着くー」って言われてそのまま乗り続けられた。
引き続き、ソーキス輸送係はオレです……。
* * *
「なんじゃこりゃ……」
「まあ、風邪が流行ってるんだ。こうなるのも当然っちゃあ当然か」
目の前の光景に唖然としてるオレの横で、この光景を予想していたのかキンスは当然のように答える。
昨日は閑散としていた怪しい通りだったが……今は物凄い行列が出来ていた。
行列の始点はあの薬屋だ。
列は店の前から通りを抜けてもまだまだ続いていて、しかも遠く向こうの建物の端で曲がっている。まだその先も続いてそうだ。
「流行っているとはいえ、これほどとはな」
「え、これ並ぶの? 何時間待ち?」
「面倒だな。店を襲撃して奪うか」
「やめろ過激派、アステルから追い出されちまうだろうが」
「私としてもイキョウ達を追い出したくは無い」
「カフス様!?」
キンスは驚いた声を出して振り返る。
後ろから聞き覚えの声がしたので振りかえると……。この町の代表、カフスが居た。
「しれっと会話に混ざってきたな。このドラゴン」
「なんでここにいんの? なに、ドラゴンも風邪引くの?」
カフスの両手にはそれぞれ小瓶位の壷が乗っている。オレ達が貰ったものよりも二周りくらい大きい。
昨日オレ達も貰った、薬が入っている壷だ。
「これは役場用。誰かが倒れたときのため」
役場用かぁ。
カフスの自宅兼仕事場でもある、あのでかい建物。役場は冒険者ギルドと大きさは変わらないけど、あの冒険者ギルド特有のでっかい謎の牙は生えてない。しかし、街のどこからでも見えそうな高い時計塔が役場にくっつくように立っている。その時計塔の内部がカフスの居住区らしい。
「町の代表がお使いさせられてんのかよ」
「私は基本暇、居るだけ。皆優秀だから」
「だからちょくちょく家に来るのね」
「態々代表が並んで買ったのか」
「皆同じ。私だけ特別扱いはダメ」
「チッ」
ソーエン……お前カフスに頼んで列飛ばして薬手に入れようとしただろ。オレもね、それ思ってた。
でもカフス自身が並んで買ったのなら、オレ達が頼んでも特別扱いはさせてくれないだろうな。
「カフスー、並ぶのめんどいから権力つかってー」
オレとソーエンが察して言わなかったことをソーキスが言う。
ソーキスお前、ド直球に言いやがったな。
「ダメ」
「いいじゃーん」
「どうして?」
「シアスタとリリムとリリスー。追加二人ー。モヒカとフローもー」
「風邪?」
「そー」
「ん、分かった」
すっげぇ。最低限の情報で会話が成立してる。
口数か少ないカフス。喋るのがめんどくさいソーキス。この二人が揃うとこんなに会話が味気なくなるのか。
「こっち来て」
カフスはこの人が多い通りから、路地裏へと導くように歩き出したから、オレ達はそれに付いていく。
早く並びたいんだけど……でも呼ばれたからなぁ。付いていくしかないか。
カフスが入った路地は人通りが無く、表に比べると余計に静かに感じられた。
この路地裏に店などは無く、ここを目的地にする者は居ないだろう。
「これ、五人分。皆で分けて」
路地に入るとカフスは手に持っていた壷の内、片方をオレ達に差し出した。
「貰っていいんですかい?」
「ん、良いよ」
「マジ?貰って良いの? ならありがたく貰うわ」
「お前……少しは遠慮したらどうなんだ……」
キンスに遠慮って言われるけど、元の素材はオレ達が採ってきたもんだしむしろ感謝して欲しいくらいだぜ。
