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26.開戦の狼煙を上げたかった

「ごめん、待たせたな」


 オレは前方を走っていたソーエンとラリルレに合流して侘びを入れる。


「構わん。シアスタは元気になったか」

「何言ってんだ? 知らん知らん」

「んふふ~、キョーちゃん、嘘がへただよ」


 ソーエンはにやりと、ラリルレはんふふ~と笑いながらオレを見てくる。

 その顔を向けられると、考えが読まれているようで恥ずかしい。


「いいから敵に集中だ」


 今は恥ずかしさなんてどうでもいいんだよ。

 カフスはもう大分貪食王に近づいていた。接敵するのにそう時間は掛からないだろう。


「ラリルレは回復以外じゃ近づくな、危険だしMP吸われたら無駄になる。ソーエンはカフスを狙う触手の排除と、余裕があるなら攻撃をしろ。ロロは全力でラリルレを守れ」


 時間が無い中、考えられる最低限のフォーメーションだけ決めることにする。

 この配置だったら、イレギュラーが発生しない限りはそれぞれの力を最大限に発揮できるはずだ。


「了解」

「任せて!!」

「当然だ」


 三者三様の返事が帰ってきたので、遠慮なく作戦行動を開始する。

 ラリルレは止まって遠くに待機し、オレとソーエンは接近を続ける。それぞれがそれぞれのレンジを知っているからこそ即座に出来る判断だ。

 一方、カフスは敵の射程距離内に入ったようで、空を飛び回って迫りくる触手を避けながら徐々に距離を近づけていた。


「ソーエン、カフスのバックアップ任せた!!」

「久々に普通の銃を使う」


 ソーエンは両手に純粋な物理攻撃の銃を構える。白と黒の銃身に、赤く光る装飾が施されている銃。それを触手に向けて何発か撃つと、カフスへと迫っていた触手が弾けて飛び散った。


「お見事」

「やはりこっちの方が手に馴染む」


 ゲームのときはいつもこの銃を使っていたもんな。


「そのまま続けながら接近してくれ、オレは好きに動かせて貰う」

「ああ、行ってこい」


 銃を撃ち、飛び、走ってるソーエンを置き去りにしてオレは貪食王に接近する。

 今は前衛中衛後衛の全てが揃っている。元の世界以来の、ちゃんとした編成だから久々に全力が出せる。

 こんな知能の欠片もなさそうなやつに、オレの英知をぶつけてやる!!


「……お?」


 そう意気込んだオレだったけど、目の前には奇妙な光景が広がっていた。

 何故か触手がオレの方を向いてらっしゃる。

 近づいたせいかな? 一番近くの奴を自動で狙うのかな?

 そう思ったけど一番近くにいたはずの、カフスへ向いていた触手までオレに向かって伸びてきた。


「なんでさ!?」


 疑問の叫びを上げたのも束の間、展開している全ての触手がオレだけを狙うようにして襲ってくる。

 縦横無尽に襲い掛かる触手が迫る中、オレが出来る事は必死に避けながら謎の状況に対する疑問を叫ぶことしかなかった。それ程に余裕が無い。アホほど大量の触手避けるので精一杯なんだけど!!


「なるほど。素晴らしい撹乱だな」

「キョーちゃんすごーい」


 全体チャットからオレを絶賛する声が聞こえてくる。


「んなわけないだろ!! なんでカフスも感心した顔をしてるんだ!!」


 触手が襲い掛かる直前に見えたカフスの顔は、撹乱ってそういうことかー、見たいな納得している顔をしていた。いや、あんまり表情が変わらないからあくまでそう思っただけだけどさ。


「ヘルプ!!ヘルプ!! ソーエン、助けて!!」

「俺はカフスのバックアップだ。それに射線が乱れてお前のカバーはできん」

「なら移動して撃てや!!」


 ソーエンはオレの後ろに居るから、縦横無尽に動く触手とそれを回避するオレを縫って貪食王を撃てないだけで、移動して横から撃ってくれれば済む話だ。


「カバーするよりお前が引き付け、俺とカフスで攻撃したほうが効率が良い」


 正論かも知れないけど、オレの負担を考えていない発言だ。無慈悲な提案だ。


「任せたぞイキョウ。お前の目ならやれる」

「くそがぁぁぁぁあああああああ!!」


 オレは飛んでいるカフスから貪食王を引き剥がしつつ、町に近づかせないようにするために、泣く泣く全力疾走を開始した。


「なんでこうなるんだよ!!」


 やっと叛徒本来の戦いが出来ると思ったのにまた壁役かよ!!


