ラリルレのお料理教室(2/2)
工程は順調に進み、現状で最低限必要な数は設置し終わった。あとは残りの五辺をゆっくり作るだけ。
木の余分な部分を切って素体を作るのは楽だけど、そこから細かい調整や高さを揃えたり、平面にするなどは慣れない作業だから結構時間が掛かる。
でも、問題といったらそれくらいで、オレ達は比較的順調に作業できている。
「キョーちゃん!!ソーちゃん!! ちょっと来てー」
大きな声ではあるけど、別に焦ったような声ではなくただ単にオレ達を呼ぶ声。
ラリルレに呼ばれたオレ達は作業を一旦中断して厨房に入る。
「どしたの?」
「どーやっても同じ物しか作れないってホント?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
てっきり言ったもんだとばかり思っていた。
思い返してみれば、朝はオレが一番早く起きて皆が起きてくる前にカレーを作るし、ソーエンは作り置き。昼と夜はどっかで買って来るから料理を見せる機会なんてなかった。言わなきゃラリルレも気付かないよな。
ってか、同じ境遇だと思ってたから言わなくても分かっていると思ってた。
なんでラリルレは色んな料理を作れんだろう。
「この二人、呪われるんじゃないかって位に全く同じものしか作れないんです」
ラリルレにはシアスタが教えたのか。
「呪いじゃなくて救済だ。どこでもカレー食えんだぞ」
「カロメもな」
「サンドイッチでもダメなの?」
「いやぁ……、試したことなかったな」
今までオレ達は焼く、煮る、揚げる、炒めるはして来たけど素材をそのままってのはしてこなかった。
……!! つまり、オレ達でも素材をそのまま使う料理なら作れる可能性が!?
「ソーエン!!」
「やるぞ」
オレ達二人は調理台の、まだ踏み台が設置されていないところに付いて、素材に手を伸ばす。
「その前に手を洗おーね」
「「はーい」」
ラリルレに言われて素直に手を洗う。
DIYしてたからな、汚れてる手は綺麗にしないと。
「ソーエン!!」
「やるぞ」
仕切りなおしだ!!
オレ達は同時に同じ行動を始めた。
まずは皿を用意する!!
次にパン!!その上にレタス!!ベーコン!!レタス!!具材はシンプルイズベスト!!
最後にパンで閉じて完成。
「カレーだ」
「カロメだ」
「何でそうなるんですか!!」
「?……??」
ラリルレは眼を擦って自分の目の前で何が起きたかを確認していた。
間違いじゃないのラリルレ。
オレの前のさらにはカレーが乗っているし、ソーエンの皿の上にはカロメが乗っている。
「どうして……どうして……」
「何故だ」
「ボク貰ってもいー?」
「好きにしてくれ……」
項垂れているオレ達の横にソーキスが来たから、そのまま皿ごと渡した。
踏み台に戻ったソーキスは調理台に二つを置いて食べ始める。
「皿がダメなのではないか?」
もう打つ手は無いと思っていたところで、ロロが意外な一言を言った。
オレ達のこの事情は訳が分からん。そして今、訳分からんやつからアドバイスを貰えた。
「ナイスロロ!!ソーエン!!」
「可能性に賭ける」
オレ達は皿を使わずパンを直接手乗せて行動を始めた。
片手にパン!!
プットオン、レタスベーコンレタス!!最後にパン!!
完成!!
