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25.戦いの意思を示せ

「そんなに魔力を吸ってるのに壊して大丈夫なの?」

「分からない。でも話が通じないならそうするしかない。このままだと危険」


 カフスが悲しそうな声で言う。

 平和を望むドラゴンは、生きていると知ってしまった者を無闇に殺したくは無いようだ。でも、町のことを考えるとそんな甘いことは言ってられないから、辛い気持ちを我慢して破壊を選んでいた。


「カフスちゃん……ねぇロロちゃん、どーにかならない?」

「我は邪神だ。生かすなどという行為はしたことが無い」

「でも今はロロちゃんだよ? それに一緒にいろんな人治してきたよ? ロロちゃんはいろんな人を助けたよ?」

「助けたのはラリルレだ。我はただラリルレの手伝いをしただけだ」


 ロロの言葉にラリルレは悲しそうな顔をする。

 そしてラリルレは口を閉じてしまった。


「……どうにかできるかは分からんが、水晶の正体には心当たりがある」


 思わぬところから情報が出てくる。でも昔を生きた邪神だし何か知っててもおかしくは無いか。


「ほんと!? お願い、教えてロロちゃん」


 正体を知らなければ対処もできない。ロロの情報はあの水晶を壊さない方法を見つけるための糸口になる可能性がある。


「恐らく貪食王の核だ」


 貪食王と聞いて全員が疑問の顔を浮かべる。


「ロロちゃん、貪食王ってなーに?」

「知らんのも無理は無い。貪食王とは我が決めた名だ。奴は遥昔、我が世界を滅亡させるため各地を滅ぼしていた際に食いかかってきた獰猛な巨大スライムだ。あやつの体は何でも喰らう。核だけの今は魔力を喰らって復活しようとしているのだろう」


 知ってるどころか、直接の関わりがあったのか……。

 なるほど、スライムだったから手ごたえが粘液っぽかったのか。


「私はそんなの聞いたことが無い」

「当然だ。我があやつの対処をしていると知れたらスノーケアに背後を取られる可能性があった。それゆえに全軍に他勢力への緘口令を出し、スノーケアには目眩ましでガランドウルを送り込んだのだ」


 ガランドウルはただの時間稼ぎ要員だったのかよ……。


「それでも文献や口伝くらいは残っているはずだろう」


 ソーエンがロロに尋ねる。


「あの頃は今よりも情報が伝わるのが遅かった。文献も、多くは邪神との戦いで失われた。記録が残っていないのは仕方の無いこと」


 ソーエンの疑問にカフスが答える。オレとしては、この世界の今でも情報伝達は遅く感じるよ。


「ねぇロロちゃん。貪食王はどうなったの?」

「我が軍勢と共に戦い殺したはずだった。だが殺しきれていなかったのだろう。あやつはしぶとかったからな」

「しぶといってどれくらいですか?」

「核さえ残っていれば永遠と再生する。それ故に戦いは長引き、大勢の配下と眷属が食われた」


 ロロの計画が失敗したのってそのスライムのせいなんじゃないか?

 でも邪神の軍勢でもそんな被害を出したやつなら放置できない。被害がしゃれにならんぞ。


「核を破壊しなかったのか」

「我が徹底的に砕いた。だが核さえも再生するのだろう。あれだけ無尽蔵に再生したのだ。可能性としてはありえる話だ」

「だったらどうやって殺す」

「核を跡形もなく消す。それしかない」


 ラリルレにお願いされたから、ロロは全部の疑問に答えてくれるな。

 魔法を吸収するやつの核を消すって、硫酸にでも漬けておけばいいのかな?


