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ラリルレのお料理教室(1/2)

 まだ扉の修理が出来ていなく、応急処置としてでかい木の板を釘で固定していること以外はなんら変わらない家の厨房。

 そこにオレは居る。


「ラリルレと」

「我の」

「お料理教室ー!!」

「わーい!!」

「いええええええええええ!! 何コレ?」

「……って何でイキョウさんがいるんですか……」


 ある日の朝、休日だというのにラリルレとシアスタが早起きしてきてキッチンに移動したから何事かと思ってソーエンと一緒に様子を見に行ってみると、唐突に催しが開催されていた。

 双子とソーキスはまだ眠っているのか、降りてくる気配が無い。


「シアスタが驚く以上にオレ達は驚いている」

「ラリルレは……料理が作れるのか……ッ!?」

「簡単なものしか作れないけど、でも絶対に美味しく作るよ!!」

「天才か?」

「待てイキョウ、まだ分からんぞ」


 ソーエンの言う通りだ。

 もしかしたらラリルレの言う料理はオレ達みたいな、摩訶不思議錬金術の産物かもしれない。

 鍋に適当に具材をポイポイ放り込めば出来てしまう、工程無視のカロメとカレー。

 ラリルレは、オレ達と同じ摩訶不思議錬金術を料理と呼んでいるのかも知れない。


「ラリルレ、料理のレパートリーは?」


 オレ達と同じならレパートリーは一つに限られているはずだ。


「うーん……数えたこと無いけど、材料があれば色んなの作れるよ」


 色んなの……だと?

 口ぶりからして、この世界に来ても以前変わらなく料理を作れているようだ。


「天才だ……」

「天はラリルレにいくつ物を与えれば気が済むんだ……」

「あの、もう良いですか? そろそろお料理を教わりたいんですけど!!」


 オレ達がラリルレの言葉に感動していると、シアスタに怒られた。


「いいよシアスタ、ラリルレからいっぱい教わりなさい」

「足りない物があるなら買ってこよう。肉か?魚か?それとも野菜か?」

「大丈夫だよソーちゃん。もう準備してあるから」

「偉い」

「凄い」

「この二人、ラリルレさんが絡むと気持ち悪いほど甘くなりますよね」

「二人ともやさしーんだよ」

「ラリルレが素晴らしいのは当然の理だが?」

「ロロさんって本当に邪神なんですか?」


 シアスタはオレとソーエンを呆れた眼で見た後、ロロも呆れた眼で見た。呆れすぎだろ。

 ラリルレから優しいと言われたが、優しさの権化みたいなラリルレには流石に負けるなー。


「今日はまず、どんな物を合わせたら美味しくなるかを知ろう!!」

「はい!!」


 朝から元気な二人だなぁ。


 ラリルレは今日の目標みたいなものをシアスタに伝えると、ボックスから料理の材料を取り出してロロに渡し、厨房の中心にある広い調理台の上に具材を並べ始めた。

 肉と野菜、それに卵、チーズ。オーソドックスな材料が置かれている。何を作るつもりなんだろう。


 肉は生肉では無く燻製肉。野菜はトマトやレタスのような葉野菜、きゅうり、あと……あの黄色いサボテンみたいなのなんだっけ。確かどっかで見たような……。ってかあれ食えんのか?

 あと、卵って何の卵だろう。よくスーパーで見るような普通の卵だけど、どんな生物が産んでるのか分からんわ。まぁ、結局食べれればなんでも良いや。


 ……こうしてみると、調理台は二人には高いな。丁度ギルドカウンターくらいあって、二人の顔が乗るくらいの高さだ。


「ハムやベーコンはね、こういう葉野菜と相性が良いの」

「ふむふむ」


 ラリルレは調理に顔を乗せながら背伸びをしたり、肩を上げて腕全体で材料を指差しながら一生懸命説明をしてる。

 シアスタもラリルレと同じように顔を乗せながら一生懸命説明を聞いていた。

 なんか……健気で痛ましい。


「ソーエン」

「ああ」


 ソーエンに目配せをして、オレ達はなすべきことをするために行動を起す。


「二人ともどこに行くの?」

「リフォームの材料取ってくる」

「すぐに戻る。気にせず続けていてくれ」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「「行ってきます」」


