34.へらへらだらだら
強制連行されたオレの後に、ラリルレも戻ってきて全員が座った。
「ん、んぁー」
それと同時に、カフスの横からうなり声が聞こえる。
カフスの声よりもほんの少し低いくらいか? ぼやっとしてたら聞き間違えそうだ。
「……うへー、ここどこー?」
偽カフスが横になったまま半目を開き、そして言葉を話す。
「しゃべれんのかお前……」
新生児にしてもう言語を会得しているぞ。
「あー、おにいさんだー。やっほー」
まだ横になったままの偽カフスは、オレを見るなり気安く呼んできた。
「んだよ、初対面で気安いだろ。てか眼覚ましたんなら起きろ」
言葉が喋れんなら、コイツには色々聞きたいことがあるから洗いざらい吐いて貰おう。
「それはだめ!? ね? 寝てていいからね?」
ラリルレは困ったような笑顔を偽カフスに向けながら声を掛けた。
「いーのー? じゃー、お言葉に甘えてー」
横になるのは続行のようだ。別に話せるなら起きてても寝てても変わらないか。
「お前、自分が何者かは分かるか」
ソーエンが最初に質問を繰り出す。
「ボク? ボクはー、んー……でっかいスライムー?」
「何で疑問系なんだよ……」
「だってー、昔のことなんてほとんど覚えてないもーん」
「だったらよぉ……最近のことは覚えてんだなぁ?」
もしドアの破壊の件やオレを追い掛け回してたことを忘れてんなら、現場を見せて分からせてやる。
「さっきまでのことは覚えてるよー……たしかぁ……どこかの家に入った気がするー」
「よし、良い子だ。その家はここだ、早速弁償の話しに入るぞクソガキ」
「待って。そんなことよりも聞くことがある」
カフスがオレ達の家のことをそんなこと呼ばわりして来るけど、そういえば元々の持ち主だったな。ここは顔を立ててやろう。
オレは腕を組みながら怒りを抑えるように息を吐いてじっとし、カフスの用件が終るのを待つ。
「あなたはこの都市に危害を加えるつもりはある?」
「ふへへーないよー」
偽カフスは気の抜けた声で返事をした。
口調と同じように、あいつの表情も気が抜けていて、全体的にだらっとしてる。カフスに似た顔だから、そんな顔をされるとちょっと面白い。
「ん、良かった。あなたの覚えていることを出来る限り教えて」
「ボクのー? えっとー……昔はずっとお腹が空いてたのと、美味しそうなものを見つけたのは覚えてるー」
「美味しそうなものってあれ?」
カフスがロロを指差して、偽カフスもその先を見る。
元邪神をあれ扱いって……。
「そーそー、あんな感じだったー」
怒涛の雑な扱いをされるロロだったけど、怒っている様子は無くラリルレに撫でられていた。
この会話よりもラリルレに撫でられることを優先しているのか? ほんとに元邪神かあいつ?
「でもねー……ほんとにぼんやりとしか覚えてないやー。ってゆーか、こんなに自分がハッキリしてるのは初めてだー」
へらへら笑いながら偽カフスは話す。
「そう。今と昔で何か変わったところはある?」
「今の方が何か良いやー。昔はずっとぼやーっとしてて何か嫌ー」
ものすごい漠然とした答えが返ってくるけど、話を聞く限り昔の貪食王と今の偽カフスは記憶や意思の書き換えとかされず、一応は中身がちゃんと続いているらしい。
「ん、よかった。今が良い、それは良い事」
「はいはーい。どーしてキミはカフスちゃんと同じ姿をしてるの?」
「ふへー、一番落ち着く姿だからー。でも何でだろー?」
「多分、私の魔力が一番多いから。四つは相互に作用しあってる、肉体が魔力に引っ張られた」
「なるほどぉ、カフスちゃんは頭いいねぇ」
「ならさ、カフスの魔力が切れたらコイツの見た目も変わるのか?」
下手したらオレかソーエンに切り替わる可能性がある。それはよして欲しい。
「大丈夫。魂・肉体・精神・魔力は全てこの子のものになった。この子が自分で生成する魔力は私と同じ。この子は今の状態で固定されてる」
「なら良かった……いや、大分やばくね? コイツの魔力の質、実質ドラゴンじゃん」
「大丈夫。魔力の質は魔法にあまり関係しない。大事なのは量」
「その量も沢山吸ったじゃん」
「この子の魔力量は小さくなった。今持ってる魔力は普通の人と変わらない」
今持ってる……? まいっか。
「小さな核に残った魔力なんてそんなにないよー。おかげで少食になっちゃったー」
砕けた核の一部でコイツは構成されてるんだったな。ならもう無限の吸収力も無くなったのか。
「おめでとさん、なら安心だな。オレからも質問だ。なんでお前はオレんちに侵入した?」
この広い町の中で、我が家にピンポイントで来た理由が分からん。偶然なのかも知れないが。
「だっておいしそうな魔力があったからー」
……聞き覚えのある理由だ。しかも最近聞いた。主にサキュバスから。
だが、オレと決まったわけじゃない。ここにはカフスやソーエン、ラリルレだって居る。
「ちなみにおにいさんのことねー」
「っあぁ……」
予感が的中してオレは頭を抱える。どうしてオレの魔力は変なやつを集めるんだ。樹液かなんかなのか!? そしてお前らは虫なのか?
