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風邪の引きのシアスタ(2/3)

 浅い眠りを繰り替えし、起きること数回。ラリルレさんはご飯の材料を買ってくるといって私の傍を離れていってしまいました。

 そして、また寝て起きるを繰り返し、何度目か。目を開けると。

 私の目の前にはリリムさんとリリスさんが浮いて居ました。


「おきた」「おこしちゃった?」

「そんなことないですよ」


 普通だったら驚いてしまうような光景ですが、私は驚きません。<インフィニ・ティー>を組んでからというもの、私の度胸も随分ついてきたような気がします。

 でも、このおでこの違和感はなんでしょうか? 何かが滴り落ちているような。


「あたまにのってるたおる」「かえてみた」


 ああ、なるほど……。お二人がおでこのタオルを変えてくれたおかげですか。

 絞る力が弱かったのか、べちゃっとしていますが、それでも気持ちいです。でもそれ以上に嬉しくて、それがとっても嬉しいです。

 ……? 頭がぽあぽあして自分でも何を言ってるのか分からなくなってきました。


「だいじょうぶ?」「だいじょうぶ?」「かなしくない?」「くるしくない?」「がんばれ」「がんばれ」


 お二人は不安そうな顔で私を覗き込んできます。


「大丈夫ですよ。お医者さんが言ってました、寝ていれば治るって」

「ほんと?」「ねれなかったら」「わたしたちの」「ひゅぷのしすぼいす」「つかうからいって?」

「ありがとうございます……でも、今は眠るよりもお話したいです」


 どうして体の調子が悪いときってこんなに寂しい気持ちになるのでしょうか。

 次に目を開けたときに一人だったらと思うと、怖くて寝れません。……どうやら、私は甘える癖がついてしまっているようです。


「いいよ」「おはなしする」


 何故かリリムさんとリリスさんは私のベッドの中に入ってきてそのまま私を挟んで寝ます。


「どうしてベッドに?」

「これで」「さみしくない?」

「……はい」


 私の心はお二人に見透かされていたようです。それとも表情に出てしまっていたのでしょうか。

 思ったことが顔に出るだなんてまるで――。


「まるでイキョウさんみたいです」

「おにーさんが」「どうかしたの?」

「ほら、イキョウさんって」

「おじゃまー……ってあれ?」


 私が一人で笑っている理由をお二人に教えようとすると、扉が開けられてソーキスさんが入って来ました。


「おそろいじゃーん」

「ソーキス」「うるさい」

「ごめんねー、ついー」


 ソーキスさんは、声を落としながら扉を開けて入ってきたかと思うと、私達の姿を見ていつも通りの声を出しました。

 ソーキスさんなりに気を使ってくれたのでしょうか。


「大丈夫ー?」

「ふふっ」

「何で笑うのー?」

「リリムさんとリリスさんも同じことを聞いてきたので、なんか嬉しくて」

「ふーん。変なのー」


 私、一人じゃなくて良かった。

 今日のことは師匠の手紙に書いて、思い出に留めておきましょう。


「いいなー、みんな寝てんじゃーん。ボクも寝よーっと」


 そう言ってベッドに近づくソーキスさんでしたが、お布団には入らずに、小さいスライムの姿になって私のおでこに乗ってきました。

 温まってたタオルに変わって、ひんやりしていて気持ちいです。


「皆さん、ありがとうございます」

「はやくげんきになって」「ぼうけんしよう?」

「お礼はシアスタの元気ってことでー」

「頑張ります。頑張って風邪を治します」

「まー、ほどほどにねー」

「ソーキス」「シアスタが」「おはなし」「したいって」

「いいよー、ボクも当分ここから動く気無いしー」

「シアスタシアスタ」「なにおはなししたい?」

「そうですね……今は皆さんのことを聞きたいです」


 熱のせいか、今は皆さんの声を聞いていたいです。

 いつもクエストを行っているときみたいなありふれたお話よりも、もっと深くまで聞けるような。


「どうしてこのパーティに入ろうと思ったんですか?」

「「「おにーさん(おにいさん)の魔力がおいしいから」」」

「だと思ってました。でもそれだけですか?」

「……さいしょはそうだった」「おいしいごはんがあったから」「でも」「いまは」「「ちがう」」


 リリムさんとリリスさんは交互に喋るので、左右の耳から声が入ってくるのですが、なぜだかそれが今は心地いいです。


 * * *


「むっ」

「どしたのソーエン」

「今この世界にASMRの需要を感じたのだが」

「んな訳」

「……そうだな。ただの気のせいか」


 * * *


「ここは」「いごごちがいい」「わたしたちはずっと」「ほーろーしてた」


 確か、お二人はおいしい魔力を求めて各地を巡っていたとか。

 クエスト中にその旅路を聞こうとしたのですが、焦点は全て味の評価に向けられてて、訪れた風景はおろか街の名前を聞いても覚えていないと返されました。


「あれはあれで」「たのしかった」「それでいいと」「おもってた」「わたしはリリスが」「わたしはリリムが」「いればいいと」「おもってた」「でも」「ここにきてしった」「おかえりっていわれると」「ただいまっていえると」「とっても」「うれしい」