「あやつに魔法は通じん。殺るなら物理攻撃しか無い。我が教えられるのはこのくらいだ。あとはスノーケア、貴様がどうするか考えろ」


 ロロの言っているどうするかとは、殺すか殺さないかの判断をしろということだ。

 でも、話を聞いた限りじゃ貪食王とはとんでもなく強大で恐ろしい存在だ。無限に再生するし、ロロの軍はそのせいで大勢の被害を被った。そんなやつを相手に、殺さずに生かして平和に事を終わらせる方法を考えろだなんてロロも大分残酷なことを言うな。


 いや、わざと無理なことを言って、カフスが迷いなく貪食王を殺せるようにしたのかも知れない。


「……貪食王は倒す。これは代表としての判断」


 カフスは悲しい顔で決断をする。


「カフス、それでいいんだな」

「いい」


 ソーエンの念押しにもカフスは迷いなく答える。


「分かった。元は俺達がこの町に持ち込んだものだ。俺達がけりをつける」

「そうです。カフスさんは何も悪くありません。私達が悪いんです」

「違う。あれを放置してた方がもっと悪い結果になってた。私の目が届くとこでよかった。見つけてくれてありがとう」


 辛い判断をしたあとでも、世界のことを考えてお礼を言うカフスは、ほんとに平和を愛するドラゴンだな。

 カフスの目指たい平和は、争いの無い世界ってだけでなく、皆が笑って生きれる世界なんだろう。そしてその皆にはロロや、貪食王さえ入っていた。

 ただ、ロロの軍でも苦労したやつをオレ達だけで倒すのか? ラリルレは回復や支援が出来るからいいとして、双子やシアスタは魔法でしか攻撃できない。

 戦力が足りないけど、アステルの冒険者や衛兵を頼るわけには行かない。無駄に死なせることになる。どうしたものかなぁ。


 皆はあーだこーだと話し合っている。オレも一応は考える。皆も、口を閉ざしたままのオレも、結局答えが出ないまま城壁の上へたどり着いた。

 城壁には大勢衛兵が集まり、外の何かを見ている。


「スノーケア様!!」


 大声と共に焦った様子をした一人の衛兵が駆け寄ってきた。あんなの現れたら、そら焦るわな。

 カフスとオレは抱えている者達を地面に降ろしながら報告を聞く。


「緊急事態です!! 突然都市の外に巨大なスライムが現れました!!」


 衛兵は敬礼をしながらカフスに報告を行う。

 でもそんなこと言われなくてもわかるよ。めっちゃでかいの遠くに見えるもん。


「我が戦ったときより小さいな」


 あんだけでかくてもまだ完全復活はしていないらしい。

 水晶が落ちた場所は東門から離れて、街道を大きく外れていたため、周りに人はいなかった。今のところ被害者はゼロのようだ。


「報告ありがとう。あのスライムには魔法を使っちゃダメ。近づくのも危険。全員に伝えて」

「はっ!!」


 衛兵は返事と共に、急いでカフスの言ったことを周りに伝えに行った。


「見ろ、精剛が来てるぞ!! 今度は俺達が町を守るんだ!! 精剛の守った町を守るんだ!!」

「「「「「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」


 何故か意味不明な理由で衛兵は盛り上がってる。深く考えるのはやめよう。

 貪食王は何故か逃げずに城壁に向かってくる。逃げるために町を出たんじゃないのか? カフスに擬態したり逃げたと思ったらこっちに来たり、行動が訳分からん。


「カフス、俺達は指輪を外すぞ」

「……ダメ」

「どーしてカフスちゃん!!」

「あなた達の力は知られてはいけない」


 今の危険な状況でもカフスは指輪を外す許可をくれない。

 衛兵達は魔法を使わずに弓で応戦しているけど、弓矢は飲まれて何の意味もなしていないと一目で分かった。


「時間が無いぞスノーケア。どうする」

「私が行く。あなた達はここに残って」

「ロロが軍勢を率いてようやく勝った相手だ。お前だけで倒すのは不可能だろう」

「やってみなくちゃ分からない。それに、あなた達が強いことを知られるのだけはダメ。後々苦労をするのはあなた達」


 カフスはここまで来てもオレ達の心配をしてくれるのか。


「イキョウもここで休んでて」


 ああ……優しさが心に染み渡る。

 これが全てに慈愛を注ぐと言われたカフス・スノーケアか。


「……カフス、オレ達に任せておけ」

「ようやく口を開いたな」

「ようやく口を開けるようになったんだよ」

「んふふ~、やっぱりキョーちゃんは強い子さんだぁ」

「そうさ、オレはラリルレの言う通り強い子さんだよぉ」


 ラリルレは分かっていたのか……オレがちゃんと立ち直れるってことを……。やっぱり天才さんだぁ。


「それで、どうする」

「どーするキョーちゃん」


 二人が謎の信頼をオレに向けてくる。

 そういうのはクランリーダーに向けてくれ。オレはそんな柄じゃない。


「力を使う許可は出せない」

「オレ達がもの凄く強いってばれなきゃいいんだよな?」

「……それが出来るのならぎりぎり許可する」

「よし言質は取った、後から掌返すんじゃねぇぞ。ソーエン、ラリルレ、舞踏会の仮面を使う」

「りょーかいだよ!!」

「なるほど」


 オレ達はアイテムボックスから<上辺だけの舞踏会>という名前の仮面を取り出す。

 このアイテムの効果はプレイヤー情報を隠すだけで防御力や耐性は上がらない。ゲーム内で定期的に開催されるイベント、仮面舞踏会に参加すれば誰でも貰える配布アイテムだ。仮面舞踏会とは、お互いに正体を明かさず、いろんな人と自由に交流を楽しみましょうというイベントで一定の層から人気があった。


 プレイヤー情報を隠すだけの<上辺だけの舞踏会>だけど、フレーバーテキストには「被っている者の正体は全てが秘匿される」との一文があった。フレーバーが現実になるこの世界なら、これを被ればオレ達が誰だか分からなくなる。