 オレ達は、家の台所の高さ問題を解決するべく、颯爽と家を出た。


 * * *


 目的地、アステル近郊の森。目的、森林伐採。

 そう。厨房の調理台やコンロ周り全てをラリルレとシアスタが使いやすいようにするため、長い踏み台を作るのが今日のミッションだ。


「やっべ、どれくらいの長さが必要か測るの忘れたわ」

「初っ端から前途多難だな」


 近郊の森に着いて初めて、長い踏み台を作る上で重要になる長さを測っていないことに気がついた。


「とりあえず、今分かっていることとすれば……必要な台の数は八辺分ってことと――」


 厨房中心にある調理台を囲む四辺、壁伝いに備え付けられているコンロや流し分の四辺、計八辺だ。


「ラリルレ達が苦労せずに料理が出来るくらいの高さってことくらいか」


 確か、ラリルレの身長が百四十五センチ、シアスタはそれよりもう少しちっちゃいくらい。オレ達の身長は百八十で、料理……摩訶不思議錬金術をするときは厨房は少し低い位だから、踏み台は三、四十センチくらいあれば十分か。


「材料が多い分に越した事はない」

「そうだなぁ。踏み台のDIYを失敗することも考慮すると、木は多めに採っておきたいよな」


 作業する場所は裏庭で良いだろ。家がでかいだけあって裏庭もでかいから難なく作業できる。


「何本刈る」

「うーん……三十本くらい?」

「分かった。十五十五でやるぞ」

「へーい」


 失敗を見越して大目に採って置くという、先見の明がありすぎて太陽くらい輝いて居るオレの発案の元、森林伐採が始まった。


 * * *


「いやー、刈った刈った」

「森の一部が禿げる程度にはな」


 材料集めは完璧。問題無く終了。物事が素直に進むって気持ちが良いな。

 近郊の森から帰ってきて今は自宅の裏庭。

 本来なら物干し竿とか置くんだろうけど、オレ達は<浄化の杖>のおかげで洗うことなく服が綺麗になるから干す必要が無い。

 男物はソーエンが担当し、女物はラリルレが担当しているからデリカシー配慮は万全。

 っていうか、ソーエンがまとめてやろうと服を集めたらラリルレに怒られたのでこうなった。

 まぁ、おかげで裏庭には何も無いから、木を丸ごと一本ボックスから取り出しても問題無く作業が行える広さだ。


「ソーエン、ちょっと長さ測ってきて」

「分かった」


 ここで作業すれば長さの確認も逐一行えるし効率が良い。

 さて、ソーエンが長さを測っているうちに余分な枝を落として……。


 オレがダガーを使って、木をバターのように切って剪定しようとしていると、後ろから何かを剥がす音が聞こえた。


 聞き逃せないその音の正体を確認するために振り返ると……。


 ソーエンが、壊れた裏口の応急処置のためにオレが苦労して取り付けた板を、力ずくで引っぺがして無造作に横に投げ捨てていた。


「おい!! 何してんだこのドアホ!!」

「ああ、悪い。釘を踏んだら危険だな」


 ソーエンは投げ捨てた板をボックスに仕舞った。

 確かに投げ捨てられた板には固定用の釘が刺さっているから、もし誰かが踏んだら怪我をしてしまう。

 でもそう言うことじゃない!!