「分かります、良いですよね」


 その気持ちは痛いほど分かります。帰ると誰かが居て、誰かの帰りを待って、帰る場所があって、一緒に笑える人が居て。とっても楽しいです。


「それに」「ともだちが」「できた」「ふたりが」「いっぱいになった」「まいにちが」「もっとたのしくなった」

「私もです」

「あー、ねー」

「おなかじゃなくて」「むねが」「いっぱいになる」「まんぷく」「まん……むね?」


 私達四人は仲間でもあり、友達です。イキョウさん達は友達とはちょっと違う気がします。でも仲間です。友達も仲間も、私にはどっちも大切な人達です。

 氷精郷に居た頃は理解できませんでしたけど、友達って良いですね師匠。毎日が楽しいです。昨日を思い出して、今日を過ごして、明日を考えると、それだけで毎日が楽しくなります。


「まんむね?」「まん……きょう?」「「むー」」「つぎ」「ソーキス」


 お二人は答えが出なかったのか、急にソーキスさんに振ります。


「急ー、ボクかー。ボクはねー」


 私の頭でソーキスさんが振動しています。喋っているせいでしょうか? でも、このプルプルでフルフルな感じも気持ちいです。


「うーん。大体一緒? 友達ともだちー」

「てきとー」「ざつ」

「しょうがないじゃーん、昔の事はあんまり覚えてないんだもーん……でもー、うっすらとあるのは、昔のボクはなんか冷たかったなー」

「今も冷たいですよ」

「氷の精霊程じゃないよー。なんていうかー、……目的の為に動いてた?みたいなー。よく分かんないけどー」

「わかんない」「むずかしい」

「感覚だからねー。でも、今は楽で楽しいよー」

「そですか」

「そーそー。前みたいにボヤっとしてるボクよりー、今のボクの方がボクって感じがあって良き良きー」

「それだけ?」「ほかには?」

「うーん。リリムもリリスも言ったけどー、周りに誰かが居るのって悪くないって感じかなー。あの冷たかったボクよりも今の温まってるボクの方が心地良ー……みたいなー?」

「ひんやりしてて気持ちいですけどね」

「言うねー。このまま冷やしきってしんぜよー」


 ソーキスさんはふざけて体をもぞもぞさせますが、私は分かっています。先ほどから私の熱で温まったところを動かして、ずっと体の冷えた部分を私の額に当てている事を。


「ボクの事はいいよー。なにせ記憶がねー」


 話題が終わってしまいました。でも、直ぐに話したいことが浮かんできます。いろんなことをお話したいです。

 話題なんてどうでもいいんです。皆さんとお話しすることが楽しくって、本当は話題なんてどうだっていいんです。


「イキョウさん達はどうですか?」


 今出たことは私達のことが主でした。次はイキョウさん達についてを聞きたいです。


「おにーさんは」「おもしろい」「いやそうにしてても」「ほんとうはやさしい」


 どうやら順々に品評していくようです。


「あー分かるー。ツンデレだよねー」

「つんでれってなんですか?」

「なんだったけかなー? 急に頭に浮かんできたけどー…そーそー、表はツンツンで厳しいこと言うけど、なんだんかんだ裏はやさしー。みたいなー?」

「イキョウさんですね」

「おにーさんは」「つんでれ」


 ソーキスさんは面白い言葉を知っているんですね。たまに不思議な言葉を言うイキョウさんとソーエンさんみたいです。

 イキョウさんは口では突き放すような言葉を言いますが、なんだかんだ言って本当は優しい人ですからまさに「つんでれ」?が当てはまりますね。


 * * *


「ぶえックション!!」

「お前まで風邪を引いたか」

「確かにさみーけど、オレが風邪引くわけないだろ!!」

「バカは風邪引かないからな」

「ってことはお前も風邪引かないんだからな」

「ならば、俺達はこの雪山において無敵だな。早く花を捜すぞ」

「雪山上等、特攻、速攻!! ……にしてもさみー」

「寒いというから寒くなる」

「あちー!! 暑くなってきたー!!」

「やけくそだな」

「お前はどうなんだ!?」

「ふむ、心なしか暑くなってきた。この雪山暑くないか?」

「だよな!! このままじゃ雪融けしちゃうぜ!!」

「氷雪花は寒い土地でしか育たないらしいからな。俺達が春一番を吹かせる前に見つけるぞ」

「合点だ!!」


 * * *


「ソーエンさんは?」

「ソーエンは」「あんまりしゃべらない」「でも」「はなしかければ」「はなしてくれる」「おにーさんとおなじで」「おもしろい」「たまにむずかしいこという」


 そうなんですよね。イキョウさんとは違った……そう、突拍子もない人なんですよね。

 でも、イキョウさんと同じくらい身内には優しい人です。その代わり、身内以外には厳しい人ですが。

 ソーエンさんは言葉を良く知っていて、強くて、冷静そうな雰囲気を醸し出しては居るのですが……その、根底はイキョウさんと同じなんです。というか、あのお二人が揃うと相乗効果で……直球に言うとおバカさんになります。でも、イキョウさんと居るときが一番自然体な気がします。あれが親友と言うものなのでしょうか。


「何だかんだ言ってやさしーよねー。ボクが加入するときも賛成してくれたしー」

「わたしたちのときも」「さんせいしてくれた」

「ソーエンさんは静かな人ですけど、騒がしいのは嫌いじゃないそうですよ」


 このことはお酒を飲んでいたイキョウさんから聞きました。そのとき、ソーエンさんも同意していたので本当のことです。


「嫌いじゃないっていうのがソーエンぽーい」

「ちょっと分かります。あと……一人は楽でも楽しくない……とも言っていましたね」


 この言葉は、私が始めてパーティとしての失敗を経験し、塞ぎこんでいた居たときにソーエンさんから言われた言葉でした。何故だかとても重みがありました。あのときの言葉は一言一句覚えています。