カフスから壷を受け取ったから、後は五人分に分ければ良いんだな。
トラップとかよく使う<ビーカー>があるし、それに詰め替えれば良いだろ。
オレは丁度近くにあった木箱の上で中身を分ける作業に入る。
「カフス様、お聞きしたい事がございまして」
「なに? キンス」
オレの後ろではキンスとカフスが話をしている。
ソーエンにビーカー持って貰って、壷を慎重に傾けてっと。
おっと、思ったよりは粘り気があるから分けるの難しそうだ。
透明なガラスのビーカにトロトロした緑の液体がゆっくりと流れ始める。
「どうして俺達に感謝するんですかい?」
「薬の材料を沢山取ってきてくれたって聞いた。感謝してる」
「は?」
何か聞き捨てなら無い言葉が聞こえたぞ。
「落ち着けイキョウ。零れる」
「分かってる。並びたくないから零す気は無い」
「ええっと……いったい何の話ですかい?」
「ネイトライアが言ってた。平和の旗印が材料を取ってきてくれたって」
「はあ……? 本当に何の話だかさっぱり……」
「キンス、真相はオレが知ってるからちょっと待ってろ」
「何でお前等が……」
ネイ……なんとかってのは知らないけど、多分あの店主のことだろ。
謎が謎を呼んで謎が深まったキンスだったけど、まずは薬の分配の方が先だ。
急いで詰めて、大人と子供の量の違いは……まあ、こんくらいだろ。
後はビーカーにコルクで蓋をしてっと。
よし。
「キンス、はい」
五人分に分けた詰め替え(大人用)を二人分キンスに渡して。
「おお、ありがとう。……おぉ……綺麗なガラスだな。相当な値打ちもんなんじゃねぇか? これ」
「曇りが無い」
「そんなこったぁどーでもいい。キンス、カフス、今から言うことをよく聞いてくれ」
二人はビーカーを見て感嘆の声を出しているけど、ガラス細工なんか放っておけ。
今から大事な話しなんだから。
「じつは……昨日素材を取ってきたのはオレ達だ。調合屋に渡したのもオレ達。アステルを救ってるのもオレ達」
「あんな高い素材を無償で渡すの、凄い」
「……え? 高かったの?」
「イキョウ達は何を取ってきたんだ?」
「えっと……氷雪花と……青い苔」
「蒼岩苔だ。あとはフロストワイバーンの生爪だ」
「お前等、もしかして風邪が流行ってるのを知らなかったのってその素材のために長期遠征してたからか?」
「いんや、昨日採って帰ってきた」
「んなバカな……」
キンスは呆れながら頭を掻き始めた。
「呆れてるところ悪いけど、マジマジ。昨日シアスタが風邪引いたから、一番効果ある薬を作って貰うために採って来た」
「それでも一日じゃあ……でも、お前等なら何故かやりかねない気がするんだよなぁ……」
「褒めてんだよな?」
「もちろんだ。嬢ちゃんのためにありとあらゆる手段を使ったんだろう? 冒険者同士で手の内を探るのはご法度だから詮索はよしとくけどよ」
「俺達は走って採ってきただけだ」
「照れ隠しするのは良いが、お前等のやった事は誇るべきことだ。堂々としていていいんだぞ」
キンスにはソーエンの言葉が照れ隠しに聞こえたらしい。
「そうではない。俺達は本」
「ソーエン過程じゃなくて結果が大事なんだ」
このままじゃ話しが進まなそうだからソーエンを止めて話を進める。
そしてオレは大きく息を吸い。
「なんでオレ達の手柄が平和の旗印の手柄になってんの!?」
大声を出してキンスに訴えかける。
大事な結果がしかるべきところに収まってないんだけど!?