「カレーだ」
「カロメだ」
「この人達、ついにお皿まで生成しましたよ……」
「マジック?」
オレ達手に乗せていたはずのサンドイッチは、何故か皿に盛られたカレーとカロメになっていた。しかも何故かオレはスプーンつき。
「なんで……なんで……」
「打つ手無し、か」
「それも貰っていー?」
「いっぱい食べな……」
項垂れていると、またソーキスが来たので上げる。
流石は元貪食王、大喰らいだ。
「訳が分からんな」
この中で一番訳分かんない奴から訳わかんないって言われた。これもう無理だろ。
「カレー、好きだから……」
「カロメも良いぞ……」
「食べたいものがあったら私が作るから、二人とも元気出して!!」
「ありがとうラリルレぇ。サンドイッチ出来たらちょうだいぃ」
「俺にも頼む」
作業に戻るとするか。
オレ達はとぼとぼと裏庭へ戻る。
この世界に来てもカレーが食べられるのは嬉しいから良いんだけど、別な料理を作れないのはなんだかなー。
「美味しく作るからね!!二人ともファイト!!」
「へい」
「ああ」
ラリルレの手料理が食べられるなら、まぁ、いいかぁ。
* * *
ゆっくり、丁寧にてーねーに作業をして、もう残りは三本だ。
手馴れては来たけど、急ぐもんでもないし今日は予定も無いからゆっくりのんびりー。
途中で良い匂いがして来たけど、何を焼いた匂いなんだろう。
香ばしいけど肉ではないし、甘い匂いだから野菜でもない。
香ばしくて芳醇なジャムみたいな匂いだ。
どんなサンドイッチが出来るか楽しみにしながら作業をし、小休止で作りかけの台に座りながら一服をしているとラリルレが裏口から皿とコップをお盆に載せて出てきた。どうやら出来上がったみたいだ。
「お疲れ様」
ラリルレはオレとソーエンにねぎらいの言葉を掛けると、間に座って膝の上にお盆を置いた。
白い陶器のコップには水が入っている。
今は紅茶と言うより水が欲しかったからありがたい。汗水……は全然垂らしてないけど、それでも体を動かした後は水が欲しくなる。それに、アステルの水は上手い。
普通なら水を飲むには噴水から汲んでくるか、魔石を利用しなければいけないらしいんだけど、そこは元宿屋、しかも元カフスの持ち家。上下水道完備でありがたい。
ラリルレが持ってきたサンドイッチはBLTサンドとハムときゅうりのサンドイッチ。あと……謎のサボテンの中身か? コレ。黄色くてぷにぷにした果肉らしきものが切り分けられ、生クリームの中に入っている。
「ロロはどうした」
オレがこの謎の果肉に付いて考えているとソーエンがラリルレに質問した。
今のラリルレは珍しく頭にロロを乗せていない。朝以外はほとんど乗せているからこの時間帯に見れるのは少し新鮮だ。
この時間帯……そういえばもうすぐ昼か。じゃあ、これが今日の昼飯だな。
「食堂でみんなと一緒にご飯食べてるよ」
あっちはあっちで昼食を取っているらしい。
「珍しいな」
「先に食べててってお願いしたの」
ロロはラリルレのお願いならなんでも聞くなぁ。
「なんで?」
「私ね、二人のお料理のことずっと考えてたんだけど、もしかしてプロフィール欄が関係してるのかもって思ったの」
なるほど、ゲームに纏わる話だからロロと離れたのか。
別に隠している訳じゃないけど、聞かれても応え辛いし、そもそも説明しても分かって貰えない。
別の世界から来たってことをこの世界の住人は絶対に信じないから、この体の訳を聞かれて正直に答えても、あっちからすれば嘘をつかれてごまかされていると勘違いされる。
だからと言って、それっぽい嘘を言うと今度はこっちが本当に嘘を付くことになる。
どう転んでもお互いに真実を分かり合えないでいる状態は居心地が悪いから、オレ達は他の奴の前では元の世界についての話題を出す事は避けていた。
「プロフィール欄?」
「そー。あれにね、自分の好きな食べ物を書くところあるよね」
「あるな」
プロフィール欄はプレイヤーキル数やプレイ時間、自己紹介など、様々な情報が書いてあり、フレンド同士なら見ることが出来る。
その欄に、好きな食べ物を入力するところがあった。
「二人は何て書いてある?」
ラリルレは知っていることを確認するように聞いて来る。
「カレー」
「カロリー〇イト」
「ね?」
確かにラリルレの言う通り、オレ達の欄に書いてある情報と摩訶不思議錬金術で作り出すものが一致している。
「ちょっと待ってくれ、コレが原因って決まったわけじゃない」
「ラリルレはなんと書いてある」
「オレが直々に確認する!! ……わー、『いっぱい』って書いてある。料理名書いてないや」
ラリルレらしいっちゃあらしいけど、子供みたいに純粋で可愛い書き方してるから思わずびっくりしちゃった。
オレ達は今まで、別にお互いのプロフィール欄を見なくても直接話すれば良いって思ってて、これまで見たことなかった。
プロフィールの入力可能な欄は、ソウルコンバーションオンラインのホームページにログインしないと書き換えられないから、現状書き換える手段が無い。
……あれ? 詰みじゃね?