 自分が言ったことも、言われたことも。だって、初めてだったからです。あんなにワガママを言って、言い合って、不貞腐れて、泣いて……。今思い出すと恥ずかしいです。


「シアスタがおちこんでたときに」「ソーエンがいった」

「……どうして知ってるんですか?」

「「あっ」」


 あの時は部屋に、私とイキョウさん、そしてソーエンさんだけしか居なかったはずです。


「シアスタがしんぱいで」「がまんできなくて」「へやのそとで」「きいてた」


 お二人は申し訳なさそうな声で私に事情を教えてくれます。そんなこと言われたら、もう何も言えません。


「ありがとうございます」

「「おこってない?」」

「怒りませんよ。それどころか嬉しいです」

「一件落着だねー」

「何があったか聞かないんですか?」


 ソーキスさんが居ない頃の話なので、何のことを言っているか分からないはずなのに、ソーキスさんは何も聞いてきません。

 それどころかあっさりとスルーします。


「今はいいよー。だって怒るかもしれないんでしょー? だったら元気になった後で思う存分怒りながら聞かせてー」

「なんですかそれ」


 ソーキスさんの無茶苦茶な理論に思わず笑いが零れてしまいます。何故かその言い方があのお二人と似ている気がして。


「いいでしょう、受けて立ちます。元気になったら思う存分に恥ずかしい話をソーキスさんに聞かせますからね」

「ふへへー楽しみにしてるー」


 これはソーキスさんなりの気の使い方なのでしょうか。それとも、ただ単に話を聞くのがめんどくさかったから先延ばしにしたのか。

 ソーキスさんの考えている事は分かりませんが、分からないからこそ話すのって楽しいです。


「ソーエンって雰囲気の割りにやさしーからねー」

「わたしたちが」「まわりをとんでも」「なにもいわない」「ひざでねても」「なにもいわない」

「膝枕してもらったんですか?」

「ねこのしゅうかいじょに」「ついていって」「ねこといっしょにねた」「きもちよかった」「もふもふ」「ふわふわ」「たまにごわごわ」

「あぁ、ソーエンさんは猫大好きでしたもんね」


 休日や夜にソーエンさんがどこに行くか気になって一緒させてもらったときに私も体験してきました。

 多分、あの状態のソーエンさんは何をしても怒らないと思います。


「ボクもたまにソーエンの上で寝てるけど何も言われないよー。起きるまで待っててくれるー」

「夜ですか?」

「日が出てるときー。ソーエンのコートは温かくて気持ちーんだー」

「イキョウさんもそうですけど、ソーエンさんも怒るときってあるんですかね」

「ふへへー、どうだろねー」


 イキョウさんは口では色々言いますけど、何だかんだ言って怒りません。ソーエンさんは口ではあまり言わず、でも怒りません。お二人ともとっても温厚な人たちです。


 * * *


「む?」

「どした」

「これじゃないか」

「おお!!それだ、それっぽい!! ってかそこめっちゃ群生してるじゃん」

「念のためだ。全部収穫していくぞ」

「もち。でも、根っこは残せ、だったよな?」

「店主が言うにはな。逆に言えば、根っこ以外は全て持っていっていいということだ」

「っしゃー!!刈れ刈れー、刈り尽くせー!!」


 * * *


「でもさー、怒るっていったらラリルレが怒るところが想像できなーい」

「私、一回怒っているところ見ましたよ?」

「わたしたちが」「はじめてきたとき?」

「そです」

「へー」


 ソーキスさんはその頃はまだ居なかったので、サキュバス騒動で何が起こったのかを説明します。


「なるほどねー」

「むしろ、間違ったことをしたら真っ先に叱ってくれるのがラリルレさんだと思います」

「ラリルレ優しー」

「おにーさんとソーエンは」「わるのりしてくる」

「あの二人らしー」

「いつもはちゃめちゃなお二人が、ラリルレさんだけには頭が上がらないところを見ると、たまに笑いそうになります」

「ソーキスも」「よくしかられる」

「ボク、どっちかって言うとおにいさんとソーエン側だからねー」


 自由奔放なあのお二人は、どういうわけかラリルレさんの言う事は素直に聞きます。それどころか素直に謝ります。

 昔からのお付き合いあってこその間柄だからと言うよりも、あのラリルレさんの純粋な優しさの前には、大抵の人は良心が耐えられなくなってしまうんだと思います。

 仮に、私が何か悪いことをしたとしてもラリルレさんにだけは内緒にしたくありません。正直にやってしまったことを白状して、素直に罰を受けます。ラリルレの前で、悪い行いをを隠しながら生きるなんてこと絶対にしたくありません。そんな事が出来るのはよほどの悪人か異常な方だけです。


「あんなにレベルが高くて質の良い回復魔法も使えるのに、私達のクエストにも嫌な顔一つせず着いて来てくれます」


 レベルが強さの全てとは言えませんが……さすがに三百越えともなると、次元が違います。どうして一介の冒険者をやっているのか疑問をもったこともあります。

 それどころか他に例を見ないほどの高レベルに到達したという偉業を成し遂げているのにも関わらず無名なことが一番の疑問です。

 ですが、何と言うのか……凄い人達のはずなのに、なぜだか威厳と言うものを全く感じず……恐らくカフスさんがイキョウさん達の凄さを明言してようやく信じられるくらいのって……。