「そのことに付いては寧ろ俺の方が聞きたいんだが……」
事情を知らないキンスに聞いても意味無いか。
「教えてカフス!!」
「緑のバンダナと黒いフードの二人組が、平和の旗印に依頼して採ってきた物だって言ってた」
「なんで!?」
「ふむ、あの時か。お前、店主に聞かれて出所なんてどうでも良いって言ってたよな」
「言ってな……言ったわ。なんか店主が一人で推理始めたから、急いでたしめんどくさくなって答えブン投げたわ」
あの時、店主は一人で納得して自分の中で答えを生成しやがったのか。
どんだけ信じてもらえなかったんだオレ達は……。
「そう……か。なるほど、なんとなくだが事情は分かった。だけどな、俺としても人の成果を横取りするような真似はしたくない」
キンスは心が読めるのか? よく今の流れだけで状況を理解できたな。完璧に理解してるかどうかは知らんけど。
「無償で渡したのに、どうして拘るの?」
確かに、カフスの言う通りオレ達は余った素材を全てあのアラクネの店主に渡した。
なぜならあのときは、素材の価値が分からんかったし、何よりシアスタが風邪で寝込んでいたから金にしようなんて考えていなかった。
だけど、今は事情が違うし、そしてそれよりも大事なことがある。
「あのくそ寒い中必死に耐えて採ってきたのに、誰かに名声が渡るのやだ」
それに、これでオレ達の名が通れば仲間達の耳に届く可能性があるんだ。
「間違いを正しに行くとしよう。高い素材をあれだけ渡したのにも関わらず、何も言わずに一銭たりとも渡してこなかったのも気に食わん」
「やるなら今だな。大勢の民衆の前で腹黒アラクネを吊るし上げてやる」
「何する気?」
「襲撃」
「焼き討ち」
「待て待てお前等!!」
勇み足で路地から出ようとしたところで、キンスに肩を掴まれる。
「あのなぁ、いくらなんでも冗談が過激過ぎなんだよ」
キンスからクッソ見当違いなこといわれたぞ。
「そんなことをしなくてもよ、後で俺と事情を説明しに行けば良いだろう」
「情報ってのはな、新鮮さが大事なんだぞ。時間が立つほど間違いを直すのに苦労するんだ」
キンスは後でと言うけど、あの行列だ。その後でがすぐ来るわけじゃない。
「イキョウ、カフスに頼んだ方が早いのではないか」
ナイスソーエンそれ名案。カフスのお触れで大々的に宣言してもらえばすぐに問題解決じゃないか。
「カフス、頼む!!」
「無理」
振り向いて頭下げたら一瞬で断られたんだけど……。
「なんでよ!!」
「薬を街に行き渡らせるために税金を使ってる。無料で素材が手に入ったから安くしてくれて嬉しい」
ふむふむ。
…………………終わり?
「もっと詳しく頼む。バカでも分かるくらいに」
高い素材を使って作った薬が格安で提供されている理由は分かった。保険料一部負担みたいな感じなんだろう。
それに薬屋自体も相場よりも安く薬を売っているらしい。
でも、聞きたいのそこじゃないんよ。
「街の予算の中に、有事の際に備えたものがある。薬はそれ。でも、承認するには理由が必要。今回は、流行り病、信頼できる調合師、平和の旗印が理由」
「どーゆーこと……」
「出所不明なものに街の予算は使えない。効果の無い薬に皆のお金は使えない。平和の旗印は皆信頼している」
えっと、今回の予算が下りた理由は、『町に風邪が流行していること』、『平和の旗印と言う信頼できる冒険者が素材を取ってきてくれたこと』、『腕の立つアラクネの店主が薬を作ってること』。
以上の三つが全て揃って初めて可決されたってことでいいのか。
「仮に俺達が採ってきたと言い張ったらどうなる」
「入手ルートの調査をして、違法性が無ければ承認される。でも、時間が掛かる」
時間が掛かるってことは、それだけ薬が行き届くのが遅れて苦しむ人が増えるのか。
「……え? その調査すっ飛ばすキンス達すごくね?」
「当たり前のことを当たり前にやれば、信頼は後から必ずついて来る」
そういう次元超えてる気すんだけど。町のお偉いさん方が手放しで信用してるとか何なんだろう、平和の旗印って。
でも、調査されなかったせいでオレ達は被害被ってんだよなぁ。
「カフスが直々に俺達の正当性を説けば良い話だろう」
