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23.即席追跡班

「っぶねぇな」


 オレは反射的に後ろへ飛び退く。

 目の前にあった触手はロロのものではなく、半透明で先が丸い触手だった。


 触手の伸びている先を見ると、調理代の裏から伸びてきているのが分かった。でも、オレが飛び退いたのと同時に奥に引っ込んでしまったから、触手はもう視界から消えている。


 でも一つだけ分かる事がある。これは我が家の異常事態だ!!


「皆、こっち来てくれ!! ついでに戦闘態勢!!」

「どーしたの?」


 オレの声に反応した面々はテーブルから立ち上がってこっちに歩いてくる。でも、まさかキッチンに何かいるとは思わないらしく、皆はのろのろとした歩みだ。

 子供達は今の触手を見てしまったのか、またオレに引っ付いて震えてる。さっきのロロのせいで怖いものに敏感になってしまっているみたいだ。


「キッチンに何かいる。気をつけろ」


 オレは真剣な声を出して異常事態だということを伝える。


「何かとは何だ」

「分からんわ。半透明の触手があの調理台の影から伸びてきた」

「ひぇー、なにそれ怖いよぉ……」

「家を壊したくは無い。慎重に行動しろ」


 ソーエンが魔法銃を構えてキッチンの中に入って行く。


「オレ達はここを塞ぐ」


 キッチンには、元は搬入口として作られた少し大きい扉が付いている。でも、いつも鍵は掛けっぱなしだし、仮に開けられても裏口にもベルは取り付けてあるから出入りの音は分かる。ならあの謎の触手はどこから入って来たんだ?


 ソーエンがじりじりと進んで慎重に、調理台の向こう側に居るであろう敵との距離を詰める。

 ぎりぎりまで近づいたところで勢い良く飛び出し、銃を向けて調理台の裏を確認を――したと同時に。

 ソーエンは問答無用で銃を撃ちやがった。


「なにしてんだ!! 床に穴開いたらどうするんだバカ!!」


 ソーエンが魔法銃で撃てる弾は、ほとんど威力の無い弾か、通常またはそれ以上の威力であって手加減はまだ出来ない。

 今撃ったのは通常の威力だ。そんなもの撃ったら床が壊れんだろが。


「当たったが逃げられた。追うぞ」


 そう言うと、ソーエンは即座に裏口を蹴破って出て行きやがった。


「なにやってんだあいつ、修理費考えろや!!」


 オレ達もソーエンの後を追うために裏口から出ようとすると、蹴破られて地面に転がっている、真っ二つの扉がおかしなことになっているのが目に入った。

 割れた扉の下半分の板に穴が開いている。切ったり破ったってよりは溶かしたような感じだ。


「あの触手ヤロウの仕業かぁ!!修理代請求してやる!!ぜってぇ逃がさねぇからな!!!!!!!」


 許せねぇ!! よくも大切な家を壊してくれたな!! オレ達は金は有っても無駄使いする気はさらさらないんだよ!!