 だからこそ気兼ねなく一緒に居られるのでありがたいことではありますけど。


「ラリルレたのしんでる」「かわいがってくれる」

「休憩のたびに皆で引っ付くのいいよねー」

「あれ楽しいですよね」


 ラリルレさんが私達のクエストに同行するときには、決まって休憩時間に皆でくっついて固まります。というか、ラリルレさんが抱き寄せてきます。

 頭を撫でてもらったり、お話を聞いてもらったり、悩み事を聞いてくれたり、色んなことをしてもらえます。言わば精神力の回復です。

 でも精神だけじゃなくて、その固まっているときにラリルレさんは回復魔法を使ってくれているので体力の回復もしてくれています。

 体力と精神の回復。あれはクエスト中の至福の一時で思わず眠ってしまいそうになります。


「でも眠くなるー」

 分かります。ソーキスさんの気持ち。


「くえすとちゅうだから」「いっしょうけんめい」「がまん」「してる」

 それも分かります。流石にクエスト中に寝れません。というか、それが普通です。


 そう思うと、私達っていったい……。


 * * *


「ロロちゃん、あれとって。私じゃ届かないの」

「これか?」

「その横の――」

「これか?」

「うん!! ロロちゃんは高いところの物も取れて凄いなぁ。ありがと、ロロちゃん!!」

「……他に取って欲しい物はあるか?」

「大丈夫だよ。あったらまたお願いするね」

「そうか」

「二人で買い物って、久しぶりだね」

「そうだな」

「そーだ!! ロロちゃん、何か食べたいものある?」

「ラリルレが作ったものならば何でも良い」

「例えば? 何でも作っちゃうよ!!」

「……久方ぶりにラリルレの話を聞きながら食べたい」

「料理は!? ……でもいいよ。んふふ~、今度は何話そうかなー。パン買ったから、この前みたいにサンドイッチでいい?」

「無論だ」

「よし!! 腕によりをかけちゃうぞー!!」

「あの空想話をまた聞こう」

「全部ホントだよ!?」


 * * *


「でもあの休憩のときって、ロロがいっつも警戒してるじゃーん。疲れないのかなー」


 そうなんです。あの休憩中、全員が無防備になっている中、ロロさんだけは気を抜いていません。それがいかにダメってことは分かっているのですが……どうしてもあの気持ちよさには逆らえず、甘えてしまいます。ダメっては分かっているんですよ……本当です……。


「ロロは」「ラリルレのいうことなら」「なんでもきく」

「ホント、丸くなったなー」

「かつての邪神が、どうしてあんな優しく……」

「でも」「あのくろいの」「こわかった」

「ですね」


 ロロさんがあの謎の黒いオーラを放ったとき、初めて心のそこからの恐怖というものを味わいました。

 そして……初めて怖くて吐きました……。


「そういえばソーキスさんはロロさんと昔に戦ったことがあるんですよね?」

「そーだよー。ボヤーっとしか覚えてないけどねー。とりあえずー。破壊、恐怖、絶望、って感じたっだよー。混沌だー」

「あやふや」「てきとー」

「しょーがないじゃーん、これくらいしか覚えてないんだもーん。でも、すっごく食べたいなーってのも思ったよー。食べなきゃーっても思ったかもー」

「余計に分からなくなってきました」

「ボクもよく分かってないから同じー」

「今は貪食王ではなくてソーキスさんですもんね」

「そー、そゆことー。過去は貪食王に聞いてー」

「また」「てきとー」「めんどくさがり」「ゆるゆるすらいむ」

「でも、ソーエンさん風に言うとしたら?」

「「きらいじゃない」」

「ふふっ」

「ふへへー」

「「くすくす」」


 * * * 


「ロロちゃん、皆とクエスト行くの楽しいね」

「子供等は手が掛かる。イキョウとソーエンは手が掛からん」

「どっちも楽しいねー」

「……そうかもしれん」

「シアスタちゃん達と行くときにいっつも警戒してくれてありがとね」

「またか。もうその言葉は幾度と聞いた。ラリルレに頼まれた事はやる」

「でも最近はロロちゃんが自分からやってくれるもん。やっぱりありがとぉ」

「……気まぐれだ」

「皆が傷つくと私が悲しいの。だからありがとぉだよ」

「……気まぐれだ」

「んふふ~。ありがとー!! ぎゅーっ!!」


 * * *


「結論ー。今のロロは食べたくなーい」

「独特な結論ですね」

「まりょく」「おいしくない」

「こっちも独特な意見を……」

「ならシアスタの結論はー?」

「ロロさんは……良い方です」


 邪神の伝承は、大昔過ぎて捜してもよく分からなかったですし、私が見たロロさんは無害です。イキョウさんやソーエンさんとは別の方向ではちゃめちゃなときはありますけど。

 でも、ラリルレさんの優しさがロロさんに何かしらの影響を与えているのではないかと感じます。

 色々謎なロロさんではありますが、パーティを、仲間を、この今を疎ましく思っていないというのは分かります。


「良い方かー。そうだよねー、たまにサンドイッチくれるしー」

「たたかってるときに」「あぶないこうげきは」「はじいてくれる」

「それどころか事前に危機を潰してくれています」


 でも、そういう姿を見ているから何が危険かということを学べています。ロロさんは言葉では教えてくれませんが、それ以上に行動で教えてくれているので色々勉強になります。

 そう考えると、ロロさんは致命的な危機を回避してくれて、ラリルレさんは万全な体調を整えてくれると共に何があっても大丈夫という安心感を与えてくれます。

 戦いを学ぶ上での最高の環境なのではないのでしょうか?