「いいぞ、その調子だ。スライムの背後ががら空きになったぞ」


 ソーエンから朗報が聞こえてくるけどそれどころじゃない。

 背後から迫ってくる触手とスライムから全力で逃げる。無駄死にしない為に全力じゃおら!!


「よかったねキョーちゃん、好きなだけ逃げられるよ!! キョーちゃん逃げるの好きだもんね!!」

「そうだよ、好きだよ。でもこれはね、囮って言うんだよラリルレ」


 逃げると囮は全然違う。全く違う。

 逃げるって言うのは現状を捨てて次に備えるためのものだ。そして今は現状を引き付けなきゃいけない立場だ。役割が全く違う。


「勘弁してくれよ!!」


 ジグザグや緩急をつけながら走り回って、触手に捕らえられないようにする。

 あんな何でも喰らうような奴につかまってたまるか!! 捕まったら何されるか分かんねぇからこえーよ!!


 回避のために背後をちらちらと確認するけど、この触手の量はヤバい。立ち止まったら絶対捕まる。


「みんな待ってー!!」


 ラリルレの走っているような息遣いがボイスチャットから聞こえてきた。多分、一生懸命オレ達を追ってるんだろうけど……。


「それはスライムに言って!!」


 この追いかけっこを繰り広げてる原因が止まらないと誰も止まれない。


 なんで移動しながら戦わなきゃいけないんだよ!! オレの想定じゃ定点で戦うはずだったのに!!


「ラリルレが追いつけるよう、早くスライムを小さくしなければな」


 路地裏の戦いのときの情報は子供達から教えてある。このスライムの体は核から離れると液状化するんだ。だから倒し方は分かっている。要は体を形成しているスライムの部分を削りきって、無力化させれば良いんだ。

 でも、そんな回りくどいことをしなくても、確実にしとめる方法が一つある。


「お前が核を打ち抜けば終わるじゃん!!」

「無理だ。核が高速で不規則に動いているから狙いが定まらん。それにこの巨体では弾が到達する前に消化される」

「なら弾が到達するくらいの大きさで、なおかつ核が止まってれば仕留められるんだな!!」

「それならやれる。策はあるのか」

「あるわけ無いじゃん」

「だったら言うな」


 万策尽きた。オレはこのままスライムが死ぬまで逃げなくちゃならないのか。辛い。しんどい。

 そんな気持ちを抱えてオレは走る。ただひたすらに避けながら走る。だってこれしか策が無いんだもの。


 オレが囮をやり、背後からカフスとソーエンがスライムの体を削る作業が続く。ひたすらに続く。このままだと町の周りを一周するぞ。

 ラリルレは追いつけなかったのか、途中から声が聞こえなくなった。


「ソーエン、後どんくらい!?」


 永遠とも思える作業の進捗を聞かないと、思わず立ち止まってしまいそうになるから、モチベーション向上のために聞いておこう。


「分からん。分からんが、このままだと町を何十周もするハメになるぞ」

「マジかよ……勘弁してくれ……」


 モチベーションアップのために聴いたことはダウンさせるだけの結果に終わった。


「何か打開策は無いの? たまには脳筋のお前も考えやがれ!!」

「あればやっている」

「そういう皮肉はいいから。え、なに、マジでこのままオレ走り続けるの?」


 オレは触手を避けながら走っているから頭を使う余裕はあんまり無い。そして余裕の無い頭で一応思考はしているけど考えなんて当然浮かばない。現状は着々と貪食王を削れてはいるがいつ終わるか分からない。オレの負担半端無いんだけど。


 何かいい手は無いのか――――。

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