「ラリルレの説が濃厚になってきたな」
「私がそうかもって思っただけだから違うかもしれないけど、もしかしたらって思ったの」
「ソーエン」
「ああ」
「「ラリルレが正しい」」
「いいの? 間違ってるかもだよ?」
「いいのいいの。それっぽい理由あった方が安心できるし」
「このことで悩んでいるが困っている訳ではない。これくらい気楽に考えるくらいが丁度いい」
「二人ともホント前向きだねー」
「「照れる」」
「んふふ~。二人といるといっつも笑っちゃう」
オレ達と居るといっつも笑う?
つまり、オレ達がラリルレを笑わせ、ラリルレがオレ達を癒し、癒されて元気になったオレ達がラリルレを笑わせ……。
「永久機関の完成だぞ……コレ」
「人類は新しいステージへ降り立った」
「何おバカなこと言ってるんですか」
オレとソーエンが感動してるところにシアスタが水を指す。
「なんだよシアスタ……と、カフスじゃん。よっ」
「ん。こんにちは」
オレに続いて二人も挨拶する。
「なんか用か? 今から昼食なんだけど」
「話がある。食べながらでいい」
「そっか。まあ、座れ座れ」
オレはカフスを促して、この作りかけの踏み台に並んで座らせる。
「サンドイッチ……おいしそう」
オレの横に座ったカフスは、ラリルレの膝に乗っているサンドイッチを見つめて羨ましそうな声を出した。
「カフスちゃんも食べる?」
「ん、食べたい」
「じゃあ作ってあげる!!」
「ありがとう」
ラリルレは立ち上がってからお盆を置いて、厨房へと向かった。
「私も手伝います」
「シアスタもありがとう。いっぱいお願い」
「任せてください!! サンドイッチは私の得意料理です!!」
ラリルレの後を追いながら厨房に入ろうとしたシアスタは一々立ち止まって振り向き、胸を張ってドヤ顔をオレ達に見せ付けて厨房に入っていった。
さっきラリルレから教わったばかりなのに得意料理にすんの早くね?
まあでも、逆にサンドイッチ作るのが苦手な奴を見てみたわ。……オレ達じゃん。
「美味い、美味いよぉ」
こんな不甲斐ないオレ達の為にサンドイッチを作ってくれてありがとう、ラリルレ。
この美味しさが胸に染みる。
「それ、ビューズサボテンの果肉?」
皿に乗っているサンドイッチ、そこに挟まれている謎の黄色い果肉を指差しながらカフスは言った。
ビューズサボテン……思い出したぞ。
あのサボテン、この前オレとソーエンで収穫してきたサボテンだ。
「砂漠かぁ。もう二度と行きたくねぇわ」
「同感だ」
オレとソーエンはサンドイッチを貪りながらあのときを思い出す。
ビューズサボテンは高級食材の一つらしい。それを丸々一本採って来て欲しいという依頼がギルドに張り出されていて、報酬も中々よかったので受けた。
生息域は灼熱の砂漠で、サボテンの色は砂の色と同化してるしそもそも中々見つからないしで何時間も探し回った。
後半なんて、オレは上半身裸に魔法で水被りながらひたすら歩いてたし、ソーエンにいたっては一切脱がないし黒いしで「暑い」「水」「帰るぞ」の三つしか話さないボットになっていた。
あの時は暑さと疲労でお互いどうにかなっちゃいそうだったけど、偶然オレ達の背丈ほどある立派なビューズサボテンを発見できたから、どうにかなる前にアステルに帰ることが出来た。
「どれどれ、あのときの苦労を噛み締めてみるとするかぁ」
「苦くないと良いのだが」
オレとソーエンは生クリームと果肉が挟んであるサンドイッチを手に取り、そしてかぶりつく。
これで不味かったらマジでゆるさんからなクソサボテン。
「……うっま」
「甘い」
ジャムの甘みと香りを凝縮したナタデココみたいだ。
味もしつこくなく、すっきりとした清涼感のある甘味が生クリームとマッチして最っ高。