 ありがたいことですがこの環境に甘えては、万が一のときにパニックになってしまいそうです。甘えるのは程々にしておきましょう。


「早く……冒険に行きたいです」

「ヤル気満々ー」

「わたしたちも」「いきたい」

「えー」

「ソーキスさんは行きたくないんですか?」

「働きたくなーい。でも、美味しいものを食べるためにはお金必要だしー。頑張れるときは頑張るー」

「頼りにしてますよ。タンクさん」

「まーねー、程々にねー」


 ソーキスさんはタンクのクラスでギルドに登録してあります。その力は本当に凄くて、並大抵の攻撃は、物理、魔法、全てを通しません。流石は元貪食王であり、強い方々の魂と魔力を食べただけはあります。


「治ったらどんなクエストに行きましょうか」

「ひょうせつかの」「たんさく」

「行って見たいですね。限られた方しか登頂不可能な険しい山々にしか咲かない花。ロマンがありますね」


 冷たいやまー。つめたそう。


「美味しそうなモンスターの討伐ー」

「カフスさんが…出したクエストだったら…ソーキスさんと合うかもしれません…」


 ふぁんぐぼあー。いっぱいかりました。


「シアスタは?」「どんなのいきたい?」

「私…で、すか?」


 …


「わたしは……ですね…」


 ………


「寝たー?」

「ねた」「すやすや」

「ボクはこのままゆっくりさせてもらうよー。二人はー?」

「シアスタが」「さみしくないように」「「ここにいる」」

「そっかー、ふへへー」


 * * *


「苔と花はゲットした!! あとはこの」

「ワイバーンの爪を剥ぐだけだ」

「殺さず爪だけ剥ぐってどうなのよ」

「ならば殺すか」

「無益な殺生禁止!! っつっても問答無用で生爪剥がすのは可愛そうだから、オレの<パラライズ>と<スリープ>入れてからだな。あと剥ぐんじゃなくて切るぞ」

「ならば俺は囮で引き付けか」

「そうなるな。ってことで行くぞ!!」

「終わったら一服だな」

「火を焚きながらな!! やっぱさみーよ!!」


 * * *


 雪山はアステルから遠い。スタミナが異常なオレ達が走って行っても片道二時間くらい掛かる。

 地形無視の直線距離で全力疾走しているから馬車とか使うよりは早くても、それでも時間が掛かる。だから、素材を採ってアステルに帰ってくる頃にはぎりぎり夕方になっていないくらいの時間帯だった。

 アステルの門まで全力疾走して行ったら行列が出来ていたけど、偶然グスタフが居たから事情を説明したら顔パスで通してもらえて、そのまま全力疾走で空を飛びならがらあの癖の強い通りまで駆け抜けて、調合師が居る店で着地する。

 そして着地した足でそのまま店に入った。


「いらっしゃい…ってあんた達かい。諦めて戻って来たなら良い冒険者さね。命はなによりも――」

「これで調合を頼む」


 オレとソーエンは採集して来た素材を全てカウンターの上に置く。

 予定よりも量が多いのは、万が一にも調合師が失敗したときのための保険だ。


「これ……どこで手に入れて来たんだい?」


 カウンターに山になった素材。それよりも背の高いアラクネの店主は素材を見るとオレ達に懐疑的な目を向けながら低い声を出した。


「まさか、どこかの御者を襲って強奪したんじゃないだろうね?」

「んな訳あるか!! あの山……名前なんだっけ?」


 走って行って、帰ってくるのに一日も掛からない山の名前なんて覚えてる訳無い。


「イロマチニイクス山でいいだろ」


 ソーエンの名前、採用で。


「そう、イロマチニイクス山で採ってきたんだ」

「……ん???? イロマ……なんだい?」


 そりゃ分かる訳無いに決まってんよな!! 今付けた名前だもん!!