「オレの努力の賜物がぁ!! 裏口が壊れたままだと、防犯上危険だからわざわざ慣れない釘打ちして頑張って取り付けたのに!!板はなんか良い感じに硬くて加工しやすい木の種類オススメして貰って、高い金出して買ってきたんだぞ!!朝起きるとまずはこの板を内と外から眺めて、壊れていないかとか固定は大丈夫か、なんて確認した後打った釘見て達成感を感じながらタバコを吸うのが日課だったのにィ!!」

「お前、毎朝そんなことをしていたのか。ふむ、なるほど。毎朝玄関のベルが鳴っていたのはそのせいか」

「板君帰せェ!! それオレんだぞ!!」

「名前まで付けているとはな。悪かった」


 ソーエンがボックスから板を取り出してオレに差し出す。

 だからオレはソーエンの方へと赴いて板を受け取り。


「むんッ!!」


 そのまままた板を裏口に力ずくで取り付けた。

 まだ板君と釘達は生きている。またオレ達を外敵から守ってくれ。頼んだぞ。


「邪魔だ」


 そしてまたソーエンは板君を引っぺがした。


「なんでそんな酷いことするの!?」

「確認作業をする度に一々玄関まで回るのは面倒だ」

「だったら一発で作ればいいだろ!!」

「出来るのか?」

「やってらぁ!! いいから板君返せ!!」

「ほら」

「むんッ!!」

「邪魔だ」

「なんでまた剥がすの!? 一発で作るって言ったじゃん!!」

「俺達がそんなスムーズに事を運べた試しがあったか」

「ぐうッ……!! 正論はよせ、反論が出来なくなる」

「二人とも何してるの?」


 オレ達が口喧嘩をしてると、ラリルレが厨房から顔を出して来た。


「作業工程の中で方向性の違いが出た」

「????」

「あの、今材料の説明が終わって、ようやく調理に取り掛かるはずだったんです」


 ラリルレに続いてシアスタも顔を出す。

 シアスタの声はとても落ち着いていた。

 なんで二人とも顔だけ出してんの? ロロ、ラリルレ、シアスタが裏口から縦に並んで顔を出すから三色団子みたいになってるよ。実質二色だけど。


「よかったな、本番じゃん」

「でも、イキョウさん達がその板で風を起したせいで埃が舞って、材料全部洗いなおすことになりました」


 シアスタは淡々と話を進める。


「元はと言えばソーエンが!!」

「全てが終わったらまた取り付ければ良いだろう」

「喧嘩する前に謝ってください」


 ついに怒られた。シアスタが見下した眼でオレ達を見ている。


「「だとよソーエン(イキョウ)」」

「はぁ。本当にこのお二人は……」

「喧嘩する理由はなーに?」

「「この板(君)に付いて」」

「ロロちゃん!!没収!!」

「任せろ」


 ロロが触手をソーエンの持っていた板君に絡めると、そのまま取り上げる。というかソーエンが一切の抵抗をしないからあっさりロロの取られた。


 そしてロロはそのまま板君を……。


「「「えぇ…」」」


 思わすオレとソーエンとシアスタが揃って声上げちゃったよ。


 ラリルレの頭に乗ったロロが頭部を傾け、推定口のあるであろう脚の根元に板を突っ込む。

 何が起きたのか良く分からん。ロロの裏側を見たはずなのに何も見えなかったし、なんなら虚空が見えた気がする。その虚空に板が歪んで吸い込まれた。


「仲直りするまでこの板は預かるからね!! 喧嘩は楽しくほどほどに!!」


 怒るというより叱るようにラリルレはオレ達に注意をした。


「え、あぁ、うん。はい」

「……気を、つける」


 その注意をオレ達は呆然としながら答えることしか出来なかった。

 だって、目の前で起きたことが衝撃的過ぎて毒気が抜かれちまったから……。


「さー、材料洗いなおすよーシアスタちゃん」


 ラリルレはいつもと変わら無い様子で顔を引っ込めた。


「私、このパーティのトップが分かった気がします」


 シアスタはまだ戻らず、オレ達に向いて語りかける。


