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31.Q&Q

「ただいまー」


 町中を<隠密>で移動し、誰にも見つからずにオレ達は家に帰ってこれた。

 いつもの席に移動するのは面倒だから、食堂とは反対スペースの名ばかり共同スペースに移動する。この家を買ってから一切使った事は無い。


 共同スペースは食堂並により少し狭く、いくつかのソファーとテーブルがあるだけで他には何もない。そのソファーとテーブルの配置はと言うと、スペース内に三人掛けのソファーが三つ、テーブルを囲んでるだけの簡素な設備が四組有る。オレ達が座ったのは入り口から最も近くにあるソファーとテーブルだ。


 とりあえず、ゲーム組+ロロ、向かいに双子とシアスタ、上座っぽい位置のソファーにカフスが座り、カフスの横には偽カフスを寝かせる。


「皆、お茶飲む?」

「貰う」


 カフス以外からは意見が出ないが、一応双子以外全員分のお茶を注いでその前に置く。

 全員がお茶を同時に啜り、ほうっと息を吐く。ようやく落ち着いた時間だ。


「――じゃないですよ!!」

「おう!?」


 シアスタが声を出すと共にぽろぽろと泣き出した。


「何で生きてるんですか!!」

「その言い方は流石に酷いぞ……」


 まるで死んで欲しかったみたいじゃないか。


「酷いのはお二人ですよ…うぐっ」


 シアスタが本気で泣き出した。


「シアスタちゃん」


 ラリルレがシアスタの元へ行き、抱きしめてあやす。


「不安だったよね。怖かったよね。よしよし」

「うぅ、ひっ、えぐえぐ」


「私、は……」


 今度はカフスが口を開いた。


「私はあの時確かに2人の魂が消えるのを見た。あれは死んだときの魂の動き」


 そっか、カフスは魂が見えるからオレ達が死んだことがより明確に分かるのか。


「巻き込んで死なせてしまったと思った。あの時私はものすごく後悔をした」


 カフスがその瞬間を思い出して暗い雰囲気になる。

 優しいカフスはあの時、オレ達のために泣いてくれたようだ。


「後悔せずに済んでいる。俺とイキョウは生きているからな」

「……違う。生き返った。その力は何?」


 カフスの眼が鋭くなり、オレ達を見る。この反応を見る限り、やっぱり生き返りって非常識な力だったようだ。いや、そうだろうな。普通に考えれば。


「ほら、魔法でさちょちょいと」


 でもこの世界なら普通じゃないことが出来る。そう、魔法なら何でも出来そうだしいけるだろ。


「そんな魔法は無い」


 カフスに一刀両断されシュンとする。魔法も万能では無いらしい。


「俺達の持っている秘密の魔道具を使った」

「そんな反応は見えなかった」


 さすが眼のいいカフスだ、ソーエンの言い訳も通じない。


 段々カフスの眼が、より鋭くなっている。


「……実は、オレ達別世界から来て」

「ふざけないで。怒る」


 ほらな、正しい理由が通らないから適用な言い訳をしたのに。

 生き返りを見せても信じないんじゃもう無理無理無理無理。


「そう怒るなって。オレ達にも事情があるんだ、何でもかんでも話せるわけじゃない。人は誰しも秘密を抱えてるもんだろ?」


 話したところで信じてもらえないのなら、話す事をやめてしまおう。


「その秘密は世界の法則に反してる。あなた達の力よりも蘇生出来る方法を知っている方が何百倍も危険。誰もが何をしてでも欲しがる。死から蘇る方法があると知られたら戦争が起きる」


 カフスが珍しく長文を話してらっしゃる。


「待ってくれ。オレ達は勝手に蘇生するから方法なんて知らんし、人には使えないぞ」


 それこそ心臓や脳が勝手に動いているように、復活もシステムが勝手にやっているんだ。オレ達が仕組みを理解して使っている訳じゃない。だから、そんなものを人に使う事なんて到底無理な話だ。