「イロマチニイクス!! ってかそんなのどうだっていいんだよ。これで調合頼む、お願いだ!!」

「四の五の言わずやれ」


 頭を下げたオレと、高圧的な態度で頼むソーエン。オレ達は心から頼んではいるが、どうにも態度が違いすぎる。


「はぁ……いくつか質問して良いかい?」

「時間の無駄だ。口を動かす暇があったら手を動かせ」

「生憎、この手を汚すつもりは無いさね。質問に答えなきゃ私は何もしないよ」


 手を汚す? 何のことだ? 調合師ってんなら調合中に素材で手が汚れんのは当たり前だよな。

 ……ってことじゃないんだろなぁ。理由は分からんけど、どうしてかオレ達を疑ってるな。量が多すぎるからか? 一人分の薬を作るには有り余るほど取ってきたしなぁ。

 もしかしてアラクネの店主は、オレ達が作らせた薬を転売しようとしているとか思っているのかもしれない。アステルじゃ、今採ってきた素材は不足しているらしいしな。

 しかも店主曰く、この素材はほとんどの種族の薬において多大なる効果を発揮するから、需要は高いだろう。だから今不足してるっても言ってたな。

 でもオレは、転売なんてこと一切考えてはいない。

 ってかそもそも何人分作って欲しいって言ってなかったな。これが今の齟齬を生んでいる正体か。なら直ぐに伝えて誤解を解こう。


「頼む、一人分でいいんだ。転売なんてしない!!なんなら余った素材は上げるから」

「これを……無償でだって? ますます怪しいね」

「は?」


 一人分で良いって言ってるし、なんなら余った分全部やるって言ってんのに何故かますます疑われたぞ。


「何が言いたい」

「何か言う前に、こっちの質問に答えてもらうよ」

「分かったよ!! 答えたら直ぐに薬を作ってくれ!!」

「それは質問の答えしだいさね」

「いいから!!はやく!!今すぐ!!」


 店主は何を聞きたいか知らないけど、こっちは病人が待ってんだぞ!! 一分一秒も無駄にしたくないんだぞ!!


「威勢がいいねぇ。じゃあ、一つ目の質問だよ。この素材はどうやって採ってきたんだい? ああ、道具とかじゃないよ。採り方は見れば分かる」

「走って」

「採って」

「帰ってきた」

「……んん?」


 アラクネは腕を……脚を? どっちでも良いか。とにかく組んで首を傾げる。


「疑問に思ってるところ悪いけど、マジ」

「……まぁ、本当かどうかはこっちで判断するよ。次の質問だ。フロストワイバーンの爪は普通、こんなに綺麗に採れない。こんな、まるで生きながらに切った様な上質な爪なんて、市場に出回らないどころか貴族様の衣装の装飾に使われるほどだよ。どうやって入手したんだい?」


 え、こんな爪が服に使われんのかよ。

 でも、ゲームでも強いモンスターの素材はいい防具になるからそう言うもんなのか? たしかにこっちの世界のワイバーンって強そうな立ち位置だけどさ、ゲームのころは雑魚って感覚だからどうにも価値観が合わんわ。でも、確かにフロストワイバーンの爪って氷みたいで綺麗だから、強さ云々の前に綺麗で値打ち高そうってのは思う。

 アラクネに言われるまでただの素材と思ってたけど、見ようによってはダイヤモンドだもんな。


「採り方は」

「俺が囮をし」

「オレが痺れさせて、眠らせて」

「苦しませずに切った」

「……は?」

「疑問に思ってるところ悪いけど、マジ」

「……判断に困るねぇ。いや、絶対的に黒なんだけど……ここまで堂々と言われると……むしろ白?」


 何、白黒って。


「もう終わりか?終わりだよな?早く――」

「まだだよ」


 おぉー!!このアラクネ、じらすね!!


「次が一番大事さね。この薬を飲ませる相手に、後ろめたさを感じずに飲ませることが出来るんだね?」

「当たり前だ。オレ達はあんたの作る一本を信用してる」

「適当にやるならば――」

「平穏な交渉中に過激派発揮すんの止めてくんない? 家には今風邪を引いてる氷の精霊の子供が居るんだ。頼む、この通りだ!!」


 こんなオレの頭なんて、仲間のためだったらいくらでも下げられる。それが苦しんでいる仲間の姿を思えばなおさら、地面に突き立てたって、それ以下に下げられる。


「……俺からも頼む」

「…………………………………わか」

「ダメか、こうなったらカフスの鱗剥ぐか。貸しあったろ」

「スノーケアとかいう名前も付いていることだしな。シアスタに効きそうだ」

「わかったって言って」

「爪も、爪もあれば効きそうじゃね?」

「切った爪の破片を貰うか」

「ちょ、ちょいとお待ち!! 分かったって言ってるから!!」

「え?」


 あまりに長考してるからダメなもんだとばかり思ってたけど、アラクネは焦りながらオレ達を諭すように 手……脚? を揺さぶって言って来た。


「作る、作るさね!! あんた達の事は信用したんだ」

「よかったぁ!!」

「だからスノーケア様の……色々剥ぐとかいうのはおよしないさいな。例えそれが冗談でもね」

「冗談じゃないぞ。割とマジだぞ」

「貸しを考えたら足らないくらいのようだがな」

「あーはいはい。今のは聞かなかったことにしておくから外では絶対に言うんじゃないよ。それにね、スノーケア様の鱗や爪は持ってこられても困るからね。効能やら分からないから。でもね、それだけ必死なことは伝わったさね」


 どうやら誤解は解けたようだ。よかったよっかった。


「はぁ、あんた等、どうやら裏表無いタダのバカだろうけど、だからこそ正直者だ。冒険者に好かれそうなタイプさね」

「俺はそうだがこのバカは裏表が有るバカだ。知った口を効くな」

「そうだぞ!! オレは――え? それって結局バカじゃない?」

「愉快な子達だねぇ。大方、他の冒険者に掛け合って素材を揃えて貰ったんだろう?」


 アラクネの店主は大量に積まれた素材を、一つ取っては目を光らせ、チェックを終えて置いてを繰り返しながらオレたちに話しかける。品質を確かめているんだろうか。


「自力で取ってきたんだ。あのクソ寒い中な」

「はいはい。で、子供のことってなると平和の旗印かい? あそこは優しいからね。無償で引き受けてもらった口だろ?」


 えぇ……あの雪山を無償で探索するとかあいつらマジでどんだけ徳がたけぇんだよ……。

 寒いしそれなりに距離あるからオレだったら金貰うわ。


「それとも絶・漆黒の影かい? 金さえ積めば何でもやってくれるって噂を耳にするよ」


 店主はある程度素材を見比べて、それぞれの素材の山から、花、苔、爪を一つずつ選んで後ろ脚……手? に持ってストックしている。

 絶影って、周りから話を聞けば効くほど裏社会というか、暗部っぽいような話が出てくる。そのせいで、ただの厨二集団なのか、それとも本当に何か裏の顔を持っているのかが判別不可能になるからより一層謎が深まるばかりだ。