「イキョウさんとソーエンさん、ロロさんを取りまとめているラリルレさんです……」

「多分ね、それ正解」

「私……戻りますね」

「シアスタ、ごめんな」

「いえ、良いんです。なんかどうでも良くなってしまいました」

「うん……そーだね。頑張れよ」

「はい……」


 ロロの謎を見たオレ達にもう争う気は無い。あるのは深遠を覗いてしまった仲間意識だ。

 それぞれ無言で解散して、やることを始める。

 枝を切るの楽しいなぁ。剪定楽しいなぁ。

 あ、ソーエンが戻って来た。


「具体的な長さは分からん。俺が目測で揃える」

「任せるわぁ」

「ところで」

「ん?」

「普段からロロを頭に乗せているラリルレは大丈夫なのだろうか」

「いや、もう、むしろラリルレの頭が深遠の蓋なんじゃないかって思える」

「そうだな……そうかもな」


 今まですっとロロを乗せて、何の問題も無かったんだからこれからも大丈夫だろう。

 オレ達は考えることをやめて、ひたすら踏み台作りに没頭した。


 * * *


 とりあえず第一弾の、ラリルレ達が今使っている調理台用の一辺が完成したので早速設置してみた。

 こういうときにアイテムボックスは便利で、搬入するのに手間取らず済んだ。

 踏み台はソーエンの目測よりも少し大きくして、剥き出しになってる角は買ってきた棒状の鑢で削り滑らかにする。怪我の防止だ。

 後は設置後に余分な長さを切り落せば完成。

 いつの間にか双子とソーキスも起きて来ていて、子供たちは揃ってラリルレの調理を見ている。


「キョーちゃん達のおかげでお料理しやすくなったよ。ありがとー」


 料理中、ちょっとお邪魔して設置し、使用感を聞いてみたが中々の好感触だ。


「そうそう、手は猫の手にしてね」

「こうですか?」

「猫!?」


 今、二人はトマトを包丁で切っていた。


「上手!! 後は潰すんじゃなくて、軽く力を入れながら押して、引いて、包丁が自然に切ってくれるように動かすの」

「わあ!!つぶれません!! つぶれませんよラリルレさん!!」


 トマトが綺麗に切れて嬉しいのか、シアスタはラリルレの顔を見ながら喜びの声を上げる。

 ラリルレは教え方が上手いなぁ。


「危ないから余所見しちゃダメだよ。今教えた二つに気をつければ怪我はしないし、綺麗に切れるし、一石二ちょーだよ」

「猫の手凄いですね!!」

「猫!?」

「ラリルレ」「こう?」「「にゃーにゃー」」

「にゃー」


 双子とソーキスも、猫の手を真似してラリルレに見せていた。

 ただ、三人は調理をしていないから、ただ手を真似て遊んでいるだけ。


「猫!?」

「うるせぇ!!」


 踏み台に問題が無いか後ろで見ていたオレとソーエンだったが、横に居る奴が本当に煩い。


「ソーちゃん猫好きだもんね」

「ああ、猫は良いぞ。猫は」

「やめやめ、マジで止まんなくなるから。ほら、さっさと残りも作るぞ」


 さっきラリルレはフライパンを用意していたから、今度はコンロがある壁側の方を作んないと。火を扱うんだから安全に調理が出来たほうがいい。

 その次は流し台。まだまだ作らなきゃならない台があんだからさっさと取り掛かりたい。


「まあ……いいだろう」


 ソーエンもその事は分かっているのか、渋々話題を切り上げて裏庭に向かう。

 コイツ、あっちに居る頃は暇さえあれば猫の動画見て「ふむ」「ほう」「むっ」しか言わなくなるボットになることがしばしばあった。

 まあ、唯一大事にしていた猫が亡くなったのがでかいから仕方ないっちゃあ仕方ないんだろうけど、それはそれとしてキモい。


「次の長さも?」

「俺が目測で測る」

「よろしく」


 調理台にはパンが新しく乗っていたし、作ってるのはサンドイッチかな?

 子供達が家の中で騒いでいる声を聞きながら、オレ達はまた作業を再開した。

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