まさに神サボテン。
さっき焼いていた匂いはこれだったのか。焼いてこんな水水しいの? 水分量多くない? すげー、神サボテンすげー。
「こんな神テンが何で家に?」
「今日の為にラリルレが奮発したのかもしれん」
「それ、私のおすそ分け。この前ラリルレに上げた」
「「は?」」
「ギルドにお願いしたらすぐに達成された。イキョウ達はいつも私の依頼を受けてくれる」
「またか……」
またカフスが出したクエストをやったのかオレ達は。
やっぱり、オレ達のクエスト報酬の大半がカフスの懐からでてる金なんだけど。
「もうオレ達カフス専属の業者になった方がいいんじゃないか?」
「似合わない。あなた達は自由な冒険者で居て」
「自由かと言われるとそうでも無い気が……そういえば、話って何だ?」
カフスはオレ達に話をしに来たんだった。
昼食に夢中になっていたけど、ある程度感動は終わったし話を聞いてやるか。
「今日、ギルドに依頼をしに行った。そしたらローザから相談された」
またカフスは依頼を出したのか。明日辺り受けておくか。
「相談の内容はどういったものだ」
ソーエンの質問を聞き流し、オレは思考する。
次はどんなクエストだろう? やっぱり食材絡みなんだろうなぁ。
「近郊の森で、大量の木が伐採されていたらしい」
「おっと? 心当たりないぜ?」
「何者かがログハウスでも作るつもりなんだろう」
受付さんから相談を受けるって事は、良くない問題認定されている証拠だ。何も問題が無ければ相談なんてする必要ないからな。
「ローザは大型のモンスターが出たことを考慮して、近郊の森に立ち入り制限をかけるか悩んでた」
「さすが受付さん。冒険者の安全考えてるなー」
「私は危険かどうか調べるために、その伐採された場所をさっき見てきた」
「うんうん、偉いなーカフスは」
「そしたら木の幹にソエーンの魔力の残滓が残ってた」
「犯人コイツっす」
ソーエンは魔法銃を使って木を根元から吹き飛ばすといった荒い伐採をしていた。
つまり、魔法を使わずダガーのみで伐採していたオレならまだ犯人とばれていない。
「近くの幹は、業物の剣で切ったような綺麗な切り口をしてた」
「コイツも犯人だ」
「親友売るの? 非情じゃない?」
「先に売ったのはお前だろ」
「このことはまだローザに言ってない。この後言いに行くつもり。どうする?」
「謝りに行きます」
「詫びの品も持っていこう」
「分かった。サンドイッチを食べ終わったら一緒に行く」
「「よろしく」」
その後、ラリルレとシアスタが大量のサンドイッチを持ってきた。
いつの間にか双子やソーキス、ロロも裏庭に集まって全員大集合になり騒がしくなったけど、オレとソエーンはどうすれば受付さんに怒られないかだけをひたすら考えていた。
カフスが居れば怒られないんじゃね? って言う結論も、ソーキスのバカがカフスの膝で寝始め、カフスは動きたくないと言い出し、事情説明はオレ達二人で行くことになったせいで考え直すはめに。
お詫びの品にと、カフスが持っていたビューズサボテンを貰って頭を下げに行ったけど、結局しこたま怒られた。
ついでに、ちょっと前にオレが子供達とギルドの中庭でいざこざ(受付さんは訓練だと思っている)を起して以来、子供冒険者達が私にだけ物凄く礼儀正しいのはどうしてか知らないかと受付さんから聞かれ、知らない存じないと答えた。
その理由に付いて、オレは本当に知りません。ソーエンお前、あの時なんて言って子供達説得したんだよ。
まだオレ達は怒られている。これが終わったらロロから板君を返してもらって裏口塞がなきゃな。
本日もまーた因果応報で幕を閉じた。
もう一つの幕間を来週上げます。
その後第三章を公開する予定です。




