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29.虚無の世界

 ガランドウル以来の虚無ね。

 二度と落ちたくなかったのにまた来ちゃったよ。なんか心が磨り減るんだよなぁ。

 しかも親友の手で殺されたぞおい、今度と言う今度は絶対許さんかんな。


「おい、イキョウ」


 虚無の中で声が聞こえる。これはソーエンの声だ。幻聴だろう。

 もしかしてオレはソーエンに殺されても心のどこかでは許そうという気があったのか?

 いや、やめだ。オレの心がなんと言おうとオレの本能が絶対に許さん。


「おい」


 また声が聞こえる。


 心よ、無駄だ。オレはあいつを許す気はないぞ。


「イキョウ」

「煩い!!」


 心の声があまりにも煩いので声を上げてしまった。いや、この虚無の暗闇は自分の体とか無いから声を上げられたのかも分からんけど。


「聞こえているならばさっさと返事をしろ」

「オレの心のソーエンも相変わらず無愛想だな」

「違う。俺も責任を取って一デスしてきた」

「……この声本物?」

「そうだ」


 辺りには何も見えない。見えないというか、視界があるのかも分からん。今まで見ようとしてなかったから気づかなかったけど、オレは今見えていない。虚無を感じてるんだ。


 いや違う。見ようとしていなかっただけで、意識を向ければ見え始めてきたぞ。


 ……何だこの空間。見ても見なくても虚無だ。唯一見ると見ないの判別がつくのは、半透明なソーエンが近くにいるっていう事実があるからだ。

 暗い。ただただ暗い。オレは今、上を向いてるのか下を向いてるのか。もしくは右か左か。何も分からない。深海の水底に沈んだダイバーのように、たゆたう体に身を任せて、ただ流れに乗っているだけのように感じる。


 でも、これは……何だ?一体なんなんだ? 得体の知れない何かがオレの側に居る気がする。


 そうか。分かったぞ。考えて見れば当たり前じゃん。これ、ソーエンに対する怒りだろ。これ怒りすぎて鳥肌立ってるだけだろ。

 なーんだそう言うことか。なら思う存分怒らせて貰うぞ。


「お前よくもオレを殺しやがったなおい!!」

「お前が指示したからだろ。だが、俺も責任を感じてログアウトを押して一デスした。これでチャラにしろ」

「指示?」

「お前が自分ごと撃てって言ったから俺は撃った。だが、流石に親友を殺すのは辛かった」

「おい待て、オレは一旦上がって策を練り直そうって言ったんだぞ」

「ふむ? ……。どれ、復活するか。先に待ってる」

「待ちやがれ!!今勘違いに気づいたろ、なあ!! くそ、逃がさねぇからな!!」


 ソーエンに追いつくためにオレも復活を選択する。


「ねぇ、キミ」


 はずだったが、誰かの声に邪魔される。


「ああ? 誰だァ!!」


 目を向けるけど、見えない。誰も見えない。何も見えない。


「戦狂と豪食と戦って生きているキミの心を教えて」


 なんだこの無機質で、でも、好奇心が滲んでいる様なこの声は。声だけじゃ何も分からんぞ。

 ついに死んで幻聴も聴こえるようになったのかオレは?


「あんたの言ってる意味がぜーんぜん分からん」

「心を教えて……じゃ、伝わらない…」


 言葉だけ受け取れば悩んでいるんだろうけど、どうにも声が無機質だから、本当の感情が読み取れない。

 でも、この寂しそうな声をオレは無視できない。これはオレの……。ま、いいや。多分、これ、オレの幻聴だろ。弱い部分の。


「心ってのは分かんないけど、生きてて良かったって思うぞ。人生は謳歌しなければならない」

「キミを見るのは三回目」

「は?」


 オレの言葉と返答が噛み合わない。

 幻聴と会話できるとは思わなかったけど、思った以上にあやふやだ。


「何言いたいのか分っかんねぇ!! 分っかんないから言っておく」

「……」


 オレの幻聴から返事は無い。

 だったらオレはオレに勝たせてもらう。


「生きてるって楽しいぞ」


 言ってることは分からないが、生きてるオレの心って点だけ教えるとしたらこう言う他は無い。


「……そう」


 オレの幻聴はそっけない返事だけを返してもう何も言わない。


「はっはー!! うけけけけけ!! 生きてて何ぼよ!!おらぁ!!待ってろよソーエン!! このオレの怒りをぶつけてやるからな!!」


 オレはオレの幻聴に惑わされようとも、理性に諭されようとも、この本能の怒りを収める事は出来ない。

 自問自答を終えてオレは早速復讐するべく、復活の選択肢を連打気味に押す。


 早く、早く復活だ!! この怒りは誰が何をしようと収まらないからな!!

 良し!! 連打した甲斐……があるかは知らんけど復活が始まったぞ。起きたらソーエンに速攻で文句を言ってやる。


「生きる、楽しいの?」


 復活の白がオレを染め、後はその輝きに身を委ねるさなか、あの無機質な声がオレに質問をして来る。


「何言ってんだ。当たり前だろ」


 オレは幻聴に勝利宣言を吐いて白に飲まれた。

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