22.恐怖。和解。和解。
「あの……ちょっといいですか?」
話が一段落したことによって、ずっと不思議そうな顔をしていたシアスタが口を開く。
「ロロさんとカフスさんはお知り合いなんですか?」
「知り合い。昔戦った」
「カフスさんと戦ったって……ロロさんは何者なんですか?」
今まで内緒にしてきたけど、カフスが来たことでようやく教えて良いかどうか判断が出来る。
「カフス、喋ってもいいか?」
「いい。でもここにいる人だけにして」
「あっ、嫌な予感がします」
カフスがこれを言うときはこの町や世界に関わることだからな。シアスタも何か思うところがあるんだろう。
「恐れよ。我が名はゲゼルギア、大昔に世界を混沌に沈めた邪神である」
ひょうたん型から元の形に戻り、謎の黒いオーラを出しながらロロが正体を明かす。
「ひっ!!」
「「!!」」
邪神と聴いた瞬間、シアスタと双子が食堂の隅に逃げ、座り込んで抱き合いながら固まって震え始めた。
「ロロちゃん!! なにしたの!!」
「せかっくの名乗りだ。恐怖のオーラを出した」
「何いらん演出してんだこのタコ!! うちの子達怖がって泣いてんだろ!!」
ロロを引っぱたいてぷるるんさせてからシアスタ達の元へ向かう。何余計な演出してんだよ!!
「ほらー、イキョウおにーさんだぞー。怖くないぞー」
全員下を向いて震えてるから誰が近づいたのか分からないだろう。ここは優しく名乗って安心させてやらなければ。
「イキョウさん……」
膝を抱えて丸まっていたシアスタは、顔を上げてオレを見る。その顔はやっぱり泣いていた。
「どうしたシアスタ」
「……もう無理です」
ちょっと苦しそうな顔をしたシアスタがオレに無理と言う。
「なにが?」
「えれえれえれえれえれ」
そして……オレの問いに答える暇も無くシアスタが雪を吐きだしちゃったよ。
その吐いた雪は、シアスタが抱えた膝の上にどんどん積もっていってる。
「……ゆきだ」「……きれー」
事情を知らない双子はシアスタの吐いた雪を見て純粋な感想を言ってるけど……これは雪でありゲロでもあるんだ。このままじゃシアスタが可愛そうだからさっさと片付けてやろう。
「ソーエン浄化の杖貸して!!」
「受け取れ」
ソーエンが何でも綺麗にしてくれる万能アイテム<浄化の杖>を投げてオレに渡してくれる。
それを受け取ったオレはシアスタを立たせて服から雪を掃い、浄化の杖を使う。別に普通の雪だから使う必要は無いと思うけど、事情が事情なので一応使うことにした。
雪は後で掃除するから壁際にまとめて放置しておきました。
「もう大丈夫だ。ほら、テーブルに戻るぞ」
歩かせて戻るつもりだったけど、三人が引っ付いてきてどうやっても離れなかったから、そのまま抱えてテーブルに戻る。
「お前最近父親みたくなってないか」
「マジでやめてくれ、オレはまだぴちぴちの二十二歳だ。浄化の杖ありがと」
笑えない冗談を言ってきたソーエンに杖を渡して椅子に座る。
テーブルまで戻ってきても服を放して貰えないし、子供達はオレの膝と間に座らせとくか。
テーブルに戻ってきても尚、怯えた子供達は、全員オレに顔を引っ付けてロロを見ないようにしている。
「小さき者が怯える様子を見るのも久しいな」
「ロロちゃん、何か言うことあるでしょ」
邪神的発言をするロロにラリルレが怒った口調で言う。
「……小さき者共よ、済まなかった」
「ロロちゃん、もうそーーゆーことしないでね」
「……心得た」
ラリルレに説教をされる邪神。そして反省する邪神。
ラリルレに怒られた邪神は眼が下を向いていて明らかに落ち込んでた。
「ほら、ロロも謝ってるし許してあげて? もう怖くないよー」
オレは子供達の怯えを解消するように、優しく語りかける。
「本当ですか?」
「うそ」「じゃない?」
「ほんとほんと、オレ嘘つかない」
「この前ついてましたよね?」
「今日のオレは嘘をつかないオレだから信じて」
オレの言葉を信じてか信じていないのかは分からないけど、シアスタが始めにゆっくりと振り向いた。ロロの安全を確認したシアスタは、双子に大丈夫と伝えると双子もロロを見る。
「済まなかった」
ロロが触手を伸ばして握手を求めている。
「ロロさんはロロさんでいいですか? 怖い邪神じゃありませんか?」
「今はただのロロだ」
「もうこわいの」「ださない?」
「約束しよう。貴様等の前では二度と出さん」
その言葉を聞いた三人が触手を握ってロロと子供達は和解する。
「ロロちゃんが自分から握手を……!!」
ラリルレは感動して怒りなど完全に吹き飛んでいた。
「よし、お前らもういいだろ。シアスタは席に戻れ。双子は浮け」
「……腰が抜けました」
「わたしたちも」「ぬかされちゃった」
「飛ぶのに腰関係ないだろ。まぁこのままでもいいけどさ」
落ちないように三人を支えなおしておくか。
「いいのか」
ソーエンがボソッとまたなんか言ったけど聞こえなかった。
「今ので分かった。ゲゼルギアはもういない、いるのはロロ。よろしく、ロロ」
カフスが握手のために手を出す。
「……ああ」
その手にロロが触手を伸ばす。