「でもあんた達は金持ってなさそうだから……平和の旗印だね。どうだい? 当たりだろ?」


 素材を持って、楽しそうな声を出しながら店主は得意気な顔をしていた。


「出所なんてどうでもいいよ。そんなことより早く作ってくれ」

「んもう、そう急かないでおくれ。素材の選別中はどうしても暇になるんだから少しくらい付き合っておくれよ」

「選別?」

「そうださね。あれだけ必死にお願いされたんだ。疑ったお詫びも兼ねて、上質な素材を使って最高級の薬を作るために選別してたのさ。と言っても、私が作る薬はどれも最高級品さね。言っちゃえば願掛けみたいなものだよ」

「そっ……か。文句言って悪かったわ」


 現在進行形で素材の出所は勘違いされているけど、もうこの際どうだって良いや。

 オレ達に薬は作れない。出来る事はせいぜい素材を取ってきて、店主に頭を下げてお願いすることくらいだ。だったら、もうそのことだけ考えてれば良い。

 今大事なのは薬を手に入れることだ。その途中のプロセスなんてどうでも良い。


「良いさね。素材のチェック中に話すのは趣味みたいなものだから。さてさて、早速あんた達が持ってきた素材で薬を作ろうかい」


 店主はそう言うと、カウンター奥にある扉に向かって行って、ノブに手を掛けて、そして、扉を開ける。

 その瞬間。この店の中に漂う匂いがより強くなった。

 鼻の奥、、眉間……もうこの部分どこ? 鼻の奥の奥の奥まで行き過ぎて脳まで達したんじゃないかってほど突き通る匂いが頭を襲ってくらくらする。


「マフラー越しでもきついな」

「オレ直なんだけど? それ貸してくれや」

「その頭のバンダナでも口に付けてろ。おいアラクネ、まさかとは思うが調合中も会話をしろとは言わないだろうな」


 声を出すだけでもむせそうなオレと違って、比較的声を出しやすいソーエンは、扉の奥に消えそうな店主に質問をする。

 マジ? あの匂いの元凶があるところで会話しろって言う緊急クエストあるの? 鼻もいだ挙句に口呼吸してもまだ匂ってきそうなのに?


「そうしたいのは山々だけどね、生憎、調合の手法はトップシークレットさね。誰にも教えられないんだ。だから出来るまで待ってておくれ」


 山々だったのかよ。手法トップシークレットだったことに感謝だわ。

 店主が扉の奥に消えて行った後も、残り香……って表現するのも憚られるほどの匂いが充満した店内でオレとソーエンは立ち尽くす。


「待つって、どれくらい待つんだこれ」

「まずはそれを聞くべきだった」

「待つのって店内? やだよオレ。今しゃべってんのも精一杯なんだけど。もう鼻と口の境目が痛いんだけど!?」

「帰ったら風呂に入って直ぐに浄化の杖を使う。マフラーにも段々匂いが染み付いてきた」

「店主ー!! 外に居るから終わったら呼んでー!!」

「はいよー!!」

「許可有りぃ!!脱出!!」

「出たところで俺のマフラーには匂いが染み込んでいるのだが」


 よかった。ソーエンの言うことを真に受けてバンダナ口に当てなくて。


「ならお前はここに居ろよ!!オレは出る!!」

「別なマフラーを使うか」


 その後、店外で待つこと一時間くらい。

 煙草の煙と外の空気でリフレッシュを終えてバカ話をしていたオレ達は、呼ばれて店に入る。そして、さっきよりも酷い匂いが充満している店内で薬を受け取るはめになった。

 代金は余った素材分のおかげでチャラになった。


 壺に入った薬は振るとチョポチョポと音を立ていて、店主曰く飲み薬らしい。味は酷いから、子供に飲ませるなら一工夫必要らしく、その一工夫は自分達で考えてくれとのことだった。