「あなた達はそう思ってても周りは違う」


 周り? ……あ、なるほど。

 周りから見れば、自分を蘇生出来るんだから方法を知っているはず。ならその方法を教えろ。教えてくれないなら対価を払うか脅すかして無理やり使わせる。って思われるのか。


「目撃者の記憶を消しておいて正解だったわぁ」


 仮面を被っていたとはいえ、オレ達は名目上カフスの部下と言う扱いになっていた。つまりカフスの部下は生き返りの方法を知っているとなり、結果としてカフスとアステルに迷惑がかかってしまうことになっていただろう。


「あれは良い判断。そうしないとアステルが戦場になって滅ぶところだった」


 迷惑どころの話ではなかったらしい。思ったよりも大事になるようだ。


「……なあカフス。さっきも言ったけど、オレ達は本当に蘇生の方法は知らないんだ。体質みたいなもんなのかな。とにかく体が勝手にやってくれるから誰かに教えられるもんじゃない」

「体質で生き返り……? 初めて聞いた。ソーエンとイキョウは何者?」


 カフスの問いには正直に答えても意味は無い。どうしたものか……。


「知らん。カフスは自分のことを全て知っているのか」


 ソーエンがカフスの質問に質問で返す。


「……全ては分からない」

「俺達も同じだ。自分の全てなど分からん」


 ソーエンの言う、自分の全てか。多分その言葉はカフスの問いへの誤魔化しではなく、なぜオレ達はこの世界に呼ばれたのか、この体は何なのか。といったような疑問の全てが含まれているんだろう。そしてオレ達はその答えを全然何も分からない。


 でもオレ達は哲学者や科学者じゃない。今ここに、オレとして生きてるならそれでいい。自分は自分だ。それ以外の何者でもない。モラトリアムなんてとうの昔に終わらせてるさ。

 オレはただ毎日を楽しく過ごしたいだけの人間だ。人生を謳歌しなければならないんだ。だからそのことをカフスに伝えよう。


「何もオレ達は死なないわけじゃない。それに腹は減るし、嫌な事よりも楽しいことをしたい。オレ達は平穏に日常を過ごしたい普通の生き物さ。戦争なんて真っ平御免だ。だからこの復活する力は絶対内緒にする」