確かにソーエンの言う通りだ。カフスこそこの町で一番信頼されてんだから、そのカフスがオレ達を信頼できますって言えば問題解決じゃん。
「私は基本見てるだけ。皆に任せてる」
この町のトップ、傍観者なんだけど……。
「また私だけの借りが出来た」
……なんか、表情はあまり変わんないけど、嬉しそうな雰囲気出して変な事言い始めたぞこのドラゴン。
でも、まあ、そう嬉しそうにされるとこっちとしてはそんな強く出れない訳で……。
「はぁ……キンス。この事はここだけの話しにしといてくれ」
オレはもう諦めて、キンスに全てを託すことにした。
「良いのか? お前等の手柄を取っちまうことになるんだぞ?」
「むしろそうして欲しい」
キンスは少し考えた後、覚悟が決まったような顔になる。
「……よし分かった。お前等の気持ち、受け取ったぜ」
キンスはやっぱり良い人だ。
自分の都合よりもオレ達の気持ちを優先して、オレの願いを聞いてくれる。
ソーエンは何も言わずともオレと同じことを考えているから、この事はもう決定事項だ。
カフスが嬉しそうにするなら、オレ達は水を指さない。
「ありがとう。またお家に行くとき御土産持っていく」
「ほとんどオレ達が取ってきたもんだけどな。ま、ありがたく頂戴するよ」
「ばいばい」
そう言ってカフスは路地を去ろうとする。
「もう行くのか?」
「見てるのが私の仕事だから」
よく分からん仕事だなぁ。
そして、壷を片手に、嬉しそうな口数の少ないドラゴンは路地を去った。
「ふぅ」
横ではカフスの姿が見えなくなった瞬間に、キンスが小さく息を吐いて脱力をした。
「あんなに楽しそうなカフス様は始めて見たな」
「そう? いつもあんなんだぞ」
「お前達の前ではあれがいつもなのか?」
「逆に他の前だとどうなんだよ」
「本を読んでるっつうか、まるで枠の外から俺達を見守るっつうか。それがお前達の前では登場人物になっている。みたいな感じだ」
「わーお、ロマンティックな表現するね」
カフスは見てるのが仕事って言ってたし、見守る仕事してんのか?
じゃあ何? オレ達の前だけでは休憩してんの?
めっちゃ仕事熱心じゃん。
「今度会ったら肩でも揉んでやるとしよう」
「それな」
「お前等って、たまに文脈から想像できない言葉出すよな」
キンスになんか苦言呈された。
「そんなこと無いよな、ソーエン」
「そうだ」
「愉快な奴等だから、お前等の周りは皆楽しそうなんだろうな」
今度は褒められた。
「よせやい照れる。それより早く帰って薬飲ませようぜ」
「その前に――お前等二人に言いたい事がある」
照れるからさっさと帰ろうと思ったら、キンスが真剣な顔をしてオレ達を止めた。
まさか、さっきのこと怒ってるのか?
カフスの手前オレ達の願いを聞いたけど、内心は言われも無い功績を押し付けられて怒り心頭だったのか? でも、キンスがそんなことで怒るとは思えないしなぁ。
「お前等――」
キンスはゆっくりと口を開く。
なんだ。何を言われる。
「――実は、このことを見越していたんじゃないか?」
「うーん。……うーん?」
「無償で素材を提供したのも、その提供したときに俺達の名を使ったのも、全てはアステルで病を苦しんでいる人々に迅速に薬を届けるためにしたことだろ?」
「ちょっと、何言ってるのか分かんない」
「照れ隠しするのは良いけどよ、お前らは立派なことをした。だったら堂々と胸を張れ、その行いを誇れ。……って言っても、真相は俺しか知らないか。ならよ、俺だけでもいいからお前等に感謝していることを覚えておいてくれ。本当にありがとう」
わけの分からないことを言い始めたキンスは、綺麗なお辞儀をして感謝をオレ達に言う。
「よきにはからえー」
「状況が理解できん」
「なんでそう言う結論出たの? オレとしてはキンスの言葉の方が想像できないよ」
「俺は嬉しいんだ。お前等はどこか抜けているし、よく突飛な行動をするから心配していたが、まさかそんなお前等が城一つ建つほどの素材を人々の為に無償で提供するなんて……出会った時にあんな態度を取った俺をぶん殴りたいくらいだ」
「……城一つ……建つ……だって?」
城を建てるために必要な金額は知らない。でも物凄い大金だろう。
そんな素材を無償で手に入れたあの薬屋は純利益しか出ないはずだ。