戦ってる最中もオレが集中的に狙われてた理由もこれじゃん、絶対コレじゃん。
「おにーさんのまりょくは」「おいしいから」「いちどすったら」「やみつきになる」「「めろめろ」」
「またちょうだーい」
「だまらっしゃい。オレなんかよりカフスの方が美味いに決まってるだろ」
もうやだ、なんでオレばっかり吸われなきゃいけないんだ。
人よりもドラゴンの方が気品溢れて美味しそうだろ。
「すわせて」「あじわいたい」
「ん、いいよ」
双子のあくなきグルメ欲求をグルメドラゴンがあっさり受ける。
カフスの手に双子が吸い付いて吸うから、なんだか頭を揺らして何かを考え始めた。
「その気持ち分かるー」
双子の考えていることが分かるのか、偽カフスはへらへらしながら双子を見てる。
「どうした双子」
「あじが」「わからない」
「カフスさんの魔力は神々しいですからね」
まだ丸まったままのシアスタがモゴモゴとカフスの魔力を教えてくれる。あれか、高すぎる料理の味は分からなくなる現象か。
「残念。私は美味しくない」
グルメドラゴンが少し悲しそうに言ってらっしゃる。
「引き続き双子の補給先はお前のようだな」
「……まあいいよ。最近は慣れてきたからなんとも思わないよ」
連日魔力を上げてるんだ。もうペットに餌をやる感覚だよ。
そんなペットな双子はふよふよとこっちにやってきて、口直しにオレの魔力を吸い始める。
「いいなーボクもほしー」
「ただでやるわけねぇだろうがよ」
……ん? 偽カフスに言って気がづいた。双子から何も対価を貰ったことない。今ここで何かしらの……良いや、後で貰えば良い話だしな。思い出したらそのとき言おう。
「えー」
「ぶーたれんな。それにお前には扉の修理費だって払っても貰わなきゃなんないんだからな」
「ボクお金なーい」
「稼いで返せ。何が何でも返せ。絶対返せ」
「それは私が出す。ここは元は私の家、任せて」
「……ま、それなら……まぁ? いいけどさぁ」
感情としてはあのスライムに賠償して欲しいけど、元家主がそう言うならしょうがない。
別にどこから取っても金は金だから、治して貰えるならそれに越した事は無い。
「キミはこれからどうするの? お金無いと色々大変だよ?」
「ボク? どうしよ。幸先無いやー」
多分、カフスが引き取って当分は面倒見るんだろ。カフスは優しいからな、身寄りのないやつを町から放り捨てるわけが無い。それに見た目が似てるから問題を起こされても困るだろ。
「この子は私の血縁てことにしてアステルに住んで貰う」
「ボクの決定権ないのー? でもいーよ、そっちの方が楽そー」
ほーら、予想通りだ。カフスはやっぱり優しいなぁ。
「カフスちゃんの血縁ってことは一緒に住むの?」
「私はいつも面倒を見れる訳じゃない。それに、色んなことを経験して日々を楽しく送って欲しい。私の近くは息苦しいと思うから別のところに住んで欲しい」
「堅苦しいのいやー」
ん? 雲行きが怪しい。嫌な予感がしてきた。なんとなくこの後が予想できる。
「あなた達が良ければここに住ませてあげて」
「オレはいやーーーーーーーーーーーーー」
やっぱりな。なんでこれ以上面倒ごとを抱え込まなきゃいけないんだよ。もうオレの日々は手一杯で、楽な日々じゃないんだよ。これ以上平穏を奪わないでくれ。
「キョーちゃん、なんでそんなこと言うの? こんなに可愛いんだよ? 一緒に暮らせたら楽しいよ」
「いやーーー」
ラリルレはキラキラした目で見てくるけど、ごめん。いやなものはいやだ。
「いいじゃないですか。きっと楽しいですよ」
「いやーーーーーーーー」