 この言葉に嘘偽りは無い。


「……あなた達とアステルのためにもお願い」


 カフスは言葉と共に睨むのをやめていつもの顔に戻る。


「こんなあやふやな説明と約束だけででいいのか?」


 自分で言うのもなんだけど、全然筋が通ってないと思う。

 方法は分からない。ばれないようにするって口だけでは約束する。何でこれでカフスが納得してくれたのかが分からない。


「良いよ。約束してくれたから」


 追求があると思ったら、あっけない理由を言われる。


「それだけ?」

「それで十分」


 オレ達ってそんなに信頼されるようなことをカフスにしたか? ……まあ、カフスがいいならいいか。


「んじゃ、これでこの話は終わりだな」


 カフスがオレ達に聞きたいことがあったように、オレにもめっちゃ聞きたいことが一つある。


「待っでぐだざい」


 ラリルレに抱かれたぐじゅぐじゅシアスタが話題を切り替えるのを止めて来る。


「どした?」


 このシアスタを無視するのはかわいそうだから、質問はまだ我慢しよう。

 シアスタは涙を拭って、大きく深呼吸をしてから口を開く。


「もしかして、ガランドウルと戦ったときもお二人は死んでたんですか?」


 ???? ……あ、そゆこと。シアスタは、どうにかしてオレ達はあの串刺しの刑を避けて生きてたと思っていたのか。だから今まで復活のことを聞かれなかったのか。


「「死んだよ(死んだぞ)」」


「そうでしたか………ラリルレさん、離れてください」

「もう大丈夫?」

「もうだめです」


 ラリルレはシアスタに落ち着いたのかと聞き、シアスタは自分の限界をラリルレ伝える。

 あ、これは。

 オレはこの後に起こることを察知してアイテムボックスから風呂用の桶を取り出す。


「えれえれえれえれ」

「そう来ると思ったよ」


 急いでシアスタの下に風呂桶を置いて、ゲロ雪を全てそこに積もらせた。


「わっ!! シアスタちゃん大丈夫?」


 ラリルレがシアスタの背中を擦ってあげている。


「また」「ゆき」


「それはこっちで処分しとくからあまり触れんでやってくれ」


 オレとソーエン以外はゲロ雪の意味を知らない。カフスは知っているかもしれないけどさ。

 ゲロ雪の入った桶を回収してオレ達が座るソファーの後ろに置き、他から見えないようにする。


「慰めて」


 座ったシアスタがボソッと言う。


「何だって?」

「慰めてください!!」


 顔を真っ赤にして泣きながら怒ったシアスタがオレとソーエンに言い放つ。

 んな横暴な。でもこのゲロ雪は、オレ達が死んでたって分かって吐いたものだからな……しゃーないか。


「ほれ、こっちおいで」


 シアスタを呼んで、ソファーに座っているオレとソーエンの間に座らせる。というか、丸まる。

 オレとソーエンはその白い塊を撫でてあやす。


「懐かしい。初めて会ったときと似てる」


 カフスの言う通り、ギルドの応接室で会ったときもこんなことがあった。


「思い出に浸るのもいいけど、今は話を進めよう」

「シアスタちゃん大丈夫なの?」

「いいんだ。むしろ今は無視してやってくて。この際だ、双子も何かオレ達に聞きたいことはあるか?」

「いきててくれれば」「それでいい」


 双子は相変わらずトロンとした顔で言う。

 暖かい言葉のように思えるが、オレの魔力を吸いたいだけだろ。


「そうかい、ありがとよ。ロロは?」

「ラリルレが生きていればそれでいい」

「さいですか……」


 ロロは暖かい言葉ですらなかった。


「なら次はオレの番だ」

「いやイキョウ、俺も気になっているから俺達だ」


 オレはまだ何も言って無いが、ソーエンには何を質問するか分かったらしい。

 当然か……だって一番目立ってるもん。


「よし、オレ達の番だ。……その子何?」


 オレはカフスの横で寝ているカフスを指差す。


「貪食王」

「うーん言葉が少なすぎる。もうちょっと情報だなぁ……」

「あなた達の魂を吸った貪食王」

「それでも説明が少ない……ちょっと待て、今何つった?」

「あなた達の魂を吸った貪食王」

「オレ達の魂吸われたの!?」


 え、オレ今どうなってんの? もしかして死んでんの?


「イキョウ、経験値を見ろ」

「おん?」


 パニくりそうになるが、ソーエンが意味深なことを言うのでステータスを見てみる。


「経験値減ってんだけど?」

「俺も減っている」


 この世界に来てからレベルは上がっていないものの、経験値はこつこつと貯めていた。

 その経験値がごっそりなくなって、経験値バーがゼロになっていた。

 幸いレベルは下がってなかったけど、周回やレベリングが出来ないこの世界での経験値は貴重だったからショックだ。


「コイツか? このカフスが吸ったのか?」


 扉を壊した挙句、オレ達の経験値を吸いやがった。どうしてくれよう。


「経験値……? は分からないけど、二人の魂はほとんど変わっていない。吸われたのは少しだけ」

「オレ達はその少しが大事なんだけど? 返してもらうか」


 オレとソーエンは武器を構える。カフスの見た目に似ててもこいつは貪食王だ。恨みは晴らさせてもらう。


「やめて、二人とも」


 ラリウルレが悲しそうな顔でオレ達を見てくる。


「そんなことしちゃダメだよ」

「でもなぁ、こいつは貪食王だぞ?」

「それでもダメだよ」


 ラリルレが悲しい目でオレ達を見る。


「私もさせない」


 カフスが鋭い眼でこっちを見てくる。

 ドラゴンだ、ドラゴンの眼だぁ。


「へいへい、分かったよ」

「悪かった」


 クラメンとドラゴンにそんな目で見られちゃ引き下がるほか無い。

 折れたオレとソーエンは、おとなしくソファーに座りなおした。


「ありがとうキョーちゃん、ソーちゃん」

「ありがとう」


 大人しくなったオレ達を見て、カフスとラリルレの顔はいつもの顔に戻った。

 やっぱりあの目には勝てない。


「教えて欲しいんだけど、オレ達が死んでる間に何があってこうなったの? 具体的に説明してくれ。いいか具体的にだぞ?」

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