 臭い店内で貰った不味い薬。

 でも、あの匂いを纏ったアラクネの店主はなんだか嫌いじゃなく、それどころか無性に色町に行きたくなる衝動が少しあった。


 ……いつかまた色町に行きたいなぁ。


 * * *


「ただいまー」

「戻った」

「おかえりー」


 日が暮れて家に帰ると、食堂のいつもの席に座ってたラリルレがオレ達を迎えてくれる。ロロは何も言わないけど、触手だけを軽く上げてくれた。

 テーブルの方を見ると何も乗っていない皿があったから、ラリルレとロロは何かを食いながら話でもしてたんだろ。


「んふふ~」


 席を立ち、ロロを頭に乗せたラリルレはオレ達に近づいてくると、笑みだけ浮かべて何も言わずに目の前に立つ。


「キョーちゃん、ソーちゃん。ありがとう」

「……偶然、偶然な。氷の妖精向けの薬が手に入ってなぁ」

「そういうことだ」

「偶然だもんね」

「そうそう。偶然ね」

「偶然だ」

「んふふ~!!」


 どうやら、オレ達が何をしてきたかはラリルレにバレバレのようだ。

 オレ達の前で、ラリルレは両手をグーにして口元に当て、すっごい嬉しそうな顔をしながら体を揺らしている。


「何その動き可愛い」

「可愛いさ世界ランキングがあったならばラリルレが首位独走だな」

「貴様等はバカだが見る目だけはあるようだな」

「もーっ、皆お世辞がお上手!! サンドイッチあるから後で食べてね!!」

「「っし」」


 思わぬ収穫が出てきて、オレとソーエンは腕を組み合わせる。

 腹ペコだったから純粋に嬉しい。それプラスラリルレの手料理ってなるともう、嬉しさの上限突破。


「オレはサンドイッチ食べたいけど、でもなぁ、シアスタも食いたいものあるかもしれないなぁ。その後でサンドイッチでもよろしくて?」

「いいよ!!全然いいよ!! でもね~、今シアスタちゃんにお薬飲ませられるかなぁ~」


 理由は本当に分からない。分からないが、ラリルレは嬉しそうな顔をしながらオレ達を見た後、二階に上る階段まで歩いてちょいちょいと手招きをする。


「そーっと、静かに付いてきて。ね?」

「イキョウ」

「おうよ」


 ラリルレにそこまで言われたんじゃ本気を出すしかない。

 オレは<隠密>を使ってソーエンとラリルレ、ロロを不可知の存在に塗り替えて堂々と二階に上がり、シアスタの部屋までスマートに移動する。


「そっと、そっと開けてね」

「お任せあれ」


 オレの<隠密>の効果を知っているラリルレが念を押すんだ。オレもそれ相応の慎重さを持ってノブに手を掛けて、音どころか空気の揺らぎも一切起さずにそっと扉を開けて、部屋の中を覗き込む。


「ねー、もう、かわいっ!!」


 たまらなくなって感情のままに興奮の声を上げて体を縮込ませながら、部屋に広がる光景とオレ達とを交互に見るラリルレ。

 オレの<隠密>の効果があるってのにこの場の雰囲気に合わせて声を落としながら興奮しているラリルレの「可愛い」は分からない。……けど、邪魔しちゃいけないってのは分かる。


「よく寝てんな」


 この月明だけが照らす部屋。そこにはシアスタ、リリム、リリス、ソーキスが揃ってベッドで寝ている姿だけが暗闇に写っていた。

 揃って寝息を立てながら、まるで寝る前には何か楽しいことがあったような顔をして幸せそうに寝ている。


「起すのは無粋だな」

「な。起きるまで待つか」


 この光景を見ちゃ、無理やりにでも起して薬を飲ませるなんて出来ない。

 それに、あれだけ幸せそうに寝てるなら、病魔にだって負けはしないさ。


「フッ」

「なんだよソーエン。嬉しそうじゃん」

「別に、普通だ」


 いつも通り、フードとマフラーで表情は読めない。でも、コイツの考えている事は大方分かる。

 あの四人はもう孤独じゃないもんな。


「あー、腹減った。先に飯にするか」

「んふふ~そうだと思って、いーっぱいサンドイッチ作っておいたよ」

「ありがてぇ」

「楽しみだ」


 ラリルレの言葉を聞いて、オレは扉をそっと閉める。シアスタはこのまま寝せておこう。


 四人が幸せそうに寝ている部屋を後にしながら、オレ達はこの世界の夜の楽しみの一つである晩御飯談義に華を咲かせながら階段を下った。

 誰も何も言わない。でも、確かに思っている。今夜は夜通しシアスタの様子を見るために徹夜しようと。

 飯を食ったら、風呂に入って、後は交代交代で様子を見に行くつもりだ。だから、今日の食堂の明かりは消える事は無い。ずっと点きっぱなしの予定だ。


 ……でも、飯を食う前に風呂に入れとラリルレから言われた。


 理由は分かってるよ。だって臭ぇもん、オレ達。原因は調合屋のアレだ。体の芯まで匂い染み付いてるもん。ぶっちゃけ今も匂い感じてるもん。鼻が慣れないんだわ。

 だから、ラリルレに言われる通りオレとソーエンは揃って風呂に入って全力で体を洗った。こういうとき、元宿屋だから浴場が無駄に広いってのは助かるぜ。

 皮膚が剥がれるんじゃないかってくらい勢い良く体を洗ったオレ達は、その後ラリルレのサンドイッチを堪能した後、子供達が起きるのを待って夜を過ごした。


 * * *

 

 ソーキスが腹が減ったとかで起きて来たのを皮切りに、双子からヒュプノシスボイスでシアスタが起きたとの報告が来た。それを聞いてラリルレが、作ったパン粥を持って二階に上がっていった。そこに風邪薬が入れてある。


「流石に今日は晩酌辞めるかぁ」

「そうだな。順番を決めて交代でシアスタの様子を見ておけばいいだろう」

「そうすっか」


 オレ、ソーエン、ラリルレとロロは順番を決めて夜の様子を行った。

 ソーキスは食事をして満足したあと、またシアスタの額にスライム状態で乗っていた。あれもしかして、冷やしてんのか?

 双子も変わらずシアスタの横で寝てる。

 ま、これで一件落着だろ。後はシアスタの回復を待つだけ――。


「「くちゅん」」

「は?」


 オレが順番だから見に行ったシアスタの部屋から、小さいくしゃみが聞こえた気がした。

 ああ……明日も覚悟しておくか。

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