シアスタはまず丸まるのをやめてから言ってくれ。
「わたしたちも」「さんせい」
「オレは 反対」
双子が賛成してんのはどうせ味の理解者だからだろ。
ロロとソーエンは黙っているけど、どうせロロはラリルレの意見と一緒だ。
ならば狙うはソーエン。
「ソーエン、ヘルプ」
「ここまで増えたら変わらん。どちらでもいい」
「またか? またオレだけアウェーなのか?」
前にもこの状況あったぞ。オレがおかしいのか? パーティーのリーダーなのに全然意見を尊重してもらえない。
「多数決で決まり!! それに、元はといえばキョーちゃん達が持ってきたのが原因なんだよね? 悪い事したらごめんなさいと反省するのは大切だよ。責任取らなきゃ」
「……………………………はい、仰る通りです」
最悪の切り札を出された。負けです。それを言われたら何も反抗できません。
ラリルレの言うことは正しい、頭では理解している。引き取ろう。
でも、オレはなるべく関わらないようにしよう。
「おにいさんよろしくー」
「オレ以外にも挨拶しやがれ」
「みんなもよろしくー」
未だに寝そべったままの偽カフスは、そのままの体勢で皆に挨拶を始めた。
「せめて挨拶くらいは立ってやれ」
「はーい」
「えっ? あ、だめ!!」
なぜかラリルレは止めに入るけど、もう偽カフスはソファーの上に立ち始めていた。
布がずり落ちて全身像があらわになる。――――そうか、そういうことだったのか。
「……お前、男だったのか」
立ち上がった偽カフスはすっぽんぽんだった。路地裏で見たカフスとはあまり変わらない……けど、一点だけ違うものが付いていた。
「そーだよー」
「だからダメって言ったのにぃ……」
ラリルレは顔を抑えてこの光景を見ないようにしゃがみこんでいた。
だからか、オレが立たせようとすると止めて来たのは。
「まぁ、その……。布羽織っとけ」
「はーい」
偽カフスはずり落ちた布を羽織って体を隠す。
「かわいー」「ちっちゃい」
「品評会をするんじゃないメスガキ共」
「なんでだろう。恥ずかしい」
カフスは少し顔を赤らめて視線を逸らしている。
「そりゃ、ほとんど同じ顔と体だからな。しゃーない。気にすんなって」
「……なんでイキョウは私の体も知ってるの」
「……あっ」
やばい、カフスの裸をなんとも思っていないことが仇になった。無関心だったから何も考えず口に出してしまったが、路地裏でカフスの裸を見たことは伏せてたんだった。
「いやっ、コイツが路地裏で擬態したときに見せ付けてきたんだよ」
「おにいさん小さい女の子ばっかり抱えてるから好きなのかなーって思ってー。あわよくばそのまま魔力貰っちゃおーってねー」
「ほら、オレは好きで見たんじゃない。見せ付けられたんだ。それにオレはロリコンじゃないから何も感じないし、実質問題なし!!」
オレはカフスに無罪を主張する。スライムが勝手に見せてきたんだからオレは悪くない。優しいカフスなら分かってくれるはずだ。
だけどオレの主張とは裏腹に、カフスとラリルレ、シアスタは立ち上がってオレと偽カフスを睨んでくる。
「私はあなた達より年上。小さくない。二人ともそこに座って」
顔は怒っていない、怒ってないけど、明らかに怒りの雰囲気を漂わせているカフスに、オレ達は命令される。
「「……わかったー」」
さっきオレが挙げた理由はダメみたいでした。むしろ火に油注いじゃった? みたいな?
この後、ラリルレからは失礼と、シアスタからは私は小さくないと、カフスからは自分から見ればほとんどの生き物が子供と。二人揃って大説教を喰らいました。
もう少しだけ続きます