邪神がここまで変わるなんてラリルレの旅で何があったんだ。いや、ラリルレといるだけで変わったんだ。やっぱすごいな、ラリルレは。
「丁度いいや。新規加入組、カフスに挨拶しとけ。ラリルレも改めてね」
一応カフスはオレ達の監視という名目でこの家を訪ねてきてる。だったら新しく増えたパーティメンバーのことも把握しておきたいだろう。
……全然監視って感じはしないけどなぁ。もうただ遊びに来てるとしか思えない。もともと『たまに話を聞きに行くだけ』っては言われてたけどこんなにゆるいとは思ってなかった。
そんなたまにふらりと家に来てふらりと帰っていくカフスに、それぞれの面々が自己紹介を終える。
「皆のことは大体分かった。サキュバスの双子。私がアステルに居なかったときにあった騒動と関係ある?」
カフスはもうそのことを知っていたのか……。
「……あります話します」
懇切丁寧に起こったことと、もう事件を起こす気が無いことを説明する。
「またアステルを守ってもらった。ありがと。また借りが出来た」
「なら報酬について後で話したい。出来れば二人きりで」
「ん、分かった」
「それと、このまま双子は町にいていいのか?」
「問題ない。ここにいれば安全」
今更追い出されても寝つきが悪くなるから良かった良かった。
「おにーさん」「わたしたちが」「いれて」「うれしい?」
「はいはい嬉しい嬉しい」
嬉しいのはオレが心置きなく寝れることであって、リリムとリリスがこの町に残ることではない。
「時にカフス、あの水晶のことについて何か分かったか」
「まだ。そのためにあちこち回って調べたけど何も分からなかった」
ソーエンの問いに何も分からないと返すカフス。
あちこち調べまわったって、水晶のせいで長期間町を空けていたのか。
「そっか、わざわざごめんな」
「ごめんなさいカフスさん。あんなものを持って帰ってきてしまって……」
「放置するよりずっとまし。気にしないで」
「水晶って何のこと?」
ラリルレは首をかしげながら聞いてくる。
そうか、色々ばたばたしてたから話すのを忘れていた。
「オレ達がまだ三人だった頃にクエストに行って拾ってきたものでさ、大きさはこんくらいで水色の水晶なんだけど、一瞬で魔力を吸うんだよ。しかも無尽蔵に」
手で水晶の大きさを表しながら説明する。
「俺とイキョウの魔力を吸った挙句に自然回復分も吸われた。今あの水晶には莫大な魔力が入っている」
「改めて言われると怖いですね。レベル三百以上のお2人の魔力が入ってるだなんて」
「それって今どこにあるの?」
「私の部屋に保管してある」
カフスに預けて以降、水晶は管理はカフスにまかせっきりにしっぱなしだった。
「外には持っていかなかったのか?」
「危険な可能性があるものを持ち歩けない」
「それもそっか。帰ってきてから水晶に何か変化はあったか?」
「帰ってきて直ぐここに寄ったから分からない」
「マジ? なら朝飯まだ食って無いだろ。作ってやるよ」
カフスはオレのカレーをおいしいと言って食べてくれたからな。喜んでカレーをご馳走してやる。
「ん、お願い」
「よし待ってろ。すぐに作ってやるからな」
カフスは大食いだからな、でっかい鍋とでっかい皿でデカ盛りにして満足行くまでカレーを楽しんでもらおう。
カレーを作るために立ち上がるけど、まだ三人は引っ付いてて全然降りてくれないからそのままキッチンへ行く。レベル五十の筋力でもこれくらいなら軽い軽い。
シアスタと双子を抱えたままキッチンに入ると、丸くて触手の生えた影が調理台の影に見えた。
「なんだロロそんなところに隠れて。……ははーん、さてはお前も食い足りなかったのか。しょうがねぇなぁ、思う存分食わしてやるよ。今度は何皿だ?」
まったく、三皿平らげたのにまだ食うなんてロロも食いしん坊だな。
邪神を魅了するくらいに美味しいカレーを作ってしまうオレも罪作りな人間だぜ。
「おにーさん」「なにいってるの?」
「そうですよ、ロロさんはテーブルの方にいましたよね?」
どうやら三人にはキッチン潜んでいるロロが見えなかったらしい。
ロロも食いしん坊なことが子供達にばれるのは恥ずかしいのか、返事もしないし出てもこない。
ちょっといじわるしてやるか。
「やっぱカレー作るのやめようかなー」
そういいながらキッチンを出るフリをする。
カフスに作るって言った手前、本当にやめる気は無い。ただちょっと意地悪したくなっただけだ。
振り返ってキッチンから出て行くフリをするけど……ロロが何にも言って来ないからそのまま出ちゃったよ。ちょっとやりすぎたか?
「カフスさんのためにカレー作るんじゃなかったんですか?」
シアスタは訳が分からないと言いいたげな顔でオレを見てくる。
双子はというと、テーブルの方を見てからオレに顔をじっと向けていた。
「おにーさん」「てーぶるに」「ロロ」「いるよ?」
「そうんなわけ……おや?」
テーブルの方を見ると、ロロがラリルレの頭の上に乗っていた。
「ロロって分裂すんの?」
「知りません。というか何が言いたいのか分からないんですけど……」
「いや、キッチンにもロロが――ッ」
シアスタにも見せてやろうと思い、キッチンに体を向けるとオレの目の前まで触手が伸びてきていた。