そして町の財政的にも、薬屋が安く販売してるから本来の予定よりも町の予算を払わないで済んでいるみたいなことをカフスが言っていた。
アステルの住民も、オレ達が素材を取ってきて平和の旗印名義で薬屋に卸されたから迅速に薬を手に入れてる。
コイツらは得しか得ていない。唯一損をしているのはオレ達だけなんですけど。
金も名声も得ず、誰も知らないままアステルの危機を救ってんですけど。
唯一手に入れたのは…………カフスの嬉しそうな雰囲気と借りか。
……だったら……まあ、良いか。
オレ達の代わりになってくれた平和の旗印と、カフスに免じてこの事は忘れることにしよう。
「ソーエンもそれでいいか?」
「不服だがな」
「なんとなくボクも良いと思うー」
「よし、可決三、否決零。これにて閉廷」
「何で意見も交換せずに結論が出せるんだ……本当に不思議な会話をするな」
キンスはそんなことを言いながら、何故か目の端に涙を溜めてオレ達の肩を叩いてきた。
人の為に涙を流せるなんて、本当にドンだけ優しい男なんだ。この男は。
「このことを、モヒカとフローに話していいか?」
「そうだな、平和の旗印に全部任せちまったし、身内で情報を共有するのは大事だしな」
「それもあるが、臥せってる二人に元気の出る話がしたい。あいつら、この話し聞いたら喜ぶだろなあ」
キンスはモヒカとフローが喜んでる姿を想像して優しい笑顔を浮かべている。
「……キンス、これお見舞いの品。喉に良いから。舐められなかったら、お湯に溶かして飲ませて」
なんか、ここまでまぶしい人が居ると、こっちも力になりたくなっちゃうから持ってるアメを全部渡す。
「こんなに……俺はお前等がアステルに来てくれて本当に良かったと思ってる。って言っても、貰い物した後じゃ社交辞令を言ってるようにしか聞こえないか」
バツが悪そうに言うキンスだったが、今更そんなこと思うわけ無いだろ。
「もう辞めて。キンスの光でオレ達消えちゃいそう」
「……これも持っていけ」
ソーエンはそう言って、ストックしていたカロメを十本くらい布に包んで、キンスに渡した。
「これはなんだ?」
「栄養満点の食料だ。そのままでは食べ辛い。砕いて牛乳に溶かして飲ませろ」
それは……効果あるのか?
確かに栄養面は良さそうだけど……。まあ、ソーエンなりの気遣いなんだろう。
「二人とも……本当にありがとう」
「ボクも出さなきゃじゃーん。ボクは……お大事にって言っといてー」
「ああ、必ず伝える。ありがとうソーキス」
「キンス達は良くしてくれるからねー」
え? オレ達が知らない間にコイツら仲良くなってたのか。
「何してんのお前」
「ボクだけじゃないよー。ボク達がギルドに行くと色々教えてくれたりお菓子くれたりするー」
「すまんなぁ、ついつい可愛がりたくなっちまって……」
キンスは気恥ずかしそうに頭を掻く。
キンスみたいな見た目の奴が言うと、可愛がりって別の意味に聞こえそうだけど、本当に可愛がってくれてるんだろな。
「お前達<インフィニ・ティー>が出来てからというもの、毎朝ギルドに行って嬢ちゃん達の元気な姿を見るのがどうにも嬉しくてよ。ギルドに居る皆が元気を貰ってる。健気に頑張る姿を見ると、俺達も頑張らなくちゃなって思うんだ」
キンスは、それはもう本当に綺麗な笑顔で話す。
確かに、家の子供達はアステル冒険者ギルドの最年少組みだ。十四歳はシアスタしか居ないし、双子はそれより下だ。ソーキスなんて生後数週間だぞ。
子供の冒険者も、自分より年下だから後輩のように可愛がっているんだろう。それを、大人達もほほえましく見てるんだろう。
「家の子達愛されすぎてない?」
「当然だろう。嬢ちゃんはいっつも一生懸命だし、双子はそれに付いて行こうと頑張っている。ソーキスは誰にでも臆さず接してくるからな。俺達冒険者ギルド強面組みの希望の星だ。最近じゃソーキスの為に食い物を持ってくる冒険者も少なくは無い」
「そんな組合があったんだ……」
「ソーキスのおかげで、嬢ちゃん達も最近は強面組みによく声を掛けてくれる。皆可愛がってるぞ」
「知らん内に家の子達がギルドの癒しになってる……」
「ふむ。喜ばしいことだ」