 オレは白地に人を嘲笑う顔が描いてある仮面を、ソーエンはオレと同じ白地に、目だけが描いてある仮面を、ラリルレも同じ白地に笑顔が描かれている仮面をそれぞれ被る。

 仮面は、受け取るときに沢山のデザインから好きなものを選べるけど、オレ達はクランメンバーおそろいにしようと言うことで全員白地のシリーズを選んだ。


「!? 誰ですかあなた達!!」


 シアスタが警戒した口調でオレ達に言い放つ。

 そうか、目の前で被っても効果は働くのか。


「イキョウさん!!ソーエンさん!!ラリルレさん!!どこですか!!」


 シアスタが泣きそうな顔で大声を出しながらオレ達を呼んでキョロキョロしている。

 ロロはラリルレの頭の上で混乱して触手をうねうねさせている。


 カフスはまたゆらゆらと構え始めた。


 双子だけは何も反応をしないでオレを見ている。


 何か……シアスタの反応が心苦しい。

 ゲーム組のオレ達はパーティを組んでいるからお互いは分かるけど、その他は急にオレ達が消えて謎の仮面軍団が現れたように見えるらしい。

 確か、パーティ以外にもプレイヤー情報を公開する方法があったはず。


「オレがイキョウだ」


 装備者本人の宣言を聞くか、相手を指差して正体を当てた人はこの仮面の効果がなくなる。

 だから、ばれないようにわざわざ変な装備をしたり有名プレイヤーの仮装をして舞踏会に参加してるやつもいた。


「ラリルレだよ」

「ソーエンだ」


 他の2人もオレと同じく宣言して、シアスタ達が分かるようにする。


「え……あっ、あぁぁぁ。皆さんだったんですね……。消えたと思って驚きました」


 オレ達の正体が分かって、シアスタはほっとした顔をしていた。


「そんな魔道具始めて見た」


 カフスは驚いた顔をしている。

 ゲームのアイテムだしな。こっちの世界には無いものだし当たり前だ。


「お前らにだけ分かるようにしたから、衛兵連中にはオレ達の正体は分からない。これならいいだろ?」

「出来れば戦って欲しくはない。でもアステルのために力を貸して、お願い」


 カフスが戦いの顔になる。


「オレ達が原因だし、全力で力を貸すよ」

「もちろんだ」

「私も手伝うよ」


 ゲーム組は全員、それに応えるために参加の意思を示した。


「あの、私もお手伝いします」

「わたしたちも」「やる」


 シアスタと双子も参加をしようとする。


「ダメ、あなた達はここで待機」


 カフスはシアスタと双子が参加することを許可しない。


「それは……私が弱いから……ですか?」

「……そう」


 カフスの言葉を聞いてシアスタは泣きそうな顔になる。

 その顔を見た双子はシアスタを慰めようとしているのか頭を撫でたり抱きついたりしている。


「……分かりました」


 シアスタは悔しさを表すような声で押し殺したように了承をした。

 あの気持ちに慰めは無粋だ。黙って、分かったと言ったシアスタの意見を尊重しよう。


「それでカフス。作戦はあるのか?」


 皆の注目がシアスタに集まらないように、オレは話を切り出す。

 カフスは一人で貪食王に挑もうとしていた。それなりに考えがあるに違いない。