「見つけ次第解体して全部ギルドに売りつけてやるから覚悟しとけよ!! わんちゃんお前の素材で扉作ってやっかんなァ!!」

「最終的に扉を壊したのはソーエンさんですよね?」

「先に壊したのは触手ヤロウだ。カフス、指輪を外す許可をくれ!!」

「都市の中だからダメ」

「ならこのまま追ってやる!!」


 カフスに提案を却下されたオレは、そのまま家の壁を登って高いところから捜査を開始する。

 制限下であっても、オレやソーエンの機動力があれば町中好きに動けるから何の問題も無い。

 唯一残念なのは、全力であの触手ヤロウを屠りにいけない事だけだ。


「キョーちゃんもソーちゃんも行っちゃった……。私達も行こう!!」


 ラリルレの声が下から聞こえてくる。

 カフスとラリルレとロロも行動を開始したようだ。


「ソーエン!!今どこだ!!」


 ソーエンはいの一番に家を飛び出した。なら、あいつは今触手ヤロウを追っているはずだ。


「対象は東に向かって移動中。丁度ギルドへ行く際に通る道だ」

「待ってろ、すぐ行く」

「降ろしてください!!助けて!!」

「おにーさん」「おこってる?」


 頭に血が上って子供達を降ろすのを忘れてしまっていた。


「怒り心頭のメラメラ状態だけど、これは正当なメラメラだ。降ろしてる暇は無い、このまま飛ぶぞ!!」

「いやああああああああああ」


 シアスタと散歩したときに比ではないスピードでアステルの上空を飛ぶ。

 人から見られるとか、シアスタの悲鳴は関係ない。ただ触手ヤロウを捕まえてバラせればそれでいい。


「精剛だ」「精剛が飛んでる!!」「おーい!! せいごー!!また飲みに行こうな!!」


 下から便利な不名誉が聞こえてくるが気にしない。

 男共はオレに手を振ってくるが、両手が塞がってるから振り返せないし振り替えす気も無い。呑みに行く気は有るからまた今度誘ってくれ。


「おにーさん」「だいにんき」

「お前らのおかげで酒飲み仲間達からも精剛って呼ばれるようになっちまったんだぞ」

「降ろして、降ろしてください……」


 スピードを出しすぎたせいか、シアスタが泣き始めてしまった。


「今ここで降ろすかこのまましがみ付くかどっちがいい」

「実質一択じゃないですか……絶対放さないでくださいね!!」


 シアスタは怒気の混じった声でオレに言ってくる。なんでオレが怒られなきゃ行けないんだ。


「分かったよ」

「なんで不服そうに言うんですか!!」


 元はといえばロロが脅かしたせいで引っ付かれてるんだからオレに怒られてもなぁ。

 待てよ? ロロはオレにこの子供達を引っ付かせただけだ。飛ぶ理由にはならない。今飛んで怒られてるのは、その原因を作った触手ヤロウが悪いんじゃないか?


「あのヤロウ、シアスタを泣かせやがって。益々許せねぇ!! ぶっ殺してやる!!」

「泣かせてるのはイキョウさんですよね!?」


 頭にコール音が響いく。ソーエンからのボイスチャットだ、これは出なければ。


「イキョウ、悪い知らせだ。対象を見失った」

「マジかよ!? とりあえずそっちに向かうわ」

「了解。ラリルレには俺から伝えておく」

「頼んだぞソーエン」

「イキョウさんが私の話を聞いてくれない……」

「おにーさん」「さっきからひとりで」「なにはなしてるの?」


 ボイスチャットを切ると、双子から質問をされた。


「離れていても話せる魔道具を使ってソーエンと話してたんだ」


 シアスタにした説明を双子にもする。


「きゅうにはなされると」「こわい」

「そうなんですよね。急に大きい声で独り言を言い出したようにしか見えないので怖いんですよ」


シアスタからはそんな風に思われてたのか。確かにコールは他の人に聞こえないし、見て分かるようなモノでもないから、そう思うのも仕方ないとは思う。

 今度、何か通話中の合図でも決めるか。


「そんなことより、ソーエンが触手ヤロウを見失ったらしい。オレ達も探すぞ」


 このまま町を飛んで虱潰しに探すには時間が掛かりそうだ。最悪見つからない可能性もある。

 何とかして早く見つけ、オレの手で直々に解体しなくては。

 町中で<生命感知>を使ったとしても人が多くて見つけられないし、範囲内にいない可能性もあるから使うだけ無駄。どうすればいいんだ……。


「わたしたち」「わかるよ」

「ほんとか!? でかした双子さっそく案内してくれ!!」

「あっちに」「いる」


 双子はオレが向かっている方向から少し右にずれた方向を指差す。なるほどな、奴はそっちにいるんだな。


「オーケー!! お前らを連れてきて正解だった」


 オレは軌道を修正して双子の指差した方に飛ぶ。 


「……ん? 何で分かるんだ?」


 双子も感知系のスキル持ってんか?


「おにーさんの」「かんじがする」

「オレはここにいるから当たり前じゃん」


 そもそもオレの感じってなんだよ。気品とかか?


「わたしたちが」「いってるのは」「おにーさんの」「まりょくのかんじ」

「オレの魔力の? 何で触手ヤロウからオレの魔力を感じるんだよ」

「わかんない」「でもする」


 まさかあの触手、前から家に潜んでいて夜な夜なオレの魔力を吸ってたんじゃ無いだろうな。うわぁ、ぞっとしてきた……。


「とおくにいくと」「わからないくらい」「よわいから」「いそいで」

「マジ? なら速度上げるか」

「!? いや、やめて、だめです!!」

「シアスタ……ごめん」


 問答無用でオレは速度を上げる。

 仕方が無いんだ。唯一の手がかりである双子の魔力の感じとやらが分からなくなったら追跡が困難になる。


 ……もしかしてこの能力せいで色町に行くときにいつも見つかってたのか?

 いや、そんなことは後で考えよう。


「いやあああああああああああああ!!」


 町の空にシアスタの声を響かせながらオレ達は飛ぶ。

 ソーエンとラリルレには全体チャットで追跡していることを伝え、大まかな方向と位置を知らせた。


 双子の指を指す方向は多少ぶれることはあったが大まかな方向は変わらず、反応は近くになればなるほど下に指先が向いていく。そしてついに――――真下を指した。

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