「ラリルレはよく強面組の悩みを聞いてアドバイスをしてくれる。最近じゃ、防具に可愛いペイントをするのが流行りだ」
「ラリルレは子供枠判定なのね……分かるけどさ」
「ラリルレは俺達と子供組の中間だからな。一番<インフィニ・ティー>に貢献していると言っても過言ではない」
ソーエンのいう事はもっともだ。でも、オレは一番気になることがある。
「ロロは?」
あの正体不明、生態謎生物の評価が気になる。
ラリルレの評価が高いことなんて世界の法則だからな。今さら言われることのほどでもない。
「基本的に無口だ。だが、いつからか身の丈に会わないクエストを選ぶ冒険者に注意をするようになった」
絶対ラリルレがロロに何か言ったな。じゃなきゃロロがそんなことをするはずが無い。
家のパーティ、軒並み好印象じゃん。こうなるとオレとソーエンの評価も気になるな。
「オレとソーエンは?」
「……率直に言うと、騒がしいバカと静かなバカだ。これはギルド全体の評価であって、何も俺個人の意見って訳じゃねぇ」
「評価全然違うじゃん。酷くない?」
「訂正するとよ、今はイキョウは精剛という評価の方が上回ってるぜ」
「むしろ汚名追加されてんだけど?」
「何故俺達の評価は低い」
「そりゃあ……。よくクエストボードの前で喧嘩したり、受付で怒られてる姿を見ればそうなるだろ」
クエストボード前の喧嘩はお互いに熱心にクエストを選んでるからだし、受付で怒られんのは……まぁ、この前の森林破壊もそうだけど、度々受付さんからお叱り受けてるからなぁ。
最近はただでさえ精剛の称号を得てからというもの、女性冒険者から突き刺さすような目で見られてんのに、それに加えてオレはバカとも思われてたのか。
自分で自分をバカって言うのは良いが、人から言われんのはムカつく。
「なんだ? この世界はオレを苛めたいのか?」
やること成す事全てが裏目に出てる気がすんだけど。
「バカみたいな称号が付いているお前に比べれば、俺の方はまだマシか」
「この称号、何時外れるんだろ……。なんで双子の薬を貰いに来ただけなのに、オレの精神は色々すり減らされてんだ……」
「そう落ち込むな。お前には帰りを待っていてくれる仲間が居るだろ」
「帰り……そうだな。さっさと帰って双子に薬飲ませるか……」
あれ? 今思ったけど、双子って物を食べられるんだっけ? あいつ等いっつもオレの魔力ばっかり食ってるよな……。
「なんか嫌な予感してきた。今日の全てが徒労に終わる気がする」
薬を貰いに来なければ、オレ達だけが損している事や低い評価をされている事は知らずに済んだ訳で、だからせめて双子が薬を飲んで元気になってもらわないとやってらんない訳で……。
「善を急ぐ必要があるなら、悪い事も速いうちに終わらせた方が良いよな」
「一理ある」
「何の話をしてんだ、お前等?」
「キンス……オレ達帰るから!!」
「モヒカとフローによろしく」
「ばいばーい」
別れの挨拶終了!!家までダッシュ!!
「唐突だ……な。行っちまった……」
後ろからキンスがなんか言った声が聞こえてきたけど、もう分かれ済ませたからOK。
「あぶわわわわわわわ」
オレがダッシュしてるせいで頭上のソーキスは振動しながら声出してるけど、スライムだから問題なし。
お願いだからせめて薬飲んでくれよ!! 薬だけが今日の成果なんだから。捨てるの勿体無いから!!
その後、家に帰って双子に薬を飲ませようとしたけど、オレの魔力の方が良いと言われた。
オレは心で泣きながら、せめて薬を無駄にしないようにとオレが飲んでから魔力を吸わせた。
双子はしかめっ面しながらオレの魔力を飲んだあと、「まずくないけど」「おいしくない」と酷評を言ってきた。
普段なら、「魔力に味が移るもんなのか?」っていう疑問を持つかもしれないが、持たない、持てない。
だって、薬を原液で飲んだら吐き出しそうになる程苦味とえぐ味が凄かったもん。そんな些細な疑問どうでも良くなったもん。
それに、いい素材を使ったからか、薬自体にも魔力宿ってるってシアスタ言ってたし、その魔力がオレの魔力に乗って双子に流れたんだろ。
苦い、時間が経ってもずっと口が苦い。
今日は、苦い思いが続く一日になりそうだ。
来週から王国編を投稿します。