「突っ込む」


 なるほど、まずは接近するのか。次はどうするんだ。


「……」

「カフス、続きは?」

「無い。しいて言うなら後はアドリブ」

「なんて分かりやすい説明なんだ。これにはオレもびっくりだよ」

「俺も気に入った。それで行こう」

「脳筋は黙ってろ」


 マジでソーエンは本気でこの作戦を気に入ってる。コイツの基本スタイルは力とテクニックでねじ伏せるタイプだからな。そのせいでオレがいつも作戦を考えるハメになっている。


「もっとましな作戦を考えようぜ」

「時間が無い」


 確かに、こう話し合っている間にも貪食王は着々と近づいてきている。


「せめてフォーメーションだけでも決めよう。カフスは前衛、ソーエンは中衛、ラリルレは後衛だ。ロロはラリルレのサポート。全員動きはカフスに合わせるぞ」


 ロロは参加の意思を示してなかったけど、ラリルレが戦うなら付いてくるから勝手にメンバーに入れる。

 カフスがオレ達に合わせるよりもオレ達がカフスに合わせる方が、今は手っ取り早い。


「イキョウはどうするの?」

「んふふ~キョーちゃんは、ね?」


 ラリルレが久々にオレ達と組めるのが嬉しいのか、楽しそうにオレを見てくる。


「よもや参加しないとは言うまいな」


 ロロが少し怒り気味に言ってくる。この感じだとやっぱり参加してくれるようだ。


「オレは自由に動く。正確には撹乱役だ」


 元々のクランでのオレのポジションは前衛中衛後衛とかではない。戦いに横槍を入れるのがオレの役目だった。


「分かった。お願い」


 もっと反発や質問があると思ったが、カフスはすんなりと受け入れてくれた。貪食王が迫っているからだろうか。


「付いてきて」


 カフスはそういうとすぐに飛んで貪食王に向かっていった。


「はえーよ!!まだポジションを決めただけだぞ!! ああもう、倒し方は戦いながら考える!! ソーエン、ラリルレを抱えて飛び降りろ!!」

「了解。ラリルレ掴まれ」

「はーい」


 ソーエンがラリルレを抱えて飛び降りる。

 オレもすぐ行きたいが、その前に言うことがある。


「シアスタ!!」


 すっと泣きそうな顔をしているシアスタを呼ぶ。


「お前は十分強いぞ」

「お世辞ですか。ありがとうございます」

「そう拗ねんなって。オレ達よりもずっと強いから。双子もな」

「それってどういう――」

「じゃ、行ってきます」


 言いたいことは言った。だからもうオレも行かなきゃ。そして城壁を飛び降りる。


 オレやソーエン、ラリルレは所詮借り物の力を持っているに過ぎない。それに、復活だってある。だからこんな状況でも落ち着いていられる。

 それに対してシアスタと双子は自分が弱いことを分かっていて、死ぬかもしてない今回の戦いに参加すると言った。それは、無謀な判断じゃなく覚悟の決断だった。オレはそんなのしない、危なくなったらすぐ逃げるから。


 どっちが真に強いかなんて明白だろう。


 こんなこと説明しても分からないだろうし、説明する時間も無かったから言うことだけ言った。

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